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ITADAKI-頂-

PHASE-31

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「じゃあ、戻ろっか」

「はい」
 わざわざ探してくれるなんて。ありがたや~。

「貴女も邪魔にならないように客席なり闘技場側に移動して下さい」

「へいへい」
 解放すると諸手を後頭部に回して、がに股風で歩き出す。
 その背中は、わんぱくっ子みたいだよ。
 
 ――――。

「けっ!」
 なんだよ。戻ってくるなり。
 整備長が悪態だよ。

「まあ、優しいからな~」

「なに言ってんだよ! こんなの優しいっていわねえよ。ヘタレってんだよ!!」
 あん! ヘタレ大陸代表がなに言ってくれてんの?
 戻った矢先に、喧嘩ふっかけてんのかおっさん! ドレークさんは僕の事を褒めてくれてるみたいだからいいけども。
 しかしなんだ? このおっさんのふて腐れっぷりは?

「ないわ~俺ならないわ~」

「なんですか? やりますかガツンと! ゴングならしますか?」

「なんだよ! やれよ! どうせおじさん、今となってはお前に力じゃ勝てねえよ!! それにお前みたいにおいしい思いもしてもいねえよ!」
 さっきから何を言ってるんだ? サージャスさんとの事か? ザイオン氏に邪魔されたよ! むしろそれでこっちは不愉快だよ。
 ――意味不明もいいところだ。お酒じゃもう現実逃避できないから、変な薬にでも手を出してるのか?

「殺せ~おじさんを殺しやがれ~!!」
 やだ、怖い……。サイコパスがいる…………。
 二の句を継いで素っ頓狂な事を言いながら、じたばたと畳の上で暴れ始める。

「ドレークさん。このままだと大陸の恥がワギョウに伝わるので――」
 サムズダウンで合図を出して、それにコクリと首肯で返してくれる。
 ――――そして、羽交い締め。
 同じ部屋にいるライゴウさん苦笑。こちらの恥部を見られた気分だ。

「ねえ、ロールさん。恥ずかしいですよね」
 話を振ると、
「落ち着きましょうね」
 と、羽交い締めの状態の整備長を諭そうとする。

「こんなうだつが上がらねえのの、何がいいんだよ」
 本当に腹立つ。ぐちぐちと――。
 大体、うだつが上がらないって意味分かります?
 貴男は整備長。地位的には僕なんかよりも高い。でもそれ以外はぱっとしない。
 そんなぱっとしない貴男みたいなのを、うだつが上がらないというんですよ。
 さっきから芯を捉えてない話ばっかりしやがって。

「はい、お茶だよ」

「ありがとうございます」
 おっさんの言動にイライラしてたから落ち着ける。
 湯飲みに触れれば冷たい。クールダウン出来そうだ。

「ムキ―! ロールちゃん、俺にもお茶!!」

「うるさい――――ですよ」
 背筋が凍り付きそうな声ですね。
 銀髪の色彩で、更なる冷ややかさも加味されていくようです。ロールさん。
 
 一気に場が森閑となった。
 よくは分からんが、ロールさんを怒らせる言動を、整備長はさっきから口にしているようだ。
 冷たいお茶が、更に冷たさを増した。
 おっさんとロールさんが変な感じだ。

「もう、飲むしかない……」
 飲めよ。毎日バカみたいに飲んでるけども。

「ドレークさんよ。一人もん同士、飲もうぜ」
「いや――俺、嫁入るけど」
「「「ふぁ!?」」」
「いやいや、娘もいるぜ」
 衝撃の事実。ドレークさん妻子持ちかよ! 
 十五歳年下の奥さんとの間に、四歳の娘さんがいるそうだ。
 デレデレになってるよ。妻子の話題になった途端、デレデレだよ。

「見るか? なあ、見るか」
 強制なやつだ。見ないと話し進まないやつだ。
 ――――うわ~。光画じゃん。
 魔法で、用紙なんかに光景を記録するやつだ。
 懐から取り出した、手鏡サイズの長方形の光画。
 皆、そこへと目を向ける。

「マジですか……」
「マジだぜ」
「これ、アレでしょ。自慢したいから見栄張ってるだけでしょ。実をいうと他人でしょ」
「なんでそんな事しなきゃいけないんだよ」
 うそ……だろ…………。
 こんな筋肉コングみたいなのと、なんでこんなとびきりの美人が!? 薄色金髪で、三つ編みスタイルの美人だ。
 娘さんも利発そうで可愛い。
 凄いな、筋肉だけの人でも、こんな美人と結婚出来るんだな。
 光画を目にする一人やもめの整備長は、同じ四十代に裏切られた気分にでもなっているのか、下唇を噛んで悔しがってる。
 あと少しだな――――。あと少しで血涙が流せそうだな。
 やれやれだぜ――。
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