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洋上
PHASE-07
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「おはよう」
女神の声で起こされる。でも、心は晴れる事はない。まさか、むさいおっさんと添い寝になろうとは……、しかもそれをロールさんに見られるとは、
「仲いいね」
死の宣告にも似た台詞だ。
「そもそも、なんでそこで寝てるの?」
追撃が厳しいです。
「あの、トイレに行ったら、寝ぼけたままでして、知らないうちにここで寝てました」
「そうなんだ。早く起きて、ご飯にしよう」
この弁明は、ロールさんのベッドの中で使いたかったのに……。
くそ、涙が出て来る。
精神的なダメージから来ているのか、腕に中々に力が入ってくれない。
生まれたての子馬の如くプルプルとしつつ、体を起こし上げる。
隣を見れば、おっさん深酒が原因で、未だに起きやしない。このまま永遠に眠ってくれ。
というか、夜中もそのくらい深く眠っとけよ!
――――。
「元気ないね」
ラウンジに移動して、二人で食事。
シリアルにミルクを入れた簡単な物だ。気分的にそれしか口に入りそうにない。ロールさんはベーグルをカプリと一口。食べる所作だけでも癒やされる。
その癒やしの対象に添い寝をしようとした事への罪悪感も起床と共に生まれてきて、なんかもう凹みっぱなしなんだけども……。
まあ、自分が十割で悪いんですけども。
――。
青空だ。甲板で仰向けだ。
正直、こんなところで仰向けで寝てたら、邪魔でしかないだろうね。でも、大空を眺めて、自分の小さな邪な心を、蒼天に清めてほしいんだ。
「何やってんだ?」
ドレークさんが細長い物を担って覗き込んでくる。
担ってる物を見ると、それは釣り竿だった。
立派な物だ。
「ドレークさんこそ何しようとしてるんです? 護衛でしょ」
「護衛仲間にいい物を食わせてやりたくてな」
下手な言い訳ですけども、要するにサボって釣りがしたいわけですね。
怒られますよ。本日も物見台で頑張ってますよ。昨日と同じ方だ。代わってあげればいいじゃないですか。
もしかしたら、ローテーションのサボタージュですか?
「トローリングやるぞ」
まあ、船の上で何もする事がないので、暇つぶしにはなりますけどね。ラウンジにいた方々も、ポーカーやらジン・ラミーで時間を潰してたな~。
もっと、娯楽が欲しくなるね。これだけの客船なのに不満が出るとは……、満ちたりると、次を欲しがる。僕って欲深だな~。
流石、添い寝を画策していた助平だ……。
「行こうぜ」
の、声に起き上がって、二人して船尾へと向かう――――。
「ていや!」
豪快にロッドを振って、疑似餌の付いた釣り糸が勢いよく船から離れていく。
ロッドを船端に固定してから上下に振っている。あんまり動かさなくても、船体が動いてるから、疑似餌は泳いでるように見えるんじゃないですかね?
雰囲気を楽しんでいるのかな?
リールを巻いては疑似餌を手元に戻し、また遠投。
この一連の動作ばかりを行っている。
気がつけば周囲にはギャラリーが出来ていた。皆さんも暇なんだろう。釣果はどれほどなのか? と聞いてくる方もいたけど、ドレークさんは〝これから、これから〟と豪快な笑い声で返す。
「いないと思ったら、こんな所にいたんだ」
船端に肘を付いて釣りを眺めてたら、横に来て僕を覗き込む。
ドレークさんの覗き込んでくる物とは訳が違う。動悸が一気に加速する。
「暇で」
「誘ってくれればいいのに」
洋上ではロールさんも暇をもてあましてしまうようだ。
誘う事も出来たんでしょうけども、罪悪感もあり、声をかけれなかった。こんな事なら変な事を企てなければよかった。なんだよOperation-SOINE-って! 脳内の七人って! アホか僕は!
「釣れねえな~」
早く釣らないと、本格的に護衛仲間の方々に怒られますよ。
サボったあげく、釣れないって何だよ! ――って。
「私もやってみたいです」
「お、いいよ」
好奇心旺盛なロールさんがロッドに手を伸ばす。手を怪我するかもしれないからと、手袋の装着を進められると、つなぎから軽作業用のを取り出して準備万端。
「重い……」
釣りは初めてといった感じが見ただけで分かる動き。
ロッドの重さに翻弄されている。
ドレークさんにコツを教わって、足下に踏ん張りを入れるように腰を落としつつ、ロッドをゆっくりと振って、数度それを繰り返してから、
「えい」
と、可愛いかけ声と共に投げ釣りを開始。
流石にドレークさんのように遠投は無理だけども、初めてで、大きなロッドを使っての遠投としてなら、センスがあるのは窺える。
「じゃあ、固定してから待機だ」
「分かりました」
更にギャラリーが増える。
男性陣が多い。流石はロールさんといったところ。
釣りの経験がある方は、少しでもお近づきになりたいのか、離れた位置からコツを伝えてくる。
近づけないのは、ドレークさんがいるからだろうね。
――。
「反応無いですね」
「そんな簡単にはこないさ」
紺碧の穏やかな海に続く釣り糸を凝視しながら、動きがあるかを眺めている。
ドレークさんがロッドに手を伸ばして、ロールさんに返答しつつ、リールを巻くように指示しようとした時に――――、
キリキリと糸が、海中へと引かれていった――――。
女神の声で起こされる。でも、心は晴れる事はない。まさか、むさいおっさんと添い寝になろうとは……、しかもそれをロールさんに見られるとは、
「仲いいね」
死の宣告にも似た台詞だ。
「そもそも、なんでそこで寝てるの?」
追撃が厳しいです。
「あの、トイレに行ったら、寝ぼけたままでして、知らないうちにここで寝てました」
「そうなんだ。早く起きて、ご飯にしよう」
この弁明は、ロールさんのベッドの中で使いたかったのに……。
くそ、涙が出て来る。
精神的なダメージから来ているのか、腕に中々に力が入ってくれない。
生まれたての子馬の如くプルプルとしつつ、体を起こし上げる。
隣を見れば、おっさん深酒が原因で、未だに起きやしない。このまま永遠に眠ってくれ。
というか、夜中もそのくらい深く眠っとけよ!
