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天空要塞

PHASE-1497【褒めれば常に戦ってくれそう】

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 で、誇らしく思う俺とは違い、連中の発言に気分を害しているのがお一人。

「片手で数えられるだけの連中って言ったね! 明らかにオイラが含まれていないじゃないか!」
 と、お怒りのミルモン。
 そんなミルモンにベルは、連中にはミルモンの力を理解できるだけの知能がない。矮小な頭脳なのだ。
 と、フォローを入れている。
 可愛いのにはとことん甘いのがベルである。
 
 美人からフォローを受けつつも怒りが収まらないミルモンは、オイラの力を見せてやる! と、息巻く。
 ミルモンの言動に肯定だけするベルは、ミルモンが戦いやすいように動きだす……。
 分かってはいるけど、本当に甘々だな……。

「くろいバリバリ!」

「!? へっ!? はぁ! ぎゃぁぁぁあ! 助けてぇぇぇぇえ!」
 相手を翻弄する動きのベル。ミルモンが攻撃しやすい位置まで間合いを詰めてやることで、技を当てやすくしてやっていた。

 相も変わらず相手側は、くろいバリバリを大魔法であるダークネスライトニングと勘違いしてくれる。
 成長が見られんな。
 まあ見舞われた者からしたら、見た目だけなら効果が似ているのだから勘違いするのも仕方がないか。
 
 見舞われた一人が必死に助けを求めるも、周囲は自分たちにも累が及ぶと恐れてしまい、助けたくても助けられないと右往左往。
 動きに精彩を欠いたところをベルに狩られる。

「素晴らしいぞミルモン!」
 自分の側で自分をフォローしてくれるような立ち回りをしてくれる愛らしい存在。
 こういった戦い方は経験がないからなのか、ベルの表情は喜びに充ち満ちていた。
 怖いと認識している存在ではあるが、建前が一切無い称賛を送られればミルモンは上機嫌。
 照れる笑顔を見せれば、ベルのテンションは更に爆上がり。
 ミルモンに良いところを見せたいと思うのか、キレッキレの動きでバタバタと相手を倒していく。
 俺にばかり戦わせる事をせず、普段からそうあれ……。
 
 ミルモンを左肩に座らせることで常に戦ってくれるのなら、ミルモンには悪いが、ベルの左肩を定位置にしてもいいかもしれないな。

「なんて連中だよ……」
 またも後方の縛られた方から声が上がる。
 高レベルの存在とは思えないほどの恐怖に染まった声だった。

「今になって俺達の凄さに打ちひしがれているってところか」

「う、うるせえよ。へんてこ能力者……」
 悪態を言いながらも、ラズヴァートの声は上擦り震えるもの。
 俺達サイドに呑まれている。
 宜しい。ならばもっとその声を震わせてやろう。

「といや!」
 得意げにへっぽこな舞から刀を振れば、最高のタイミングで特効役であるゲッコーさんがC-4を起爆させてくれる。

「面妖な」
 ラズヴァートと違って生徒会長の声はまだ冷静さがある。
 自分が目にしたことのない事象だからということもあり、本当に勇者による奇跡の能力なのか? と、半信半疑のようだ。
 疑いつつも剣舞を止めさせようと俺に部隊を集中させるが、頼れる仲間達によって全てが遮られる。

「ええい!」
 ここでようやく生徒会長の声色が一段階高くなった。
 焦燥からの苛立ち。
 苛立ちは思考にミスを生み出すことにも繋がる。
 だからこそもっと苛立たせる。
 頼れる仲間達が俺を守る為の組んでいる隊伍は、何人の侵入も許さない結界の如し。
 安全圏の中でひたすらに刀を振れば、

「やはり疑わしい。爆発は同じ場所ではないが東側に集中している」
 こりゃ凄い。
 苛立ちを見せていても思考はよく回るようだ。

「西側で爆発が起こせないとなれば、奇跡ではなくタネがあると見ていい。この状況で少数でも兵を割くのは痛いが、伝達を出せ」
 伝達から各所に配置された兵士たちにタネを探らせるってとこか。
 最小限の人員を割くだけに留めたのは有能だな。
 こっちとしてはおもしろくないけども。
 
 ――まあ、剣舞をする必要もなくなったけどな。

「どうした。動きが止まっているぞ」
 透き通る綺麗な声は全体によく届く。
 その声を耳に入れれば、相手サイドは更に体が硬くなる。
 
 一人によってこの場が支配されている。
 
 ベルが率先して戦闘に参加している時点でこちらは勝ち確なんだよ。
 もちろんベル一人に任せて俺がやる気を見せなくなれば、途端に俺に全部を押しつけてくる可能性もあるので、剣舞は続ける。
 で、保険も入れる。

 ――チラリと目配せ。

 相手はミルモン。
 俺の視線を感じ取ってくれたミルモンは、俺が目だけで何を伝えているのかを把握してくれる。

「お姉ちゃん。最高に格好いいよ♪」
 可愛いお声で賛嘆。

「今以上に活躍する私の姿を側で見ていてくれ!」
 嬉々として返していた。
 本当……。可愛いのが対象になるとチョロいんだよな……。
 ああいうのを目にすると、戦ってくれるのは嬉しいけど、俺にも少しはそういった笑顔を見せてくれという気持ちにもなってしまう……。

 ――。

「まったくよ……。相手になってねえじゃねえか……」
 ラズヴァートが主にベルの活躍を目にして嘆息と共に弱々しく声を零す。
 立っているのが面倒くさくなったのか、縛られたまま胡座をかいている。
 虜囚としての恥辱からの開放という理由で、生徒会長によって命を奪われる危機もあったが、今ではその心配も無いと判断したから座る余裕も出来たのかもな。

「圧倒的だろう」

「そうだな……」
 話しかければ、さっきまでと違って素直に返してくる。
 同僚であり精鋭であるストームトルーパーが指揮する前衛の部隊が、白髪の美人様一人によって叩きつぶされていく光景。
 研鑽に励み、精鋭部隊へと配属されたという経歴をもつラズヴァートであっても、眼界の光景があまりにも現実離れしていたからか、

「どれだけ経験を積もうが、どうにもならない存在ってのは、やっぱりいるんだよな……」
 と、自らの努力を否定されたかのように落ち込んでいた。
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