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驕った創造主

PHASE-1638【製造所というより要塞】

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 ――ほどなくして。

「アサードアズがもう見えてきました!」
 ツッカーヴァッテに乗っている間、常に興奮していたエマエスが食指を下へと向ける。
 この世界の町以上の規模でよく見る防御壁に囲まれた町。
 上空から眺める壁のデザインは、四角じゃなくて円形。

「発展してるな」
 中心都市であるメメッソに比べれば狭いが、防御壁の作りはしっかりとしている。
 
 ――特に、

「外周の防御壁より立派なのが、嫌が応にも目に入ってくる」
 現在の位置から見れば、南東方面に外周よりも高い円形防御壁で囲まれた場所がある。

「この地の代表者が住まう区画だったりするんですかね? それにしては整然と並ぶ建物だな」
 高い壁に囲まれているのは邸宅ではなく、集合住宅のような造り。

「あそこがクルーグ商会の製造所です」

「あれが――」
 製造所っていうか要塞だな。
 無関係の者は何人も通さないという強い意志が防御壁から伝わってくる。
 
 大きな収入源の一つとなったスティミュラント。
 エマエスの話では、その製造法を奪おうと、同業の間者が入り込んだことがあったそうで、それからというもの開発人が中心となって堅牢な防御壁を築き、昼夜問わず見張りを配置しているという。

「徹底してますね」

「今後はロイル領以外にも販売するつもりですからね。更に大きな富が商会に入ると予想される以上、上の方々も開発連中の言い分を聞き入れるわけです」
 その言い様。今では開発連中の方に発言力があるように聞こえる。
 大きな利益が見込めるとなれば、上役達も多少の我が儘を受け入れるしかないんだろうな。
 今のクルーグ商会は開発連中が力を持っているというのは、上空から見える異様な防御壁からも分かる。
 
 しかし、

「大規模な工事だったでしょう」

「ええ、大量のゴーレムを利用しての工事でしたらかね」

「そりゃ凄い。かなりの魔術師がいるようですね」
 そんなやり手がいるなら、今後の為にもスカウトしたいところ。

「いえ、そんな魔術師はいませんよ。スクロールからの召喚です」

「なるほど」
 ゴーレムを召喚できるスクロールをそこそこ所有しているようだな。
 そのお陰もあって短期間で製造所は堅牢な拠点となったそうだ。
 ゲッコーさんが蔵元を担当する酒蔵の周辺に王都兵が立哨としていてくれるけども、ここはそれ以上だ。

「要塞じゃねえか」

「あ、ガリオン。それ俺も思ってた」

「あれだけの規模を建造するとなれば、それに見合うだけの警備もいそうだな」

「もちろんです。製造所を守る為に商会独自の私兵が多く常駐しています。傭兵を雇ってそのまま私兵として組み込んでもいますよ」
 まじで要塞だな。

「てことは、ゴールドポンドの連中や他の冒険者もいたりするんですか?」

「いえ、冒険者は雇っていません」
 前者は戦力外という理由から頼っていないそうだが、一番の理由は冒険者が自由だということ。
 雇った後に報酬分だけ働いたら各地に出て行く可能性が高い。
 別の地でここの話しを広げられると、自分たちの商品を盗もうとする連中が更に現れることにも繋がるからと、開発担当の連中が選んだ私兵と、定住と私兵になることを約束した傭兵のみに限定しているという。
 防御壁だけでなく、その辺りも徹底しているってことか。

「案内を任せましたけど、自分たちは入れますかね?」

「貴方方だけでは難しいでしょうね。ですが、自分がどういった経緯で訪れたのかを説明しますので、その辺りは安心してください」

「安心じゃなくて確定がほしいんだがな」

「お前みたいにドスを利かせた声を出すヤツがいれば、相手さんも安心なんか出来ないっての」
 製造所にガリオンを連れて行くことは出来ないな。
 間違いなく問題を起こす。
 今回はコクリコがいないけども、コクリコと同じ理由で心配しないといけないのがいるのも何だかな……。
 
「いいでしょうか。こう――オルト殿」
 先導してくれていたルーフェンスさんがツッカーヴァッテと併走。

「なんでしょう?」

「流石にこの生物では目立つので、町近くの森に身を潜めてもらいます」

「ですよね。留守番できるかツッカーヴァッテ?」

「キュュン」
 問題ないとばかりに短く返してくれる。

「では降下しましょう」
 ――森へと降りる。

「なんかあったら名前を呼ぶから、その時は颯爽と格好良く登場してくれ」

「キュン!」
 任せろといった感じの強い返事。
 ゴロ丸にちょっと似ている。
 天空要塞ではゴロ丸を喚ぶことはなかったからな。
 今回、もしもの事があった時に召喚したら、いじけた姿で出てこないか心配になる。
 ――などと思いつつ、ツッカーヴァッテを残して森から出て街道へ。

 道なりに進めば上空から見た円形の防御壁。
 高さは五メートルくらい。
 多様な石を積み上げて造られている。
 街道では馬車の往来が目立つ。
 通り過ぎる御者が気迫漲るかけ声で手綱を動かし、馬たちがそれに呼応して脚を加速させる。
 町の外でもこの活気。
 中はそれ以上の活気に満ちているんだろうね。
 
 ――南門へと到着すれば、そこそこの渋滞が出来ていた。
 
「しばしお待ちを」
 言えばルーフェンスさんが俺たちに梟を預け、馬車や徒で移動してきた商人や旅人たちによって出来た列の横を駆けていく。
 その間にベルは梟のふわふわ羽毛を撫でてご満悦。
 
 ――ややあって、

「許可が出ました」
 流石は精鋭である騎鳥隊の隊長。訳を話してくれればスムーズに町へと入ることが出来る。
 
 並ぶ面々に申し訳なく頭を下げていく。
 
 なんでコイツ等はいいんだ! といった痛い視線を向けられるが、それも一瞬。
 ガリオンが痛い視線を向ける方向へと顔を動かせば、それだけで皆さんの視線は散る。
 
 列を作っている方々には申し訳ないが、痛い視線を向けられるよりはましなので、心の中でガリオンの強面に感謝。
 
 威圧感を放つから製造所には連れて行かないけど、こういう時には便利だな。と、思ってしまう現金な俺氏。
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