拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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熱砂地帯の二王

PHASE-02

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 ――――……。

 頭抱えてるよ。お馬鹿ですね。

「やっちまった……」
 本当に、貴男を反面教師にしたら、世界中の人々が立派になるでしょうね。

「ピート君」

「お金なら絶対に貸さないので」
 僕は堅実な事にお金を使いたい主義だ。こんな賭で馬鹿みたいに使う人になんて、死んでも貸したくない。

「くれとは言ってないだろう! 貸せや!」
 なんて汚い言葉なのか。右頬の傷に語調。周りが見たら、輩がいたいけな男性から、お金を巻き上げているようにしか見えないよ。
 
 衛兵の方を呼んでください。チンピラに絡まれてるんで。
 当の僕は肩をすくめて、小馬鹿にした笑いで返しながら、相手にもしないんだけどね。



「砂漠オオトカゲって慣らすのが大変だと聞いたことがあるんですが」
 この時間帯のクライムヒルは終わったらしく、砂漠オオトカゲを世話している方に、社交性の高いロールさんが僕たちのやり取りを無視して質問している。
 ターバンを巻き、ビールなんかを飲んだら泡がベッタリとつきそうな立派な口髭の方が、美人さんの質問に笑顔で答えている。
 
 この方、つい最近まで幻獣使いビーストテイマーとして、勇者のパーティーに入っていたそうなんだけど、中々に名を売ることが出来ないで、パーティーは解散したそうだ。
 
 そんな中、シュタールが活気付いてきた事を耳にし、なにか仕事があるかと来たのが正解だったそうで、一般では扱いづらい砂漠オオトカゲも幻獣使いビーストテイマーなら幻獣に比べれば簡単と、クライムヒル用の世話だけでなく、砂漠移動用のレンタルも開始して、稼ぎも上々だそうだ。
 ラクダに比べ、餌の消費も少なく、斜面にも強く、モンスターが出ても、撃退する力もあるそうで、旅人には人気が高いとの事。
 
 勇者のパーティーを抜けて、困っているご同輩に話を持ちかけて、人員を増やしてもっと手広くやっていこうと今後の夢も語ってくれた。

「これも、全ては彼等のおかげだな。もう、敵視なんて出来ないよ」
 と、笑顔で幻獣使いビーストテイマーの方がそう言っていた矢先に、

「おっ、雨だぞ~」
 何とも嬉しそうに、町人が外に飛び出して、急なスコールを体で浴びて堪能している。
 
 つい最近まで、この地で雨が降ることは珍しいことだったらしいけども、いまでは頻繁に恵みの雨が降り、砂漠地帯で貴重な飲み水の枯渇する問題は払拭。この地に再び移住してくるきっかけになった原因だ。
 
 降り終えると、心地のいい風が肌に届く。さっきまでは焼けるくらい暑かったけども、乾燥した気候での涼しい風は非常に気持ちがいい。

「ありがたや、ありがたや」
 シュタールの方々、そろって北の方に向いて拝んでいらっしゃる。
 そして、その方角は、今から僕たちが向かう場でもある。
 

 ――――――。

「どうします?」
 困ったことに、木陰にて涼んでいたグライフ君たちは、スコールのりょうなんて何のその。
 その厚い毛並みから、暑さにまいったようで、動きたくないとごねている。
 
 移動はグライフ君で、と考えていた僕たちは、移動手段を手に入れなければならない事となった。
 木陰も可哀想なので、木造で風通しのよい馬小屋の所有者にお願いして、預かってもらうことになった。
 流石に幻獣であるグライフ君を間近で見るのは初めてだったみたいで、若干怖がっていたけども、僕たちがこれから行く所を伝えると、快く預かってくれた。

「こうなったら、さっきのとこに頼むしかないな」
 と、整備長。
 仄暗い語調で、すってしまった投票券を未練たらたらで未だに握りしめている姿が何とも哀愁だね。いったい、いかほど投資したんですか? 欲に駆られた男の所には返ってきませんよ。
 
 ――――。

「レンタルってどれくらいなんです?」

「一日なら2700ギルダーってとこですかね」
 高い! ラクダの倍か……。ラクダも十分高いけど、やはり、砂漠オオトカゲは別格だな。
 質問した整備長の顔がこんなにも暑いのに青ざめてら。
 
 ここで、それだけの金を使うのはきついのかな? 経費で落とせばいいんだから、領収書を書いてもらえばいいんだろうけど、
 
 ――まさか……。

「整備長。本当に、お金ないんですか?」

「ない……2700ギルダーなんて持ってるわけがない。普段から持ってねえよ」
 まあ、普段は確かに持たない額だけど。一応なにが有るか分からないから、出張時は基本、僕は5000ギルダーは持ち合わせている。
 僕は砂漠オオトカゲ乗れるな。

「ロールさんは?」

「私も問題ないよ」
 僕、同様にちゃんと考えて、お金を持参しているようだ。
 整備長もそうだったんだろうけど、クライムヒルに夢をつぎ込んだからね。アホ、いや――――、阿呆あほうですね。

「どうすんだよ! 頼むよ貸してくれよ」
 僕の足にしがみついてくる情けない四十路の男の姿がそこにはあった。
 大体、なにが貸してだ! この方、奢るとか言ってたバッカスの支払い。シスコン邪神のせいで、僕が立て替えたけど、未だに返してもらってないぞ。
 ――ええい! 放せぃ! この貧乏人め! とか言って蹴り倒したくもなったけども、四十路の必死の形相は、正直、恐怖だ。
 
 整備長の分までは出せない僕。
 まあ、ロールさんと出し合えば何とかなるかな。
 目で語ると、ロールさんは若干、苦笑いを見せつつ、頷いてくれた。
 なんだろう、最近、僕とロールさん、目と目で会話出来るようになったんだけど、これって、もう恋人を通り越して、夫婦でも良いんじゃないかなとか思ってるんだけど。
 
 ――――しかたないなぁ。

「じゃあ、僕とロールさんが出すんで、ちゃんと領収書を書いてくださいよ」

「俺名義でだよな」
 違うだろ! そしたら貴男、そのままぎるつもりでしょうが!

「ロールさん二人で、壌獣王じょうじゅうおうさん達のとこ行きましょう」
 そうしよう。そうだよ! 二人で行くのって、デートみたいでいいじゃない。金のない奴は置いていけばいいのさ。

「なんだ? あんたら壌獣王のとこに行くのか?」

「はい。僕たち王都の整備局の人間でして」
 壌獣王さんと聞いて、驚きの表情の幻獣使いビーストテイマーの方。

「整備局。あ~なるほどね」
 僕たちが何をしに来たのか理解してようで、

「それなら、話は早い。ロハでいいよ。ロハで」
 只と聞くや、整備長が幻獣使いビーストテイマーさんに固い握手を行って、頭を気持ちのいいほどの角度で下げている。
 
 どうやら、壌獣王さん達のおかげで今の稼ぎがあると恩を感じているから、そこに用があるならと、商売を捨てて協力してくれた。
 
 元勇者パーティーでも、生活を営める環境をあたえてくれた魔王軍に感謝しているご様子。
 
 ――――――。
 
 ――――今泣いたカラスがもう笑うって言うのかな。こういう状況……。
 気分良く、借りた砂漠オオトカゲに跨がって、おっさんが砂漠の上を楽しそうに疾走している。
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