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PHASE-15

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「こちら、シャーマン。前線どうですか? オーバー」
 僕たちよりも早く、そして、静かに進んでいくアクシャイさんに連絡を入れる。
 戦いたくて、銃を愛でていただけあって、龍人ドラゴニュートさんを中心にした実行部隊は遙か前まで移動している。 

『こちら、パーシング・アルファ。未だ、会敵せず。この場で待機し、偵察部隊の連絡を待つ。アウト』
 なんだろう。この緊張感と、高揚感は、戦場に立つってこういう事なのか? 恐怖よりも、連絡を取り合う事での、皆との一体感が妙に嬉しい。
 不真面目とか思われたくはないけども、そんな感情が大きく僕の心を占めた。
 
 ――――。

 俯瞰で見るなら、現状は弓形のような陣形だろう。
 弓の真ん中当たりが実行部隊で、弦を張る両端に支援部隊。弦中央が僕たち。
 矢が飛んでるように見立てるなら、鏃が遊撃部隊と偵察部隊で、彼等と全体を繋げる連絡中継となる伝令部隊が矢羽部分になるのかな。
 
 無駄に動けば、相手に先手をうたれる。
 相手も僕たちも、この森での戦闘は始めてだ。マッピングを済ませたパピルスの地図と照らし合わせながら、ゆっくり焦らずに情報を手に入れてから行動だ。

『こちら、スチュアート・ブラボー。チャーフィー・ブラボーと中継。オーバー』

『チャーフィー・ブラボー。敵性部隊を視認。数、ふた。パーシング・アルファより二時方向。約三百の距離。オーバー』
 皆、オーバーって言いたいのかな?
 僕だけじゃなくて皆、高揚感を得ているのは確かだね。触れた事のない物を活用してる興奮と、相手を見つけた興奮が混ざってるようで、語気が強い。あまり大きな声を出しては偵察の意味も無いからね。
 
 ブラボー分隊の発見からだから、右翼サイドから進んできている。歩数で三百歩先、地図を見る。
 森に足を踏み入れた所からマーキングをし、Aから記入。
 敵性の位置は、I+の辺りだな――。
 速いな……。地図に照らせば、僕たちの進入地点から見て、相手は拙速なラインの上げ方と見て取れる。
 会敵予想よりやや手前まで飛行移動してきたとしか考えられない。
 大胆な行動だ。こっちが偵察を出しているのは相手も理解しているはず、敵の二人はアクシャイさんのように好戦的な方々かな?
 それとも後方にも潜んでいるのだろうか――? ふむん。

『司令官殿。いつでもいけます。オーバー』
 アクシャイさん、うるさい。オーバー禁止にしたいな。

「こちらシャーマン。ロウカスト、チャーフィー・ブラボーと合流してくださいアウト」
 合流後は、遊撃部隊ロウカストは更に前に進んでもらい、敵性の二名の背後に敵部隊がいるなら、引っかき回してもらいたいところ。
 
 アクシャイさんのパーシング・アルファが、ウズウズして具申、具申と、連呼してきたけど現状を維持と、言い聞かせる。
 力自慢を従わせるのは大変だけども、幸い僕の事を皆、なぜか信頼してくれてるから、言葉は聞き入れてくれる。

「我々の結束力は高いですね。相手にこれだけの連帯感ありますかね?」
 ググタムさん。僕の言葉を皆が従うから、一枚岩だと確信しているけども、
「こういう時は、相手は僕たち以上の結束力があると考えて行動した方がいいですよ」
 過大評価くらいが丁度いい。
 仕事の時もそう。簡単にやれると思って油断してると、意外と手間がかかった時のどっと疲れる感はかなりのものだからね。忙しいと思って取りかかった方が気が楽になる。
 戦いも、相手が格下だと思い込んで、油断するのは良くないからね。実際、僕たちより結束力が高いとも考えられる。
 そもそも、こっちの司令官は素人の僕だし……。
 
 ――――ダァァァンって、音が森に響く。
 チャーフィー・ブラボーから中継を経由して報が入る。
 ロウカストが遊撃に動いた時に、別の敵性が更に外側から現れ、先制の一撃を撃たれたそうだ。
 遊撃の一人がスタン。
 直ぐに、倒れた仲間を担ぎつつ、ロウカストには後退するように伝える。
 
 ベレー帽さえ取られなければいい訳だから、味方が助けて、スタンが解けたら戦闘に戻る事も出来るわけで、とにかく、味方の数を減らすわけにはいかない。
 後退を指示しつつ、右翼担当である支援部隊リーの五人編成からなるアルファを二チームに合流させる。
 
 布陣を再度確認。
 左翼は各部隊のアルファ分隊が担当。
 唯一違うのは、左翼支援のグラントはアルファの五人とブラボーの四人の二分隊構成。
 ロウカストだけは、シャーマン同様に一分隊だけだから、アルファ、ブラボーのコールサインはない。
 右翼はブラボー分隊と、グラント同様にリーが二分隊、同数で構成されている。
 パーシングは三編成。左翼がブラボー。中央最前線がアルファ。右翼がチャーリー。
 伝令のスチュアートは一分隊二名構成の二分隊。
 
