205 / 604
ITADAKI-頂-
PHASE-25
しおりを挟む
「よいしょ~」
喋ってくれたムツに対して口角を上げ、木斧を高く掲げつつ、大柄な体躯からは想像の出来ない高い跳躍。
それを目にするピートは、ネーガルにて船に乗り遅れた時に、跳躍して船に乗り込んだドレークを思い出していた。
高く跳び、落下地点にはムツ。
「おら!」
初撃の攻撃とは違い、落下速度が加算された破壊力。
沿うような回避はリスクが生じると判断したムツは、後ろにすり足で移動。
「当たるわけがねえよな! 知ってんだよ!」
この一撃は誘いの為のもの。
後ろに下がる事を読んでいたドレークは、木斧を振り切る事はなく、着地と同時に下がるムツに驀地。
踏みしだいた床はドレークの脚力で抉れる。
「せい!」
重い一撃とは違い、横一文字を止めた防御のように、小手先の利いた攻撃を行う。
大振りではなく、手首のスナップを利かせたもの。
速さ重視の攻撃による緩急。先ほどまでの重々しさと違うそれに、ムツの表情も渋いものに変わる。
上体をよじり、足を動かし、速度のある攻撃を躱しつつ木刀で反撃。
「おらよ」
木斧だけでなく、同時に蹴撃。
盾を持った相手を場外に落とした時と同様のステゴロのような重々しい蹴り。
反撃のための攻撃を、中断せざるを得なくなる。迫る蹴りを木刀で受け止めるための防御に転向。
長身で有りながらも、やせ形のムツは、大男の蹴りが生む衝撃を受けきる事が出来ずに、後方へと飛ばされ、受け身を行う余裕もなかった。
これまでの戦いでは見る事がなかった、床に転がるムツの姿に、ホームであるワギョウの観衆も驚きで声が出せないでいた。
素早く起き上がるが、ムツの表情は曇る。
まさか攻撃を防がれ、更に、自分が攻撃を躱せずに木刀で防いでしまった事。音なしの剣の別称が完全に崩壊させられた。
矜持に傷をつけられると同時に、ドレークとの戦いで、自分がまだまだ狭い世界で戦っていたという現実を突きつけられた。
気付けば場外に近い場所にムツは立っていた。
ドレークは追い込んだという事で、ニカッと口角を上げてガッツポーズ。
今まで同様の場外パターンを考えている。
「ふぅぅぅぅぅ」
大きく呼気を行う。心底で芽生える焦燥を抑えるように。
「よいしょ! まだまだ休むなよ。休憩させてやるほど俺ぁ優しさなんて持ってねえぞ!」
束の間の呼気すらさせないと、上がった口角を元の位置に戻して厳つい表情へとなり、木斧による大振りの横一閃。
焦燥を打ち消す事に時間を割いていた事で、一つ反応が遅れる。達人同士での戦いではそれは致命的。
たまらずムツは垂直に跳躍。
受ければ、捌く前に力で飛ばされる。後方に跳べば場外の危機が高まり、ドレークの方に跳べば場外以上の脅威がある。
結果、垂直へと跳ぶ事が咄嗟に導いた回避方法だった。
ドレークは、後は落ちてくるのを待つだけと、構えた姿勢で待機。
勝負あったかと、落胆の息が場内の四方からこぼれた。
「あばよ!」
どんぴしゃのタイミングで木斧がムツを捉える。
「あ?」
手応えを感じる事の出来ないドレーク。
落胆から感嘆へと変わる観衆の声。
ムツは木斧へと、ふわりと足を下ろす。コロとの試合の時のように。
「いってぇなあ」
木斧の次に着地したのは、ドレークの剃り上がった頭頂部。
勢いよく踏みつけ、踏み台にしてから闘技場へと足をつけた。
「やろう!」
「これで、立ち位置は逆転だな」
「おう、強い以外で長めに喋ったじゃねえか、根暗」
「別に小生は根暗ではない」
「うるせえ! テメーの事を小生とか言うのにろくなのはいねえ」
「なんという偏見か……」
場外との距離が近くなったドレークに対して、偏った考えの相手に首を左右に振りつつ、刺突の構え――――。
床上を滑るような跳躍で仕掛ける。
ドレークも負けじと身を低くし、太もも、ふくらはぎ、足の裏に指にと渾身の力を蓄えて、それを爆発させるように可動。
弩から放たれた、一直線に飛ぶ矢のように、自らの体をムツへとぶつけるような勢いで対抗する。
喋ってくれたムツに対して口角を上げ、木斧を高く掲げつつ、大柄な体躯からは想像の出来ない高い跳躍。
それを目にするピートは、ネーガルにて船に乗り遅れた時に、跳躍して船に乗り込んだドレークを思い出していた。
高く跳び、落下地点にはムツ。
「おら!」
初撃の攻撃とは違い、落下速度が加算された破壊力。
沿うような回避はリスクが生じると判断したムツは、後ろにすり足で移動。
「当たるわけがねえよな! 知ってんだよ!」
この一撃は誘いの為のもの。
後ろに下がる事を読んでいたドレークは、木斧を振り切る事はなく、着地と同時に下がるムツに驀地。
踏みしだいた床はドレークの脚力で抉れる。
「せい!」
重い一撃とは違い、横一文字を止めた防御のように、小手先の利いた攻撃を行う。
大振りではなく、手首のスナップを利かせたもの。
速さ重視の攻撃による緩急。先ほどまでの重々しさと違うそれに、ムツの表情も渋いものに変わる。
上体をよじり、足を動かし、速度のある攻撃を躱しつつ木刀で反撃。
「おらよ」
木斧だけでなく、同時に蹴撃。
盾を持った相手を場外に落とした時と同様のステゴロのような重々しい蹴り。
反撃のための攻撃を、中断せざるを得なくなる。迫る蹴りを木刀で受け止めるための防御に転向。
長身で有りながらも、やせ形のムツは、大男の蹴りが生む衝撃を受けきる事が出来ずに、後方へと飛ばされ、受け身を行う余裕もなかった。
これまでの戦いでは見る事がなかった、床に転がるムツの姿に、ホームであるワギョウの観衆も驚きで声が出せないでいた。
素早く起き上がるが、ムツの表情は曇る。
まさか攻撃を防がれ、更に、自分が攻撃を躱せずに木刀で防いでしまった事。音なしの剣の別称が完全に崩壊させられた。
矜持に傷をつけられると同時に、ドレークとの戦いで、自分がまだまだ狭い世界で戦っていたという現実を突きつけられた。
気付けば場外に近い場所にムツは立っていた。
ドレークは追い込んだという事で、ニカッと口角を上げてガッツポーズ。
今まで同様の場外パターンを考えている。
「ふぅぅぅぅぅ」
大きく呼気を行う。心底で芽生える焦燥を抑えるように。