――――。
「元気ないね」
ラウンジに移動して、二人で食事。
シリアルにミルクを入れた簡単な物だ。気分的にそれしか口に入りそうにない。ロールさんはベーグルをカプリと一口。食べる所作だけでも癒やされる。
その癒やしの対象に添い寝をしようとした事への罪悪感も起床と共に生まれてきて、なんかもう凹みっぱなしなんだけども……。
まあ、自分が十割で悪いんですけども。
――。
青空だ。甲板で仰向けだ。
正直、こんなところで仰向けで寝てたら、邪魔でしかないだろうね。でも、大空を眺めて、自分の小さな邪な心を、蒼天に清めてほしいんだ。
「何やってんだ?」
ドレークさんが細長い物を担って覗き込んでくる。
担ってる物を見ると、それは釣り竿だった。
立派な物だ。
「ドレークさんこそ何しようとしてるんです? 護衛でしょ」
「護衛仲間にいい物を食わせてやりたくてな」
下手な言い訳ですけども、要するにサボって釣りがしたいわけですね。
怒られますよ。本日も物見台で頑張ってますよ。昨日と同じ方だ。代わってあげればいいじゃないですか。
もしかしたら、ローテーションのサボタージュですか?
「トローリングやるぞ」
まあ、船の上で何もする事がないので、暇つぶしにはなりますけどね。ラウンジにいた方々も、ポーカーやらジン・ラミーで時間を潰してたな~。
もっと、娯楽が欲しくなるね。これだけの客船なのに不満が出るとは……、満ちたりると、次を欲しがる。僕って欲深だな~。
流石、添い寝を画策していた助平だ……。
「行こうぜ」
の、声に起き上がって、二人して船尾へと向かう――――。
「ていや!」
豪快にロッドを振って、疑似餌の付いた釣り糸が勢いよく船から離れていく。
ロッドを船端に固定してから上下に振っている。あんまり動かさなくても、船体が動いてるから、疑似餌は泳いでるように見えるんじゃないですかね?
雰囲気を楽しんでいるのかな?
リールを巻いては疑似餌を手元に戻し、また遠投。
この一連の動作ばかりを行っている。
気がつけば周囲にはギャラリーが出来ていた。皆さんも暇なんだろう。釣果はどれほどなのか? と聞いてくる方もいたけど、ドレークさんは〝これから、これから〟と豪快な笑い声で返す。
「いないと思ったら、こんな所にいたんだ」
船端に肘を付いて釣りを眺めてたら、横に来て僕を覗き込む。
ドレークさんの覗き込んでくる物とは訳が違う。動悸が一気に加速する。
「暇で」
「誘ってくれればいいのに」
洋上ではロールさんも暇をもてあましてしまうようだ。
誘う事も出来たんでしょうけども、罪悪感もあり、声をかけれなかった。こんな事なら変な事を企てなければよかった。なんだよOperation-SOINE-って! 脳内の七人って! アホか僕は!
「釣れねえな~」
早く釣らないと、本格的に護衛仲間の方々に怒られますよ。
サボったあげく、釣れないって何だよ! ――って。
「私もやってみたいです」
「お、いいよ」
好奇心旺盛なロールさんがロッドに手を伸ばす。手を怪我するかもしれないからと、手袋の装着を進められると、つなぎから軽作業用のを取り出して準備万端。
「重い……」
釣りは初めてといった感じが見ただけで分かる動き。
ロッドの重さに翻弄されている。
ドレークさんにコツを教わって、足下に踏ん張りを入れるように腰を落としつつ、ロッドをゆっくりと振って、数度それを繰り返してから、
「えい」
と、可愛いかけ声と共に投げ釣りを開始。
流石にドレークさんのように遠投は無理だけども、初めてで、大きなロッドを使っての遠投としてなら、センスがあるのは窺える。
「じゃあ、固定してから待機だ」
「分かりました」
更にギャラリーが増える。
男性陣が多い。流石はロールさんといったところ。
釣りの経験がある方は、少しでもお近づきになりたいのか、離れた位置からコツを伝えてくる。
近づけないのは、ドレークさんがいるからだろうね。
――。
「反応無いですね」
「そんな簡単にはこないさ」
紺碧の穏やかな海に続く釣り糸を凝視しながら、動きがあるかを眺めている。
ドレークさんがロッドに手を伸ばして、ロールさんに返答しつつ、リールを巻くように指示しようとした時に――――、
キリキリと糸が、海中へと引かれていった――――。
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