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驕った創造主

PHASE-1663【見させてあげませう】

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「とりあえず道なりに進みましょうか。舞姫」

「動かなければなにも始まらないしな」
 二人して歩く。
 護衛という体もあるのでベルを先導する。
 ヒールの高い履き物が生み出すカツカツ音と、装飾品からの小気味の良い音。
 歩く度に音が生じる事がやはり不満なようだ。
 
 壁には一定の間隔でニッチ部分に灯りが設置されている。
 一本道を照らす白色の灯り。
 
 この明るさ――、

「隠れる事は出来ないな」

「そのようだ」
 語りながら歩く先では――二人の私兵がドア前に立つ。

「何処に行かれる」
 そこそこ離れた位置からの問いかけ。

「舞姫が人の少ない所で休息したいということでして」

「「おお!」」
 スッと横にずれ、俺の真後ろに立っていたベルの姿が眼界に入れば、私兵二人の声音は明るいものとなる。

「通っても宜しいでしょうか?」
 おっふ……。
 なんて艶っぽい言い様。
 俺にもそんな語調を使ってほしい。
 艶のある声で言われれば当然とばかりに、

「お通りください!」
 容易かった。
 通る時には、舞の話を先ほど聞きました! 次は自分たちにも拝見させてください! と、熱を込めて言ってくる。
 ムアー達はこの廊下を使用していないのに、ここの立哨にベルの踊りが知れ渡っている。
 となれば、通用口側から出た連中によって話題が広がっているってことだろうから、このドアの先は通用口側と繋がっていると考えていいようだな。
 
 どうぞ! と、ドアを開いてくれる私兵に会釈をするベルに二人は完全に魅了され、俺には嫉妬の睨み。
 舞姫の護衛という立場が非常に羨ましいようだ。
 ふふん♪ 得意げに口角を上げて返してあげました。

「休憩室みたいだな」
 開かれた先は十畳ほどのソファとテーブルが置いてあるだけの簡素な部屋。
 簡素ではあるけども置かれている物の質は高い。
 見渡せば俺たちはが入室してきたドアとはまた別のドアがある。
 入ってきたドアから見て対角線上に位置したもの。
 会場と廊下を頭の中で俯瞰して見る。
 
 大型の箱が運ばれてきた通用口の位置からすれば――、

「間違いないな」
 俺が口に出す前にベルも理解。

「進みますか舞姫」

「もちろんだ」
 ただこの先を考えると、

「ドアの先にはまた立哨がいるかもな」

「だろうな」
 人の少ない場所で休憩をとりたいという言い訳が通用しないな。
 いま正に俺たちがいる場が休憩に適している。
 この部屋でおくつろぎくださいで会話が終わってしまう。

「いる場合はテイクダウンを狙う?」

「しばらく眠ってもらうのもいいだろう。痛みを与える事なく実行したいな」

「気絶させれば目覚めた時に攻撃を受けたという考えになるかもしれないからな」
 ここは、

「常に持っているんだな」

「そりゃ持ってるよ」
 火龍装備。ゴロ太のナイフや銃はジージーに預けているけど、プレイギアの入ったポーチだけは絶対に他人には預けられない。
 
 ポーチから出して前方にあるソファへと構える。

「麻酔銃」
 発せば小さな輝きが一つ。

「出た出た」
 ゲッコーさん達が使用するのが一丁出現。
 サプレッサー付きのグロック17を改造して麻酔銃としているゲーム設定だからこそ許される魔改造銃。

 使い方は理解している。

 後は――、

「こいつで相手を手早く眠らせるだけだ。これなら背後から撃てば攻撃を受けたと思う前にちゃちゃっと眠るってもんだ」

「問題は二人いると想定される」
 常にツーマンセル行動だもんな。
 入ってきたドア側同様、向こう側にも二人いると考えるのが妥当。
 
 ここは――、

「ベルの活躍に期待したい」
 言えば悟ったようで凄く嫌な顔をされる。

「俺だって嫌なんだからな。ベルにそんな事をさせるなんて! 俺がしてほしいくらいなのに」

「――ほう」

「あっ!」
 さらっと願望が出てしまった。

「まったくお前は……。配慮が出来るところもあるかと思えば、軽々しい思考にもなる」
 纏った羽織り物を見せつつ言ってくる。

「そこは男なんで……」
 溜め息で返される。
 でも蹴りは飛んでこなかったので良かったとしよう。
 ベルも現在の服装に慣れてきたのか、エロい恰好だけど腰に手を当てて堂々と立っておられる。
 羽織り物の間からわずかに見える踊り子の服ってのもエロいね。
 たまらんですわ!

「熱心に見てないで流れを話し合うべきじゃないか」

「もちろんです」
 何をしてほしいかを理解してくれているベル。
 ――舞姫を理由として立哨を室内へと招き入れ、背後から俺が麻酔銃を撃つ。
 これを二回繰り返す簡単な作業。
 いける!
 ベルが色仕掛けをすれば誰だって従う。
 余裕ですわ!

「背中の装飾品がズレたから手伝ってほしいとか言えば飛んで来ると思う」

「ではそれで」
 一番いいのはドアの向こうに立哨がいないことなんだけども――内側からノックを二回。

「何事か?」
 当然のようにドア向こうから返事。警備が行き届いていて面倒くさい事この上ないね。

 心中で舌打ちをしつつ、

「舞姫が困っていまして」
 ――ややあってから稼働するドアノブ。

「なんだ冒険者?」
 問いつつも立哨の一人が目を向けるのはソファに座るベル。

「装飾品がズレたのでそれを戻すのを手伝ってほしいとの事でして」

「異な事を言う。それならお前がやってやればいいだろう」
 なんて言う割には足が室内に一歩入り込んでいるじゃないですか。
 でもまあ、当たり前の返し。

 ――うむ。言いたくはないが、

「分かっていないですね」
 と、耳打ち。

「な、なんだ」

「舞姫は先ほどまで情熱的な踊りをしていたのですよ。当然ながら見ている者だけでなく舞を披露した側も興奮状態になるわけです。ここまでの話、理解してます?」
 問えばゴクリと喉を鳴らしながら、

「り、理解している」
 強い首肯と共に、さっきよりも足が室内へと進入。
 側にいるもう一人の立哨も普段なら真面目に任務を果たすんだろうが、それどころではないようで、俺たちの会話に混ざりたそうに耳を向けてくる。
 ベルには悪いが話を盛ろう。

 俺だって本当はそんな設定は嫌だけども、

「踊り子でありシステトル様の情婦でもある舞姫。ですがシステトル様は齢七十を超えておられます。当然ながら臥所での営みってのがね~。ここまでの事――理解してます」

「もちろん!」
 荒れ狂う鼻息にて返答。
 しんぼうたまらんとばかりに半身が室内へと入り込み、それをもう一人が止める。

 持ち場を離れるな! といったものではなく、

「俺が手伝う!」
 とのこと。

「駄目だ! この冒険者は俺に頼んだんだ。なあ!」
 血走った目で見てくる。
 袖の下は通さないという気概を見せる連中のようだが、色香には太刀打ち出来ないようだ。
 俺氏、ちょっとうつむいてしまう。
 悪い笑みを浮かべたくはないが、どうしても表情筋が俺の意に反して口角を上げてしまう。

 この者達に極上の夢を見させてあげませう。
 傾国クラスの美女であるベルではなく――男であるこの俺が! 見させてあげませう。
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