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驕った創造主
PHASE-1599【本当にもう!】
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ゴロ太のことを優先してしまったが――。
天空要塞から勝利して戻ってきたというのに、その報告をまだ出来ないままここにいるのも問題だな……。
親書だって頼まれている。
ゴロ太も大事だけど、ベスティリスとの密約が書かれた親書を届けるのはもっと大事だ。
ベルの手前そんな事は絶体に口には出せないけど、この大陸に住まう多くの者達と天秤にかければ後者こそ最優先。
ミルディは俺達の用件に重きを置いていいといったが、この大陸に住む者たちの今後を左右することにこそ重きを置くべきだからな。
――うん。
「俺だけでも王城に行って報告をしないといけないな」
ゴロ太の事は王様たちの耳にも入っているだろうから、報告が遅れても許してはくれるだろうけども、
「追跡の継続自体は――」
「申し訳ないが鳥の妨害以降は完全に中断しているよ」
質問すれば、残念な回答がS級さんから返ってくる。
これを耳にすれば、ベルはさらに力なく項垂れる。
「安心しなよ♪」
執務室に愛らしくて快活な声が響く。
声は俺が見上げる天井から。
「オイラがいる時点で問題なしじゃないか!」
自信満々に胸を反らせるミルモン。
「お、おおっ! ミルモン! そうだ、ミルモンがいるではないか!」
救世主様の降臨とばかりに、ベルが羨望の眼差しを天井側へと向ける。
頼りになる見通す小悪魔ミルモン。
一日一回限定の見通す力。
その力を発揮してあげるとベルに言えば、瞳を強く閉じ、
「ムムムッ――」
と、いつもの如く唸る。
その間、ベルは祈るように宙に浮くミルモンを崇めるように片膝をついた姿勢。
失態をしてしまったルインも同様の姿勢だった。
「うん! 見えたよ!」
「「「「おおっ!!!!」」」」
自信に溢れるミルモンの声に、執務室にいるそれ以外の面子から感嘆の声が上がる。
「で、何が見えた?」
「う~んとね。大きな建物と、そこに立ってる旗が見えたよ」
「旗か。どんな形? 色とかデザインは分かる?」
「もちろんだよ兄ちゃん。えっと――ね。在り来たりな長方形からなる旗で、色は赤色」
「赤か」
「そう、そんで旗の中央には金色の輪っかが見えたよ」
「金色の輪っか――か」
ミルモンが言う事を復唱しつつ先生を見る。
この内容で既に理解したとばかりに鷹揚に頷き、
「その輪っかとは、蛇が自らの尾を咥えることで形を成しておりませんでしたか?」
と、質問。
「うん! そうだね。そうだよ! あの輪っかは蛇だったね!」
「分かりました。素晴らしい能力です。流石はアザアル界の勲功爵殿です」
「そうでしょ! 副会頭はオイラの凄さをちゃんと理解しているね♪」
上機嫌なミルモンの下方では、
「私も理解しているぞ! 本当に良くやってくれたミルモン!」
自分達にとっての救世主様を破顔で見上げるベル。そしてルイン。
で、直ぐにその表情が一変。
「荀彧殿。旗の持ち主は?」
鋭い眼光。
佐官らしい威厳と落ち着きが混じり合う声。
「その旗はロイル領主である、ハダン・ネイチャル・カプレル伯爵の御旗です」
「あの人か」
天空要塞に行く前に、ここに来た人物だな。
多くの護衛を従わせていたから傲慢な人物かと思っていたけども、会って話せばそんなでもなかったし、先生との問答で押し負けた後も潔かった。
貴族としての体裁を保つため、余裕ある姿を演じていただけかとも思ったが、ミルモンは負の感情を感じなかったと言っていた。
潔く、正道を歩む人物であるのは間違いないだろう。
ロイル領――か。
タチアナ出身のマール街は王都から東側。
そのマール街の南方にロイル領は位置するから、ゴロ太たちの移動方向とも合致するね。
「ロイル領って王都からどれくらい離れていますかね?」
「馬で八日ほどかと」
「馬で八日……。だというのにミルモンは建物とそこに立つ旗を見ているってことだから、十中八九、ゴロ太は既にロイル領にいるってことになりますね」
「まず間違いなく」
いくらチコ達の脚と体力に頼ったところで、移動速度は馬とそこまでかわらない。
なのに既にロイル領にいるってのがな。
「訳が分からないよ」
「難しく考えるようなことではない。簡単なことだ」
「お、おう……」
怒りを纏わせたベルさん。
次に言う事が容易に想像できる。
「ロイル領に行けばいいだけのこと。そこであの伯爵を問い詰めればいい」
「まだハダン伯って決まってないけどな」
「だとしても何かを知っているだろう! 領主だぞ!」
「あ、はい……」
そんな粗暴で大きな声はベルさんには似合わないと思うの……。
「ベル殿」
「なんでしょう」
「ハダン伯ならまだ王都におります。王城にて主達の偉業を称えようと、他の方々と待っていましたから。予定は大いに狂いましたが」
先生がこの発言を終えると同時に、俺の前を風が通り過ぎる……。
そして目指すは廊下へと続くドアではなく……バルコニー。
「せめて退室はちゃんとした順路でお願いしたいんだけど!」
「時には省略も必要だ」
言いつつ、ベルはバルコニーから飛び降りる。
「もう! 本当にもう!」
熱くなるとあれだよ!
