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驕った創造主

PHASE-1642【新米冒険者】

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「そんじゃ行ってみますかね」
 クロワッサンを口に頬ばり、紅茶で流し込んで立ち上がる。

「怪しさを感じたら直ぐに撤退してくれ」

「了解だアップ」
 ゴロ太が製造所にいるのは分かっている。
 それでも己を律しているベルだが、心底では焦燥していることだろう。
 心労から解放してやるためには、ゴロ太の事を調べないとどうにもならない。
 だからといって焦ってしまえば、ゴロ太をこの地へと迎え入れた存在と共に逃走される可能性もある。
 
 最悪、ゲッコーさんかS級さんを喚ぶという選択も考えないといけないが、現状、南伐の準備と防衛を行う中で、大きな戦力である面子をこっちに割くのは下策。
 やはりここは自分たちだけで解決しないといけないかな。
 
 ――。

「ちょっと買い物いいですかね」

「はい」

「ここにも武具屋ってあります?」

「ありますよ」
 現状、ジージーに装備一式を守ってもらっている俺の服装は、宿屋で貸し出されている部屋着。
 お高い宿屋なだけあってシルクからなる上下だが、流石にこれで町中を歩き回るのは目立って仕方ない。
 宿屋の近くにも武具屋はあるという事なので、そこに立ち寄る。
 こんなことならレギラスロウ氏の所で俺の分も買っておけば良かったな。
 
 ――装備をちゃちゃっと揃える。
 俺がお高い宿屋の部屋着を着ていたからか、そこそこ値の張る装備を提供してきたな……。
 ここでも俺の円形金貨が五枚飛んでいった……。
 レザーアーマーは、鉄製のブレストプレートがリベットで打ち込まれた仕様。
 下半身も上に合わせてのレザー。
 佩楯部分は厚いレザーからなっていて、叩けば板を思わせる堅さ。
 これまたレザーからなるグローブとブーツ。
 軽装による冒険者然とした装備だが、普段の火龍装備は重さを感じないから軽装でも重く感じてしまう。
 左の腰にはベルトに差したロングソードが収まる革鞘。
 鉄製のバックラーを左前腕に固定。火龍の籠手代わりといったところ。
 量産品だけども作りは悪くない。メメッソもそうだけど、ここの職人もレベルが高い。
 ベルの装備を買った時もだったが、基本的な装備であっても高い。
 初期は王様から賜り、その後はワックさんによる火龍装備だから自分の装備に金を使うという事がなかった。
 こんなにも金がかかるとは思いもよらなかったよ。
 戦国武将は甲冑だけでも家が建てられるってなんかで見たことがあるから、それに比べるとリーズナブルな装備ではあるけど。
 
 でも庶民な俺からすればやはり高い……。
 
 新米冒険者が必死になって装備を揃えて、倹約のために馬小屋を宿屋として格安で借りる。
 そんな経験をしなかった俺は、今になって駆け出し冒険者たちの苦労が分かる。
 王都に戻ったら、赤貧の冒険者たちにもっと快適な馬小屋ライクを提供せねば。
 現状でもかなりの環境を与えているけども、さらによりよい環境を提供してあげたい。
 先生と要相談だな。
 
 ――。

「近くで見ると更に良い造りの防御壁ですよね」

「そうでしょう」
 得意げなエマエス。
 間者が進入した経験から厳重になり、それ以降そういった話もきかないという。
 だとしても、町の防御壁より高いうえに造りも上となれば、この町の統治者の面目は立たないだろうな。

「お疲れ様です」

「おお、エマエスじゃないか。どうした? メメッソに帰って休暇を取っているはずだろう」

「今回、案内役でここに来ました」
 防御壁の門の前に立つ兵士と会話を始めるエマエス。
 気さくに返してくるところからして、顔見知りのようである。

 堅牢そうな鉄門の前に立つ二人。
 その内の一人とエマエスが親しく会話を弾ませ、もう一人がこっちを凝視。
 凝視に対して軽く会釈をすれば、フッと鼻で嗤ってきやがりましたよ。

「新調したのがまる出しの冒険者君だな」
 と、今度は小馬鹿にした発言。
 だが言われても仕方ない。
 新品の装備だからな。レザー装備がまだ体に馴染んでいない。
 革特有の使えば使うほど馴染んでくるってのはまだまだ先だ。
 門番からしたら、駆け出し冒険者が背伸びした装備で、自分たちの前に立っているように見えたようだ。
 そら鼻で嗤うよな。

 そんな私兵の装備は俺の装備と似ている。
 違いは手にする装備がロングソードとバックラーではなく、三メートルを超える二間槍と腰に佩いたショートソード。
 防具は革と鉄の複合からなる兜と鎧。
 兜を目にした時、兜を買うのを忘れていたと反省。
 如何に火龍装備に甘えまくっているのかが分かるってもんだな。
 後で兜も買わないと。
 また金が溶けていく……。

「エマエス。お前と一緒にいる新米冒険者は大丈夫か? えらく落ち込んでいるようだが」

「どうしたんですか?」
 おっといかん。
 庶民精神であっても公爵だ。そんな立場の人間がしみったれた顔をしては駄目だな。
 これから高価なやり取りもするんだ。顔がケチくさくなっていたら交渉前に門前払いになってしまう。

「大丈夫ですかオルトさん」

「ええ問題ありません。気構えってのが足りてなかったです。これから大きな買い物をするというのに恥ずかしいところをお見せしました」

「大きな買い物ね~。新米のようだが装備からして羽振りはよさそうだな。どっかのボンボンが勘違いで冒険者になっちまったか? まあ、成功すればいいな」
 小馬鹿にしてきたもう一人の門番による棘のある激励。

「交渉が上手くいったなら一杯奢らせてくださいよ」
 返せば、

「いらねえよ。ここの兵は商会以外の連中とは関係性を持つなというのが鉄則だからな。それを守る事で安定して尚且ついい給金を貰えてんだ」
 それを失いたくないってくらいには稼ぎはいいようだな。
 袖の下を使っても効果が薄いのは理解した。
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