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ITADAKI-頂-
PHASE-07
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相変わらずおもてになられて――。
僕はモテ期だからいいけど、隣の整備長は、僕の代わりに暗黒面を継承してるからね。
歯でも軋らせてるかな?
――――なんてね……。そんな事も思えないよね。
随分と、横柄にしてしまったと後悔しているのかな? お礼参りに来られたら大変ですね。
しばかれるといいのに。
まあ、そんな事をするような方ではないけどね。
これを機に、襟元正して、誠意有る応対で仕事をしていきましょうね。横柄なのは甲鎧王だけとは限りませんからね。勇者御一行にだっている事もありえますから。
――と、他人事じゃ無いな……。僕も、エルンさんには強く当たってたからね。強気な態度と、横柄な対応を履き違えないようにしないとね。
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお」」」」
おう、なんかエルンさん以上に歓声が大きいぞ。
何事かと九つの闘技場を一つ一つ眺めていけば、床に伏せた方と、肩に木刀を担って立っている総髪の人物。
後ろ姿だから、遠目だと髪の色と髪型も相まって、フィットさんにも見えるな。
歓声を独り占めにしている方が立つ闘技場を魔石鏡に映し出す。
振り返った姿は、中高な男性だ。美人ではなかった……。
トーナメント表の写しを見れば、佇んでいる方の名前は、ムツ・ノリムネ氏。
ワギョウの人だな。エルンさんを凌ぐ歓声からして一番人気か? ホームだし。
このまま順当に進めば、エルンさんは準決勝で当たるね。アウェイの洗礼を浴びつつの戦いか……。
精神面の打たれ弱さに定評があるエルンさんは、どこまでやれるかな。
――――――。
僕たちと交流のある方々は、二回戦も苦もなく勝利を収めていく。
――――そして、三回戦。
ここで間違いなく交流のある四人の内、一人は試合から姿を消す事になるか……。
エルンさん、ドレークさん。危なげなく三回戦も勝利。
いやしかし――、エルンさんの実力は分かっていたけど、ドレークさんには驚かされた。
自分でも自信ありげな口ぶりだったけど、本当に強いな。
三試合の全てが豪快な一撃での、場外判定勝利。
単純な膂力だと、今大会ナンバーワンなんじゃないかな。
心なしか、エルンさんは素早く試合を終わらせたといった感じだ。試合終わりの礼をすると、そそくさと闘技場から下りて、フィットさんの所へと足を運んでいた。
流石に、今回の相手は苦戦必至と理解しているからだろう。
好カードのプラチナチケットだ。
二回戦まで、さほど苦戦する事もなく勝ち抜いたもの同士の戦いという事もあって、他の試合よりも視線を浴びる。
その場所は、九つの中の中央に位置する闘技場だ。
プラチナチケットに相応しい位置だ。
相対する両名の現在は――――、
木刀を両肘の内側に挟み込んで、背中に当てて柔軟のフィットさん。
それに対して、闘技場前で正座をして瞑想のサージャスさん。
駆けつけたエルンさんに笑顔を返し、後ろを振り向いて、手を振る所作。
魔法使いのミリ―さんと、僧侶のリムさんが客席にいるのが分かる。
仲間の応援で自分を奮い立たせ、目つきに鋭さを宿らせるフィットさん。
パーティーが存在しないサージャスさんは、長い吸気と呼気を行うと、やおら瞼を開く。
美しいアメジスト色の瞳。
つと立ち、ゆっくりとした足取りで、闘技場へと上がっていく。
背中に勇気を与えてくれる仲間の声援を受けながら、遅れて闘技場に上がるフィットさん。
孤高で、それを待つサージャスさん。
対照的だけども、得物は双方、木刀。
亜麻色のショートカットと、青みのある黒髪の総髪。
単純な剣術だとフィットさんが上だろうか?
