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天空要塞
PHASE-1474【我に余裕なし】
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「こ、怖い……」
心の底からの本音が口から零れ出る……。
「兄ちゃん、情けなさすぎるよ……」
「すまん。でも本当に怖い……」
「オイラが側にいるから怖くないって♪」
なんと頼りになる言葉を与えてくれるのだろう。
「羨ましいな」
若干、ベルが嫉妬を滲ませた声音。
このままだと女性陣三人がスパルタになってしまう……。
それは困りもの。
ただでさえトラウマと向き合わないといけないのに、後ろから無理矢理に戦えと背中を押されれば、覚悟も持てないままに挑まないとけいない。
「よぉぉぉぉし!」
「来るか」
「挑んでやるさ!」
でも、
「ちょっと休憩を……」
「阿呆が!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
豪快な振り下ろし。
残火の鎬部分で受ければズシリとくる重さ。
バフを受けているとはいえ、十人張りとかいう耳にしたこともない張力からなる弓を扱うだけあって、膂力は相当。
何よりも……、
「力が出ない……」
俺のメンタルがボロボロにやられているからか、いつものように足に踏ん張りが利かない……。
膝かっくんをくらった時のような力の抜け具合が両膝にずっと残っている感じ。
恐怖から思考も上手く回らず、力をどの部分にかければいいのかが分からなくなってしまっている情けない俺……。
「どうした」
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」
近い近い! そんなにも顔を――その胴体とさほど変わらないデカい頭を俺に近づけないでいただきたい!
じっと両サイドの複眼にて俺を見ないでいただきたい!
真っ黒で生気の宿りを感じないお目々。
それを見れば、アスファルトで仰向けになっていたセミが突如として俺へと向かってきた時の光景がフラッシュバックしてくる。
「兄ちゃん!」
俺が抱く負の感情が相当なもののようで、ミルモンが不安に染まる大声。
当時に右手にくろいバリバリを纏うも、
「これは一騎討ちだ。よもや勇者の側で常に行動する使い魔がそれを反故するのかな?」
「ちぃ!」
ジージーに指摘されれば、悔しそうに舌打ち。
勇者の――俺の戦闘を汚すことは使い魔としてはあってはならないと判断したのか、大人しく右手を取っ手に戻す。
素晴らしいねミルモン。
俺の矜持を汚したくないという思いはとても嬉しいけども……、今回ばっかりはそういったのをガン無視して放ってほしかった!
それで少しでもジージーが俺から距離を置いてくれればどれだけ嬉しかったか……。
「どうした勇者! こんな一振りも捌くことが出来ないのかっ! ドゥルセルを倒したというのは誤報だったようだな」
「相手によるって事だよ」
「先ほどから続く言動。我が見た目を侮辱していると判断していいようだな。つまりは我が種族に対する侮辱にも繋がる!」
「ひょわ!?」
細長い口吻が稼働して俺へと向けば、それで一突き。
顔面直撃コースに首を傾げてなんとか躱すも、ただでさえ足に力が入っていない状況で体のバランスが崩れれば、無様に転倒。
「無様だな」
そう思っていたところですよ……。
言われながらも次の斬り上げを尻餅をついた姿勢のまま、四肢を動かしての高速後退りで回避。
「本当に無様だ。貴様、勇者か? その情けない動き――まるでお前たちの会話に出てきたダイヒレンのようじゃないか」
言い返したかったが言い得て妙だったので言い返せなかった……。
自分でも恰好の悪いことこの上ないとは思っているけども、どうしてもあのセミ頭を見ると力が入らなくなる。
見るだけでデバフをかけてくるとか……。俺にとって最悪の天敵なんだよな……。
情けないけども、誰かコイツとの勝負を代わっていただきたい。
そうだ!
「リン……」
「情けない声で呼ばないでくれる。最初は力の差を見せてやろうとも思っていたけれど、タネが分かった時点でそのインセクトフォークに興味がなくなったのよね」
――……そう……ですか……。
リンの中でジージーは既に強者認定から外されたようで、手ずから分からせる必要なしと判断。
「他者に頼らず自身で戦え!」
「インチキの力に頼ってるヤツには言われたくねえよ!」
「インチキでもペテンでもない。与えられた力を使用しているというのは説明しただろう。貴様が手にする得物と大差は無い」
「ぬぅぅぅぅぅぅ……」
全くもって言い返せない……。
「いい加減に首を渡せ」
「嫌だ!」
自分でも分かるほどの及び腰で残火を構える。
竹刀を初めて握った幼少期でもこうはならなかった……。
「はぁ!」
対して気合い漲るジージーは袈裟斬り。
この一撃を捌くことが出来ない俺……。
受ける事は出来ても、相手のその力を受け流すまでの動きが出来ない。
力及ばずとばかりに後退するだけ……。
受ける剣から伝わってくる技量は、今まで戦ってきた強者と比べれば格下であるということ。
普通の精神で戦えるなら危なげなく勝てる相手なのは間違いない。
でも、現状の俺では駄目すぎる。
「トール! 情けないですよ! 踏ん張って返り討ちにするのです!」
コクリコからの叱咤激励。
今にも横入りして自分が代わろうとしてくれている。
これに加えてシャルナも鏃を向けようとするけど、一騎討ちということから躊躇といったところ。
城壁側もジージーが優勢だからか、攻撃を中断して歓声を上げている。
――そう、こうやって全体を見渡せるくらいの視野の広さはあるんだよ……。
でも目の前のトラウマの全体を見渡せるだけの余裕はないわけで…………。
心の底からの本音が口から零れ出る……。
「兄ちゃん、情けなさすぎるよ……」
「すまん。でも本当に怖い……」
「オイラが側にいるから怖くないって♪」
なんと頼りになる言葉を与えてくれるのだろう。
「羨ましいな」
若干、ベルが嫉妬を滲ませた声音。
このままだと女性陣三人がスパルタになってしまう……。
それは困りもの。
ただでさえトラウマと向き合わないといけないのに、後ろから無理矢理に戦えと背中を押されれば、覚悟も持てないままに挑まないとけいない。
「よぉぉぉぉし!」
「来るか」
「挑んでやるさ!」
でも、
「ちょっと休憩を……」
「阿呆が!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
豪快な振り下ろし。
残火の鎬部分で受ければズシリとくる重さ。
バフを受けているとはいえ、十人張りとかいう耳にしたこともない張力からなる弓を扱うだけあって、膂力は相当。
何よりも……、
「力が出ない……」
俺のメンタルがボロボロにやられているからか、いつものように足に踏ん張りが利かない……。
膝かっくんをくらった時のような力の抜け具合が両膝にずっと残っている感じ。
恐怖から思考も上手く回らず、力をどの部分にかければいいのかが分からなくなってしまっている情けない俺……。
「どうした」
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」
近い近い! そんなにも顔を――その胴体とさほど変わらないデカい頭を俺に近づけないでいただきたい!