「よいしょ! まだまだ休むなよ。休憩させてやるほど俺ぁ優しさなんて持ってねえぞ!」
束の間の呼気すらさせないと、上がった口角を元の位置に戻して厳つい表情へとなり、木斧による大振りの横一閃。
焦燥を打ち消す事に時間を割いていた事で、一つ反応が遅れる。達人同士での戦いではそれは致命的。
たまらずムツは垂直に跳躍。
受ければ、捌く前に力で飛ばされる。後方に跳べば場外の危機が高まり、ドレークの方に跳べば場外以上の脅威がある。
結果、垂直へと跳ぶ事が咄嗟に導いた回避方法だった。
ドレークは、後は落ちてくるのを待つだけと、構えた姿勢で待機。
勝負あったかと、落胆の息が場内の四方からこぼれた。
「あばよ!」
どんぴしゃのタイミングで木斧がムツを捉える。
「あ?」
手応えを感じる事の出来ないドレーク。
落胆から感嘆へと変わる観衆の声。
ムツは木斧へと、ふわりと足を下ろす。コロとの試合の時のように。
「いってぇなあ」
木斧の次に着地したのは、ドレークの剃り上がった頭頂部。
勢いよく踏みつけ、踏み台にしてから闘技場へと足をつけた。
「やろう!」
「これで、立ち位置は逆転だな」
「おう、強い以外で長めに喋ったじゃねえか、根暗」
「別に小生は根暗ではない」
「うるせえ! テメーの事を小生とか言うのにろくなのはいねえ」
「なんという偏見か……」
場外との距離が近くなったドレークに対して、偏った考えの相手に首を左右に振りつつ、刺突の構え――――。
床上を滑るような跳躍で仕掛ける。
ドレークも負けじと身を低くし、太もも、ふくらはぎ、足の裏に指にと渾身の力を蓄えて、それを爆発させるように可動。
弩から放たれた、一直線に飛ぶ矢のように、自らの体をムツへとぶつけるような勢いで対抗する。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。
しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。
とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。
『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』
これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。
錬金術師カレンはもう妥協しません
山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」
前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。
病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。
自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。
それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。
依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。
王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。
前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。
ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。
仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。
錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。
※小説家になろうにも投稿中。
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
色彩の大陸2~隠された策謀
谷島修一
ファンタジー
“色彩の大陸”にある軍事大国・ブラミア帝国の遊撃部隊に所属し、隊長を務めていたユルゲン・クリーガーは帝国首都の城の牢屋で自らが裁かれる軍法会議の開催を待っていた。その軍法会議ではクリーガーは叛逆罪で裁かれることになっている。
弟子であるオットー・クラクス、ソフィア・タウゼントシュタイン、オレガ・ジベリゴワの三人とは戦場で別れた後は連絡はとれないでいた。お互いの安否が気になる。
そんなある日、牢のクリーガーのもとへ軍法会議で弁護人を引き受けると言うパーベル・ムラブイェフが訪れた。弁護士ムラブイェフはクリーガーから事の経緯を詳しく聞き取る。
1年前、“チューリン事件”では帝国の危機を救い、“帝国の英雄”とまで呼ばれていたクリーガーが、なぜ反逆罪で裁かれることになったのか?
帝国軍主流派である総司令官との対決。共和国再独立派による反乱。命令書の偽造による旅団と都市の掌握。
ムラブイェフはクリーガーの話を聞き取り、軍法会議で無罪を勝ち取るための方針を画策する。
そして数日後、ついに軍法会議が開催されクリーガーとムラブイェフは法廷に出向く。クリーガーは何人もの証人と対峙する。
果たして二人は無罪を勝ち取ることができるのか?
-----
文字数 148,497
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。
トロ猫
ファンタジー
仕事をやめ、なんとなく稼ぎながら暮らしていた白川エマ(39)は、買い物帰りに偶然道端で出会った虐待された少年と共に異世界に飛ばされてしまう。
謎の光に囲まれ、目を開けたら周りは銀世界。
「え?ここどこ?」
コスプレ外国人に急に向けられた剣に戸惑うも一緒に飛ばされた少年を守ろうと走り出すと、ズボンが踝まで落ちてしまう。
――え? どうして
カクヨムにて先行しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる