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天空要塞

PHASE-1490【勝ちは勝ちだ……】

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 フッケバインの哀鳴から伝わってくる……もう飛ぶ体力もないよ。と、言わんばかりの思い……。
 それでも敵である存在を背に乗せていることは矜持が許さないのか、体を揺らして抵抗している。
 が、羽毛に体を埋めているベルが離れることはない……。

「終わりそうね……」
 巨鳥を見事に? 乗りこなしたベルに恐れを抱いた声音のリン。
 リンが言うように程なくして、

「……ガァ…………」
 矜持もぽっきりと折れ、もう諦めたとばかりにふらついた翼で着地。
 これぞ千鳥足とばかりの足取りで数歩を歩めば、ズシィィィィィン――と音を立てて倒れ込む。

「う……そ、だろ……」

「現実だ。目に焼き付けろ」
 気がついたラズヴァートの最初の目に入ってきた光景は、丁度ベルが乗りこなした? フッケバインが力なく地面へと倒れ込んだところからだったようだ。
 
 で……、

「降りてこないね……」

「降りてくると思うかね? ミルモン君」

「だね……」
 間違いなく羽毛の感触を堪能している最強さん。
 強さで相手を屈服させるのが普通なのに、今回はポンコツモードで勝利したな……。
 当人は勝利したとか思ってないだろうけど……。
 単純にモフモフを堪能したいとしか思っていないだろうからな。
 なんなんだよ……。久しぶりに自分から前に出て戦うとか言っておいて、結果がこれとか……。
 いや、勝ちは勝ちだけども……。
 
 こんな勝利が許されるのは、

「ギャグ漫画だけなんだよ……」
 デタラメに強いとギャグにはなるけども……。

「もう戦えないというよりは、もう飛べないし動きたくない。ってのが正しいよね……」

「シャルナの言は正しい」

「こんなものは勝利ではないですね……。この結果を私の自伝にどう書けばいいのか……」

「本当の事だけを書け」
 と、コクリコに返しつつ、

「俺がぶっ倒れてる最中に何があったんだ……」

「よし、ではその原因を一緒に見に行こうか。というか、いい加減こっちに来てもらわないとな」
 いつまでも降りてこないポンコツモードを降ろすために、フッケバインへと近づく中で、

「この俺であってもこの拘束を解くことが出来ないなんて……」

「俺であってもって、俺に太刀打ち出来ない時点でリンの拘束を解けるわけがないだろう」
 気を失っている間に、リンのマッドバインドによってラズヴァートを拘束。
 なんとか脱しようと力んでいるようだが、リンの大地から顕現させた泥の縄を引きちぎることは不可能なようだ。

「暴れれば暴れるほど食い込ませるから」

「緊縛は趣味じゃないんだけどな~。もちろんそれが好みなら俺は付き合うよ。でも縛ってあげるのは俺がしてでぇ!?」

「バカ言ってんじゃねえよ」

「本当に馬鹿な事を言うわね」
 痛みを伴う語末は俺からの拳骨と、リンの縛りを強めた事によるもの。
 意識が戻った途端にナンパ口調に戻りやがって。

「次に軽口を叩いたらマジで顔の形状を変えるからな。さっきのレインメーカーで済ませていることに感謝しろよ」

「へいへい」
 軽い返事ではあるが、素直になっているから良いとしよう。
 アゴからかち上げてやったのに存外と喋れるんだから、打たれ強くはあるようだな。
 次におかしな言動をすれば、全力でかち上げて総入れ歯にしてやるけどね!

 ――ふむん。

「やはり降りてこないな」
 フッケバインまで接近しても、抵抗することはない。
 嘴を大きく広げ、呼吸をすることだけに注力しているようだった。

「全くもって想像が出来ない光景だな……」
 自身の中では強力な存在であるフッケバインが、力ない姿になっている事がラズヴァートには受け入れがたい現実だったようで、声が震えていた。
 ようやく俺達の――というかベルの脅威ってのを理解したようだ。
 ジージーは初手でベルの強さを理解していたが、こいつはジージーより強い割にそこら辺が分かっていないようだな。
 下半身でばかり物事を考えるから、ベルの見た目だけに意識を向けて、一番重要である実力を推し量る行為がおざなりになったんだろうな。

「おいベル」
 ――…………。

「予想通り返事はないか」
 独白しつつ、

「おい!」
 強めに言いつつ跳躍して俺もフッケバインの背中にお邪魔する。
 ――……案の定と言うべきか……。

「堪能してるな……」
 大の字でうつ伏せ状態の美人様を視界に捉える。
 黒い羽毛に、髪と軍服が白からなる美人様。
 遠目から見れば星形のワンポイントに見えなくもない。

「いい加減にしとけよ。ここは敵陣の真っ只中。なにモフモフを堪能してるんだよ! さっさと起き上がるんだ中佐!」
 階級を言うことで軍人としての矜持を刺激しようとするも、

「強力な力を手中に収めようとしている最中だ。作戦行動としては問題ない」
 と、自分にとって都合のいい理論を展開してきやがる……。
 絶対に離れないとばかりに、うつ伏せから顔だけを起こして返してくる。
 そんなベルの表情は、発言の説得力をゼロにするほどの幸せなものだった……。

「なんかもう嫌がってるから止めてやれよ……」

「嫌がっているとはなんだ! まるで私の事を嫌いみたいじゃないか!」
 なんで好かれていると思ってんですかね……。

「いや……俺達はフッケバインからすれば敵だからね」

「敵とて戦い終えれば分かり合えるものだ」
 少年漫画の発想じゃねえか。
 俺もデミタスに対してそんな事を言っていたことを思い出すけども。
 だが今回の場合は、分かり合えるというより、一方的に好意を向けているだけなんだよな……。
 俺に向けてよその熱烈な好意!

「私はもっと分かり合うため、まだここから離れることはない!」
 強い意志を感じますわ……。
 ポンコツすぎて泣きたくなるぜ……。
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