魔法剣は絶大だけども、魔法が使用出来ないこの大会では、サージャスさんが不利になるか。
でも、徒手空拳も得意としているから、零距離の間合いになった時には、サージャスさんが有利とも考えられる。
どちらも応援したいけど、やはり――、サージャスさんを応援だ!
フィットさんだけ声援があるのも嫌だ。
「落ち着いて行きましょう! サージャスさん」
欄干から闘技場に向けて大音声。
ばっちり耳に届いたようで、こっちを向いて笑顔を見せてくれる。
とりあえず、フィットさんも知り合いなので、【絶対勝利】などの言葉は使わないようには配慮したけど、片方にだけ声をかけてる時点で、贔屓しちゃってるな……。
まあ、いいよね。
配慮はしようという二カ所からの視線が僕の背中に注がれている気がしないでもないけども、そこは振り向きませんよ。僕は――――、
ゆっくりとした足取りで、整備長とロールさんに顔を向けないようにしつつ、魔石鏡の前へと腰を下ろす。
* *
指呼の距離で相対する二人。
周囲でも同時に試合が始まるというのに、観衆の目は二人に注がれている。
自分たちも同じ場に立っているのだから、少しでも視線を集めたいと思う矜持も抱いているのだが、同じ時に闘技場に立つ者たちも、サージャス達が気になるのか、矜持以上に、チラチラと視線を二人の方に向け、自分の試合に集中出来ないでいるといった様子であった。
向き合って、今から戦いを始めるのが、美しい女性二人となれば、なおのこと仕方がないのだろう。
不運なのは、注目を浴びない他の参加者ではなく、この場を取り仕切る主審だろう。
本年度、各剣術試合を闘技場の上にて差配する主審へとなるための昇進試験に、十八の若さで見事に合格し、主審として始めて取り仕切るのが、ワギョウにおける最大の剣術大会であるITADAKI-頂-であった。
緊張は限界点まで届いていたのに、加えて注目を集める美人二名の試合を取り仕切るのという重圧により、胃から内容物を口に逆流させそうになっている不運な新米主審の名は――――、ツクシ・ナギ。
僕はモテ期だからいいけど、隣の整備長は、僕の代わりに暗黒面を継承してるからね。
歯でも軋らせてるかな?
――――なんてね……。そんな事も思えないよね。
随分と、横柄にしてしまったと後悔しているのかな? お礼参りに来られたら大変ですね。
しばかれるといいのに。
まあ、そんな事をするような方ではないけどね。
これを機に、襟元正して、誠意有る応対で仕事をしていきましょうね。横柄なのは甲鎧王だけとは限りませんからね。勇者御一行にだっている事もありえますから。
――と、他人事じゃ無いな……。僕も、エルンさんには強く当たってたからね。強気な態度と、横柄な対応を履き違えないようにしないとね。
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお」」」」
おう、なんかエルンさん以上に歓声が大きいぞ。
何事かと九つの闘技場を一つ一つ眺めていけば、床に伏せた方と、肩に木刀を担って立っている総髪の人物。
後ろ姿だから、遠目だと髪の色と髪型も相まって、フィットさんにも見えるな。
歓声を独り占めにしている方が立つ闘技場を魔石鏡に映し出す。
振り返った姿は、中高な男性だ。美人ではなかった……。
トーナメント表の写しを見れば、佇んでいる方の名前は、ムツ・ノリムネ氏。
ワギョウの人だな。エルンさんを凌ぐ歓声からして一番人気か? ホームだし。
このまま順当に進めば、エルンさんは準決勝で当たるね。アウェイの洗礼を浴びつつの戦いか……。
精神面の打たれ弱さに定評があるエルンさんは、どこまでやれるかな。
――――――。
僕たちと交流のある方々は、二回戦も苦もなく勝利を収めていく。
――――そして、三回戦。
ここで間違いなく交流のある四人の内、一人は試合から姿を消す事になるか……。
エルンさん、ドレークさん。危なげなく三回戦も勝利。
