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王都の休日・舞台鑑賞

第五幕・PHASE-02

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 王は剣を構える。
 頬をつたう汗を拭うことはしない。その動作一つで、瞬時に入り込まれ斬られて終わる。

 ここまで来たのである。退くことも出来い。
 王は自身の力量では太刀打ちなど出来ないと理解しつつも、ここは受けなければならないと覚悟をする。
 
 これを乗り越えなければ会談を行えない。
 
 最後の前の試練。

 会談という最後の試練にたどり着くまでは、例え四肢を失っても、這い蹲ってでも、たどり着かなければならない。
 
 その意志で、切っ先をマルケルに向ける。
 
 覚悟を宿した王。その瞳を、感嘆した心で受けるマルケルは渾身の一振りを見舞う。
 
 後方に下がる隙は与えてくれない。それを受けて立つしかない。家臣の一人は受けきれずに屠られた。
 その者と比べても、自分は力不足。それでも受けなければならない、下半身と腕に全身の力を込め、体験したことのない衝撃を受ける。
 
 一撃で手がしびれ上がり、剣を手から放しそうになりながらも、初撃を受け止め、そのまま受け流す。
 
 マルケルも渾身の力で振り下ろしたため、受け流されると、体は勢い余り、王を通過して、地面に転ぶ。
 王に剣を振るうという思いが、彼の体に無駄な力みをあたえてしまった。
 
 反撃を警戒し、素早く立ち上がり構えるが、王は手のしびれから、剣を握るので精一杯であり、次を防ぐことは出来ないと考えていた。
 
 マルケルの配下達は、彼が転倒したことに焦燥し、王へと向かい剣を振り上げる者、切っ先で捕捉する者。
 多勢に攻められれば、どうしようも出来ない。マルケルに吹き飛ばされた家臣が痛みから解放され立ち上がり、王と大音声。
 
 向かってくるマルケル配下の前に炎が出現。その炎のに飲み込まれる。
 
 後方の者達は足を止めた。本能的に火を恐れ、目の前で焼かれる同胞の消火を行う。
 
 炎となれば、離れた位置でこの戦いを静観していた、炎竜王が手を出してきたのかと、王もマルケルも目を向けるが、彼女はただ見守るだけに徹しており、彼女の行為ではなかった。
 
 ――まさかと、王は視界を移動させると、ティアナが手を王の前に迫る者達に向けていた。
 
 少女は初めて人間に魔法を使用したのか、手が震えている。勇者としての姿はそこにはなかった。 
 手を出させたくなかった王も、彼女の行為に心を痛める。
 
 だが、それを放たれた方は黙っていられない。消火のかいもなく、命を失った同胞の仇とばかりに、王の後ろにいる少女に憤怒の目で対抗した。
 
 人を守るために研鑽を積んだもので、人の命を奪ってしまった恐怖。それに付け入るようにマルケルは、王よりも前に、脅威を取り除かなければならないと起こした体でティアナへと向かう。
 
 そうはさせぬとばかりに王が後を追うも、全ての面で劣る体では快足に追いつけず、歯を軋らせるだけであった。
 
 動けないティアナの前に迫るところでマルケルの動きは止まる。
 
 くの字の姿になって止まる。
 
 そのまま、膝を地面につき、自身に何があったのかを確認するように諸手で腹部に触れると、鮮血が流れ、視界を正面に戻せば、自分の血が滴る短剣を手にしたニコの姿。
 
 流石はアサシンであると、感心すらするマルケル。
 正面から刺されたというのに、その存在に気付くことが出来なかった。
 
 ニコの瞳はティアナのように恐怖には捕らわれておらず、ただ自分たちに迫る脅威に対して冷徹に行動するだけの、氷のようなものであった。
 
 マルケルは背筋に寒さを走らせ、もう一振りの短剣が向かってくるのを目にし、命の終わりを悟る。
 だが、ニコの短剣はこない、死を受け入れるように閉じていた目を開けば王が彼の腕を掴み制止していた。
 
 倒れ込むマルケルを支える王。
 
 自身の不甲斐なさを謝罪し、死地からの逃亡を助けられ、支えてきた者の死に際に涙を流す。
 
 マルケルに付き従った者達は、憤怒から急激に悲壮のものへとかわり、剣を振るうことよりも、彼の周囲に集まり始める。
 
 交わることのない思いが衝突した結果が、これである。
 ――ただ、国の行く末を憂いていたのはどちらも同じ。
 
 だからこそ、恨みで振るう剣ではなかった。
 
 マルケルのかすれていく言葉を、聞き逃さないためにも、王は彼の口元に耳をつけ、彼の言葉が聞こえなくなるまで、聞き続け、忠臣の死を看取ることとなった。
 
 あのとき、自分が怨嗟に駆られなければ。あのとき、取り乱さなければ、家臣との絆を壊したのは間違いなく自分である。
 
 自分には過ぎた者達に支えられていたことの感謝。
 
 マルケル達は王の忠臣ではなく、国の忠臣であり、最高の者達であった。
 
 悪が存在するのなら、それは弱り切った時ですら見捨てず支えてくれた者達に甘えていた自身が悪である。
 ――と、人目も憚らず、王は泣き崩れた。
 
 その姿に、マルケルの同士、配下も剣を向けることをせず、彼の死に膝をつき、共に涙を流した。
 
 彼の遺骸を王は自らの外套で覆い、彼に付き従った者達を罰することはせず、これからの行く末を見守って欲しいと、頭を何度もたれて願い、
 
 主柱を失い、未だ主である王が伏して願い出る姿に、なにも返すことが出来ずに、ただ、無言で佇む。
 
 了承と考えた王は、残った家臣に肩を貸し、倒れた二人もマルケルの隣に寝かせ、無言の者達に彼等も頼むと願うと、無言ながら首肯で返してくれた。
 
 身内の争いが済んだと判断した炎竜王は、再び案内を行う。
 
 

