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働く方々

PHASE-05

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「こっちも見てみますか?」
 タモンさん、机の奥、壁に立てかけられた、柄に宝石を埋め込んだ立派なこしらえの剣を手にして、サージャスさんに見せる。

「これは?」
 と、質問すると、
「同じ物の残り物から作ってみた」

「いやいや、宝石は頼んでませんよ」

「宝石じゃねよ。研究所に残ってた雷系のタリスマンだ。コイツを握って、雷系の魔法を使えば威力が上がるぞ。なんたって、かのクリネア製だ」
 ちょっとまて! クリネア製って、祭りでも販売してたけど、安いのでも十万ギルダーするからね。
 雷系ならお値段凄い事になってるよね。
 開発費で手に入れたんだろうけど、そんなのを余らせますかね?
 しかも、僕が頼んだわけだから、僕の物なんでしょ。片手間でいいから作ってもらえればいいと頼んだだけなのに、とんでもない高価な物が更に高価になってしまっている。
 宝具クラスだよ。僕の稼ぎじゃ一生かかっても買えないよ。
 開発費にかこつけて、やりたい放題だな……。
 
 開発局の予算ってそんなに多いの? 整備局にも回してよ。
 そもそも、タモンさんの使用している、この部屋の広さが、すでに整備局が丸っと入るし。
 明らかに年間の予算に、同じ公務員でも格差が生じているよね。

「いいんですか?」
 手にさせてもらうサージャスさんは、剣を鞘から抜く。
 鎧同様に、漆黒で両刃のロングソードが現れる。
 タイラントデスストーカーの脚の節部分を流用して、研いで作ったそうだ。
 立派な業物だと、アメジストの瞳をキラキラと輝かせて眺め、鞘に戻すと、それを自分の腰に付けて、今度は帯剣姿を眺めている。
 洋服選びの女性の買い物のような風景だ。
 剣だから殺伐さがあるけども……。
 まあ、なんだ……。肉体美を病的に意識した方が使用している開発室だ。それはそれは、大きな全身鏡が至る所に置かれている……。見放題だ。女の子のそれなら笑顔で見ていられるけど、鏡の前で五十のおっさんが毎度ポージングしているのを想像すると、ゾッとする……。

 ――。

「そういえば、出会った時から帯剣してなかったですね」
 不死王さんの時は、生産性重視の細剣を帯剣していたけど、今回は剣すら持ってなかったな。

「お金が無くて……」
 貧しさが辛い……。そう伝わってくる重く低い返答だった。涙が出そうになる。勇者なのに腰に一丁前の物も持ち合わせていないなんて……。
 素手でも十分、強いけど。この子は魔法剣の使い手なんだから、立派なのがさぞ欲しいだろう。
 この剣には雷系のタリスマンが柄に埋め込んであって、現在それを帯剣している。
 そうなると、雷系の魔法剣だって使用してみたいという欲も芽生えるはずだ。

「は~凄い」
 嘆息にも似た物を吐きつつ、腰から剣を取ると、タモンさんへと返す。

「もう、いいんですか?」

「これ以上、見てたら欲が出るんで、今のボクにはそれが一番怖い存在です」
 必死に違反金を払う中で、欲を持てば、悪道に走るかも知れない。自分の感情をコントロール出来るほど、人間が出来ていないと、そう言う。
 十代半ばでそれだけの考えを持てる時点で立派だけどね。僕なんてこの鎧でお金持ちに! って思いしか持ってないし。
 名残惜しそうに鎧と剣を見る姿の哀愁さよ……。
 
 ふむん――――。
 僕が持っていても、意味ないよね。使う事なんてないし、銃と同じで飾るだけしか出来ない。でも、飾るほど部屋広くないし。
 転売目的だけども――――、それを買うのは勇者さんとかじゃないよね。もし購入が勇者さんとかならいいけども、結局は何処ぞの金持ち貴族なんかのコレクションになって、埃が積んだりするのかな~。 
 それは凄くしゃくだな。
 僕がお金にしても、貯金しかしないし。いや、大事な事だけどね貯金。
 でも、目の前でね~。哀愁を漂わせる十六歳を目にしたらね。
 
 ――。

「サージャスさん。よければ一式、お譲りしましょうか?」

「は!? え!?」
 そりゃ、驚くよね。場所によっては宝具扱いだからね。そんな物をポンとやるとかあり得ないもんね。

「そんな、いただけません。ボクにはそんなお金無いですし」

「いえいえ、勇者として、今後の善行に役立てばいいかなと、部屋に置いても埃かぶるだけだろうし」

「人に作らせて、埃かぶせる気かよ」
 ああ、すいません。
 でも、タモンさんだって、埃が積んでいくくらいなら、剣も鎧も、その真価を発揮出来るところで頑張ってもらった方がいいでしょ?
 その意見には大きな首肯で返してくれた。

「ありがたいですけど、それは駄目ですよ」
 断るか、本当にいい子だな~。ますます、一式を託したくなる。
 なので、剣を手にして、渡す仕草。

「駄目です! それにウィザースプーンさんは公務員ですよ。贈答行為です」
 ああ、そうだね。確かに、贈答になるな、違反行為だね。
 ふむん――――。
 でも、まあ、僕も銃を断ったけど、結局もらってるんだよね。とりあえず魔道開発局に預けて、構造解析みたいな名目にして逃げてるけども。
 ――――じゃあ、今回も逃げ口上でいきますか!

「だったら、僕からのクエストを受けてもらっていいですか?」

「クエストですか?」

「はい、この装備一式の試験運用を、サージャス・バレンタインさんにお願いしたいと思います」
 これなら、なんの問題も無いでしょう。

「やるね! それなら、問題ない。作り手として、試験運用の認可状を書いてやるよ」
 流石タモンさん。話が分かってくれて助かります。
 脳みそまで筋肉で出来てないところが、この方の素晴らしいところ。

「本当にいいんですか? これ、売りに出せば、一生を悠々自適に過ごせるお金になりますよ?」

「公務員なんで、安定してますから、平地の行き届いた人生は送れますから」
 ニッコリ笑顔で返してあげる。

「お前って、そんな風に女を口説くの得意だったか?」
 認可状にサインしたタモンさんが、所有者のサインを僕に求めながら耳打ちで聞いてくる。
 何を訳の分からない事を――。
 僕は普通に言っただけのつもりだったんですけど。
 じゃあ、サージャスさんの顔を見てみろと言われたから、見ると、ほんのりと頬を染めていた。

「あれ、お前に惚れたんじゃないのか?」
 そんな馬鹿な!? え、本当に? 僕、演習のあと辺りから、モテ期来てると思ってたんだけど、これ、本当に惚れられたの?
 こんなに可愛い、しかもボクッ子属性に? ホーリーさん曰く、千五百年に一人の天才といわれた子が、僕に惚れちゃったの?
 
 分からないでもないよ、仲間に裏切られて、辛い日々を送ってるもの。優しくされたら、そんな感情も抱くだろうけど。
 本当に僕に惚れてる? やだも~。鼻の下が伸びっぱなしですよ。
 
 ――まあ、落ち着こう。年上の冷静さを見せねば、格好いい姿でいないと! ここ大事!!
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