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驕った創造主
PHASE-1646【爺様と同じ目】
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大商人か。
ルーフェンスさんの畏まり方からして、
「かなりのお力をお持ちのようですね?」
「まさか。私は一介の商人ですよ。貴方様とは違います」
「ぬぅ……」
射抜いてくるような視線。
そして俺が貴族だというのを明らかに把握している。
「どこかでお目にかかりましたか?」
「いえ、先ほどの製造所が初めてでございます」
これは――レギラスロウ氏のような審美眼ってやつかな?
だとしても、
「俺の事を貴族と判断するのはどうかと思いますよ」
現在の身なりで俺を貴族と見る人間はまずいない。
いつもの装備であったとしても、大抵の奴等は疑いから入るしな。
抜けきることのないTHE・庶民な俺。
「爺さん。どういった腹積もりで話しかけてきたかは分からんが、良からぬ企てで近づいて来たとなれば、残り少ねえ寿命が一気に縮むことになるぜ」
「怖い事をおっしゃる。涙目で床を転がっていない姿でその発言をされていれば、私は卒倒し、この世から旅立っていたことでしょう」
「おう……言うんじゃねえか爺さん……」
ガリオンやつ言い負けてやんの。
とまあガリオンを言い負かすほどに弁が立ち、大男相手に怯むことなくソレを口に出す胆力。
気骨は本物。
額の皺の数と深さの分だけ俺たち以上の経験を積んできている。
「それで御大。我々にどういった御用で?」
ガリオンと違って落ち着きあるジージーからの問いかけに、
「もちろん関係性を持ちたいと思っております。目の前の少年とは特に」
「我らがリーダーを買ってくれているようで」
「もちろん。その若さでかなりの経験を積んでおられる。その経験に似つかわしくない装備は残念ですがね。経験に見合った装備ならばさぞ栄えることでしょう」
なんとも気持ちの良くなる言葉を述べてくれる。
相手の懐に入り込むのが上手いようだ。
上手いからこそ、内に隠す邪な心を疑ってしまうってもんだ。
――ミルモンを見る。
この爺さんの発言は信頼できるものかと目で伝えれば――、首肯が返ってきた。
つまりは邪な気持ちを持つ事なく、建設的な関係性を築きたいってことか。
――システトル・モル・ムートン。御年七十一。
成功を収め、手広く営む商売は子供達へと継がせ、自分は隠居生活を楽しみつつ趣味で売買をしているという。
隠居しても商魂が薄れるというのはないそうな。
「それで、関係性を深めるとしてどういった内容だ?」
立ち上がるガリオン。声は穏やかなもの。
「そちらの少年――」
「オルト・エーンスロープといいます」
「オルト殿のお手伝いをしたいと考えております」
「手伝い――ね。爺さん、本当に俺たちに対して害を為すって考えはねえんだな?」
「ありません。寄る年波で視力は衰えていますが、人を見る目だけは歳を重ねるごとに冴えたものになっております」
「言うじゃねえか爺さん。オルト、この爺さん利用する価値はあるぞ」
本人を前にして利用する価値とか言うんじゃねえよ。
当の本人はガリオンの発言に対しても柔和な表情を崩さない。
相手に心の奥を読み取らせない笑顔によるポーカーフェイスも長年の商売で培ってきたスキルだな。
それでもこちらにはミルモンがいる。
そんなミルモンがこの老公に警戒心を抱かないのだから信頼は出来る。
渡りに船と判断しよう。
「どのようなご助力を?」
「オルト殿たちは、製造所内で何かしらをしたいようですね」
――念を入れてミルモンを見る。
返ってくるのは問題ないという首肯。
「その通りです」
「ならば私はオルト殿たちの助けになれると思います」
ドワーフほど立派ではないが、白に染まった顎髭を得意げに指でしごきつつそう言ってくる。
