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PHASE-1437【ボドキン】
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「よっし!」
左肩ではミルモンが小さなお手々でガッツポーズ。
地面を揺らした一本背負いに勝利を確信したご様子。
俺もそうしたいのは山々だけど、ここでも残心はまだ尚早。
投げた状態で手首を捻りつつ、ガルム氏の動きに制約をかけながら、この後どういった反撃が来るかを警戒。
長い足による蹴り上げ。
鞭のように撓らせての尻尾攻撃。
隙は見せないとばかりに全身を見ながら、ガルム氏の目にも睨みを利かせる。
「こ、ここで、抗いたいが……」
呼吸がままならないガルム氏の発言から、次に述べるであろう言葉を察しつつ、続きを待てば――、
「俺の……負けだな……」
と、期待していた強者からの敗北宣言。
「よっし!」
ミルモンに続いて俺も同じ台詞を発する。
ガルム氏の敗北宣言と俺の喜びの声。
「勝者――我らが会頭!」
クラックリックが全体へと伝える。
我らがとか言ってる時点で、審判の公平性を疑ってしまいそうだけども、別段、戦闘自体に関与をしているわけじゃないのは皆、理解しているからいいか。
理解しているからこそ、
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」」」」
本日最高の歓声が上がるんだからね。
「みんな喜んでるね♪」
言うミルモンも喜色の声。
「喜んでくれるのは嬉しいけども、はたとなると後悔もするかもな」
「――ああ」
一瞬何のことなのか分かっていなかったミルモンだったが、理解すれば鷹揚に頷いていた。
俺が勝利したことで、ガルム氏に賭けた者達は損をし、俺に賭けても俺の方が人気があったから、利益となるだけの配当金は得られなかっただろうからな。
戦いを始める前にガルム氏にはそう宣言していたけどね。
有言実行した俺は――、
「実に強者!」
と、自賛。
「その通りだ――勇者。勇者は強者だよ」
仰向けからようやく立ち上がれば、そう言ってくれる。
称賛の間も「あたた……」と言う辺り、背中のダメージはかなりのものだったようだ。
「相手が相手なので手加減できませんでした」
「いや、問題ない。戦いなのだから当然だ」
痛みを表情に浮かべながらも笑みを湛えてくれる。
「悪いところが出たな」
ここで翁がリズベッドと共に俺達の所へとやって来れば、ガルム氏に一言。
攻撃にばかり注力し、守らなければならないところでそれを怠った。
最後の鬩ぎ合いにて、オーラアーマーを拳打にばかり傾けずに防御にも振れば。まだ戦いは分からなかっただろう。と、俺も思っていたことを翁も述べる。
得物からして一撃重視であるガルム氏だからこそ、ここぞの時には攻撃に注力してしまうのでしょう。と、俺も口に出せば、当人もそれは理解していた。
が、どうしても攻撃に傾いてしまうと反省の弁。
――俺達が検討をする中、
「回復しますね」
見上げるリズベッドに対してガルム氏は丁重にお断り。
「敗北を噛みしめて次に活かしたいので、この痛みに治療は不要です」
とのことだった。
敗北を喫してもそれを素直に受け入れて、無駄な言い訳はしないという姿は手本にしなければならない。
清々しい方である。
ガルム氏のような恰好のいい存在にならないとな。
「しかしここぞで打ち込まれたボドキンの威力は、ブーステッドによる限界突破もあってすこぶる威力だった。一撃で豺覇から吹き飛ばされるとは思いもしなかったぞ」
――…………。
――……?
「ボド……キン? 俺が使用したのはマスリリースの刺突バージョンですよ」
「そうか。勇者は自分が使用したピリアを理解しないままに使用したわけだな。つまりは自身の想像から生み出したか」
「この世界でのマナはイメージも大事みたいですからね」
「だが生み出すのは至難の業でもある。それをやってのけたか」
「嬉しい反面、既にある技だと知れば、残念な気持ちにもなります」
「いや習得を喜べばいい。ボドキンはピリアの上位に入るものだからな」
「上位習得と聞けば、嬉しくなりますね」
――ボドキン。貫通能力を持つ攻撃型の上位ピリア。
威力はブーステッド有りきだったけども、ガルム氏の豺覇を破ることが出来る威力だった。
攻撃型中位ピリアであるマスリリースに比べると射程は短いとのこと。
至近にて真価を発揮する攻撃型上位ピリア。
マスリリースと違って刀剣から打ち出す技ではなく、本来は白打――拳打や蹴撃の四肢から放つという。
「てことは、木刀から放っていたと思っていたけども――」
「その実、勇者の拳から放っていたということだ」
だから木刀が折れても打ち込むことが出来たってことなのか。
「念のために素手でも出来るか試してみれば?」
ミルモンの提案。
無手にて出す事が出来れば、間違いなく習得しているって事だからな。
「では――プロテクション。ストーンウォール」
ここでリズベッドが二つの魔法を使用してくれる。
「プロテクションを打ち破って、ストーンウォールに当ててみてください」
「これは良い試しが出来そうだよ。有り難う」
言えば愛らしい笑みを見せてくれた。
庇護欲に駆られる笑み。常時発動であるパッシブスキルとしては強力なものだな。
「かわいい……。尊い……」
再びミルモンからの可愛い+尊い発言。
小悪魔ミルモン。前魔王をやっぱり崇拝対象にしそうだな。
