上 下
1,446 / 1,668
前準備

PHASE-1446【準備と装備は入念に】

しおりを挟む
「偉観」
 と、俺の心の中を覗き込んだようなタイミングで先生が口を開く。

「一騎当千、万夫不当でも物足りない。天下無双と称するべき方々。二人といないという意味である無双の時点で矛盾していますが」
 と、継げば、

「それだけの英傑が揃っているということが喜ばしいよな! 荀彧殿!」
 と、王様。

「トール。そして各々方。次なる道を切り開くため、その力をこの世界の為に振るっていただきたい」
 国のトップが俺達に深々と頭を下げる。
 見栄など一切無い、自然体からの動作。
 王という立場が易々と頭を下げる。
 最高権力者なのだからただ一言、その地へと向かえ。と言うだけでいいんだろうけど、この王様はそんなことはしない。
 だからこそ慕われるんだろう。

「切り開いた道の上を一緒に進みましょう」

「轡を並べて最前線を共に進もう!」

「王と共に、勇者にして公爵である主が轡を並べて進むとなれば、この大陸でいまだ力を温存している者達も重い腰を上げてくれることでしょう。まあ、上げないなら上げさせるだけですが」
 語末の方で先生が怖い笑みを湛える。
 天空要塞攻略が成功したとなれば、要塞に囚われている水龍タレスを救い出すことになる。
 そうなると要塞トールハンマーより南に充満している瘴気の浄化に繋がる。
 
 南伐へと移行することになれば、魔王軍の中でも最大戦力を誇る蹂躙王ベヘモトとの直接対決がまっている。

「南伐となれば三百万が待っているわけだな」

「正面からの戦いとならぬよう、工夫はしますよ」
 と、俺の独白を拾ってくれる先生の笑みは、さっきよりも悪い笑みになっていた。
 この笑みを湛えた時の先生には、最強の存在であるベルとゲッコーさんも重圧を感じてしまうのか、背筋を真っ直ぐに伸ばした姿になるんだよね。
 やはりこの面子で一番おっかない存在は先生なのかもしれない。
 袁本初の如しとか以前言っていたからな。それに近い方法で蹂躙王ベヘモトの勢力を弱体化させてくれると信じたい。

 そうするためにも、

「準備が整い次第、天空要塞フロトレムリに居座る翼幻王ジズと出会ってみようじゃないか。話し合いか戦いか」

「是非とも後者であってほしいですね!」
 ぶれないコクリコ。
 後者となった場合、その漲る力に頼らせていただこう。

 ――。

「買うってのが謙虚だの」

「そりゃ買うよ。買わないと経済が回らないだろう」

「真面目なこって」
 執務室から解散し、各々準備に取りかかる。
 白んでいた空から今は朝日が上がり、ギルドハウス一階ではギルドメンバーだけでなく、野良の冒険者の方々もクエストの張り紙と睨み合い。
 案牌なクエストで済ませようとする者もいれば、「やってやる!」と意気込んで難易度の高いのを選ぼうとしている者もいる。
 あまりにも身の丈に合っていなかったのか、それを止めて悟らせるのは、認識票の色が一段階上の者。

 そんな面々を見渡していれば、

「会頭は張り出されている依頼なんぞが霞んでしまうくらいの最高難易度の案件に挑むんだよな~」
 俺が購入したハイポーションとアンチドーテを包んでくれるギムロンが、俺の視線を追いかけながら言う。

「当たり前のようにハイポーションが大量に出回ってきたのはいいよね」

「だの。生存率が高くなるのはありがたいもんよ。でも、アンチドーテは会頭には必要ないだろう」

「俺じゃなくても他が――主にコクリコが無茶した時のことを考えないといけないからな。対応できる手段は多い方がいいだろ」

翼幻王ジズの根城に赴くんだからな。毒も猛毒って考えた方がいいだろうな」

「ハイクラスの連中なんて相手にしたくないのが本音だけどな」

「ワシからは武運を――としか言えん。あと出来ることとなると、餞別でハイポーションを何本か奢るくらいだの」

「有り難う。というか、ギムロンも天空要塞の旅に参加してもいいんだぞ」

「いやいや。一緒には行けないの~。ワシが行けば足を引っ張るだけよ。会頭のメインパーティーの中に参加なんて荷が重すぎる」
 ギムロンの実力なら問題ないとも思うけども――、

「ギムロンにはギムロンに出来る事をお願いしないとな!」

「一級品から新人が手に入れやすい粗製まで。装備の生産は任せとけ!」
 と、樽型ボディで胸を張れば、胸よりも腹の方が主張してくる。
 ――自信を得て戻ってきたパロンズ氏。
 そしてキュクロプス三兄弟であるアルゲース氏。ステロペース氏。ブロンテース氏の登用によって、大型の装備は一括して任せる事が出来るから、今まで以上に自分の得意分野での装備生産に力を入れることが出来るとのこと。

「頼もしいね」
 俺の左肩からの声に、

「どれ、お前さんの装備も見てやる」

「お宅から貰ったサーベルだからね。見てもらえると助かるよ」
 小さなお手々が巌のような手にちょこんとサーベルを乗せる。
 ミスリルコーティングされたギムロン手製のサーベル。
 144/1のプラモに似合いそうな8㎝くらいの長さからなるサーベルを眺めつつ――、

「流石ワシが作ったモノ」
 と、自画自賛。
 使用されている形跡もあるが手入れをするほどではない。と言いながらも、わずかに付着した脂と血痕が気になったようで、布でそれらを拭き取り、刀油を塗布してから鞘へと戻しミルモンへと返す。

「使用した後はちゃんと手入れもしとけよ」
 ミスリルコーティングがされてはいても、完全なミスリルじゃないから付着した血が原因で錆びることもあるぞ。と、注意。

 もしそういった心配がない装備だったとしても、手入れはちゃんとしないとな。と続けるギムロンの発言に、俺自身も今以上に入念な手入れを行おうと肝に銘じる。
 大切に扱えば、装備もそれに応えてくれるからね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

処理中です...