「して――なにをお求めに? よもやスティミュラントをケース買いから変更し、馬車一杯に欲しいという内容ではないでしょう。もっと違うことでしょう」
継いでの発言に、
「なぜ言い切るんです?」
と、返す。
「貴方方のような存在にあのようなモノは必要ないでしょう。無論、心弱き仲間が他にいるのならば必要でしょうが、だからといってわざわざ製造所へと足を運んでまで手に入れるような代物ではありません。となれば、別の目的があるのでしょう? その部分で協力が出来ればと」
この爺さん。
笑顔で目を細めている時と、開いた時の目の眼力の差よ。
こちらを射抜いてくる鋭い眼光。
似たような目は見ている。
前王の弟であり、ミルド領の前公爵。俺に襲爵した爺様と同じ目だ。
間違いなく切れ者。
――皆を見る。特にベルを。
愛玩の前ではポンコツになってしまうけど、知力はこの面子の中では図抜けている。
「問題ないと思う」
短く返してくる。
「そちらの傾国殿に私は受け入れられたようですな。しかし残念。二十若ければ間違いなく口説き落とす事に執着したでしょう」
二十若くても五十のおっさんじゃねえか……。
発言からして若い頃はかなりの遊び人だったようだな。
「爺さんも若返りに感心があるようだな」
ここのラウンジに集まっている連中の中には、不老不死の薬ってのを欲しているのもいるようだし、それに出資しているといううわさがあるのもエマエスから聞いている。
老公の発言から若返りに興味があるとガリオンは推測。
「興味はありませんな。今の自分があるのは今までの経験によるもの。若返りなどすればその若さに有頂天となり、今までの経験を蔑ろにしてしまいそうですからな。それに私は今の自分が気に入っておりますので」
「ほぅ」
矜持ある返答にガリオンが感心の声を漏らす。
「私を信頼していただけますかな?」
「あ~どうだろうな。決定権はこのパーティーのリーダーに丸投げしてる」
なんだよ丸投げってよ。
散々、煽っておいてここで俺に丸投げかよ。
ルーフェンスさんの畏まり方からして、
「かなりのお力をお持ちのようですね?」
「まさか。私は一介の商人ですよ。貴方様とは違います」
「ぬぅ……」
射抜いてくるような視線。
そして俺が貴族だというのを明らかに把握している。
「どこかでお目にかかりましたか?」
「いえ、先ほどの製造所が初めてでございます」
これは――レギラスロウ氏のような審美眼ってやつかな?
だとしても、
「俺の事を貴族と判断するのはどうかと思いますよ」
現在の身なりで俺を貴族と見る人間はまずいない。
いつもの装備であったとしても、大抵の奴等は疑いから入るしな。
抜けきることのないTHE・庶民な俺。
「爺さん。どういった腹積もりで話しかけてきたかは分からんが、良からぬ企てで近づいて来たとなれば、残り少ねえ寿命が一気に縮むことになるぜ」
「怖い事をおっしゃる。涙目で床を転がっていない姿でその発言をされていれば、私は卒倒し、この世から旅立っていたことでしょう」
「おう……言うんじゃねえか爺さん……」
ガリオンやつ言い負けてやんの。
とまあガリオンを言い負かすほどに弁が立ち、大男相手に怯むことなくソレを口に出す胆力。
気骨は本物。
額の皺の数と深さの分だけ俺たち以上の経験を積んできている。
「それで御大。我々にどういった御用で?」
ガリオンと違って落ち着きあるジージーからの問いかけに、
「もちろん関係性を持ちたいと思っております。目の前の少年とは特に」
「我らがリーダーを買ってくれているようで」
「もちろん。その若さでかなりの経験を積んでおられる。その経験に似つかわしくない装備は残念ですがね。経験に見合った装備ならばさぞ栄えることでしょう」
なんとも気持ちの良くなる言葉を述べてくれる。
相手の懐に入り込むのが上手いようだ。
上手いからこそ、内に隠す邪な心を疑ってしまうってもんだ。
