拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

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出張

PHASE-15

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「あきらめるなよ!」
 平手を打った不死王さん、今度はサージャスさんの両肩を掴んで、立ち上がらせると、

「あきらめるなよ! 出来る! 出来るよ! そんな額、あきらめずに頑張っていけば払える。簡単な道を選ぼうとするなよ! あきらめずに今のままを貫くんだよ!」
 でたよ……。熱血劇場…………。
 
 灰色のウェーブがかった長い髪を揺らしながら、サージャスさんの肩を強く振りつつ激励。
 
 すでに、瞳には愛する民の方々が与えてくれた別称である、名水百選が流れている。
 
 なんだろう……。つなぎのチャックに手を掛けて、胸元まで開いてしまう。心なしかここだけ気温が高くなっているような気がする。

 ――――戦闘を振り返ってのサージャスさんに対する賞賛。
 
 魔術学都市クリネアの出身ならば魔法も相当な破壊力を有しているはずなのに、ここが市街であり、建物損壊や住人が近くにいたことで、魔法を使用しなかったその心意気。
 勇者たる優しさ。
 そして、徒手空拳になっても、モンクの能力で対処。
 新たなる技の開花を成功させる探求、研鑽、努力。
 
 一朝一夕で取得出来るものではない。その今までに培った努力を無駄にして、簡単な方法に逃げるなと、今までの自分に失礼だと、努力が嘘をつかないことを実証してきた自分を裏切るなと、
 
 それはそれは大音声で、戦闘時に避難していた城壁の下にいる住人の方々にもはっきりと聞こえるくらいパッションなのものでした。

「そうだ。あきらめるな! チャクラに狂戦士ラーテルを纏わせるセンス。師事を受けたいくらいだ」
 ふぁ!?
 不死王さんにパッションに当てられたようで、ワイトさんが拳をつくって激励。

「「そのとおりだ!」」
 ふぃ!?
 ワイトさん発進で他のアンデットの幹部さんも続き、

「「「「できるぞ頑張れ勇者なんだから!」」」」

「俺たちの身を案じてくれてありがとう。そのせいで不利な戦いだったな」

「でも、格好いいぞ! 流石は勇者様だ」
 ふぇ!?
 周囲の兵隊さん。更には大音声を耳にした住人の方々からも激励の波が押し寄せてくる。
 
 ――そして、突如始まる謎の勇者様コール……。
 何が凄いかって、その勇者様コール。住人の方々だけじゃなくて、不死王さんや、その配下の方々も口にしてるから……。

「さあ、皆に顔を――――」
 不死王さんが優しく手を差し出し、エスコート役を買って出る。
 
 言うまでもなく、僕はこの一連の流れを冷静というか、冷めた目で見ている。
 
 だって、さっきまで戦ってたし、勇者様が魔王の幹部に励まされたあげくにエスコートされるってどういう光景だよ……。
 
 美しいやり取りではあるよ。あるけども……。
 
 得心がいかないままの感情で眺める。
 サージャスさん下にいる方々に盛大に励まされ、その優しさに涙を流して、手を振っている。
 
 その光景に感極まって、壁上にいる僕と整備長を除く皆さんが涙を流して鼻をすすってる。
 
 パッションが凄いんじゃ~。
 
 更に気温が高くなった感覚だ。つなぎのチャックは腰まで開いている。

「ありがとうガルエロン。ボク、諦めない! また、貴男に挑戦するから!」

「うむ、いつ何時でも受けて立とう! 誓うのだ! 打倒、魔王!!」
 熱い握手。最後のは。問題発言なんじゃないかな……。

「我等、不死王軍も全力であたらせてもらうぞ」
 モノクルをキラリと輝かせ、好々爺みたいな優しい笑顔の大公様。その言葉にサージャスさん笑顔で会釈。
 不死王さんが、石畳に投げ捨てられていたタンカラーの外套を手にして、それをサージャスさんに渡すと、それを纏って壁上から軽快に跳躍。
 容易く古都の周囲を囲む堀を飛び越えて、壁上で手を振り送り出す皆さんに、手を振り返すと、颯爽と走り去って行った。

「なんと清々しい女勇者であったか」

「打倒、魔王発言はどうかと……」

「それは! つい出てしまいました。ウィザースプーン殿。平にご容赦ください。特に王都はファングラス殿と関係深く、激励のためとは言え、背信行為ともとれる発言。もし知られれば、粛正されます」

