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出張

PHASE-05

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 ――――――――。
 
 アイスティーを二口ほど飲んだところで、お二人の頭部が所定の位置に収まると、
「何をするんですか! ガルエロン様」
 諸手を大きく広げて、なぜに殴られなければいけなかったのかをアピールしてくるワイトのホーリー・ライムライト氏。

「なぜ気がつかないのだ。そんな事をしたら……そんな……」
 肩を震わせ右手で両目を覆い、言葉を詰まらせる、殴った氏。

「そんな事してしまっては、市街にて笑顔で暮らす民が苦しみ、生活が立ちゆかなくなるであろうが! 私は彼等が苦しむくらいなら自ら消滅する事を選択する。ホーリーよ……民あっての国家ぞ、民が励むからこそ、国は都市は繁栄するのだ。それをないがしろにする事は、国を腐らせ死に向かわせるのだ」
 と、慈愛なる名君丸出しなことを、腐らせるだの、死だの、――の、単語を織り交ぜながら、アンデットの長が言っております。
 拝金主義の一部の貴族たちに聞かせてあげたい、ありがたいお言葉であります。

「私はなんと言う事を……勇者に固執するあまり、最も大切な事である、民を愛する事を、不退転の決意と定め、心に刻んだ事を一瞬でも忘れ、この様な愚策を口にしてしまうとは……」
 崩れ落ちる姿を目にして、そのまま体が崩れ落ちないか心配してしまう。
 
 君臣ともに喋々と台詞を口から出すのは、民を最優先なものだから、古都に住まう方々は幸せだろうなと思いますよ実際。
 すっごく違和感のあるお二方からの発言だから、突っ込みを入れたいってのが本音だけどね。

「よいのだ、分かってくれれば。過ちを犯せば責任者である私が責任を取る。間違いを起こしても共にそれを改善していけば良いのだ。民のために」

「我が主!」

「ホーリー」
 はっしと抱き合う二人。なんかワイトさんから軋む音がしているけども気にしてられない。
 
 それ以上にあっつ苦しいやり取りからなる、体温の通っていない方々出演の熱血劇場を、僕と整備長は見せられているのだから。

 熱血末期だな~。
 と、思ったのは、僕たち整備局員二名を除いて、応接室にいるそのほかの方々がそれを見て大号泣。
 大公様や幹部の吸血鬼ヴァンパイアさんなどの方々が二人に駆け寄り、抱き合い、感動の輪を作り出していること。

 
 ――――まったく……、話が進みゃしない……。
 役所の設置の言質もとれた事だし、後は好きにやってくれれば良いんじゃないんでしょうか。
 
 僕と整備長、目が合うと、アイコンタクトで同じ意見だという事を理解したので、同時に頷いて、沈んでいた体をソファから開放するように立ち上がり、

「では、大団円ということで我々は……」
 輪になっているアンデットと人間一人に整備長が、おいとまの挨拶をして、そそくさと執務室に続く扉に二人で足を運び、ドアノブに手を伸ばしたところで、

「待っていただきたい」
 ドアノブに指先が届いたところで、不死王さんの言葉のバックアタックが僕たちの動きを止めた。
 面倒だな~。そう思いつつも気怠く体を180度転回。

「話は終わっていません」
 くすんだエメラルドの瞳から流れる涙を拇指で拭き取りつつ笑顔で伝えてきた。死の宣告を受けたような気分だ……。
 
 勝手にやってもらいたいので、やんわりとお断りを口にした途端に、

「まだ、終わっていないと言っているだろう!」
 大音声の怒号。お腹の中まで響き渡る衝撃。
 
 はは……、流石は整備長だ。大公様のモノクルの奥から覗かせる猛禽のような眼力の前に、瞬間移動でもしたのかと思えるほどのフットワークで、先ほどまで腰を落としていたソファに着席している。
 
