上 下
1,584 / 1,668
天空要塞

PHASE-1584【新たな魔道具】

しおりを挟む
「それで――」
 ここでコクリコがズイッと一歩前に出れば、

「それで?」

「オウム返しはいいです。この地の主よ」
 更に一歩前に踏み出し、

「私に便利なアイテムをくれると言いましたよね」

「確かに言ったわね」

「では、ください」

「その無遠慮さ――いいわね。清々しい」

「有り難うございます」

「無遠慮でありながら常に敬語なのも面白いし」

「有り難うございます。ください。そして私を次なる力の高みへと立たせてください」

「あ、はい……」
 ベスティリスの困惑顔。
 こういう時のコクリコの肝の太さ――あやかりてえよ。

「貴女の戦い方から必要とされるのは――」
 言いつつ右手から食指だけを伸ばし、指揮棒を振るように動かしてみせると、その動きに合わせるように盆を覆っていた光沢ある藍色の布がシュルシュルと動き出す。
 羊皮紙をのせる以外の用途もあったようだ。
 折りたたまれた藍色の布は帯状のものであり、それがコクリコの首元にまで移動。

 これは――、

「トヨウケビメ――でしたっけ?」

「そう、妾のお気に入り。その色違いね。それをロードウィザードに与えましょう」
 ベスティリスの発言に周囲が一斉にざわつく。
 見渡せば、皆して信じられないといった顔になっていた。
 羽扇もだったが、この羽衣はそれ以上に高価な魔道具みたいだからな。
 ポンッと渡す代物じゃないような物であっても、ポンッと渡せるベスティリスの太っ腹さよ。
 コクリコの肝の太さと良い勝負だ。
 
 どよめきが大きくなるところで、場を締めるようにクロウス氏が手を一度叩けば、瞬時に静まる。
 
「サーバントストーンが使用できるのだから、それも問題なく使用できるでしょう」

「これほどの物をいただけるとは、有り難き幸せ」

「本当、無遠慮だけど敬語と節度ある作法は出来るのよね」
 深々とした最敬礼にて敬意を払うコクリコのギャップに苦笑いのベスティリス。
 ――後衛担当でありながら、接近戦を好むのがコクリコ。
 先ほどの戦いでそれを理解してくれたからこそのチョイスだろう。
 
 魔法を放ちつつ接近もこなす。
 接近すればそれだけ危険性も上がる。それを緩和してくれる為のトヨウケビメだという。
 ヒラヒラとした薄地ではあるが、強度は経験済み。
 残火による攻撃を受け止めるだけの頑丈さ。
 防御だけでなく、絡みついての投げなども可能。
 コクリコの接近戦のバリエーションが増えるということは、ますます前衛で輝くってことだ。
 喜ぶべきなのか――な……。
 
「素晴らしい物を賜りました」
 当の本人が喜んでいるから良しとしよう。

「大事に扱うんだぞ」

「まずは慣れですね。ですので、王都に戻ったら私と手合わせ願います」

「次の手合わせも勝たせてもらおう」
 コクリコとの試し合いももう何度目か。
 負けるつもりはないが、コイツの成長速度は凄いからな。加えて魔道具による強化。
 油断していると足を掬われることにもなる。

「勇者とロードウィザードの戦い。わらわも見たいわね。なんならここで戦ってくれてもよいのだけれど」

「余興としてはありかもしれませんが、試し合いであっても流石に今は厭戦気分が強いのでお断りを」

「あら残念。ならロードウィザードがトヨウケビメの扱いに慣れた時にでも見せてもらいましょうか」

「その時は風龍がこの地へと戻ってきていることでしょう」
 と、言えば、

「それは最高の催しになりそうね」
 発言が嬉しかったようで柔和な笑みを向けてくれる。
   
「親睦を深めるにはまだ軋轢があるようだけど、少しは緩和することを願いたいわね」 
 と、俺達に言うのではなく、整列しているストームトルーパーの面々へと伝えれば、伸びきった背筋が更に伸びるのが見て取れた。
 
 俺達と行動を共にすることに不快感を持っていた生徒会長。
 そんな生徒会長に目を向ければ、俺の視線を感じ取ったのか、こちらを見て会釈をしてくる。
 なんだろう。あれだけ言っていたのに主が言えば素直になるんだな。
 ストームトルーパーの面々は絶対的な忠誠心を持っているようだが、生徒会長の場合、忠誠心以上に主に対して、秘めたる思いを抱いてたりして。
 
 ――フッ、高尚なようでいて、青春してんのかもな。

「アホみたいな顔で笑ってどうしたんですか?」

「別にどうもしないさ。でもってアホみたいな顔は余計だ」
 軽くチョップでも見舞ってやろうとすれば、

「お!?」
 早速とばかりにトヨウケビメによって俺のチョップを防いでくる。

「うん! 素晴らしい魔道具です!」

「でしょう。使用者が思えばその通りに動くし、ちょっとした攻撃なら勝手に判断して防いでくれるわよ」

「ですが自動で防御してくれると過信するよりは、自身で動かす方がいいかもですね」

「そうね。トヨウケビメの判断力よりもロードウィザードの判断速度が上回るならそうしたほうがいいわね」

「使用者の方が速さで勝るよう励みましょう」

「良い心がけ」
 コクリコのヤツ、本当に良い物をもらったな。
 そんなトヨウケビメをどう体に纏うかを思案していたが、ベスティリスの次の発言で意識はそっちに持って行かれる。

「じゃあ、会食と行きましょう。少しでもお互いを知るために語らいながら食事を楽しむのもいいでしょう。準備を」
 号令にて忠誠心MAXな面々が動き出す。
 
 素早い動作で長テーブルが運ばれてくると、その上に料理が次々と並んでいく。
 それを目にすればコクリコのテンションは爆上がり。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...