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ITADAKI-頂-
PHASE-17
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『しゃあぁぁぁぁぁ――』
二撃目を、迎撃とばかりに空に向かって振り上げるコロ氏。
それによって粉塵が左右に切り裂かれるように開いていく。
「決まったか!?」
この方の一撃は、力だけだけど、その力を生み出す、振る速度は、俊敏に動く事が出来る人物でも容易に捉えられるだけのものだ。
いくらムツ氏か敏捷であっても、これを回避するのは難しい。
魔石鏡はコロ氏がアップで映し出されてるだけ。
手応えありとばかりに口角が上がっているようだ。もじゃもじゃフェイスだからよくは分からないけど、髭の動きからして笑っているのは理解出来た。
でも――――、上がった角度が一文字に。髭が下がった事で分かった。
そして、ポカンと口を開いた。
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」」」」
遅れて直ぐに観衆の方々が驚きの声を上げている。
魔石鏡で状況を見ていない方々は、アップのコロ氏ではなく、闘技場を直接見ているため、僕たちより早い反応。
何が起こったのか気になった僕たちは、息を合わせるように同時に欄干へと体を移して闘技場を眺める。
「軽業師だね」
ロールさんの感嘆を織り交ぜた声。
「そうですね……」
と、簡単な返答しか出来ない僕。
木斧を振り上げた状態で静止。
斧刃の部分に立っているムツ氏。
「なんてバランスだ」
コロ氏に負けないくらいに、ポカンと口を開けて言葉をこぼす整備長。
全くもって同じ意見ですよ。妙技を見せられて言葉を失っている僕にとってはありがたい代弁だった。
「ぬぉぉぉぉぉお」
生の声で聞くコロ氏の雄叫び。
自分の得物から離れろとばかりに振り回す。
力任せの無軌道なものだ。
でも――――、振り回せば振り回すほど、コロ氏の動きが硬くなっていく。
まるで、始めて棒きれを持った子供の遊戯剣劇のようだ。
恐怖がそれをさせているのかもしれない。
そりゃそうだ……。
「見てるこっちも恐怖だよ」
独白しちゃったよ。
だって、現実離れしてるからね。魔法は使用出来ないのにね。
鍛え続けると、そんな芸当が出来るようになるのかな。
流石は山を斬る事も出来るという、剣聖を目標にしているだけはある。
「離れないな」
「離れないですね~」
僕を挟んで二人がやり取り――――。
ムツ氏、振り払われる。
振り切ったところで、また斧刃へとふわりと乗り、コロ氏がまた振り払う。
これの繰り返しだ――――。
まるで羽毛のようだ。ムツ氏には体重という概念がないのかとすら感じざるを得ない。
コロ氏、自分の攻撃の最中に、現実離れした状況が眼前で行われているのだから、僕たちが抱いている感情の遙か上を抱いているに違いないだろうな。
コロ氏のバカ力も現実離れだけど、剛でなく、柔の現実離れの方が、現在の試合ではインパクトが大きいと認識。
「こりゃ、圧倒的だな」
「コロ氏も相当の実力者だと思うんですがね」
でも、どうしようもないな……。
「うわぁぁああぁぁぁぁっあ゛」
恐怖を振り払うように、豪腕を懸命に振り回し木斧を動かす。
大男の叫び声を意にも介さないムツ氏は、一言も発する事なく、能面のように無表情。
現在の動作だけで、相手の心を攻め立てているようだ。
エルンさんの時とは違い、膝を付く事も無ければ、息一つきらしていない。
圧倒的だな――――。
木刀を振るうまでもないといったところか。
力量差に大きな隔たりがある事はコロ氏も理解しているようで、心が折れたのか、打ちひしがれたように手にしていた木斧を床に置くと、肩で息をしている体は、両膝を付かせた姿になる。
――。
「まいった」
気力が削ぎ落とされたような、弱々しい一言。
それに対しムツ氏は一礼。
決着がついた事を所作で主審に伝える。