じっと両サイドの複眼にて俺を見ないでいただきたい!
真っ黒で生気の宿りを感じないお目々。
それを見れば、アスファルトで仰向けになっていたセミが突如として俺へと向かってきた時の光景がフラッシュバックしてくる。
「兄ちゃん!」
俺が抱く負の感情が相当なもののようで、ミルモンが不安に染まる大声。
当時に右手にくろいバリバリを纏うも、
「これは一騎討ちだ。よもや勇者の側で常に行動する使い魔がそれを反故するのかな?」
「ちぃ!」
ジージーに指摘されれば、悔しそうに舌打ち。
勇者の――俺の戦闘を汚すことは使い魔としてはあってはならないと判断したのか、大人しく右手を取っ手に戻す。
素晴らしいねミルモン。
俺の矜持を汚したくないという思いはとても嬉しいけども……、今回ばっかりはそういったのをガン無視して放ってほしかった!
それで少しでもジージーが俺から距離を置いてくれればどれだけ嬉しかったか……。
「どうした勇者! こんな一振りも捌くことが出来ないのかっ! ドゥルセルを倒したというのは誤報だったようだな」
「相手によるって事だよ」
「先ほどから続く言動。我が見た目を侮辱していると判断していいようだな。つまりは我が種族に対する侮辱にも繋がる!」
「ひょわ!?」
細長い口吻が稼働して俺へと向けば、それで一突き。
顔面直撃コースに首を傾げてなんとか躱すも、ただでさえ足に力が入っていない状況で体のバランスが崩れれば、無様に転倒。
「無様だな」
そう思っていたところですよ……。
言われながらも次の斬り上げを尻餅をついた姿勢のまま、四肢を動かしての高速後退りで回避。
「本当に無様だ。貴様、勇者か? その情けない動き――まるでお前たちの会話に出てきたダイヒレンのようじゃないか」
言い返したかったが言い得て妙だったので言い返せなかった……。
自分でも恰好の悪いことこの上ないとは思っているけども、どうしてもあのセミ頭を見ると力が入らなくなる。
見るだけでデバフをかけてくるとか……。俺にとって最悪の天敵なんだよな……。
情けないけども、誰かコイツとの勝負を代わっていただきたい。
そうだ!
「リン……」
「情けない声で呼ばないでくれる。最初は力の差を見せてやろうとも思っていたけれど、タネが分かった時点でそのインセクトフォークに興味がなくなったのよね」
――……そう……ですか……。
リンの中でジージーは既に強者認定から外されたようで、手ずから分からせる必要なしと判断。
「他者に頼らず自身で戦え!」
「インチキの力に頼ってるヤツには言われたくねえよ!」
「インチキでもペテンでもない。与えられた力を使用しているというのは説明しただろう。貴様が手にする得物と大差は無い」
「ぬぅぅぅぅぅぅ……」
全くもって言い返せない……。
「いい加減に首を渡せ」
「嫌だ!」
自分でも分かるほどの及び腰で残火を構える。
竹刀を初めて握った幼少期でもこうはならなかった……。
「はぁ!」
対して気合い漲るジージーは袈裟斬り。
この一撃を捌くことが出来ない俺……。
受ける事は出来ても、相手のその力を受け流すまでの動きが出来ない。
力及ばずとばかりに後退するだけ……。
受ける剣から伝わってくる技量は、今まで戦ってきた強者と比べれば格下であるということ。
普通の精神で戦えるなら危なげなく勝てる相手なのは間違いない。
でも、現状の俺では駄目すぎる。
「トール! 情けないですよ! 踏ん張って返り討ちにするのです!」
コクリコからの叱咤激励。
今にも横入りして自分が代わろうとしてくれている。
これに加えてシャルナも鏃を向けようとするけど、一騎討ちということから躊躇といったところ。
城壁側もジージーが優勢だからか、攻撃を中断して歓声を上げている。
――そう、こうやって全体を見渡せるくらいの視野の広さはあるんだよ……。
でも目の前のトラウマの全体を見渡せるだけの余裕はないわけで…………。
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