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天空要塞

PHASE-1519【水の排出口の役割らしいよ】

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 ――相対し言葉を交わす紳士の口部分は、人間とは違い嘴からなっている。

 嘴を開いて喋るが、顔は鳥ではなくデーモン系。
 額からは弧を描く角が後頭部に向かって伸びており、角と角の間で伸ばした薄紫色の髪のスタイルはソフトモヒカン。
 灰褐色の肌。アドゥサルのようにコウモリのような羽が背中から生えている。
 でも身長は俺達とさほど変わらない。

 だがアドゥサルに近いだけのプレッシャーを感じさせる。

 服装は重々しさのない三つ揃え。
 クロウスの黒の三つ揃えと違って、真紅のスーツ。
 共通するのは白い手袋ってところか。

 腰には曲刀を収めた鞘。
 柄の長さは片手で持てるだけのもの。
 護拳つき。

「こちらを随分と眺めてくるね」

「名乗る挨拶もしないまま、先に頭から爪先まで確認して申し訳ない」

「いや、構わないよ。では挨拶に移ろうか。自分はアル・ガ・ルという。見ての通りのガーゴイルだ」

「挨拶ありがとうございますアル氏。俺は遠坂 亨といいます。お久しぶり――と言うべきでしょうか?」

「いいと思うよ。以前は遠目から見てただけだけどね。そちらもこっちを記憶してくれるくらいには見てくれていたようだね」

「ええ、そして以前よりも強くなったんでしょうかね? それとも近くで接するから圧を感じるのでしょうか?」
 このガーゴイルは、クロウスといた二人の内の一人だというのが挨拶のやり取りで確定。
 あの時の二人のガーゴイルのレベルは82と80だった。
 プレイギアで調べた時はレベルの高さに圧倒されてそこに注視してたからな。
 どっちがアル氏かは確認しないと分からないが、88レベルのアドゥサル並の圧を持っている御仁だというのは分かる。

「自分たちだって鍛練は怠らないからね。上達はするさ。自分たちだけが強くなるとは思わないことだね」

「それはそうでしょう」
 てことは、現在はアドゥサル並かそれ以上になっていると考えていいな。
 まいったな。ガーゴイルが強くなっているなら、大立者であるクロウスも更に強くなってんだろうな。
 強者との連戦に次ぐ連戦となれば、流石にキツい。
 しかも後になるにつれ、出てくるレベルが上がってくってのがね……。
 数を多く有している側の戦い方としては、常套手段ではあるけども……。

「さて、可能ならば人質の交換を話し合いたいんだけどね」

「ですね」

「でも、こちらは――十六なんだよね」

「ですね……」

「そっちは一人。こっちは割に合わないよね」

「……ですね……」

「勇者。ですね――でしか返せないのかな?」

「――ですね」

「――ならばこちらから提案を出そう。ここにいる面々を解放する代わりなんだけど――白髪の美姫がそちらにはいるね」

「ええ、はい」

「ですね以外で返してくれて助かるよ。それで、どうする? こちらとしてはラズヴァートと美姫一人を差し出してくれるなら、それで手を打っても良いけど」
 最高戦力を奪うってのが交渉材料に選ばれるのは当然だよな。

「もしくは、勇者の首でもいいけどね」

「高く見てくれますね」
 ベルと同等に見てくれるなんて最高の評価だよ。

「返答は?」
 悪そうな問いかけに対し、俺の前へと出るのは――ロマンドさん。

「そんな要求を呑むのならば、そこの者達は潔く消滅を選ぶだろうよ」
 と、述べる。
 然り! と、続くのはコクリコに随伴していた面々。

「私はそんなことしないですけどね!」
 と、皆の覚悟を打ち消すかのようなコクリコ。
 まあ、当然だよな。俺だって死を選ぶのは御免である。アンデッドとして一度、死を経験しているから覚悟の決まり方が生者である俺達とは違うのかもしれないが、もう少し抗ってもいいと思うの。

「さあ、どうする勇者!」
 強い語気。
 自分が圧倒的に有利に事を進めることが出来るというのが自信に繋がっているようだな。

 人質を十六も取っていればそうもなるんだろうけども――、

「返答やいかに!」
 では、答えましょう。

「すでに勝利はこちらの手の中」

「? どうしたのかな? 精神的に追い込まれて考える事をやめたのかな?」

「事実を言ったまで」

「どこをどう見て自分が有利と言っているのかが分からないな! 勇者よ、おちょくるのならばこちらは君たちの目の前でこの者達を処刑することになる!」

「となれば、こちらも――」

「かまわない」
 あらら。
 アル氏からの冷たい発言。

「切り捨てられるみたいよ」

「かまわねえよ」
 生徒会長の時とは違って、目の前のアルと名乗ったガーゴイルの足を引っ張るくらいなら死んだ方がマシという考えのようだな。

「見事な気概だラズヴァート! こちらの足枷になろうとしない心意気、我が心に生涯刻む!」

「有り難うございます!」
 って、お互いが熱く語り合うくらいには信頼関係は構築してあるようだな。

「ちょっと! 大いに盛り上がっているようですけども、私にはこれまでとこれからの武勇を書き続けるという目的があります。こんな所で命を失うという事は考えていませんよ!」

「この地にて終わり。伝説にはならず――だ。ウィザードの者よ」

「なんと無駄な人質交渉なのでしょうね!」

「まあ、そう言わないでくれ。こちらとしては勇者がどんな人間性なのかを直に接して理解したかったんだ」

「接してみての感想は?」
 俺が問えば、

「好感を持つことが出来るだけの人物ではある」

「主にどの辺りが?」

「人質を大事に扱っているところかな」

「それはお互い様ってことで。だから感謝したわけですし」

「そうだね」
 言葉を交わす間、ラズヴァートからは小声で「全然、大事にあつかわれてねえ」って聞こえてきたけどスルー。
 尻を蹴る程度は、俺の中では優しさの範疇だから。
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