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出張
PHASE-09
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――――本日も祭りが続いているようで、随分と、目抜き通りが騒がしい。
人通りは、街道へと続く西門へと続いている。僕たちがここを訪れた時に通った門だね。
「おお、見つけましたぞ! ホテルにお迎えに行ったら、先ほどチェックアウトしたと聞きまして、追いかけてきました」
――――…………。
「「ぎゃあぁぁぁぁあああぁぁ!!」」
整備長と抱き合っていきなりの来訪者に絹を裂いたような悲鳴を上げてしまった。
朝でこれだ、これは夜は絶対無理だ。そら整備長、怖くなって戻ってくるよ。
住んでる方々は免疫あるだろうけど、一日ちょっとの僕たちでは対処出来ない。
幽霊兵さん……。石畳からゆっくりと僕たちの目の前に現れてきたら、卒倒してしまいますよ!
あっという間に、膝がガックガクだよ。
城で目撃した時は、移動している姿で、そこまで驚かなかったけども、不意打ちで、且つ、僕たちに対してのアクションとなると、やっぱり怖い。
「どうされました!?」
貴男が原因だから、あんまり近づかないでください。とりあえず動悸が収まるまで待っていただきたい。
無自覚だったけど、防衛本能から来たのだろう、掌をすっと、幽霊兵さんに向けて動きを制していた。
――二人揃って深呼吸をしてから、
「なんでしょうか」
待っていただいた幽霊兵さんに答えを求める僕。
不死王さんの命で、僕たちを迎えに来たそうで、別れの挨拶の為に西門で待ってくださってるそうで、そちらまで案内してくれるとの事だ。
うん……、普通に人間の兵隊さんを使わして欲しかった……。
「しかし、ちまたにアンデットの兵が朝からいるのは普段はないんでしょ?」
未だ収拾出来ていないのか、落ち着こうとして一服したいようだが、中々に葉煙草に火を付けられない整備長が質問。
配慮として、朝から夕までは、古都を訪れた旅人を驚かさないためにも、人間の兵が、警邏、歩哨をおこない、アンデットさん達は夜を担当。
人と違って、眠らないからってのもあるみたいだけど、正直、夜の部で頑張られる方が困る。
訪れた人々には恐怖倍増だ。
強制的な、市街サイズの幽霊屋敷だもの。
「今回は、不死王様が城より城下に出ておりますので、必然的に警備も厳しくなります」
幽霊兵さんが返答。
そりゃそうなんだろうけど、事前にそういうのは伝達するべきだと思う。
それとも、怖がってるのは僕たちだけなのかな~、アンデットの兵隊さん見て怖がってるの――――。
「おわぁぁおっふぃ!」
ああ……、よかった。誰かの悲鳴が耳朶に届いてきた。僕たちだけじゃなかったようだ。
「おお、ブートガイ殿。ウィザースプーン殿。お待ちしておりました。いや~今日も心が清らかになるほどの好天ですな!」
どうにかやって、アンデットから人間になる方法ないんですかね? 完全にアンデットの王として失格な考えと発言なんですけど……。
「わざわざ、すみません。我々のために御身、自ら見送ってくださるとは」
ホテルを出た時の猫背無気力スタイルは何処へ行ったのか。恭しくきっちりとした一礼。
不死王さんの横に大公様いるからね。仕方ないね。
「挨拶なら、こちらから出向きましたのに」
「いやいや、見てください。昨日、訪れた時とは違うでしょう」
城壁を見てくれといわんばかりに両腕を大きく広げてくる。
――なんで、一日でこんなにも変貌を遂げてるの!?
これが疲れを知らないアンデット脅威の建築力とでもいうのだろうか。これは是非に整備局で勤務してもらいたいところ。
昨日までなかった張り出し櫓や、タレットが城壁に増築されている。どれだけの人足が動いても、一日で作れるレベルじゃないよね。
出来れば、人足を雇って、お金を回す方法をとって欲しかったけども。こんなこと、一日で出来るなら雇い人は不必要か……。
堀周りには簡易的でも木材を使った頑丈そうな欄干も出来てるし、堀の中では案の通りに、警戒色丸出しな、鮮やかな黄色と黒のまだら模様からなるでっかい蛙が泳いでる。
子供たちが手を振ると、水面に上がってきて、水かきのついた前足を振って応えるハートウォーミングさ。
どれだけ愛されてるの、アンデットの皆さん。
賑やかなのは、祭りが原因ではない。
間違いなく不死王さんがここにいるからだ。それを一目見ようとしての賑わいでしょ。
そのせいで店が閑古鳥になってしまっているようだが、商魂たくましい商人さんが、立売人携帯容器を抱えて食べ物を売って歩いている。
「いや~頑張りました」
統治者自ら頑張ったんかい!