 ――――。
 
 まだ、遊撃の一人が、右翼で攻撃を受けただけだから、ここは陣形を維持し――――、
『チャーフィー・アルファ! 左翼より敵部隊が急速接近! ポイントEを通過。数、三! 速い!!』

「声東撃西だニャ!」
 右翼側に視線を向けている矢先に、反対サイドから速攻を仕掛けてくる。
 情報によれば相手の先駆けは鳥人タンガタ・マヌだそうで、木々の中を飛行して接近してきているそうだ。
 飛行とか本当に――、ずるいよね。

「反則じゃないの?」
 ついつい、声にだしてしまうと、
「まあ、魔法ではなく、個人の能力なんで」
 ロウさんがそう言ってくる。
 分かってますとも。けど、そう思いたくなるんですよ。小物なんで……。

『こちらパーシング・アルファ! 行かせてください! オーバー』
 おう。龍人のアクシャイさんを中心にした分隊は移動力と戦闘力に特化した、僕たちのチームで一等だから、前線で目を光らせてもらいたいんだけどね。
 ここは、残り二つの実行部隊に前線を維持させつつ、アクシャイさん達に託そう。相手だって龍人を目にすれば脅威にも思うだろう。数、三の規模で動いている分、僕たちと合わせて挟撃で倒すのがいいだろう。

支援部隊グラントアルファ、パーシング・アルファの穴埋めとして、前線後方でパーシング・ブラボー、チャーリーの支援を!」
 相手の先駆けが動き出した途端に、銃声の音が各所から響き渡り始める。
 
 ――――。
 
 スタンにあった仲間の中からベレー帽を奪われる状況。
 伝令のスチュアート・アルファの二名が、迫ってきた先駆けに倒され、壊滅。
 
 最初に発見した二名を、パーシング・チャーリーが倒し、二名のベレー帽を奪取。しかし、ロウカストに強襲を仕掛けた、外側から攻めてきた部隊に、パーシング・チャーリーの二名のベレー帽が奪われた。
 二つを得ても、四つが奪われてしまった。
 
 敵の強襲部隊は形勢不利とみたのか、後退を開始したと、パーシング・チャーリーの支援に回ったグラント・アルファより連絡が入った。
 パーシング・チャーリーより、味方がやられて興奮気味の声で追撃の報が入ってきたけど、それを止めて、戦線の回復を伝えた。
 
 演習とは言え、一つ一つの連絡のやり取りだけで、どっと汗が出て来る。
 ふぅっと、長嘆息を打つと、横でシナンさんの耳がピクピクと動き、目つきが代わる。ピンクの髪が逆立つように動いて、八重歯を見せると、後方を勢いよく振り返り。

「強襲だニャ!」
 怒鳴りに近いその声で振り返ると、荒々しい栗毛のショートカットでシナンさんと同じ、人間に近い鳥人タンガタ・マヌの女性が高速でせまり、
「タリホー! 中央を発見。アズナ、これより攻撃っ」
 まあ、強襲の割に堂々と大声で通信を行って、銃を構えてきた。
 というか、背後!? 背後に回り込まれてたの!
 ――なんて、思わせてくれないくらいに、矢庭に銃口が向けられる。
 明らかに僕を狙ってるじゃないですか。やだも~。
 美人さんに向けられるのは、ハートの矢だと嬉しいんですが~。

「もらったぜ!」
 男勝りなしゃべり方ですね。
 鉄火肌の方向から、ダンっと乾いた音がする。

「ピートさん!」
 ググタムさんが前に立ちふさがり、弾丸を受けた。

「ググタムさん!?」
 体から、青い電流が走る。

「ぐぅ……」
 苦悶で膝を付いて行動不能。

「ちぃ! あんた達、続け」
 左右にいる鳥人の二人に指示を出して、射撃を行わせる。
 ロウさんが急いで、ググタムさんを担ぎ、
「ピートさん、まだ狙われてます!」
 ここで僕がやられても、戦力じゃないから問題ないだろうけども、スタンとはいえ、痛いのは御免こうむる。
 乾いた音を耳にしつつ、木の後ろに隠れる。
 覗き見ると、装填には時間を要している。
 付け焼き刃の射撃訓練はお互い様だってことだね。
 
 肩にかけていた、銃を構えて、安全装置のロックを解除して、三点で固定して狙う。相手は空飛んでる分、狙いやすい。
 僕たちは上半身を幹から出して、引き金を引く。

「当たるかよ」
 リーダー格であろう、アズナと名乗った、個人名かコールサインかはまだ分からないけども、鳥人の美人さんに狙いを絞って応射するも、巧みに木々を縫って高速で飛翔する様は圧巻である。

「ハリソンホークみたいだな」
 感心してしまう。
 連絡にあった、敵性の数、三と、ここに至るまでの移動時間を考えると、十中八九、このアズナさんって方の部隊が左翼から迫ってきた先駆けだろう。
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