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驕った創造主

PHASE-1659【鶏と蛇の尾】

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 とにかく名前だけでも覚えてもらいたいと躍起になっているおっさん連中は、アプールのおっさんを掻い潜り必死に言い寄ってくる。
 対するベルは普段の凛とした顔ではなく、フェイスベールの奥からわずかに浮かべた微笑みで対応。
 
 向けられた面々はそれだけで惚けてしまう。
 
 困った事があったなら、是非とも頼ってほしいという連中ばかりになってしまう。
 凄いぞベル。まるでデミタスが使用していたフル・ギルってチャーム系大魔法を素の状態で使用しているみたいじゃないか。
 
 これは老公、アプールのおっさんだけでなく、ここにいる連中を皆、協力者に出来そうだな。
 俺としては不本意であり嬉しくはないが、ベルにはもう少し連中に笑顔を向けていてもらおう。
 
 ただ――、

「どうぞ舞姫」
 ササッと羽織り物を肩へとかける。
 やはり恥ずかしさが強いようで、羽織り物で体全体を素早く覆い隠していた。

「ありがとう」

「あ、はい」
 金持ち連中に見せた微笑みとは違う微笑みをもらえた。
 心の底からってのが伝わってくる柔らかなものだった。

「やるじゃん。そういうので良いんだよ。そういうので。ちょっとした気配りをさりげなく出来るのが大事だよ」
 雑嚢の中にいるミルモンからもお褒めのお言葉をいただく。
 金持ち連中は、隠された事が原因の不満顔による睨みを俺に向けてくるが気にしない。
 先ほどおっさん達の贅肉たっぷり大海嘯に対応した俺の膂力ってのを理解しているからか、睨みはしてもしっかりと俺に焦点を当ててこないあたり、結構ヘタレな面々のようでもある。

「お待たせ致しました!」
 ここで声高な声が再び。
 再登場のムアーと私兵の面々。
 ルーフェンスさんは俺の背後へと下がって待機。
 私兵に加えてムアーと同じ白衣をきた連中もいる。

「でかいな」
 ムアー達と一緒に搬入口からこの会場内に入ってくるのは、大型の箱が乗った四輪の荷車。
 それを三十人ほどで懸命に引いてくる。

「あの箱は――」
 エマエスと最初に訪れた時、俺たちが門を潜った後、後方からやって来た馬車に詰まれていたのと同サイズのもの。
 運び終えれば、フゥフゥ肩で息をするのは白衣の面々。
 私兵の連中は流石と言うべきか呼吸は整っている――ものの、やはり重かったようで、兜を取って額から流れる汗を拭っていた。
 超重量級の木箱。
 ちょっとした小屋のような大きさ。

「箱の中身はなんでしょね?」
 大型の荷車を止めれば、運んできた白衣連中が直ぐさま距離を取るあたり、中身が危険なモノだというのが容易に想像できる。
 
 冒険者いらずの移動や運送が可能になるというのが商品の売りのようだから、箱の中身は間違いなく生物。
 
 問題はないだろうけども、

「老公、下がってください。アップも」

「分かりました」

「私は別に構わないが」

「今は踊りが素敵なか弱き舞姫でいいじゃない」

「どこからか弱きという設定がきたのか。まあ、ここは任せよう」
 か弱い姫という設定が俺のテンションを高めるからね。
 二人の前に立つ。
 ルーフェンスさんは面が割れないように後方にて二人――おもにハプニングが発生した場合、老公を背負って後退するという役をお願いする。
 
 まあ、

「こんな場所でお披露目する以上、いらぬ心配ではあるだろうけども」
 護衛対象の前で身構えつつ箱を凝視すれば、そこに近づくムアー。

「我らが生み出した皆様への安心安全の象徴。是非にその目に焼き付けていただきたい!」
 痩躯を大の字にしてからの大音声に合わせて、先ほどまでベルの踊りを盛り上げるために奏でていた楽団によるドラムロール。
 ドラムロールに合わせて荷車近くに待機していた私兵――代表してソドンバアムが荷車へと上がり、箱の留め具を一つ一つ外していく――。
 
 全てを外したところでムアーへと首肯で返せば、

「出て来るがいい!」
 声に従うように、箱がゆっくりと開いていく。
 せせこましいところに押し込められていたようだけども、それでも文句の鳴き声も上げることなく、三叉槍を思わせるあしゆびがのそりと一歩前へ。

「「「「おお……」」」」
 会場の響めきに合わせるように、箱の中で縮こめていた体を外へと出して伸び伸びと反らす仕草。
 全体が箱から出れば、長い尾の先端がビシャャャャャン! と、床を叩く。
 落雷を思わせる迫力ある音だった。

「なんともでっけえ鶏だ」
 立派な鶏冠があるから間違いなく雄鶏だな。
 が、床を叩いた尾は鶏のそれとは違う。
 丸太を思わせる太くて長い尾は、灰色と黒のまだら模様。
 蛇腹状――というより、蛇そのものの尾。
 雄鶏の尾羽の代わりに、大蛇の尾がくっついていた。

「なんだ? 尾長鶏のファンタジー亜種か?」

「あれは本物!?」
 目深に被った兜をぐいっと上げてから目を見開くルーフェンスさん。
 リレントレス・アウルというデカい梟に乗っているからか、鳥類の知識には長けているのかな?

「あれはなんて生物でしょうか?」

「自分の見間違いでなければ、あれはバジリスクでしょう」

「確かに。本に資料としてえがかれているのと酷似している」
 老公も知っているようで、箱から現れた大きな雄鶏に興奮気味。
 資料に載る程度で生身の存在を目にすることが出来ないあたり、希少なのかな?
 
 バジリスクっていえば、RPGでもおなじみのモンスターではある。
 中々に面倒くさいモンスターって印象だな。
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