「全くですな。腰が痛いです」
「それはいけない。誰か大公殿に椅子を持て」
「歳はとりたくないもので」
大公様まで参加したのかよ! 働くの本当に好きだな。トップがこれだから、ここに住まう人々は仕事に情熱そそぐよ。
ボーイさんしかり、料理人さんしかり、眼下の商人さんしかり。
見習え、整備長! 本当に!!
ついつい冷ややかな視線を送ってしまった。
「これを見ていただきたかったんですよ」
「素晴らしいですね。住人の方にも配慮をした作り。そして、ここに集まる人々。不死王さんが愛されているのがよく分かります。その姿に皆さん活力をもらってるんでしょうね」
――うん……、アンデットの王に活力をもらう。僕はいま凄く変な事を言ったような気もするけども、もうこの古都でそんな事を気にしてはいけない。
「嬉しい事を言ってくださる。しかし、活力をいただいてるのは私の方ですよ。彼等が頑張るから私も励めます」
はぁ~。感嘆ですよ。好感度、天井知らずだよこの統治者。
活力いただいてるってところで、ドレインタッチですか? って、変な突っ込みが思い浮かんだけども、口には出さない。
不死王さんは笑ってくれるだろうけど、横で椅子に座ってる大公様にしばかれるだろうから。
この統治者の元、難攻不落の代名詞は復活したのかな。
しっかし、一日で西門をここまで強化させるなんて、本当に整備局にスカウトしたいよ。
――城壁下では、子供が不死王さんに尊敬の眼差しを向けてるし、笑顔でそれに答える不死王さん。
大人達に遮られて不死王さんの事が見れない子供のために骸骨兵さんが肩車してる。それに対して子供はまったく怖がってないし、アンデットとの生活が浸透してるんだね~。
「覚悟」
ほんわかした空気を切り裂くような、鋭く冷気を宿す声。
その声の源は、僕の右後方からだった――――。
人通りは、街道へと続く西門へと続いている。僕たちがここを訪れた時に通った門だね。
「おお、見つけましたぞ! ホテルにお迎えに行ったら、先ほどチェックアウトしたと聞きまして、追いかけてきました」
――――…………。
「「ぎゃあぁぁぁぁあああぁぁ!!」」
整備長と抱き合っていきなりの来訪者に絹を裂いたような悲鳴を上げてしまった。
朝でこれだ、これは夜は絶対無理だ。そら整備長、怖くなって戻ってくるよ。
住んでる方々は免疫あるだろうけど、一日ちょっとの僕たちでは対処出来ない。
幽霊兵さん……。石畳からゆっくりと僕たちの目の前に現れてきたら、卒倒してしまいますよ!
あっという間に、膝がガックガクだよ。
城で目撃した時は、移動している姿で、そこまで驚かなかったけども、不意打ちで、且つ、僕たちに対してのアクションとなると、やっぱり怖い。
「どうされました!?」
貴男が原因だから、あんまり近づかないでください。とりあえず動悸が収まるまで待っていただきたい。
無自覚だったけど、防衛本能から来たのだろう、掌をすっと、幽霊兵さんに向けて動きを制していた。
――二人揃って深呼吸をしてから、
「なんでしょうか」
待っていただいた幽霊兵さんに答えを求める僕。
不死王さんの命で、僕たちを迎えに来たそうで、別れの挨拶の為に西門で待ってくださってるそうで、そちらまで案内してくれるとの事だ。
うん……、普通に人間の兵隊さんを使わして欲しかった……。
「しかし、ちまたにアンデットの兵が朝からいるのは普段はないんでしょ?」
未だ収拾出来ていないのか、落ち着こうとして一服したいようだが、中々に葉煙草に火を付けられない整備長が質問。
配慮として、朝から夕までは、古都を訪れた旅人を驚かさないためにも、人間の兵が、警邏、歩哨をおこない、アンデットさん達は夜を担当。
人と違って、眠らないからってのもあるみたいだけど、正直、夜の部で頑張られる方が困る。
訪れた人々には恐怖倍増だ。
強制的な、市街サイズの幽霊屋敷だもの。
「今回は、不死王様が城より城下に出ておりますので、必然的に警備も厳しくなります」
幽霊兵さんが返答。
そりゃそうなんだろうけど、事前にそういうのは伝達するべきだと思う。
それとも、怖がってるのは僕たちだけなのかな~、アンデットの兵隊さん見て怖がってるの――――。
「おわぁぁおっふぃ!」
ああ……、よかった。誰かの悲鳴が耳朶に届いてきた。僕たちだけじゃなかったようだ。
「おお、ブートガイ殿。ウィザースプーン殿。お待ちしておりました。いや~今日も心が清らかになるほどの好天ですな!」
どうにかやって、アンデットから人間になる方法ないんですかね? 完全にアンデットの王として失格な考えと発言なんですけど……。
「わざわざ、すみません。我々のために御身、自ら見送ってくださるとは」
ホテルを出た時の猫背無気力スタイルは何処へ行ったのか。恭しくきっちりとした一礼。
不死王さんの横に大公様いるからね。仕方ないね。
「挨拶なら、こちらから出向きましたのに」
「いやいや、見てください。昨日、訪れた時とは違うでしょう」
城壁を見てくれといわんばかりに両腕を大きく広げてくる。
――なんで、一日でこんなにも変貌を遂げてるの!?
