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洋上
PHASE-08
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「来たんじゃないか!?」
ドレークさんの興奮がまざる声に、周囲もドッと沸く。
急いでロールさんがリールを回そうとすると、
「「「「待て!」」」」
ドレークさんを含め、釣りの経験者たちから、まだ早いと制止の声が一斉に上がった。
素直にそれに従うと、そのまま放置――――。
糸の引きが甘くなったところで、
「「「「今! でも、ゆっくりね」」」」
見事と言うべきか、釣りバカさん達の声は綺麗にシンクロする。
ゆっくりとリールを回しては、暴れる感覚がロッドから手に伝わってくるのを確認したら、また糸を獲物に引かせる。
それを、延々と繰り返させる。
精神面の勝負事だな。短気には間違いなく向かないものだね――、釣りって。
この動作だけで、一刻は費やしてる。
「そろそろだな」
と、ドレークさんが口にすると、いつの間にかロールさんに接近した、釣りバカさん達が首肯で返し、
「リール、回して回して! 力一杯」
高速でリールを回しつつ、ロッドを自分の方に引く。回しては引きを繰り返すと、穏やかな海面からしぶきを上げ勢いよく飛び出て来る大きな物体。
「「「「ミスリルカジキだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
ここまで、常にシンクロすると、最早、伝統芸だよ……。
相当の大物の姿に、興奮が凄い。
いい歳したおっさん達が飛び跳ねて、近くにいる方々と抱擁している。
船尾の大騒ぎに、何事かと更に人が集まり始めた。
上顎がランスのように伸びた吻。その吻がミスリル銀のように青白く輝き、また、ミスリル並の硬度を持つ事から、その様な名が付いたそうだ。
「跳ねてる。跳ねてる。大きいぞ!」
興奮するドレークさんと、周囲で手に汗握る釣りバカさん達。引いて、緩めてを連呼。
それに従って、丁寧にロッドを動かして、リールを回している。
渾身の力で挑んでいるのだろう。頬を伝う汗の粒は大きい。海中に潜られると、そうはさせないとロッドを引いて、リールを高速で回し、海上に飛び出せば、少し力を弛緩させる。
少しでも自分の体力を消費しないようにしながら、獲物に疲労を蓄積させていく。
よくもこんな事を一刻も出来るもんだ。細い腕の女性とは思えない。
「来た来た! 近づいて来た」
「ですよね。これ一気に行きます?」
「「まだまだ」」
横に立つドレークさんにアドバイスをもらえば、背後から首を激しく横に振って、尚早と伝えてくる、釣りバカさん方。
「わかりました」
と、振り返って笑みを見せれば、汗を流す美人様の微笑みに見とれつつ、ポカーンと口を開いている。
流れる汗って、妙に色っぽさがあるものね。分かりますよ、貴方方の気持ち。
――――。
何という死闘。
さらに一刻。朝から始めた釣りは、昼を過ぎている。そのかん一度も休む事なく格闘しているロールさんに、更に増えたギャラリーは感動すら覚えたようで、感涙の方もおられる。
ご家族の方が〝食事は?〟と聞いてきても、釣りバカな旦那さんは〝美人さんが、食事も取らずに、必死になってるのに俺だけ食えるか!〟って、怒らなくてもいいのに、奥さんや子供に大音声。
「ロールさんオレンジエードです」
僕の仕事は、汗を流して格闘するロールさんの口元に、水筒を近づける事。
「ありがとう」
コクコクと飲みつつ、
「ふぅ」
喉を潤し艶っぽく一息漏らすと、周囲の男性陣はそれだけで心奪われてしまっている。
極上の美人様が、大物をヒットさせて、細い腰と下半身で耐えている姿が、たまらないようだ。
――――更に半刻が経過したころに、
「一気にいきますね」
流石にこの長い時間、格闘をしている相手の動きを把握したロールさんは、ここが勝負どころでは? と、周囲に賛同を得るように問うと、皆さん激しい動きの首肯で返してきた。
獲物がもうすぐ船に上がるという興奮から挙動がいちいち大げさだ。
ロッドを操るのも様になっている。
美しい上に、かっこよさまで手に入れようとしてませんか? 男性陣だけでなく、女性陣まで見惚れている。
あれだな。これはお姉様ってよばれそうな感じだ。めくるめく百合の世界を想像してしまう。それはそれで――――――、有りだな!
