上 下
1,596 / 1,668
驕った創造主

PHASE-1596【揺れる感情】

しおりを挟む
「王都に戻ったら、少しはゆっくりしたいな」

「お、珍しい」

「私だって疲労はたまる」
 そこまでベルに言わせるってのがね。
 ベルの今の発言を王様達が耳にすれば、天空要塞における戦闘がどれだけ過酷だったのかというのが、十二分に伝わることだろう。
 激戦を乗り切った分、ゴロ太たちと一緒に過ごしたいという願望もあるんだろうけどね。

 いま王都では間違いなく、南の瘴気が浄化され始めているという報告が、要塞トールハンマーを介して伝わっていると思う。
 浄化=俺達が天空要塞攻略に成功したと判断しているだろう。
 
 となれば、大規模な兵を動員しての、南に陣取る連中との戦いが始まる。
 直ぐに行動に移るとなれば、休息は難しいかな。
 だが英気を養うのは大事だ。
 南へのルートが開け、南伐が開始するにしても、休息は必要。
 ――一週間は流石に欲張りすぎかな。
 せめて三日くらいは皆に休息を与えたいところだ。
 そこは先生を交えて王様と要相談か。

「ええぇっ!?」

「おう!? ビックリした……」
 突然、驚きの声が背後から上がる。
 普段はそんな大声を出さない人物だったから、余計にビックリした……。
 声の主は――リン。

「どうしたよ?」

「ああ、ええっと……ね……」

「なんだよ歯切れの悪い?」

「お花摘みですか? 要塞を出る前に済ませておくのが基本ですよ」
 最前列にて立つコクリコからの一言に、

「私にそんなのは必要ないのよ」
 と、真顔で返している。
 普段ならもっと相手を小馬鹿にしたような返しをするもんだが、今のリンは真剣――というよりも焦燥を纏わせての返答だった。

「で、どうした?」

「ああ……。あのね……」
 また歯切れが悪くなる。
 そんでもってチラチラとベルに視線を向けている。
 アンデッドであるにも関わらず、汗が頬を伝っていた。

「え、まじでなんなの!? 報告は大事だぞ」

「王都に戻れば分かることだから、私からは言いたくはないわね……」
 凄く怖がっておられる。

「はっきりとした報告は、現場にいる者達から聞くのが一番だと私は思うわけよ」

「――なに言ってんの? 出がけに頭でも打ったか?」
 アンデッド、それも最高位であるアルトラリッチとは思えないくらいに情緒が不安定だな。

「いい加減にしないか。報告を怠る者、戦時では厳罰に処すこともある」
 どもった態度をやめて、言う事があるのならばさっさと述べよ! と、ベル。
 皆してリンの方を見てやれば、視線が注がれることで観念したのか、

「外界から遮断された場所から出た途端、王都に配置しているルイン達から報告が入ってね……」
 便利だな。召喚したアンデッドとの遠距離でのやり取り。

「それで王都で何があったんだ? ――まさか! 王都が侵攻された!? 浄化が始まり、それに焦った蹂躙王ベヘモトの軍勢が一気に攻めてきたとか!?」

「そういったのじゃない」

「そいつは良かった」
 そうだよな。高順氏が指揮するトールハンマーが陥落するなんて考えられないからな。

「では、なんだ?」
 ベルからの質問。
 凝視されれば、リンの表情が一気に強張る。
 さっきからベルをチラチラと見ているし、ベル関係か?
 ベル関係でルインからの報告となるなら……。
 ――……!?
 ――……嘘だろ……。
 ゴクリと唾を飲む。
 ――……意を決して思い描いたことを……、

「ゴロ太になんかあったのか?」
 口から出す。
 出した途端――ざわりとした緊張感が一帯を支配する。
 乗っているツッカーヴァッテもそれを感じたのか、大きな体を大きく振るわせていた。

「リン。明確な報告を聞きたい」
 張り詰めた声。

「あ、あのね……」
 その声にさしものリンも座った姿勢で背を反らせる。

「早く!」
 怒気が混じりベル以外の全員が居住まいを正す中で、

「白い子グマがいなくなったらしいのよ。王都から」

「なっ!? どういうことだ!」

「私に怒鳴らないでよ……。白い子グマが王都を去ったらしいのよ」

「ぁっ……」
 ショックのせいか、ベルは声を出せずにあわあわとしはじめる、

「どういうことだ? 保護者であるワックさんもか?」

「彼は残っているそうよ。報告では、別の意思が働いているように見えたらしいわ」

「なんだと! それでは何者かにゴロ太が操られているということか! こうしてはいられない!」

「ちょっと落ち着こうかベル」

「落ち着くことなど出来るかっ!」
 凄い剣幕……。
 尋常ではない焦り。自らの足で駆け出そうとばかりに、ツッカーヴァッテから飛び降りようとするものだから、俺とコクリコ、シャルナが必死になって止める。

「こんな高高度から飛び降りてどうすんだよ。冷静になれ!」

「そうですよ。ベルの事ですからこの高さから着地しても問題なさそうではありますが、王都までの移動を自らの足に頼れば余計に時間がかかることくらい分かるでしょう」

「トールとコクリコの言う通りだよ! ツッカーヴァッテの移動速度が一番なんだから」

「ぬぅ、ぅぅ……。確かに。幼子であっても、いま私が選択しようとした行動は避けるな……。すまない……」
 ――……これがベルの弱点だよな。
 無敵のようでいて、感情によって心身のバランスが大きく崩れてしまう。
 それによって力のセーブや思考の乱れが顕著になってしまうんだよな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...