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驕った創造主
PHASE-1596【揺れる感情】
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「王都に戻ったら、少しはゆっくりしたいな」
「お、珍しい」
「私だって疲労はたまる」
そこまでベルに言わせるってのがね。
ベルの今の発言を王様達が耳にすれば、天空要塞における戦闘がどれだけ過酷だったのかというのが、十二分に伝わることだろう。
激戦を乗り切った分、ゴロ太たちと一緒に過ごしたいという願望もあるんだろうけどね。
いま王都では間違いなく、南の瘴気が浄化され始めているという報告が、要塞トールハンマーを介して伝わっていると思う。
浄化=俺達が天空要塞攻略に成功したと判断しているだろう。
となれば、大規模な兵を動員しての、南に陣取る連中との戦いが始まる。
直ぐに行動に移るとなれば、休息は難しいかな。
だが英気を養うのは大事だ。
南へのルートが開け、南伐が開始するにしても、休息は必要。
――一週間は流石に欲張りすぎかな。
せめて三日くらいは皆に休息を与えたいところだ。
そこは先生を交えて王様と要相談か。
「ええぇっ!?」
「おう!? ビックリした……」
突然、驚きの声が背後から上がる。
普段はそんな大声を出さない人物だったから、余計にビックリした……。
声の主は――リン。
「どうしたよ?」
「ああ、ええっと……ね……」
「なんだよ歯切れの悪い?」
「お花摘みですか? 要塞を出る前に済ませておくのが基本ですよ」
最前列にて立つコクリコからの一言に、
「私にそんなのは必要ないのよ」
と、真顔で返している。
普段ならもっと相手を小馬鹿にしたような返しをするもんだが、今のリンは真剣――というよりも焦燥を纏わせての返答だった。
「で、どうした?」
「ああ……。あのね……」
また歯切れが悪くなる。
そんでもってチラチラとベルに視線を向けている。
アンデッドであるにも関わらず、汗が頬を伝っていた。
「え、まじでなんなの!? 報告は大事だぞ」
「王都に戻れば分かることだから、私からは言いたくはないわね……」
凄く怖がっておられる。
「はっきりとした報告は、現場にいる者達から聞くのが一番だと私は思うわけよ」
「――なに言ってんの? 出がけに頭でも打ったか?」
アンデッド、それも最高位であるアルトラリッチとは思えないくらいに情緒が不安定だな。
「いい加減にしないか。報告を怠る者、戦時では厳罰に処すこともある」
どもった態度をやめて、言う事があるのならばさっさと述べよ! と、ベル。
皆してリンの方を見てやれば、視線が注がれることで観念したのか、
「外界から遮断された場所から出た途端、王都に配置しているルイン達から報告が入ってね……」
便利だな。召喚したアンデッドとの遠距離でのやり取り。
「それで王都で何があったんだ? ――まさか! 王都が侵攻された!? 浄化が始まり、それに焦った蹂躙王の軍勢が一気に攻めてきたとか!?」
「そういったのじゃない」
「そいつは良かった」
そうだよな。高順氏が指揮するトールハンマーが陥落するなんて考えられないからな。
「では、なんだ?」
ベルからの質問。
凝視されれば、リンの表情が一気に強張る。
さっきからベルをチラチラと見ているし、ベル関係か?
ベル関係でルインからの報告となるなら……。
――……!?
――……嘘だろ……。
ゴクリと唾を飲む。
――……意を決して思い描いたことを……、
「ゴロ太になんかあったのか?」
口から出す。
出した途端――ざわりとした緊張感が一帯を支配する。
乗っているツッカーヴァッテもそれを感じたのか、大きな体を大きく振るわせていた。
「リン。明確な報告を聞きたい」
張り詰めた声。
「あ、あのね……」
その声にさしものリンも座った姿勢で背を反らせる。
「早く!」
怒気が混じりベル以外の全員が居住まいを正す中で、
「白い子グマがいなくなったらしいのよ。王都から」
「なっ!? どういうことだ!」
「私に怒鳴らないでよ……。白い子グマが王都を去ったらしいのよ」
「ぁっ……」
ショックのせいか、ベルは声を出せずにあわあわとしはじめる、
「どういうことだ? 保護者であるワックさんもか?」
「彼は残っているそうよ。報告では、別の意思が働いているように見えたらしいわ」
「なんだと! それでは何者かにゴロ太が操られているということか! こうしてはいられない!」
「ちょっと落ち着こうかベル」
「落ち着くことなど出来るかっ!」
凄い剣幕……。
尋常ではない焦り。自らの足で駆け出そうとばかりに、ツッカーヴァッテから飛び降りようとするものだから、俺とコクリコ、シャルナが必死になって止める。
「こんな高高度から飛び降りてどうすんだよ。冷静になれ!」
「そうですよ。ベルの事ですからこの高さから着地しても問題なさそうではありますが、王都までの移動を自らの足に頼れば余計に時間がかかることくらい分かるでしょう」
「トールとコクリコの言う通りだよ! ツッカーヴァッテの移動速度が一番なんだから」
「ぬぅ、ぅぅ……。確かに。幼子であっても、いま私が選択しようとした行動は避けるな……。すまない……」
――……これがベルの弱点だよな。
無敵のようでいて、感情によって心身のバランスが大きく崩れてしまう。