――ミルモンを見る。
この爺さんの発言は信頼できるものかと目で伝えれば――、首肯が返ってきた。
つまりは邪な気持ちを持つ事なく、建設的な関係性を築きたいってことか。
――システトル・モル・ムートン。御年七十一。
成功を収め、手広く営む商売は子供達へと継がせ、自分は隠居生活を楽しみつつ趣味で売買をしているという。
隠居しても商魂が薄れるというのはないそうな。
「それで、関係性を深めるとしてどういった内容だ?」
立ち上がるガリオン。声は穏やかなもの。
「そちらの少年――」
「オルト・エーンスロープといいます」
「オルト殿のお手伝いをしたいと考えております」
「手伝い――ね。爺さん、本当に俺たちに対して害を為すって考えはねえんだな?」
「ありません。寄る年波で視力は衰えていますが、人を見る目だけは歳を重ねるごとに冴えたものになっております」
「言うじゃねえか爺さん。オルト、この爺さん利用する価値はあるぞ」
本人を前にして利用する価値とか言うんじゃねえよ。
当の本人はガリオンの発言に対しても柔和な表情を崩さない。
相手に心の奥を読み取らせない笑顔によるポーカーフェイスも長年の商売で培ってきたスキルだな。
それでもこちらにはミルモンがいる。
そんなミルモンがこの老公に警戒心を抱かないのだから信頼は出来る。
渡りに船と判断しよう。
「どのようなご助力を?」
「オルト殿たちは、製造所内で何かしらをしたいようですね」
――念を入れてミルモンを見る。
返ってくるのは問題ないという首肯。
「その通りです」
「ならば私はオルト殿たちの助けになれると思います」
ドワーフほど立派ではないが、白に染まった顎髭を得意げに指でしごきつつそう言ってくる。
「して――なにをお求めに? よもやスティミュラントをケース買いから変更し、馬車一杯に欲しいという内容ではないでしょう。もっと違うことでしょう」
継いでの発言に、
「なぜ言い切るんです?」
と、返す。
「貴方方のような存在にあのようなモノは必要ないでしょう。無論、心弱き仲間が他にいるのならば必要でしょうが、だからといってわざわざ製造所へと足を運んでまで手に入れるような代物ではありません。となれば、別の目的があるのでしょう? その部分で協力が出来ればと」
この爺さん。
笑顔で目を細めている時と、開いた時の目の眼力の差よ。
こちらを射抜いてくる鋭い眼光。
似たような目は見ている。
前王の弟であり、ミルド領の前公爵。俺に襲爵した爺様と同じ目だ。
間違いなく切れ者。
――皆を見る。特にベルを。
愛玩の前ではポンコツになってしまうけど、知力はこの面子の中では図抜けている。
「問題ないと思う」
短く返してくる。
「そちらの傾国殿に私は受け入れられたようですな。しかし残念。二十若ければ間違いなく口説き落とす事に執着したでしょう」
二十若くても五十のおっさんじゃねえか……。
発言からして若い頃はかなりの遊び人だったようだな。
「爺さんも若返りに感心があるようだな」
ここのラウンジに集まっている連中の中には、不老不死の薬ってのを欲しているのもいるようだし、それに出資しているといううわさがあるのもエマエスから聞いている。
老公の発言から若返りに興味があるとガリオンは推測。
「興味はありませんな。今の自分があるのは今までの経験によるもの。若返りなどすればその若さに有頂天となり、今までの経験を蔑ろにしてしまいそうですからな。それに私は今の自分が気に入っておりますので」
「ほぅ」
矜持ある返答にガリオンが感心の声を漏らす。
「私を信頼していただけますかな?」
「あ~どうだろうな。決定権はこのパーティーのリーダーに丸投げしてる」
なんだよ丸投げってよ。
散々、煽っておいてここで俺に丸投げかよ。
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