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異文化
PHASE-19
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「到着です」
「おお!」
木製の黒塗りの門。これまた荘重だ。
門番の方々に一礼するライゴウさんに続いて僕たちも一礼。
――……開門は?
両サイドにいる門番の方々まったく門を開く動きがないんですが――。
「こちらです」
あ、そっち……。
門の隣にある、小さな扉をライゴウさんが開いてくれる。
くぐり戸と呼ばれる脇戸。
まあ、考えてみれば、僕たちのためなんかに、いちいちこんなでっかい門を開いてくれるわけないよね。
この門は、今大会の参加者や、お偉方が使用するんだそうだ。
一度でいいから、こんな所から自分のために開いた門をくぐってみたい。
くぐり戸を通れば、奉行所同様、石畳と、揃った大きさの乳白色の玉砂利で出来た地面。
足を進めていけば、お奉行様がわざわざ立って待って下さっている。
申し訳ないので、背後の階段に腰を下ろしててもよかったんですよ。
気遣いが重いので、急ぎ駆け足。
「わざわざ出迎えてくれまして」
「いえいえ」
と、整備長ににこやかに応対。
「――――ニーズィー殿は随分と、このデジマを堪能しているようで」
僕にはしっかりと聞こえましたよ。
お奉行様の声は小声だった。
理由は、ロールさんに聞こえないようにする為の配慮だ。
なぜ、聞こえないようにしたのか……。分かりきった事だ――。
おい、整備長。どうするよ。お奉行様の耳に、あんたが夜の街で色に溺れていたのがばれてますよ。
――ダラダラと汗を流してさ。暑くはあるけども、今のところ、まだまだ汗ばむ陽気ではないのですがね~。
汗を流す姿から、お奉行様が何を語ったのか、ロールさんは理解した表情だよ。
――――ざまぁ、好感度が急降下。
「いや……あ、あのですね」
言葉が詰まるよね。引きつった作り笑いと、目の動きよ。
まったくさ、こんなくだらない事で、今後のお偉方の話し合いのネタに使われて、交渉が不利に動かなければいいですけどね。
役所が落成してからは共同ですから、五分五分の関係をこちらは目指してるんですよ。相手に七分、八分の割合で話を持って行かれない事を願いたいですな~。
公になれば地方だ。地方。最果て行きだ。
ケッケケケケケケケケケ――――。
心の中で変な笑いが生まれるよ。じっくりと局長達に夜の手練を語ればいいさ。
「まあ、英雄色を好むとも言いますからな。楽しんでもらえて、お金を落としてもらえれば、こちらは万々歳ですよ」
ケッ! そこは交渉の弱みとして使えばいいのに。優しいお奉行様だな。
何事も無いと分かるや、胸をなで下ろしてら。
でもそこに忍び寄る手が肩に乗せられる。僕の時のような優しい置き方ではなく、力がこもっている。
「あんまり羽目を外さないでくださいね」
「いや……ハメたんだよ」
必死に言い訳したかったのだろうに、出た答えが最低の答えだった。
いや――、ともすれば、自信があったのかもしれない。夜の色街で、女性を喜ばせたと嬉々として語っていたのは盛っていなかった。それだけの手練があった。そこから来る自信が阿呆な発言を生み出したのかもしれない。
男性に返す発言ならば、問題もなかっただろう。そっちの話が好きなら大いに笑ってくれただろうし、じゃなかったとしても苦笑いくらいは返してくれるだろう。
だが――、しかし――――。
それを、ロールさんに言いますかね。
ハハハハ――――。愚かなる存在の発言に、僕は三日月状の笑顔を作っていた――――。
我ながら悪い顔だ。最低な答えを出した男の末路が見えてしまったからね。しかたないね。
パシーンと痛々しい音。
でも、僕には気分爽快な音だ。
はたして正にその通り。ロールさんの豪快な平手打ちが、おっさんの頬に、思いっ切り打ち込まれた。
見た感じ、甲鎧王に見舞ったものより威力も音も大きい。
ハハハ――――、砂利の上に思いっ切り倒れ込みましたよ。
「行きましょう。案内をお願いします」
「よ、よろこんで」
デジマのトップがロールさんに気圧されてるよ。流石は邪神を崇拝する教団認定の女神様だ。
それに比べて……。
「無様」
ものすっごく冷たく言い放ってあげました。
「はい、起きてください。行きますよ」
反応がない。今こそ、奥義の方面軍大移動を――、とも思ったけども、なんか本当に情けないな……。見てるこっちが痛々しいよ。
悪に徹しきれない僕…………。
「早く起きてください」
「うるせえ!」
なんだと! 人が優しくしてやってるのに!!
――。
「砂利が……砂利が冷たくて気持ちいいんだよ…………」
ちょっと! なんですかその子供が転んで、泣いてるのを誤魔化そうとして、うつ伏せの現状を維持しつつ泣き顔を見せないようにして、必死に考えた結果、導き出した頭の悪い答えは……。
「おお!」
木製の黒塗りの門。これまた荘重だ。
門番の方々に一礼するライゴウさんに続いて僕たちも一礼。
――……開門は?