それによって力のセーブや思考の乱れが顕著になってしまうんだよな……。
「お、珍しい」
「私だって疲労はたまる」
そこまでベルに言わせるってのがね。
ベルの今の発言を王様達が耳にすれば、天空要塞における戦闘がどれだけ過酷だったのかというのが、十二分に伝わることだろう。
激戦を乗り切った分、ゴロ太たちと一緒に過ごしたいという願望もあるんだろうけどね。
いま王都では間違いなく、南の瘴気が浄化され始めているという報告が、要塞トールハンマーを介して伝わっていると思う。
浄化=俺達が天空要塞攻略に成功したと判断しているだろう。
となれば、大規模な兵を動員しての、南に陣取る連中との戦いが始まる。
直ぐに行動に移るとなれば、休息は難しいかな。
だが英気を養うのは大事だ。
南へのルートが開け、南伐が開始するにしても、休息は必要。
――一週間は流石に欲張りすぎかな。
せめて三日くらいは皆に休息を与えたいところだ。
そこは先生を交えて王様と要相談か。
「ええぇっ!?」
「おう!? ビックリした……」
突然、驚きの声が背後から上がる。
普段はそんな大声を出さない人物だったから、余計にビックリした……。
声の主は――リン。
「どうしたよ?」
「ああ、ええっと……ね……」
「なんだよ歯切れの悪い?」
「お花摘みですか? 要塞を出る前に済ませておくのが基本ですよ」
最前列にて立つコクリコからの一言に、
「私にそんなのは必要ないのよ」
と、真顔で返している。
普段ならもっと相手を小馬鹿にしたような返しをするもんだが、今のリンは真剣――というよりも焦燥を纏わせての返答だった。
「で、どうした?」
「ああ……。あのね……」
また歯切れが悪くなる。
そんでもってチラチラとベルに視線を向けている。
アンデッドであるにも関わらず、汗が頬を伝っていた。
「え、まじでなんなの!? 報告は大事だぞ」
「王都に戻れば分かることだから、私からは言いたくはないわね……」
凄く怖がっておられる。
「はっきりとした報告は、現場にいる者達から聞くのが一番だと私は思うわけよ」
「――なに言ってんの? 出がけに頭でも打ったか?」
アンデッド、それも最高位であるアルトラリッチとは思えないくらいに情緒が不安定だな。
「いい加減にしないか。報告を怠る者、戦時では厳罰に処すこともある」
どもった態度をやめて、言う事があるのならばさっさと述べよ! と、ベル。
皆してリンの方を見てやれば、視線が注がれることで観念したのか、
「外界から遮断された場所から出た途端、王都に配置しているルイン達から報告が入ってね……」
便利だな。召喚したアンデッドとの遠距離でのやり取り。
「それで王都で何があったんだ? ――まさか! 王都が侵攻された!? 浄化が始まり、それに焦った蹂躙王の軍勢が一気に攻めてきたとか!?」
「そういったのじゃない」
「そいつは良かった」
そうだよな。高順氏が指揮するトールハンマーが陥落するなんて考えられないからな。
「では、なんだ?」
ベルからの質問。
凝視されれば、リンの表情が一気に強張る。
さっきからベルをチラチラと見ているし、ベル関係か?
ベル関係でルインからの報告となるなら……。
――……!?
――……嘘だろ……。
ゴクリと唾を飲む。
――……意を決して思い描いたことを……、
「ゴロ太になんかあったのか?」
口から出す。
出した途端――ざわりとした緊張感が一帯を支配する。
乗っているツッカーヴァッテもそれを感じたのか、大きな体を大きく振るわせていた。
「リン。明確な報告を聞きたい」
張り詰めた声。
「あ、あのね……」
その声にさしものリンも座った姿勢で背を反らせる。
「早く!」
怒気が混じりベル以外の全員が居住まいを正す中で、
「白い子グマがいなくなったらしいのよ。王都から」
「なっ!? どういうことだ!」
「私に怒鳴らないでよ……。白い子グマが王都を去ったらしいのよ」
「ぁっ……」
ショックのせいか、ベルは声を出せずにあわあわとしはじめる、
「どういうことだ? 保護者であるワックさんもか?」
「彼は残っているそうよ。報告では、別の意思が働いているように見えたらしいわ」
「なんだと! それでは何者かにゴロ太が操られているということか! こうしてはいられない!」
「ちょっと落ち着こうかベル」
「落ち着くことなど出来るかっ!」
凄い剣幕……。
尋常ではない焦り。自らの足で駆け出そうとばかりに、ツッカーヴァッテから飛び降りようとするものだから、俺とコクリコ、シャルナが必死になって止める。
「こんな高高度から飛び降りてどうすんだよ。冷静になれ!」
「そうですよ。ベルの事ですからこの高さから着地しても問題なさそうではありますが、王都までの移動を自らの足に頼れば余計に時間がかかることくらい分かるでしょう」
「トールとコクリコの言う通りだよ! ツッカーヴァッテの移動速度が一番なんだから」
「ぬぅ、ぅぅ……。確かに。幼子であっても、いま私が選択しようとした行動は避けるな……。すまない……」
――……これがベルの弱点だよな。
無敵のようでいて、感情によって心身のバランスが大きく崩れてしまう。
それによって力のセーブや思考の乱れが顕著になってしまうんだよな……。
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