 ――場が変わり。屋敷の中へ――――、
 
 

 席に着く王と、同行者たち。
 
 程なくすると、炎竜王を先頭に入室する存在。
 
 

 そこで、光があたる。
 一人の美しい女性。それが魔王だった。
 
 
 王は彼女の前に進み、膝を折り挨拶を行う。人間の代表が魔王に伏しているようにも見えるが、なにもない王にとっては、これしか出来なかった。
 
 王の前に手を伸ばす魔王。手の甲を見せているわけではなく、キスの催促ではない。伏せた王を立たせたかった、ための行為であった。
 
 席へと腰を下ろす。
 
 王は願い出た、これ以上の破壊を止めるため協力をして欲しいと、勇者と魔王の戦いで、大地を疲弊させないでほしいと――、

 本日、何度目になるのか、頭を下げるのが様になってきている。
 
 魔王からの言葉は簡素なものであった。
 
 ――王の願いを聞き入れると、そう口にしたのだ。
 
 会談を受けることも二つ返事。そして、願いを聞き入れることも二つ返事。すんなりと進むことに不安を覚え、それが表情に出てしまう。
 
 魔王は怪訝な王に笑みで返し、我々も同じ事を考えていたと発した。
 
 長きにわたる、魔と勇者達の戦い。これによってどれだけの損害が生物、自然に出たかというのは十分理解しており、自身の前任が、世界を欲することに駆られたことから始まったこの長い戦いの開闢。
 
 前任が封じられても、力を手にし、欲に駆られた者達により、終わることなく戦いが続いてきたのは双方の業である。
 
 魔を倒し、名声を得たいと考える勇者もいれば、強欲に突き動かされる魔族もいる。
 それらの思いのぶつかり合いが未だに続く不毛な浪費。
 
 手を打つにもある程度の妥協を残しつつ、規則を作り、戦闘を行っていけば良いと魔王は考えていた。
 
 それならば、完全なる戦いの停止と和平への道をと、王が言えば、魔王は首を左右に振る。
 
 急に戦いをやめると言って、常人から見れば圧倒的な力を有する者達が、それを理解し、停止するのは考えられない。
 一度、力を得れば、どの様な聖人でも魅了される。
 
 だからこその妥協が必要なのだと返した。
 
 王はこの機を逸することは出来ないと考えていた。
 
 この様な話し合いの場は、もう来ないかも知れない。
 
 ならば、話を纏めて、これ以上、野火を広げることがないのならば良いかもしれない。
 いま出来る事の限界を見定めなければならない。でなければ、自分の無能さで死んでいった者達に本当に顔向け出来ない。
 
 相手は即断でこちらに合うと約束したのだから、こちらもそれに対して堪えねばならない。
 
 王は立ち上がり魔王を見据えて彼女の考えに賛同した。
 
 立会人となったのは、まだ十三と幼い、ティアナとニコ。そして、炎竜王の三名。会談の中心になった王と魔王の二名を含めた、この五名によって勇者魔王間戦闘規定条約が締結されることになる。

 締結後は魔王軍の行動は過激な行軍から、侵略した地を治世に収める方向へと変わり、その地を奪還する勇者達や、それを妨げる魔王軍の散発的な戦闘へと変わっていった――。
 
 

 ――場は変わり、
 少しずつであるが、再生の方向へと世界が変わっていくことを王が耳にするのは臥所であった。
 
 条約より四年がたち、やつれた姿に弱々しい声。条約を締結させた重責から解放された王は、張り詰めた糸が切れたかのように、見る見ると衰弱していった。
 
 治世で統治し、それを侵略され、怨嗟で動き、会談。それを妨げる忠臣の死。
 その全ての心労がまとまって来たようで、王の生涯が終わりを迎えようとしていた。
 
 今際の際にて、六つとなる我が子の頭をなで、大人の顔つきに近づいてきた、ティアナとニコに目を向け、王妃、家臣団と、眺めていき、笑みを見せながらこれからの世を託しつつ、永遠の眠りについた。
 
 
 ―――これが、先代の王であるアルテリア・ベガ・ダロスの生涯を題材にした舞台。
 

 

 最後の幕が降り、再び上がると、観客の拍手にのせて役者の方々が手を振り挨拶をするカーテンコール。
 
 役者の方々、自分たちでも満足出来た演技が出来ていたようで、皆さん、誇らしい笑顔で拍手が奏でる音を全身で受けている。 
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