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ITADAKI-頂-

PHASE-32

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「レオニアさんを口説けばいいじゃないですか」

「なぜそれを知っている!」
 その部分を思い出すとなると、貴男の心臓を生きたまま引きずり出したいところだよ。

「船で寝ぼけた整備長が口にしてたんですよ」
 ここは恨みをグッと堪えてやりましょう。あの腰の動きは僕の記憶の中からも消したいですからね。

「で――――誰なんです?」

「飲み屋の姉ちゃん」
 やはりというべきか、お店関係の人だったか。

「で――――感触はどうなんだ? 行けそうなのか」
 と、ドレークさん。

「まあ、あれよ。俺に興味はあるな。あれは」
 ああ……、これは可能性としては低いようだな。
 一緒に遊んだりしたとかって発言がなく。興味があるじゃな~。
 得意げに口にしてるけどさ、はっきりと言ってあげたいな。レオニアさんが興味あるのは貴男ではなく、貴男の懐のお金ですよ。
 と――――、
「でよ~レオニアちゃんがよ――――」

「あ、始まるんで静かにしてください」

「…………」
 気分よく話したかったであろう十中八九盛った話を、ロールさんに断たれて残念そうだ。
 大丈夫です、もう興味なかったんで。
 むしろ感謝すべきですね。ボロを出さなくてすんだのだから。
 
 おっさん残して、皆で魔石鏡の前。
 もちろんロールさんの隣に当たり前のように腰を下ろし、お茶をすすりつつ。これが当たり前の風景であるかのように振る舞う。

「これで、今回の頂点が決まる」
 辞退したドレークさんが、重々しく口を開く。
 先ほどまであそこに立っていた方が言うと説得力があるもんだ。
 
 しかし、そう考えると凄いんだな。決勝まで残ってたんだもんな。
 僕は大会始まって、予選の三回戦くらいまで進んで、そこで強い人に簡単に倒される噛ませ犬的ポジションだと思ってたのにな~。
 見る目ないね僕。
 そして、酷いヤツだね僕……。
 
 だけど――、ここは見る目はあると自負してる。
 違反金ばかりに目がいったりしてるけど。
 王都での活躍で、実力そこにも目を向けられるようになったからね。
 優勝して、違反金の可哀想な子から、頂に立った存在になってください! サージャスさん。
 ムツ氏なんてケッチョンケッチョン、ギッタンギッタンにして、ぶっ飛ばしてやるのです。

   *    *

「今一度の確認を、急遽、最終戦となったが両名よろしいか?」
 モンジがいよいよ最後と、闘技場に立つ二人に問いかける。

「はい。大丈夫です」

「問題なく」
 サージャス、ムツともに再度の同意を口にする。
 それを耳に入れると、双方の最終戦に対する異議申し立てがないと判断し、合図のように深い頷きをゆっくりと行う。

『これより決勝戦を開始する』
 その行為を目にしたセンジが拡声器を使用し、場内に伝える。
 それに対して、声を出す者は少なく、拍手の方が目立つものであった。

『勝者に送られる、刀工、サボ・セレクが作。雪風と時雨を――――』
 刀二振りに随分と大仰な――。
 と、思う者は、この二振りの価値を分からない者であり、口に出そうものなら、周囲からは冷たい視線と嘲笑が送られるだろう。
 
 物々しく、仰々しい光景。
 白衣はくえ緋袴ひばかまの巫女装束を着用した巫女が二名。
 その二名が白鞘に収められた一振りずつを、諸手で抱擁するように大事に持ち、その周囲を袴姿で月代さかやきの侍が一人の巫女に対して左右一人ずつ立つ。
 更に、その四方を鎧武者が一方に三名配置の、計十二名。
 侍と合わせて十四名。
 合計二十八名の卓抜者たちが、巫女二名を守る。
 
 ――。

「それだけの代物って事だよな」

「ですね、価値を付けるなら、一振りで、三代にわたって一生遊んで暮らせるくらいでしょうから」
 ドレークとピートが、ようやく姿を現した二振りに興奮している。
 同様の白鞘に入っているので、どちらが雪風、時雨かは分からないが、どちらも同価値だというのは理解している。
 闘技場の前に準備された祭壇の前で、巫女が四方に優美な一礼を行い、手にした刀を祭壇へと収める。
 そして、祭壇の前に巫女が腰を下ろし、隊形を維持しつつ守る武者、侍。

「俺も一応、決勝の場に立ってたのに、なんでこのイベントなかったんだろうな」
 と、ドレークが悲しそうに声を出す。

「最終戦が確定してから行われるものだったんでしょう」
 ロールが即座にフォロー。
 それでも、目の前で経験したかったと、今になって辞退を惜しんでいるようであるが、ここでそれを口にしても恰好が悪い。
 この二つの感情に挟まれてのジレンマ。

 ――。

「では、これより決勝戦を始める」
 モンジが諸手を相対する二名に向けると、二名が互いに一礼。
 静まっていた場内が、一礼を合図にどっと沸く。
 大会が始まった時とは打って変わっての大音声を出し続けた観衆。
 これが最後だからとばかりに、いままで以上に全力を出して声を上げる。
 その熱量が場内を包み、蒸し暑い夏の昼下がりの気温を更に上げていく。
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