 しぶしぶと僕も腰を下ろすけども……、
 
 なんだろうね、この体温が残った所に触れた時の変な感じ、自分の体温で温まったソファではあるんだけども、この座りの悪さったら経験した人なら分かるはず。

「何か妙案はありますか?」
 僕たちはあなた方の軍師とかじゃないので、そんなもの袖振っても出ません。と、不死王さんに返したもんなら大公様が怒りそうなので、

「城壁を強固にするとか……」
 まったく自信なんて持ち合わせてないので小声で対応。

「なんだその当たり障りのない普通の答えは、そんなもの誰でも思いつくし、実行している」
 と、モノクルをくいっと上げながら一刀両断。
 
 だって、それしかない思いつかないですから。僕は整備局員であって、戦略アドバイザーとかじゃないので、毒を川に流すっていう頭の悪い発想より、よっぽど健全だと思いますがね。
 
 城壁を強固にする作業に日雇いでも雇ってやれば、その人達が古都にお金も落としてくれて、微々たるものであったとしても市街の経済も潤うでしょうよ。

「なにかこう、攻撃的であって、それでいて堅牢で、住民に害が及ばないものとか」
 不死王さん……、かなりの無茶ぶりを言ってきたよ。そんなもんを僕たちがどうこう出来る知恵を授ける事が出来るんなら、そっちの道でおまんま食べていきますよ!

 
 ――――どうしようか。
 何かしらの案が聴けると、期待に満ちたくすんだ瞳で、多方向から突き刺してくる。
 その中の一つだけが高圧的で、この人を何とかしないと、僕たちは今日ここから出られそうもない気がする……。
 
 なにかないんですか? 各方面から向けられる視線を避けるように隣の整備長に顔を向けて目で語りかけてみる。
 
 こっち見んな! とばかりに僕に睨みを利かせてくるけど、貴男なんかが相手にならないくらいの睨みが、右斜め前から来ているので何とも思いませんよ。
 
 揺らぐ事なく僕は整備長に目を向け続ける――――。
 根負けしたのか、整備長は右手で小さく挙手を行うと、

「あのですね。我々ここに来るまでに――――」
 ――――歩いて見てきた光景を語り始める。
 
 街の人々が笑顔で祭りを楽しみ。商人たちも懐が潤い、更に励んでこの古都に貢献しようと商魂を見せていた事。
 豊かな暮らしをおくれている現状に感謝する人々。
 
 そして、将来は不死王さんの元で働きたいと屈託のない笑顔で夢を語る子供たち。
 
 それを目にしているだけで、この古都は地の利と、人の和が整った素晴らしいものだと説明。

「――なので、現状でも大丈夫かと……」

「たわけ! 地の利と人の和が揃っていてもこの地が落ちたのはお前達も理解しているであろう」
 流石にその時、陥落させてしまった御方の言葉は説得力がある。
 
 正直、今現在の生き生きしとして、政務に励む姿勢から考えると、わざと陥落させたんじゃないだろうか? という疑いを抱いてしまうんだけどね……。
 そんなことはないんだろうけどさ。なんかね……。疑うんですよ。

「やはり、ここは私が取り仕切らせてもらいましょう」
 本当……、生き生きしてる。
 最初からそうすりゃいいでしょうが……。
 力強く立ち上がり、やってやろうぞ! と、ばかりに拳を高らかに掲げる大公様。
 
 ――そんな大公様の裾を引っ張る不死王さん。
 
 ――――――……。
 
 先ほど以上の大号泣である。
 この地に流れる名水と互するくらいの清らかな涙をアンデットの王が流しとります!
 その涙で自らが浄化されてしまうのでは? そう思うくらい清い涙。

「う、くぅ……こ、子供たちが将来。わらひのために」
 漢泣きここに極まる。子供たちが大きくなった時の夢の話を耳にした途端にその嬉しさから諸手で顔を塞いで泣いてます。

「生まれてきて、これほど嬉しい事はない! うおぉぉぉおぉお――――生まれてぎてよがっだ」
 しゃくりあげる不死王さんの生まれてきてよかった発言に、首を傾げてしまうところが、僕の心の歪んだ所かもしれない。
 
 純粋に共感するのなら、周囲の幹部の方々と同じように〝いい話です〟と、追随して号泣するのが正解なのかもしれない。
 
 ――でも、このアンデット達による熱血劇場にはついていけないのも事実で真実……。
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