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ITADAKI-頂-
PHASE-13
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本日は四回戦までとの事で、五回戦以降は明日になるそうだ。
将軍様の下働きを無事に終えて安堵のご様子。
流石に国のトップに関係したお手伝いだったからか、ライゴウさん、心なしか窶れているような……。
心労が溜まっているみたいだ。
こっちに戻ってきて、少しは楽になったのか、足を伸ばして畳みに座る。
一応、賓客扱いの僕たち。
僕たちを前にこの姿。上の方に見られでもしたら、行儀が悪いと、お叱りを受けること間違いなしだ。
僕としてはなんの問題も無いから、ゆっくりと休んでほしいといったところ。
ロールさんもすかさずお茶を入れてあげてるし。
どちらが客なのか……。
「ちゃんと見たのは、先ほどのエルンさんとの試合です」
一息ついたところを見計らって、入室しての開口一番の質問に答えた。
「いい戦いでした。あのエルンという御仁、かなりの使い手」
でしょうね。
あの炎竜王。カグラ・ゾン・ファングラスの右腕といい勝負するパーティーの勇者様ですから。
むしろ、エルンさんを相手に勝ちを取ったムツ氏は相当の使い手。
剣士として、一つの到達点に行き着いた存在なんだという事は、理解出来た――――。
サージャスさんとドレークさんが勝ち残り、ムツ氏の強さが心に刻まれて、大会一日目を終えた。
エルンさんと、フィットさんにはどう声をかければよいのかと考えたけども、そっとしておくという事で、二人だけでなく、サージャスさんとドレークさんにも会わずに、僕たちは会場を後にした。
――――。
「酒が美味くてよ~」
まったく、ずっと飲んでるな。
毎日毎日――――。異文化交流だぞ。遊びじゃないぞ! 仕事だからな!
大体なんでそんなに緊張もしないでガバガバ飲んでるの?
普段は偉い人を前にすると、借りてきた猫みたいに押し黙ってるくせに。
「さあ、ウィザースプーン殿も」
「あ、どうも」
お茶を注いでもらった。
センジお奉行様がのびのびとしている。ライゴウさん同様に、重責からの一時的解放を満喫しているといったところか。
服装は、業務の時に来ている高そうなものじゃなく、着流しと呼ばれる、市井になじむものだ。
完全にプライベートな時間という事なのだろうか。
だからなんだろうな。おっさんがそれを気取って調子に乗っているのかもしれない。
でも、一応交渉相手の前なんだから、少しはわきまえないとね。
バカみたいに飲みやがって!
「おいしい」
ロールさんは僕の横で、白くてふわふわなメレンゲの固まりみたいな物を口に運んでいる。
――――僕たちは今、屋台でお奉行様と一緒に食事を行っている。
正直、豪壮な料亭を期待していたんだけども、現実は街商の小さくてせせこましい屋台で、密着して飲み食い。
おでんという食べ物。これを最初に見た時の感想は、湿度が高く、夜でも暑苦しいのに、湯気が濛々と上がって熱さを伝えてくる物を、こんな密着したところで食べるのってどうよ? って、思っていたけど、口に運ぶと――、これが中々に美味い。
さっぱりとした味付けだから、濃い味に慣れている僕としては物足りないと思っていたけど、間違いだった。
出汁なるスープが何とも深みある味わいで、濃くはないけど、コクがある。
だから、薄味だけど、うま味の余韻のおかげで、口内は大満足。
「僕、この卵が好きです」
ハードボイルドな卵の黄身はボソボソとしたものだけど、出汁を吸う事で、濃厚さとマイルドさを加えた味を堪能する事が出来る。
ロールさんが食べてる白いのははんぺんというもので、魚のすり身と山芋をまぜて摺った物だそうだ。
美人様がおいしそうに食べているので――、
「僕もはんぺん下さい」
「はいよ!」
気持ちのいい返事のマスターだ。
料亭を期待していたけど、こういうのいいな~。
むしろ、大衆食堂ばかりを利用している僕にとっては、こちらの方が純粋に食事を堪能できたかな。
緊張して、味も分からなかったら、勿体ないもんね。
それも配慮しての事かな。
この屋台、お奉行様は常連だそうで、注文しなくても、マスターはお奉行様の前にある皿に、時宜を見てから具を乗せていく。
それだけで、長い付き合いのある二人だというのが理解出来た。
英気を養っている。〝あつあつ〟と言いながら、頬ばる姿に貫禄はない。