これが疲れを知らないアンデット脅威の建築力とでもいうのだろうか。これは是非に整備局で勤務してもらいたいところ。
昨日までなかった張り出し櫓や、タレットが城壁に増築されている。どれだけの人足が動いても、一日で作れるレベルじゃないよね。
出来れば、人足を雇って、お金を回す方法をとって欲しかったけども。こんなこと、一日で出来るなら雇い人は不必要か……。
堀周りには簡易的でも木材を使った頑丈そうな欄干も出来てるし、堀の中では案の通りに、警戒色丸出しな、鮮やかな黄色と黒のまだら模様からなるでっかい蛙が泳いでる。
子供たちが手を振ると、水面に上がってきて、水かきのついた前足を振って応えるハートウォーミングさ。
どれだけ愛されてるの、アンデットの皆さん。
賑やかなのは、祭りが原因ではない。
間違いなく不死王さんがここにいるからだ。それを一目見ようとしての賑わいでしょ。
そのせいで店が閑古鳥になってしまっているようだが、商魂たくましい商人さんが、立売人携帯容器を抱えて食べ物を売って歩いている。
「いや~頑張りました」
統治者自ら頑張ったんかい!
「全くですな。腰が痛いです」
「それはいけない。誰か大公殿に椅子を持て」
「歳はとりたくないもので」
大公様まで参加したのかよ! 働くの本当に好きだな。トップがこれだから、ここに住まう人々は仕事に情熱そそぐよ。
ボーイさんしかり、料理人さんしかり、眼下の商人さんしかり。
見習え、整備長! 本当に!!
ついつい冷ややかな視線を送ってしまった。
「これを見ていただきたかったんですよ」
「素晴らしいですね。住人の方にも配慮をした作り。そして、ここに集まる人々。不死王さんが愛されているのがよく分かります。その姿に皆さん活力をもらってるんでしょうね」
――うん……、アンデットの王に活力をもらう。僕はいま凄く変な事を言ったような気もするけども、もうこの古都でそんな事を気にしてはいけない。
「嬉しい事を言ってくださる。しかし、活力をいただいてるのは私の方ですよ。彼等が頑張るから私も励めます」
はぁ~。感嘆ですよ。好感度、天井知らずだよこの統治者。
活力いただいてるってところで、ドレインタッチですか? って、変な突っ込みが思い浮かんだけども、口には出さない。
不死王さんは笑ってくれるだろうけど、横で椅子に座ってる大公様にしばかれるだろうから。
この統治者の元、難攻不落の代名詞は復活したのかな。
しっかし、一日で西門をここまで強化させるなんて、本当に整備局にスカウトしたいよ。
――城壁下では、子供が不死王さんに尊敬の眼差しを向けてるし、笑顔でそれに答える不死王さん。
大人達に遮られて不死王さんの事が見れない子供のために骸骨兵さんが肩車してる。それに対して子供はまったく怖がってないし、アンデットとの生活が浸透してるんだね~。
「覚悟」
ほんわかした空気を切り裂くような、鋭く冷気を宿す声。
その声の源は、僕の右後方からだった――――。
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