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天空要塞

PHASE-1549【てんこ盛り属性】

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 掴み所がないという前情報から、リンに近い感じの性格なんだろうと思ってはいたが、はたして正にだな。

 となれば、シャルナがムキになりやすいタイプだ。
 このままやり取りが堂々巡りになってしまえば、間違いなくシャルナが最初に怒り出すと思う。
 
 そういった状況は回避したいけど、相手サイドは未だ出てくる気配がない。
 
 ――見つけてみろということなのだろうか?
 自分を見つけることも出来ない程度の者達とは、相対して話す価値すらないってことかもしれん。
 
 ――反響する声。
 白が支配するだけのだだっ広い空間。
 
 ビジョンを使用して端から端まで確認しても、俺たち以外の姿はない。
 そうなると考えられるのは不可視化。
 ゲッコーさんやユーリさんが使用する光学迷彩に似た魔法の可能性が高い。
 そんなゲッコーさんにアイコンタクト。
 視線と意図に気づいてくれたが、直ぐさま首を左右に振ってくる。
 間違いなくこの場にはいるようだけども、ゲッコーさんであっても何処にいるかまでは掴めていないようだ。
 
 次に感知能力に長けているベルへと目を向ければ、俺を見ていた。
 
 ――正確には俺の足元。
 蛍光灯のような明るさが照らす空間。
 俺の身の丈以上に伸びる影。

 ――……影。

 影と言えば――、

「ヴァンパイアのゼノ。ゼノと言えば、翼幻王ジズ軍」
 エンドリュー候を操っていたヴァンパイア。
 候の影に潜んでいた上位アンデッド。

「配下が使用できるのなら――」
 自分の影に睨みを利かせれば、

「無論、わらわも扱える」
 こちらの睨みに合わせて言葉が返ってきた。

「おお!」
 俺の影だけが皆のものより更に長くなる。
 長くなりながら隆起。

 平面から立体へと変化すれば――、

「おお……」

「これは……」

「なんとも……」
 俺、ゲッコーさん、ユーリさん。
 野郎三人は嘆息まじりに声を漏らす。
 立体化した影から顔を覗かせてきたのが美人様だったからね。仕方ないね。
 美人なのは前情報で知ってはいたけども。
 これは、これは……。
 想像以上ですな!
 しかも一人称が妾という。

「よくぞ妾が居城へ」

「お邪魔しております」

「お邪魔どころが大暴れでしょう」

「これでも最低限の努力はしてきました」

「その部分は評価しましょう」

「感謝します」

「敵対者に対して感謝ばかりね~」
 小馬鹿にするかのように、口端と声音が上がる。
 ますますリンに似た性格。
 丁寧な言葉づかいができるリンって感じだ。

「さて――と」
 影を建具のように左右に開いて出てきてくれる。
 ようやく全体を見せてくれた翼を持った美人。
 カッカッと音を奏でて歩き、隊伍を組んでいる俺達を見定めるようにぐるりと一周。

 その間、俺達は微動だにせず、相手の次の動作を窺うように目で追うだけに留めておく。
 視覚から得られる情報は風貌。
 言えることはとんでもない美人だということ。
 それこそベル級。
 
 ――三対六枚の純白の翼を背中と腰部に持ち、それが綺麗に折り重なって背面に収まっている。
 日本のおとぎ話に登場する天女が纏っているような薄い生地の羽衣を首にかけ、赤を主とした服は山伏を彷彿とさせる。
 歩くたびに小気味の良い音を響かせる原因は下駄。
 光沢のある黒色は漆塗りを思わせ、バランスをとるのに苦労しそうな一本歯からなる。
 器用に履きこなしている足には白足袋を履き、赤い鼻緒で固定されている。
 
 日本のおとぎ話に出て来る天女と天狗が合わさったかのような服装を纏うも、髪の色は黒ではなく、エルフと見紛う薄い金色。
 金糸のような髪を右側でまとめたサイドテール。
 
 雪肌のような肌。

 そして、こちらを見てくる目は――オッドアイ。
 しかも独特。
 オッドアイ自体も独特な部類だろうけど、俺達を見て回る美人様のは更に独特。
 左目は白目にアメジストのような輝きからなる紫色の瞳。
 右目は白目部分が白色ではなく黒に染まっており、中心の瞳の色は黄色だった。
 
 右手には三国志の諸葛亮が持っていそうな羽扇が握られている。

「どんだけ属性てんこ盛りなんだよ……」
 欲張りセットもいいところな風采からなる美人様。

「カイディルはどの様にして負けたのかしら。ポームス」

「一対四という不利な状況での戦いにて敗れました」

「カイディルは数の不利を言い訳にするような恥じた発言はしない。大体、勇者達は多くの者達と対峙した後にカイディルと戦闘したのですからね。数の不利は弁解にもできない」

「あ、はい……。大立者もそう言っていました。先ほどの発言は撤回し、猛反いたします」

「流石はポームス。直ぐに反省が出来るとてもいい子」
 慈愛に満ちた優しい笑み。
 本当に天の使いって感じだよ。

「カイディルに勝利した四人は前へ」

「お?」
 ポームスへと向けていた優しい笑みから一転して凜々しい表情となる美人さん。
 
 発言に素直に従い、俺とコクリコ。ゲッコーさんとユーリさんが隊伍から前に出る。

「勇者と従者三人。その内二人は次元が違う実力を持っているようね」

「そいつはどうも」
 次元が違うという所で目を向けられたゲッコーさんとユーリさんが軽く会釈で返す。
 いつもならここでコクリコが自分が次元が違う側に含まれていると判断し、誰よりも早く返事をするもんなんだが――珍しいもんだ。
 横に立つコクリコを見れば――表情が引きつっていた。
 昔の内弁慶だった頃のようになっている。
 最初の頃はお偉いさん達の前に立てば、借りてきた猫のようになっていたもんな。
 その時の姿を久しぶりに見た気分だよ。
 
 目の前の美人が纏った強者の風格を肌でしっかりと感じているようだ。
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