「ですね。カグラさんに燃やされますよ」
 ガグラ・ゾン・ファングラス。
 カグラさんのフルネーム。正直、ミドルとラストネームは整備長のメモ帳でさっき知った。

「ですよね。私、アンデットなんで」
 カグラさんは炎竜王ですからね。炎のスペシャリストですもんね。不用意な発言で、もし怒らせたら超再生が間に合わない滅却処理が待ってるかもですね。
 
「了解です」
 笑顔で返してあげた。

「素晴らしい相手でありました。まだまだ、発展ですがね。将来有望な勇者になってくれるでしょう」
 なにを、嬉々としておられるのか。また挑みに来ると言っていたのに。
 
 そして、なぜに皆さん、それに賛同するかのように笑いを混ぜながら頷いているのか。まったくもってこの方々は常人では理解できない程に懐が大きいようだ。

「強く生きろよぉぉぉぉおお!」
 鼓膜が潰れる! ただでさえ、巨神狂叫アウルゲルミルで耳が辛かったのに!!
 僕の横で、姿が見えなくなったサージャスさんに、大声で追加のエールを送る、涙の不死王さん。
 
 耳がギンギン、脳がクラクラする衝撃に心底では怒りを覚えてしまう。

「本当に頑張ってくれないとな」
 おや、珍しい。まさかの整備長からそんな言葉が聞かれるなんて。

「いや~壮絶だよな、あの子の人生。まだ十六だぜ」
 
 十六か、僕より年下なんだ――――。
 十六……。

「ふぁ!? 十六! あの子、まだ十六なんですか!?」
 僕の大音声で鼓膜に衝撃を覚えたようで、整備長は目をつり上げつつ、記録しているメモ帳を見せてくれる。
 
 ――先ほどは似顔絵、支払金と名前に目を向けてたけど、じっくり見ると、確かに十六。もちろんこのメモの情報が正しければだけども。
 
 一年と半年前に二億なの? 十四歳くらいで、支払金を命じられてるの? え、なに、役所って凄くあくどいね。
 
 まあ、僕たちと同じ公務員の方々ですけど。そんな若い子から装備を差し押さえた時どう思ったのか。心痛まなかったのかな? 
 彼女の情報を見た時、僕は申し訳なく思ったんだけど。
 
 それに、少女に支払金を丸投げして逃げた魔法使いと、パーティーを抜けていった奴らって本当に最低じゃん。もはや勇者御一行の資格なんて一生涯ないよ。

 ギルドはこういう人たちを厳しく取り締まってるのかな? ここで、涙流してる不死王さんの方が、よっぽど出来てる。
 
 大公様が魔王軍に肩入れするのが何となく理解出来るような気がした。


「あ、このメモ帳、貸してください」
「駄目」
 舌を出して、取り上げるとポケットにしまいやがった! くそ! いやなおっさんだ。
 まあいい。カグラさんの情報は一応、この蒼眼に焼き付けたからな。
 後は、行きたくないけど、飲みに誘われた時に、さっさと酔わせてから、メモを写そう。

 清々しい周囲の方々とは裏腹に、僕は邪な考えを巡らせていた――――。



「さあ、次なる勇者の進行も阻止しするぞー!」
 不死王さん、サージャスさんに送る涙のエールとは別に、周囲の方々、城壁の下に集った市民の方々に力強く両拳を天に向けて今後の抱負。
 
 割れんばかりの歓声がそれに続いた。
 
 大公様、腰を痛めたとか言っていたのに、激しく飛び跳ねながら、雄叫び。不死王さんに呼応していて、今後もバリバリこの古都のために励みそうだ……。
 派遣される各局の方々の胃が心配になってくる。

 
 熱い方々である。ここに住まう皆さんは、そういう気質なんだろう。
 きっと、その気質をもたらしたのは、体はひんやりの方々なんだろうけどね……。
 
 泣いたり、倒した勇者励ましたり、今度も勇者を撃退すると宣言したり……。
 
 
 ――――大きい吸気。肺いっぱいに古都の熱気に満ちた空気を蓄えてから、

「色々と起伏が激しすぎる~!!」
 古都の些か曇天に変わってきた空に向かって僕は叫んだ。
 
 
 初めての出張は、熱い想いで動いている方々に付き合うのは、非常に疲れるということを経験するものだった―――――。

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