上 下
1,647 / 1,668
驕った創造主

PHASE-1647【あえて目立たせるそうな】

しおりを挟む
「どうでしょうかオルト殿?」

「俺なんかよりも人を見る目がある才女が賛同しているので、是非とも協力をしてもらえればと思っています」

「それは何より。では――」
 失礼して。と、俺たちが占拠しているソファに腰を下ろせば、

「まずはオルト殿たちが何を求めているのかを教えていただきたい」

「探し物をしています」

「探し物ですか?」

「はい」

「それを探すために監視の強いあの場に入り込みたいとお考えで?」

「その通りです」

「なるほど。問題なく協力できますね」

「本当ですか」

「もちろん」
 柔和な笑みで顔のシワが更に深くなる。
 前髪がやや寂しくなりつつある金髪の老人。
 出会って半日程度ではあるが、ミルモンの判定で信頼は出来る。
 探し物が何なのか? といった詮索をしてこない配慮もありがたい。

 ――だが相手は隠居したとはいえ商人。しかも豪商としてロイル領に名をはせているとなれば――、

「見返りは?」

「先ほども述べましたが、貴方方との関係性を強くしたいだけですよ」

「ただ者ではないと言ってはくれますが、確信があるから近づいて来たのでしょう?」
 審美眼だけでここまで協力を申し出てくれるなんてのは考えられないからな。
 
 問えば老公が目を向けるのは――ベル。

「傾国の美貌。そして艶やかな白髪と翠玉の瞳。王都の話は当然ながら言葉となって伝わってくるものです」

「なる――ほど」
 美姫と称される最強さんの噂は大陸に広がっているか。
 まあそうだよな。日和見を決め込んでいる連中を魔王軍との戦いに参加させるために、先生がいろんな事を言葉に乗せて大陸に広げているんだもんな。
 ベルの風貌だって広がってて当然か。
 美姫の傍らで共に戦おう! ってキャッチコピーで広めてたのかもしれない。
 その辺は全部、先生に丸投げだからな。

「別人という考えは?」
 と、ベル。

「貴女様のような美貌を持つ御方がそうそういるとは思えません。何よりオルト殿が、なる――ほど。と、肯定してしまいましたからね」

「ぬぅ……」
 言い返せねえよ。

「話を進めてもよろしいですかな?」
 柔和な笑みを崩す事はない。
 皆の意見をとばかりに目配せをすれば、そろって首肯が返ってくる。

「どうぞ」
 
「先ほどもそうでしたが、全体の意見を尊重するのは美徳ですな」
 商人に向いていると老公。

「で、爺さん。俺たちにどんな助力をしてくれるんだ?」
 ズイッと老公へと顔を近づけるガリオン。

「製造所の内部にて自由に動き回れるという権限はどうでしょう」
 現状、最高の提案をすっと提示してくれるね。

「大いに助かります!」

「そう言ってもらえて何よりです」

「それで、どうやって自由を得る事が出来るのです?」

「皆様には私の護衛を請け負った冒険者となっていただきます」
 ――豪商の護衛として随伴か。確かに動きやすそうだ。
 製造所の職員も老公には低頭スタイルだったからな。かなりの自由がききそうだ。

「なんの偶然か。それとも必然か。明日、貴方方が訪れたい場にて大々的な催し物があります」

「催し物?」
 ――老公が言うには大きな成果を得たということで、これまで協力をしてくれた方々には是非とも参加していただきたい。という書簡が送られてきたそうだ。
 内部の警戒が強まっているから何かしらのお披露目があるのかもな――と、ガリオンが推測したけど正解だったようだ。
 
 しかし、なんてご都合なタイミングなのだろう。
 老公が言うように、必然と思えてしまうよ。
 
 そして、その必然ってのはゴロ太と関係している可能性があるかもしれない。
 催し物――喋る子グマのお披露目ってことだろうか?
 でもそうなると、大きな成果を得たという部分には当てはまらない気がする。
 ゴロ太はメインイベントのための前座ってところだろうか?
 
「ご老公。その催し物はどういった内容なのでしょうか?」

「我々を驚かせたいようで、具体的な事は書簡には書かれていませんでした」

「そうですか。ですが製造所内で自由に動けるなら情報は得やすいですね」
 ベルの声に明るさが戻る。

「無論、自由と言っても限度はありますが」

「構いません。それでも前進していますので」

「しかし気を付けねばなりませんな。特に白髪の御方」

「何をでしょうか?」

「貴女の風貌は耳にした事がある者ならば直ぐにでも気づく可能性があります。この私のように」

「では私は共に行動できぬ――と?」
 緊張が走る。
 ピシリ――と、ひび割れた音が幻聴となって聞こえてくる……。

「い、いえ。貴女は目立ちますゆえ……」
 ガリオンに気圧される事がなかった老公だが、ベルの場を凍らせるような圧には笑みを維持する事が出来ず、背を反らせてしまう。
 今の今まで感情を抑制していたからな。
 突破口が見えたところで足止めとなれば、ベルも不満が漏れ出すよな……。

「ならば目立たないようにすればいいのでは?」
 と、俺が提案を出せば、

「う、ううん……」
 腕組みする老公。
 どうやって目立たないようにすればいいのやら……。
 頭の中で悪戦苦闘といったところ。
 難しいよな。ベルを目立たないようにするってのは難しい。
 
 今は冒険者然とした装備だけども、だからといって美貌を隠しているというわけじゃない。
 かといってフード付きのローブで全身を覆い隠しても、それはそれで門を潜る時に怪しまれてしまう。

「おお! ならば!」
 天啓を得たとばかりに老公が柏手を一つ打てば、

「美しくて目立つのならば、あえて目立たせればいいだけのこと」
 と、老公は継ぐ。

 逆転の発想のようだが、

「それだと気づく人はすぐにでも気づくのでは?」

「ならば他に目を向けさせれば良いのですよ。オルト殿!」
 ――……うん。言っている意味が分からん。

「見る者すべてを魅了してやれば良いだけのことです」
 ますます言っていることが分からないんですよ――老公。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...