両サイドにいる門番の方々まったく門を開く動きがないんですが――。
「こちらです」
あ、そっち……。
門の隣にある、小さな扉をライゴウさんが開いてくれる。
くぐり戸と呼ばれる脇戸。
まあ、考えてみれば、僕たちのためなんかに、いちいちこんなでっかい門を開いてくれるわけないよね。
この門は、今大会の参加者や、お偉方が使用するんだそうだ。
一度でいいから、こんな所から自分のために開いた門をくぐってみたい。
くぐり戸を通れば、奉行所同様、石畳と、揃った大きさの乳白色の玉砂利で出来た地面。
足を進めていけば、お奉行様がわざわざ立って待って下さっている。
申し訳ないので、背後の階段に腰を下ろしててもよかったんですよ。
気遣いが重いので、急ぎ駆け足。
「わざわざ出迎えてくれまして」
「いえいえ」
と、整備長ににこやかに応対。
「――――ニーズィー殿は随分と、このデジマを堪能しているようで」
僕にはしっかりと聞こえましたよ。
お奉行様の声は小声だった。
理由は、ロールさんに聞こえないようにする為の配慮だ。
なぜ、聞こえないようにしたのか……。分かりきった事だ――。
おい、整備長。どうするよ。お奉行様の耳に、あんたが夜の街で色に溺れていたのがばれてますよ。
――ダラダラと汗を流してさ。暑くはあるけども、今のところ、まだまだ汗ばむ陽気ではないのですがね~。
汗を流す姿から、お奉行様が何を語ったのか、ロールさんは理解した表情だよ。
――――ざまぁ、好感度が急降下。
「いや……あ、あのですね」
言葉が詰まるよね。引きつった作り笑いと、目の動きよ。
まったくさ、こんなくだらない事で、今後のお偉方の話し合いのネタに使われて、交渉が不利に動かなければいいですけどね。
役所が落成してからは共同ですから、五分五分の関係をこちらは目指してるんですよ。相手に七分、八分の割合で話を持って行かれない事を願いたいですな~。
公になれば地方だ。地方。最果て行きだ。
ケッケケケケケケケケケ――――。
心の中で変な笑いが生まれるよ。じっくりと局長達に夜の手練を語ればいいさ。
「まあ、英雄色を好むとも言いますからな。楽しんでもらえて、お金を落としてもらえれば、こちらは万々歳ですよ」
ケッ! そこは交渉の弱みとして使えばいいのに。優しいお奉行様だな。
何事も無いと分かるや、胸をなで下ろしてら。
でもそこに忍び寄る手が肩に乗せられる。僕の時のような優しい置き方ではなく、力がこもっている。
「あんまり羽目を外さないでくださいね」
「いや……ハメたんだよ」
必死に言い訳したかったのだろうに、出た答えが最低の答えだった。
いや――、ともすれば、自信があったのかもしれない。夜の色街で、女性を喜ばせたと嬉々として語っていたのは盛っていなかった。それだけの手練があった。そこから来る自信が阿呆な発言を生み出したのかもしれない。
男性に返す発言ならば、問題もなかっただろう。そっちの話が好きなら大いに笑ってくれただろうし、じゃなかったとしても苦笑いくらいは返してくれるだろう。
だが――、しかし――――。
それを、ロールさんに言いますかね。
ハハハハ――――。愚かなる存在の発言に、僕は三日月状の笑顔を作っていた――――。
我ながら悪い顔だ。最低な答えを出した男の末路が見えてしまったからね。しかたないね。
パシーンと痛々しい音。
でも、僕には気分爽快な音だ。
はたして正にその通り。ロールさんの豪快な平手打ちが、おっさんの頬に、思いっ切り打ち込まれた。
見た感じ、甲鎧王に見舞ったものより威力も音も大きい。
ハハハ――――、砂利の上に思いっ切り倒れ込みましたよ。
「行きましょう。案内をお願いします」
「よ、よろこんで」
デジマのトップがロールさんに気圧されてるよ。流石は邪神を崇拝する教団認定の女神様だ。
それに比べて……。
「無様」
ものすっごく冷たく言い放ってあげました。
「はい、起きてください。行きますよ」
反応がない。今こそ、奥義の方面軍大移動を――、とも思ったけども、なんか本当に情けないな……。見てるこっちが痛々しいよ。
悪に徹しきれない僕…………。
「早く起きてください」
「うるせえ!」
なんだと! 人が優しくしてやってるのに!!
――。
「砂利が……砂利が冷たくて気持ちいいんだよ…………」
ちょっと! なんですかその子供が転んで、泣いてるのを誤魔化そうとして、うつ伏せの現状を維持しつつ泣き顔を見せないようにして、必死に考えた結果、導き出した頭の悪い答えは……。
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