なんて事を考えていたら。
「あと少し」
ロールさんが興奮している。
ザバァァァァアと、海上に飛び出してくる迫力ある音が耳朶にしっかりと入ってきた。これはいよいよ終局だ。
だが、宿敵はここでやられてやるものかと、胴部を左右に激しく揺らして抵抗を見せる。
「あ……」
何かが起こったのか、声を漏らすと、ガチンと、金属音が続く。
音の源に目を向ければ、船端に固定していたロッドホルダーが外れて壊れた。
いきなりロッドだけで、獲物の質量全てを支えなければならなくなったロールさんは、海の方に引きずられていく。
それを誰よりも早く理解した僕は、急いでロールさんの後ろに立って、細い腰をがっちりとホールド。
「竿を放してください!」
このままだと海に落ちてしまうので、諦めて欲しいと頼んでみるけども。
「ここまで来て、それは出来ないよ」
と、釣りたいという欲なのか。相手に負けたくないのか。
――間違いなく後者だろう。
突っぱねられた。
「じゃあ、僕も手伝いますからね」
「お願い。共同作業だね」
共同作業――――。
なんて素敵な響きの。共同作業。結婚式みたいじゃないですか。もう、夫婦になりませんか? そしたら、添い寝も当たり前の事だし。
ドレークさんの興奮がまざる声に、周囲もドッと沸く。
急いでロールさんがリールを回そうとすると、
「「「「待て!」」」」
ドレークさんを含め、釣りの経験者たちから、まだ早いと制止の声が一斉に上がった。
素直にそれに従うと、そのまま放置――――。
糸の引きが甘くなったところで、
「「「「今! でも、ゆっくりね」」」」
見事と言うべきか、釣りバカさん達の声は綺麗にシンクロする。
ゆっくりとリールを回しては、暴れる感覚がロッドから手に伝わってくるのを確認したら、また糸を獲物に引かせる。
それを、延々と繰り返させる。
精神面の勝負事だな。短気には間違いなく向かないものだね――、釣りって。
この動作だけで、一刻は費やしてる。
「そろそろだな」
と、ドレークさんが口にすると、いつの間にかロールさんに接近した、釣りバカさん達が首肯で返し、
「リール、回して回して! 力一杯」
高速でリールを回しつつ、ロッドを自分の方に引く。回しては引きを繰り返すと、穏やかな海面からしぶきを上げ勢いよく飛び出て来る大きな物体。
「「「「ミスリルカジキだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
ここまで、常にシンクロすると、最早、伝統芸だよ……。
相当の大物の姿に、興奮が凄い。
いい歳したおっさん達が飛び跳ねて、近くにいる方々と抱擁している。
船尾の大騒ぎに、何事かと更に人が集まり始めた。
上顎がランスのように伸びた吻。その吻がミスリル銀のように青白く輝き、また、ミスリル並の硬度を持つ事から、その様な名が付いたそうだ。
「跳ねてる。跳ねてる。大きいぞ!」
興奮するドレークさんと、周囲で手に汗握る釣りバカさん達。引いて、緩めてを連呼。
それに従って、丁寧にロッドを動かして、リールを回している。
渾身の力で挑んでいるのだろう。頬を伝う汗の粒は大きい。海中に潜られると、そうはさせないとロッドを引いて、リールを高速で回し、海上に飛び出せば、少し力を弛緩させる。
少しでも自分の体力を消費しないようにしながら、獲物に疲労を蓄積させていく。
よくもこんな事を一刻も出来るもんだ。細い腕の女性とは思えない。
「来た来た! 近づいて来た」
「ですよね。これ一気に行きます?」
「「まだまだ」」
横に立つドレークさんにアドバイスをもらえば、背後から首を激しく横に振って、尚早と伝えてくる、釣りバカさん方。
「わかりました」
と、振り返って笑みを見せれば、汗を流す美人様の微笑みに見とれつつ、ポカーンと口を開いている。
流れる汗って、妙に色っぽさがあるものね。分かりますよ、貴方方の気持ち。
――――。
何という死闘。
さらに一刻。朝から始めた釣りは、昼を過ぎている。そのかん一度も休む事なく格闘しているロールさんに、更に増えたギャラリーは感動すら覚えたようで、感涙の方もおられる。
ご家族の方が〝食事は?〟と聞いてきても、釣りバカな旦那さんは〝美人さんが、食事も取らずに、必死になってるのに俺だけ食えるか!〟って、怒らなくてもいいのに、奥さんや子供に大音声。
「ロールさんオレンジエードです」
僕の仕事は、汗を流して格闘するロールさんの口元に、水筒を近づける事。
「ありがとう」
コクコクと飲みつつ、
「ふぅ」
喉を潤し艶っぽく一息漏らすと、周囲の男性陣はそれだけで心奪われてしまっている。
極上の美人様が、大物をヒットさせて、細い腰と下半身で耐えている姿が、たまらないようだ。
――――更に半刻が経過したころに、
「一気にいきますね」
流石にこの長い時間、格闘をしている相手の動きを把握したロールさんは、ここが勝負どころでは? と、周囲に賛同を得るように問うと、皆さん激しい動きの首肯で返してきた。
獲物がもうすぐ船に上がるという興奮から挙動がいちいち大げさだ。
ロッドを操るのも様になっている。
美しい上に、かっこよさまで手に入れようとしてませんか? 男性陣だけでなく、女性陣まで見惚れている。
あれだな。これはお姉様ってよばれそうな感じだ。めくるめく百合の世界を想像してしまう。それはそれで――――――、有りだな!
なんて事を考えていたら。
「あと少し」
ロールさんが興奮している。
ザバァァァァアと、海上に飛び出してくる迫力ある音が耳朶にしっかりと入ってきた。これはいよいよ終局だ。
だが、宿敵はここでやられてやるものかと、胴部を左右に激しく揺らして抵抗を見せる。
「あ……」
何かが起こったのか、声を漏らすと、ガチンと、金属音が続く。
音の源に目を向ければ、船端に固定していたロッドホルダーが外れて壊れた。
いきなりロッドだけで、獲物の質量全てを支えなければならなくなったロールさんは、海の方に引きずられていく。
それを誰よりも早く理解した僕は、急いでロールさんの後ろに立って、細い腰をがっちりとホールド。
「竿を放してください!」
このままだと海に落ちてしまうので、諦めて欲しいと頼んでみるけども。
「ここまで来て、それは出来ないよ」
と、釣りたいという欲なのか。相手に負けたくないのか。
――間違いなく後者だろう。
突っぱねられた。
「じゃあ、僕も手伝いますからね」
「お願い。共同作業だね」
共同作業――――。
なんて素敵な響きの。共同作業。結婚式みたいじゃないですか。もう、夫婦になりませんか? そしたら、添い寝も当たり前の事だし。
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