上 下
1,651 / 1,668
驕った創造主

PHASE-1651【虎の威を借る狐ではないよ】

しおりを挟む
 ――だが人間、何かを得れば別の欲も芽生えるというもの。
 TANIMAによる眼福の次には踊っている姿も目にしたい。
 一つ踊ってくれないか。と、言ってもいいのだろうが――ここはやめとこう。
 というか、蹴りや踏みつけなんかの追撃がこなかったのって、高価な衣装の支払いをさせることに申し訳ない気持ちがあったからだろうな。
 その後ろめたさを利用して踊る事をお願いすればベルは踊るだろう。
 確実に俺に対する好感度は下がってしまうけど。
 それに、踊る姿を目にすれば間違いなくエロい顔になる。
 そうなれば後ろめたさを振り払った手心無しの制裁が見舞われるだろうから、やはりここは我慢だ。

「俺を簡単に魅了するんだから、製造所でも上手くいくってもんだ」

「あ、ああ……」

「恥ずかしがらずに派手に踊ってくれよ。俺だってマッチポンプ剣舞を散々にやらされてきてんだからな」

「そうだな。少しはトールの気持ちも理解しないといけないな」

「だからといってあまり過激な踊りはしないように!」
 俺以外の男達が情欲に染まった目でベルを見続けるなんて我慢ならないですからね!

「努力しよう」

「しつこくなるけど、本当に踊れるのか?」

「少しは習っている」
 接待もそうだったし、踊りも出来る。
 軍人としていろんなことを習ってんだな。特に美人様ともなれば、籠絡の技巧も教わって当然なんだろう。

「だよな~……」

「なんで急に寂しそうになる」
 まあ、俺の知らないベルを知ってしまったというところで寂しさを覚えてしまったのは事実。

「とにかく、明日は気を引き締めてかかる。護衛の任、よろしく頼む」

「了解」
 俺の知らないベルならば、俺だけが知るベル! と、誇れるような関係性を築き上げられるように励んでいこう!

「よっしゃ!」

「なんで急に快活になる。情緒が不安定すぎるぞ……。明日はそんな不安定さは出さないでもらいたいな」

「任せとけ!」
 力強く答えて部屋を出る。
 出たところで、

「兄ちゃん」

「どうしたミルモン」
 パタパタと羽を動かして俺の後をついてくる。
 さっきは席を外していたようだけども、

「もう少し姉ちゃんに対してグイグイといかないといけないと思うよ」

「ぬぅ……」

「せっかく部屋にお呼ばれされて、あんな恰好を見せてきたんだから、気の利く言葉を連投して好感度を高めないとね」
 視線を俺に合わせて飛行するミルモンの目は半眼。
 駄目な男を見る目であった……。

「兄ちゃんは大事なところでヘタレになっちゃうね~」

「い、言い返せねえ……」

「奥手なのもいいけど、攻めるところで攻めないと、他から取られちゃうよ」

「あ、はい」

「頭は悪いし実力もカッスカスだったブリオレってのがいたけど、グイグイと自分に引き寄せようとする勘違いからくる自信ってのは、時として成功にも繋がる事があるからね。その事は頭に入れておいた方が良いよ」

「あ、はい……」
 そう言って、ミルモンは部屋へと戻っていきました……。

「本当……なんも言い返せねえ……」
 独白しながらトボトボとした足取りで自室へと戻る俺なのでした……。
 
 ――。

「本日はよろしくお願い致します」

「はいっ!」
 翌日の夕暮れ前、老公とラウンジで待ち合わせ。
 で、しっかりと円形金貨を三十枚支払い、俺の巾着袋は一気にしぼみました……。

 支払いを済ませ、俺とルーフェンスさんが老公と対面してこれからの事を話し合っているところで、

「待たせた」

「おう」

「どうした?」

「いや、似合っているよ」

「そうか。ありがとう」
 と、ラウンジに現れるのは藍色のワンピースを着たベル。
 踊り子の衣装とは別に、踊り子の普段着として老公が一緒に用意してくれたという。
 ワンピースは老公からのご厚意による頂き物とのこと。
 有り難い。
 
「美しい。地上へふらりと舞い降り、人々を魅了する天の使いかと勘違いしてしまいました」
 と、老公が発せば、ベルは些か恥ずかしがる。
 似合っているとしか言えない語彙力が乏しい俺とは違う。
 俺の発言では見せなかったリアクション。
 この差よ……。
 クサい台詞のようでもサラッと言えれば格好良く聞こえる。
 昨晩ミルモンが言いたかった事がまさにコレなんだな。

「それではお三方――ではやく四名様、参りましょうか」
 俺が腰につけた雑嚢からひょっこりと頭を出すミルモンに気づいた老公が訂正。

「よろしくお願いします」
 代表して俺が頭を下げ、老公と共に宿から出る。
 振り向けば、後に合流する面々が見送ってくれる。
 いよいよだな。

「ではお乗りください」
 老公が馬車への乗車を勧めてくる、

「アップとミルモンが乗るといい」
 冒険者――老公の護衛を担当する俺たちが馬車の周りを守るように陣形を組まず乗車ってのもあれだからな。
 ――老公とベル。そして雑嚢から移動してベルの肩に乗るミルモンが乗車したのを確認してから、

「行きましょう」
 御者へと伝えると小さな頷きから手綱を振る。
 よく調教された四頭立ての馬たちが脚を揃えて進み出す。
 ゆったりとした常歩に合わせて俺とルーフェンスさんが馬車の左右に立って小走りで併走。

 ――赤煉瓦の防御壁へと到着すれば、

「おう、エマエスと一緒にいた新米さんじゃねえか」
 と、本日も長槍を手にして立つのは前回と一緒の門番の人。

「懲りずにまた来たのか」
 と、これまた前回同様、素っ気ないのも一緒にいる。

「今回はどんな用件かな?」
 エマエスと仲の良かった方から問われるので護衛の任に就いていると説明すると、もう一人からは小馬鹿な笑い。
 新米冒険者を雇うとは随分としわい雇い主だと言わんばかりの笑いだったけども、

「通してもらえるかな?」
 馬車の窓を開いて老公が顔を出せば、小馬鹿にした笑みが瞬時に凍りつき、門番二人は直立不動。

「通って良いのかな?」
 固まった二人に再度、老公が問えば、

「も、もちろんです!」
 小馬鹿にしていた方から聞いた事のない甲高い声による返事。
 緊張のあまり声が裏返っていた。

「では行きましょう」
 ふふん! と、鼻をならしつつ御者へと俺が伝え、さっきまで小馬鹿にしていた門番の方へとドヤ顔を見せてやる。
 見せられた方は、なんで装備も馴染んでいない新米をあれほどの御仁が雇っているのだろうか? といった怪訝と驚きの混ざった顔を向けてきた。
 
 ロイル領において豪商として名をはせている一族は伊達じゃないな。
 有り難くその威光を利用させてもらおう。
 一度目と違って、二度目は製造所内でかなり自由がききそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...