天空要塞から勝利して戻ってきたというのに、その報告をまだ出来ないままここにいるのも問題だな……。
親書だって頼まれている。
ゴロ太も大事だけど、ベスティリスとの密約が書かれた親書を届けるのはもっと大事だ。
ベルの手前そんな事は絶体に口には出せないけど、この大陸に住まう多くの者達と天秤にかければ後者こそ最優先。
ミルディは俺達の用件に重きを置いていいといったが、この大陸に住む者たちの今後を左右することにこそ重きを置くべきだからな。
――うん。
「俺だけでも王城に行って報告をしないといけないな」
ゴロ太の事は王様たちの耳にも入っているだろうから、報告が遅れても許してはくれるだろうけども、
「追跡の継続自体は――」
「申し訳ないが鳥の妨害以降は完全に中断しているよ」
質問すれば、残念な回答がS級さんから返ってくる。
これを耳にすれば、ベルはさらに力なく項垂れる。
「安心しなよ♪」
執務室に愛らしくて快活な声が響く。
声は俺が見上げる天井から。
「オイラがいる時点で問題なしじゃないか!」
自信満々に胸を反らせるミルモン。
「お、おおっ! ミルモン! そうだ、ミルモンがいるではないか!」
救世主様の降臨とばかりに、ベルが羨望の眼差しを天井側へと向ける。
頼りになる見通す小悪魔ミルモン。
一日一回限定の見通す力。
その力を発揮してあげるとベルに言えば、瞳を強く閉じ、
「ムムムッ――」
と、いつもの如く唸る。
その間、ベルは祈るように宙に浮くミルモンを崇めるように片膝をついた姿勢。
失態をしてしまったルインも同様の姿勢だった。
「うん! 見えたよ!」
「「「「おおっ!!!!」」」」
自信に溢れるミルモンの声に、執務室にいるそれ以外の面子から感嘆の声が上がる。
「で、何が見えた?」
「う~んとね。大きな建物と、そこに立ってる旗が見えたよ」
「旗か。どんな形? 色とかデザインは分かる?」
「もちろんだよ兄ちゃん。えっと――ね。在り来たりな長方形からなる旗で、色は赤色」
「赤か」
「そう、そんで旗の中央には金色の輪っかが見えたよ」
「金色の輪っか――か」
ミルモンが言う事を復唱しつつ先生を見る。
この内容で既に理解したとばかりに鷹揚に頷き、
「その輪っかとは、蛇が自らの尾を咥えることで形を成しておりませんでしたか?」
と、質問。
「うん! そうだね。そうだよ! あの輪っかは蛇だったね!」
「分かりました。素晴らしい能力です。流石はアザアル界の勲功爵殿です」
「そうでしょ! 副会頭はオイラの凄さをちゃんと理解しているね♪」
上機嫌なミルモンの下方では、
「私も理解しているぞ! 本当に良くやってくれたミルモン!」
自分達にとっての救世主様を破顔で見上げるベル。そしてルイン。
で、直ぐにその表情が一変。
「荀彧殿。旗の持ち主は?」
鋭い眼光。
佐官らしい威厳と落ち着きが混じり合う声。
「その旗はロイル領主である、ハダン・ネイチャル・カプレル伯爵の御旗です」
「あの人か」
天空要塞に行く前に、ここに来た人物だな。
多くの護衛を従わせていたから傲慢な人物かと思っていたけども、会って話せばそんなでもなかったし、先生との問答で押し負けた後も潔かった。
貴族としての体裁を保つため、余裕ある姿を演じていただけかとも思ったが、ミルモンは負の感情を感じなかったと言っていた。
潔く、正道を歩む人物であるのは間違いないだろう。
ロイル領――か。
タチアナ出身のマール街は王都から東側。
そのマール街の南方にロイル領は位置するから、ゴロ太たちの移動方向とも合致するね。
「ロイル領って王都からどれくらい離れていますかね?」
「馬で八日ほどかと」
「馬で八日……。だというのにミルモンは建物とそこに立つ旗を見ているってことだから、十中八九、ゴロ太は既にロイル領にいるってことになりますね」
「まず間違いなく」
いくらチコ達の脚と体力に頼ったところで、移動速度は馬とそこまでかわらない。
なのに既にロイル領にいるってのがな。
「訳が分からないよ」
「難しく考えるようなことではない。簡単なことだ」
「お、おう……」
怒りを纏わせたベルさん。
次に言う事が容易に想像できる。
「ロイル領に行けばいいだけのこと。そこであの伯爵を問い詰めればいい」
「まだハダン伯って決まってないけどな」
「だとしても何かを知っているだろう! 領主だぞ!」
「あ、はい……」
そんな粗暴で大きな声はベルさんには似合わないと思うの……。
「ベル殿」
「なんでしょう」
「ハダン伯ならまだ王都におります。王城にて主達の偉業を称えようと、他の方々と待っていましたから。予定は大いに狂いましたが」
先生がこの発言を終えると同時に、俺の前を風が通り過ぎる……。
そして目指すは廊下へと続くドアではなく……バルコニー。
「せめて退室はちゃんとした順路でお願いしたいんだけど!」
「時には省略も必要だ」
言いつつ、ベルはバルコニーから飛び降りる。
「もう! 本当にもう!」
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