明日に備えて、弛緩出来る時間を満喫している。
オンオフの切り替えは大事だよね。
将軍様の下働きを無事に終えて安堵のご様子。
流石に国のトップに関係したお手伝いだったからか、ライゴウさん、心なしか窶れているような……。
心労が溜まっているみたいだ。
こっちに戻ってきて、少しは楽になったのか、足を伸ばして畳みに座る。
一応、賓客扱いの僕たち。
僕たちを前にこの姿。上の方に見られでもしたら、行儀が悪いと、お叱りを受けること間違いなしだ。
僕としてはなんの問題も無いから、ゆっくりと休んでほしいといったところ。
ロールさんもすかさずお茶を入れてあげてるし。
どちらが客なのか……。
「ちゃんと見たのは、先ほどのエルンさんとの試合です」
一息ついたところを見計らって、入室しての開口一番の質問に答えた。
「いい戦いでした。あのエルンという御仁、かなりの使い手」
でしょうね。
あの炎竜王。カグラ・ゾン・ファングラスの右腕といい勝負するパーティーの勇者様ですから。
むしろ、エルンさんを相手に勝ちを取ったムツ氏は相当の使い手。
剣士として、一つの到達点に行き着いた存在なんだという事は、理解出来た――――。
サージャスさんとドレークさんが勝ち残り、ムツ氏の強さが心に刻まれて、大会一日目を終えた。
エルンさんと、フィットさんにはどう声をかければよいのかと考えたけども、そっとしておくという事で、二人だけでなく、サージャスさんとドレークさんにも会わずに、僕たちは会場を後にした。
――――。
「酒が美味くてよ~」
まったく、ずっと飲んでるな。
毎日毎日――――。異文化交流だぞ。遊びじゃないぞ! 仕事だからな!
大体なんでそんなに緊張もしないでガバガバ飲んでるの?
普段は偉い人を前にすると、借りてきた猫みたいに押し黙ってるくせに。
「さあ、ウィザースプーン殿も」
「あ、どうも」
お茶を注いでもらった。
センジお奉行様がのびのびとしている。ライゴウさん同様に、重責からの一時的解放を満喫しているといったところか。
服装は、業務の時に来ている高そうなものじゃなく、着流しと呼ばれる、市井になじむものだ。
完全にプライベートな時間という事なのだろうか。
だからなんだろうな。おっさんがそれを気取って調子に乗っているのかもしれない。
でも、一応交渉相手の前なんだから、少しはわきまえないとね。
バカみたいに飲みやがって!
「おいしい」
ロールさんは僕の横で、白くてふわふわなメレンゲの固まりみたいな物を口に運んでいる。
――――僕たちは今、屋台でお奉行様と一緒に食事を行っている。
正直、豪壮な料亭を期待していたんだけども、現実は街商の小さくてせせこましい屋台で、密着して飲み食い。
おでんという食べ物。これを最初に見た時の感想は、湿度が高く、夜でも暑苦しいのに、湯気が濛々と上がって熱さを伝えてくる物を、こんな密着したところで食べるのってどうよ? って、思っていたけど、口に運ぶと――、これが中々に美味い。
さっぱりとした味付けだから、濃い味に慣れている僕としては物足りないと思っていたけど、間違いだった。
出汁なるスープが何とも深みある味わいで、濃くはないけど、コクがある。
だから、薄味だけど、うま味の余韻のおかげで、口内は大満足。
「僕、この卵が好きです」
ハードボイルドな卵の黄身はボソボソとしたものだけど、出汁を吸う事で、濃厚さとマイルドさを加えた味を堪能する事が出来る。
ロールさんが食べてる白いのははんぺんというもので、魚のすり身と山芋をまぜて摺った物だそうだ。
美人様がおいしそうに食べているので――、
「僕もはんぺん下さい」
「はいよ!」
気持ちのいい返事のマスターだ。
料亭を期待していたけど、こういうのいいな~。
むしろ、大衆食堂ばかりを利用している僕にとっては、こちらの方が純粋に食事を堪能できたかな。
緊張して、味も分からなかったら、勿体ないもんね。
それも配慮しての事かな。
この屋台、お奉行様は常連だそうで、注文しなくても、マスターはお奉行様の前にある皿に、時宜を見てから具を乗せていく。
それだけで、長い付き合いのある二人だというのが理解出来た。
英気を養っている。〝あつあつ〟と言いながら、頬ばる姿に貫禄はない。
明日に備えて、弛緩出来る時間を満喫している。
オンオフの切り替えは大事だよね。
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