この場にベルがいたらさぞ羨ましがっただろう。
自分もミルモンにそんな言葉をかけられたいという思いで。
左肩ではミルモンが小さなお手々でガッツポーズ。
地面を揺らした一本背負いに勝利を確信したご様子。
俺もそうしたいのは山々だけど、ここでも残心はまだ尚早。
投げた状態で手首を捻りつつ、ガルム氏の動きに制約をかけながら、この後どういった反撃が来るかを警戒。
長い足による蹴り上げ。
鞭のように撓らせての尻尾攻撃。
隙は見せないとばかりに全身を見ながら、ガルム氏の目にも睨みを利かせる。
「こ、ここで、抗いたいが……」
呼吸がままならないガルム氏の発言から、次に述べるであろう言葉を察しつつ、続きを待てば――、
「俺の……負けだな……」
と、期待していた強者からの敗北宣言。
「よっし!」
ミルモンに続いて俺も同じ台詞を発する。
ガルム氏の敗北宣言と俺の喜びの声。
「勝者――我らが会頭!」
クラックリックが全体へと伝える。
我らがとか言ってる時点で、審判の公平性を疑ってしまいそうだけども、別段、戦闘自体に関与をしているわけじゃないのは皆、理解しているからいいか。
理解しているからこそ、
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」」」」
本日最高の歓声が上がるんだからね。
「みんな喜んでるね♪」
言うミルモンも喜色の声。
「喜んでくれるのは嬉しいけども、はたとなると後悔もするかもな」
「――ああ」
一瞬何のことなのか分かっていなかったミルモンだったが、理解すれば鷹揚に頷いていた。
俺が勝利したことで、ガルム氏に賭けた者達は損をし、俺に賭けても俺の方が人気があったから、利益となるだけの配当金は得られなかっただろうからな。
戦いを始める前にガルム氏にはそう宣言していたけどね。
有言実行した俺は――、
「実に強者!」
と、自賛。
「その通りだ――勇者。勇者は強者だよ」
仰向けからようやく立ち上がれば、そう言ってくれる。
称賛の間も「あたた……」と言う辺り、背中のダメージはかなりのものだったようだ。
「相手が相手なので手加減できませんでした」
「いや、問題ない。戦いなのだから当然だ」
痛みを表情に浮かべながらも笑みを湛えてくれる。
「悪いところが出たな」
ここで翁がリズベッドと共に俺達の所へとやって来れば、ガルム氏に一言。
攻撃にばかり注力し、守らなければならないところでそれを怠った。
最後の鬩ぎ合いにて、オーラアーマーを拳打にばかり傾けずに防御にも振れば。まだ戦いは分からなかっただろう。と、俺も思っていたことを翁も述べる。
得物からして一撃重視であるガルム氏だからこそ、ここぞの時には攻撃に注力してしまうのでしょう。と、俺も口に出せば、当人もそれは理解していた。
が、どうしても攻撃に傾いてしまうと反省の弁。
――俺達が検討をする中、
「回復しますね」
見上げるリズベッドに対してガルム氏は丁重にお断り。
「敗北を噛みしめて次に活かしたいので、この痛みに治療は不要です」
とのことだった。
敗北を喫してもそれを素直に受け入れて、無駄な言い訳はしないという姿は手本にしなければならない。
清々しい方である。
ガルム氏のような恰好のいい存在にならないとな。
「しかしここぞで打ち込まれたボドキンの威力は、ブーステッドによる限界突破もあってすこぶる威力だった。一撃で豺覇から吹き飛ばされるとは思いもしなかったぞ」
――…………。
――……?
「ボド……キン? 俺が使用したのはマスリリースの刺突バージョンですよ」
「そうか。勇者は自分が使用したピリアを理解しないままに使用したわけだな。つまりは自身の想像から生み出したか」
「この世界でのマナはイメージも大事みたいですからね」
「だが生み出すのは至難の業でもある。それをやってのけたか」
「嬉しい反面、既にある技だと知れば、残念な気持ちにもなります」
「いや習得を喜べばいい。ボドキンはピリアの上位に入るものだからな」
「上位習得と聞けば、嬉しくなりますね」
――ボドキン。貫通能力を持つ攻撃型の上位ピリア。
威力はブーステッド有りきだったけども、ガルム氏の豺覇を破ることが出来る威力だった。
攻撃型中位ピリアであるマスリリースに比べると射程は短いとのこと。
至近にて真価を発揮する攻撃型上位ピリア。
マスリリースと違って刀剣から打ち出す技ではなく、本来は白打――拳打や蹴撃の四肢から放つという。
「てことは、木刀から放っていたと思っていたけども――」
「その実、勇者の拳から放っていたということだ」
だから木刀が折れても打ち込むことが出来たってことなのか。
「念のために素手でも出来るか試してみれば?」
ミルモンの提案。
無手にて出す事が出来れば、間違いなく習得しているって事だからな。
「では――プロテクション。ストーンウォール」
ここでリズベッドが二つの魔法を使用してくれる。
「プロテクションを打ち破って、ストーンウォールに当ててみてください」
「これは良い試しが出来そうだよ。有り難う」
言えば愛らしい笑みを見せてくれた。
庇護欲に駆られる笑み。常時発動であるパッシブスキルとしては強力なものだな。
「かわいい……。尊い……」
再びミルモンからの可愛い+尊い発言。
小悪魔ミルモン。前魔王をやっぱり崇拝対象にしそうだな。
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