いやしかし――、エルンさんの実力は分かっていたけど、ドレークさんには驚かされた。
自分でも自信ありげな口ぶりだったけど、本当に強いな。
三試合の全てが豪快な一撃での、場外判定勝利。
単純な膂力だと、今大会ナンバーワンなんじゃないかな。
心なしか、エルンさんは素早く試合を終わらせたといった感じだ。試合終わりの礼をすると、そそくさと闘技場から下りて、フィットさんの所へと足を運んでいた。
流石に、今回の相手は苦戦必至と理解しているからだろう。
好カードのプラチナチケットだ。
二回戦まで、さほど苦戦する事もなく勝ち抜いたもの同士の戦いという事もあって、他の試合よりも視線を浴びる。
その場所は、九つの中の中央に位置する闘技場だ。
プラチナチケットに相応しい位置だ。
相対する両名の現在は――――、
木刀を両肘の内側に挟み込んで、背中に当てて柔軟のフィットさん。
それに対して、闘技場前で正座をして瞑想のサージャスさん。
駆けつけたエルンさんに笑顔を返し、後ろを振り向いて、手を振る所作。
魔法使いのミリ―さんと、僧侶のリムさんが客席にいるのが分かる。
仲間の応援で自分を奮い立たせ、目つきに鋭さを宿らせるフィットさん。
パーティーが存在しないサージャスさんは、長い吸気と呼気を行うと、やおら瞼を開く。
美しいアメジスト色の瞳。
つと立ち、ゆっくりとした足取りで、闘技場へと上がっていく。
背中に勇気を与えてくれる仲間の声援を受けながら、遅れて闘技場に上がるフィットさん。
孤高で、それを待つサージャスさん。
対照的だけども、得物は双方、木刀。
亜麻色のショートカットと、青みのある黒髪の総髪。
単純な剣術だとフィットさんが上だろうか?
魔法剣は絶大だけども、魔法が使用出来ないこの大会では、サージャスさんが不利になるか。
でも、徒手空拳も得意としているから、零距離の間合いになった時には、サージャスさんが有利とも考えられる。
どちらも応援したいけど、やはり――、サージャスさんを応援だ!
フィットさんだけ声援があるのも嫌だ。
「落ち着いて行きましょう! サージャスさん」
欄干から闘技場に向けて大音声。
ばっちり耳に届いたようで、こっちを向いて笑顔を見せてくれる。
とりあえず、フィットさんも知り合いなので、【絶対勝利】などの言葉は使わないようには配慮したけど、片方にだけ声をかけてる時点で、贔屓しちゃってるな……。
まあ、いいよね。
配慮はしようという二カ所からの視線が僕の背中に注がれている気がしないでもないけども、そこは振り向きませんよ。僕は――――、
ゆっくりとした足取りで、整備長とロールさんに顔を向けないようにしつつ、魔石鏡の前へと腰を下ろす。
* *
指呼の距離で相対する二人。
周囲でも同時に試合が始まるというのに、観衆の目は二人に注がれている。
自分たちも同じ場に立っているのだから、少しでも視線を集めたいと思う矜持も抱いているのだが、同じ時に闘技場に立つ者たちも、サージャス達が気になるのか、矜持以上に、チラチラと視線を二人の方に向け、自分の試合に集中出来ないでいるといった様子であった。
向き合って、今から戦いを始めるのが、美しい女性二人となれば、なおのこと仕方がないのだろう。
不運なのは、注目を浴びない他の参加者ではなく、この場を取り仕切る主審だろう。
本年度、各剣術試合を闘技場の上にて差配する主審へとなるための昇進試験に、十八の若さで見事に合格し、主審として始めて取り仕切るのが、ワギョウにおける最大の剣術大会であるITADAKI-頂-であった。
緊張は限界点まで届いていたのに、加えて注目を集める美人二名の試合を取り仕切るのという重圧により、胃から内容物を口に逆流させそうになっている不運な新米主審の名は――――、ツクシ・ナギ。
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