「そこまで」
――――ただの一刀も振るう事なく、大男との試合を終わらせてしまった。
二撃目を、迎撃とばかりに空に向かって振り上げるコロ氏。
それによって粉塵が左右に切り裂かれるように開いていく。
「決まったか!?」
この方の一撃は、力だけだけど、その力を生み出す、振る速度は、俊敏に動く事が出来る人物でも容易に捉えられるだけのものだ。
いくらムツ氏か敏捷であっても、これを回避するのは難しい。
魔石鏡はコロ氏がアップで映し出されてるだけ。
手応えありとばかりに口角が上がっているようだ。もじゃもじゃフェイスだからよくは分からないけど、髭の動きからして笑っているのは理解出来た。
でも――――、上がった角度が一文字に。髭が下がった事で分かった。
そして、ポカンと口を開いた。
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」」」」
遅れて直ぐに観衆の方々が驚きの声を上げている。
魔石鏡で状況を見ていない方々は、アップのコロ氏ではなく、闘技場を直接見ているため、僕たちより早い反応。
何が起こったのか気になった僕たちは、息を合わせるように同時に欄干へと体を移して闘技場を眺める。
「軽業師だね」
ロールさんの感嘆を織り交ぜた声。
「そうですね……」
と、簡単な返答しか出来ない僕。
木斧を振り上げた状態で静止。
斧刃の部分に立っているムツ氏。
「なんてバランスだ」
コロ氏に負けないくらいに、ポカンと口を開けて言葉をこぼす整備長。
全くもって同じ意見ですよ。妙技を見せられて言葉を失っている僕にとってはありがたい代弁だった。
「ぬぉぉぉぉぉお」
生の声で聞くコロ氏の雄叫び。
自分の得物から離れろとばかりに振り回す。
力任せの無軌道なものだ。
でも――――、振り回せば振り回すほど、コロ氏の動きが硬くなっていく。
まるで、始めて棒きれを持った子供の遊戯剣劇のようだ。
恐怖がそれをさせているのかもしれない。
そりゃそうだ……。
「見てるこっちも恐怖だよ」
独白しちゃったよ。
だって、現実離れしてるからね。魔法は使用出来ないのにね。
鍛え続けると、そんな芸当が出来るようになるのかな。
流石は山を斬る事も出来るという、剣聖を目標にしているだけはある。
「離れないな」
「離れないですね~」
僕を挟んで二人がやり取り――――。
ムツ氏、振り払われる。
振り切ったところで、また斧刃へとふわりと乗り、コロ氏がまた振り払う。
これの繰り返しだ――――。
まるで羽毛のようだ。ムツ氏には体重という概念がないのかとすら感じざるを得ない。
コロ氏、自分の攻撃の最中に、現実離れした状況が眼前で行われているのだから、僕たちが抱いている感情の遙か上を抱いているに違いないだろうな。
コロ氏のバカ力も現実離れだけど、剛でなく、柔の現実離れの方が、現在の試合ではインパクトが大きいと認識。
「こりゃ、圧倒的だな」
「コロ氏も相当の実力者だと思うんですがね」
でも、どうしようもないな……。
「うわぁぁああぁぁぁぁっあ゛」
恐怖を振り払うように、豪腕を懸命に振り回し木斧を動かす。
大男の叫び声を意にも介さないムツ氏は、一言も発する事なく、能面のように無表情。
現在の動作だけで、相手の心を攻め立てているようだ。
エルンさんの時とは違い、膝を付く事も無ければ、息一つきらしていない。
圧倒的だな――――。
木刀を振るうまでもないといったところか。
力量差に大きな隔たりがある事はコロ氏も理解しているようで、心が折れたのか、打ちひしがれたように手にしていた木斧を床に置くと、肩で息をしている体は、両膝を付かせた姿になる。
――。
「まいった」
気力が削ぎ落とされたような、弱々しい一言。
それに対しムツ氏は一礼。
決着がついた事を所作で主審に伝える。
「そこまで」
――――ただの一刀も振るう事なく、大男との試合を終わらせてしまった。
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