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前準備

PHASE-1430【奥の手待ち】

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 ――……良い例とはいえ……。

 ――……やべえな……。

「勝ち筋が見えねえ……」
 独白のつもりだったけども……、

「これは大層にやりづらい相手のようだね」
 ミルモンがしっかりと返してくれる。
 こちらの弱音は、再燃した歓声によってガルム氏には届かなかったものの、こちらの曇った表情は見逃してくれなかったようで、

「では、今度はこちらから――」
 言いつつ仕掛けてくる動きは、俺を迎撃してきた時と同様の動き。
 左右に長棒を激しく振り回しながらこちらへと接近。
 その最中に長棒からは視認できる青色の衝撃波がいくつも放たれてくる。

「マスリリース」
 両手の木刀を二回振っての斬光で対応できるのは同数だけ。

「こりゃ躱すのに集中した方がいいな」

「躱すだけで精一杯で、相手に近づくのが難しそうだよね」

「そこは問題ないだろう。勝手に近づいて来てくれてるからな」
 零距離まで接近すれば、天破槍嵐って技は使ってこないだろうからな。
 こうなりゃ接近戦で一気に勝負を――、

「ハッ!」
 小気味の良い裂帛からガルム氏の跳躍。
 またも壁上まで届く高さまで舞う。

「空中から一方的に遠距離攻撃ってことみたいだね」

「クレバーなことで」
 でも、離れたら離れたで、距離が開いた状態だから衝撃波は回避しやす……くぅ!?

地壊雨槍じかいうそう!」

「インチキ!」
 なんだよその攻撃!
 ガルム氏、俺の直上で高速の突き。
 突きが一つ行われる度に野球ボールサイズの青い球体が降り注いでくる。
 衝撃波よりも小型。数は衝撃波以上。
 且つ速い。

「兄ちゃん右」

「右とかって次元じゃないのよ……」
 降り注いでくる球体の雨を懸命に回避。
 無理なのは木刀で切り払っていく。
 払う度に握る柄から手に重さが伝わってくる。
 球体の威力は強力。
 さながら小型のメテオ。

 ――――……なんとか凌げたな……。
 ――……俺の周囲の地面は、球体によって同サイズの穴が無数に出来上がっていた。

「極度の集合体恐怖症の人なら、間違いなく寒気を覚えている光景だな……」
 俺は別の意味で寒気を覚えるけど。
 こんなのを大量に遠距離から放てるのは口にも出したがインチキすぎる。
 魔法がいらないじゃないか……。

「ほう、耐えきったか」

「なんとか……」
 音も無く着地すると、こちらを称賛。
 迎撃と地上に向けての二種類の遠距離攻撃を繰り出して立っている者は中々に少ないという。
 基本、このスタイルでガルム氏は敵対する者たちをほぼ倒してきたそうだ。

「ほぼね。じゃあ、この二種類の攻撃を攻略したヤツはどうなったんだい?」
 自慢の攻撃を自分の主である俺が対処したことで、質問するミルモンの声は上機嫌になっている。
 相手が手の内を晒したと思っているからか、後は俺が攻撃に転じて勝てると信じてくれているようだ。
 俺はガルム氏の次の発言を耳にするまでは、油断はしないし楽観もしないけどね。

「対処されたら――か。簡単だ。今まで以上の力で叩きつぶす」
 ――……ほら見たことか。あるじゃねえか……。
 二パターンの遠距離攻撃を超える攻撃が存在するのか……。

「それを見た者達は、ガルム氏の前に悉く倒れていったんでしょうね」

「悉くではないがな。突破され敗北も味わっている」

「それを聞いて安心しましたよ。倒せるってことですからね。で、それを突破される事で敗北したって事は、ガルム氏にとって奥の手と考えていいですよね?」

「言葉の端々から推測できる者は好きだぞ」

「どうも。強者に認められるのは嬉しい限りです」

「ならば、もっと好感を抱かせる存在になってほしいな」

「つまりは自分に勝ってみせろ。ってことですね」

「そうなる。俺程度に勝てないようなら、この先、己一人では何も出来なくなる。強き仲間に縋るばかりの一生となるだろう」

「それは何とも恰好の悪い一生ですね」

「そうだろう」
 ――だったら、期待に応えるためにも――、

「勝たせてもらいますよ」

「気概や――良し!」
 強気な発言にガルム氏も同様の語気で返してくれば、空気が変わる。
 大局を左右するものが今から始まる! と、第六感とも言うべきもので観衆も悟ったのか、腰を落として構えるガルム氏の動きを目にすれば静まり返り、見ることだけに傾倒。

「隙だらけだよね」

「そう見るべきなのかな」
 動きを止めて構える姿は手にしていた長棒を地面に突き刺してのもの。
 武器を手放した無手による構えは、狙ってくださいと言っているようにも見える。
 だからこそ攻め辛い。
 確実に誘っているからな。

「ここで見続けていれば相手が有利になるだけだよ。攻めた方が良いよ」

「そうなんだけども、やり取りの後だからな」

「奥の手を発動してから倒さないと意味ないって事?」

「やり取りの手前な。実戦なら即座に狙わないといけないんだろうけども」
 勇者としての矜持で背後からの攻めを躊躇している俺を下らないと一蹴するガルム氏。
 そんなガルム氏が集中しているところを狙わないと、これまた下らない矜持と言われるかもしれないが――、

「最高難易度の強者に挑んで勝利する事にこそ価値がある!」

「別段、攻撃してきても良かったのだけどな。その甘い矜持に感謝をしつつ、我が最高の力で敗北をくれてやる」

「丁重にお断りして、こちらから同様のモノをプレゼントしてやりますよ!」
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