1,428 / 1,668
前準備
PHASE-1428【下らない】
しおりを挟む
こちらが×の字を刻めば、即座に見舞われた箇所をファースンからアンリッシュに転向。
ガリオンのオリジナルだったはずのニージュに酷似した技にて反撃されつつも――、
「そいやっ!」
衝撃を受けて、痛みもあれば吹き飛ばされそうにもなる中、両足に根を張るイメージで踏ん張り、衝撃に耐えながら一撃を打つ。
「チッ!」
強者であるガルム氏から聞こえてくる舌打ち。
その舌打ちの音に近い音が、レザーローブの方からも聞こえてくる。
つまりは――、
「かすった程度か」
×の字マスリリースで剥がしたオーラアーマーの部分に、右での胴打ちを見舞ってはみたものの、
「直撃――ならじ」
「だったとしても、こちらに触れてきたな……。流石と言うべきだな。出来ればこちらが先に一撃を与えたかったんだがな」
かすった程度でしかなかったが、一撃は一撃と判断したようだ。
だからだろう。俺に先手を取られたことが悔しかったようで、牙を軋らせていた。
「しかし、一本というにはほど遠い一撃でした」
俺なんてニージュ(仮)でダメージを受けているし。
ガルム氏は得物や白打によるダメージでないと納得しないようだけど。
「謙虚だな。謙虚すぎる。誇ることを知らない」
「なんだいその小馬鹿にしたような声音は!」
ガルム氏の発言にミルモンがお怒り。
「事実を述べているだけだ使い魔よ。本来ならもっと強烈な一撃をくらっていたかもしれん。だが勇者が謙虚ゆえにこの程度ですんだ」
「なに言ってんだか」
「口で言うより実行した方が伝わるだろう」
言いつつガルム氏、身を低くしつつ疾駆。
アクセルを使用していないのは見て取れるが――、
「だとしても速いっての!」
でもって、
「捕捉しづらい!」
ガルム氏の移動は、一足飛びにて距離を一気に詰めてくるという線を書くような移動ではなく、細かな足取りでの移動。
直線ではなくジグザグ。
稲妻を彷彿とさせてくるフェイントによる移動。
「サッカードが過ぎるよ俺の目!」
俺の眼球は忙しなく小刻みに動いていることだろう。
全くもって捉えにくい!
で、こちらが翻弄されていると分かったところで……、
「アクセル」
俺との距離が縮まったところでアクセルを発動。
背後からの気配に即反応。
初撃の時のような受け方はせず、上段からの振り下ろしを右の木刀で受けつつ、力で受け止めるということはせず、横に寝かせた木刀の切っ先を下方へと向けて長棒をいなし、ガルム氏の体勢を崩したところで反転し、こちらもダメージ覚悟の零距離マスリリースを左で放つ。
衝撃でファースンが薄まったところに、右の木刀にて袈裟斬りを仕掛けようとしたところで、
「あだっ!?」
ビシンッという音が俺の左太股から響く。
鞭で打たれたかのような痛みが走り、遅れてジンジンと熱くなる。
体勢を崩しながらのローキックを見舞われたかと思ったが――、
「……だったな。人間とは違うんだよな」
次なる追撃が来る前にバックステップで距離を取ったところで、鼻っ面をかすめてくるのは赤銅色の尻尾。
コボルトであるコルレオンも尻尾を上手く使っていたけど、ヴィルコラクであるガルム氏の使い方はヤヤラッタ同様、鞭のような攻撃。
火龍装備だってのにジンジンと痛みが伝わってくるのは、纏っているピリアが原因なんだろうな。
「ハッ!」
「て、またかよ……」
体勢を整えると同時にアクセル。
攻めてくるのはやはり背後から。
これもいなして距離を取る。
「背後からばっかり! 卑劣の極だよ!」
「背後を取るのは戦いの基本だろう。卑劣とは言い訳でしかないぞ使い魔」
「なにおう!」
「戦いとは生きるか死ぬかだ。生き残る為には生物の弱点でもある背後を取るのは当然。そもそも背後を取られるような立ち回りしか出来ないのが悪いのだ」
「ぬぅぅぅぅぅ……」
論破されたようで、ミルモンは言い返せない。
「だというのに勇者はそれをしない。攻めるにしても側面からばかり。別段、悪くはないが、背後から攻めてこないと分かれば、それ以外を警戒すればいいだけだから対応もしやすい」
こちらの攻めのバリエーションが一つ消えているのは確かだからな。
「心境の変化かな? 以前はそんな事はなかったようだが。――よもや勇者たるものという矜持が芽生え、背後から襲うは卑劣。などという下らない思考になってしまったか?」
「下らないですか」
「下らないな」
そんな事で攻撃のパターンを削るとは下らない。
戦いに負ければ世界がショゴスの手に落ちるという状況だというのに、その下らない矜持で自身を死の縁に立たせるのは下らない。
下らないのオンパレードに対し、言葉の応戦が出来ないのも事実。
実際、矜持だからな。
デミタス戦での戦いがなんとも情けない背後からの一撃による辛勝――という名の見逃してもらうという幕引き。
そういった経緯があるからこそ、背後を取らなくても相手を倒せるだけの実力を得たいと決意を固めている。
だが眼前の相手はそんなことはお構いなしで、
「さあ背後から狙ってこい。背後を取れるということは、それだけで実力が上回るということだ」
強者だからこそ背後に回り込め――か。
「じゃあ、お宅は兄ちゃんより実力があるって言いたいんだね」
「――そうだな。この状況が続くようなら負けないだろう」
「兄ちゃん! あいつに圧倒的な実力差ってのを見せてあげなよ!」
それが出来たら苦労しないよミルモン……。
使用マナがピリアに限定されていることもあるけども、単純に膂力でも負けている。
「どうした? どうしても自分からは仕掛けづらいか? こちらの方が実力が上と判断していいかな? ならば参ったと言えばいい。ここで止めてやろう」
両腕を広げて悠々とした姿で発してくれば、俺の代わりに挑発として受け取ったミルモンの顔面は朱の盆の如し。
ガリオンのオリジナルだったはずのニージュに酷似した技にて反撃されつつも――、
「そいやっ!」
衝撃を受けて、痛みもあれば吹き飛ばされそうにもなる中、両足に根を張るイメージで踏ん張り、衝撃に耐えながら一撃を打つ。
「チッ!」
強者であるガルム氏から聞こえてくる舌打ち。
その舌打ちの音に近い音が、レザーローブの方からも聞こえてくる。
つまりは――、
「かすった程度か」
×の字マスリリースで剥がしたオーラアーマーの部分に、右での胴打ちを見舞ってはみたものの、
「直撃――ならじ」
「だったとしても、こちらに触れてきたな……。流石と言うべきだな。出来ればこちらが先に一撃を与えたかったんだがな」
かすった程度でしかなかったが、一撃は一撃と判断したようだ。
だからだろう。俺に先手を取られたことが悔しかったようで、牙を軋らせていた。
「しかし、一本というにはほど遠い一撃でした」
俺なんてニージュ(仮)でダメージを受けているし。
ガルム氏は得物や白打によるダメージでないと納得しないようだけど。
「謙虚だな。謙虚すぎる。誇ることを知らない」
「なんだいその小馬鹿にしたような声音は!」
ガルム氏の発言にミルモンがお怒り。
「事実を述べているだけだ使い魔よ。本来ならもっと強烈な一撃をくらっていたかもしれん。だが勇者が謙虚ゆえにこの程度ですんだ」
「なに言ってんだか」
「口で言うより実行した方が伝わるだろう」
言いつつガルム氏、身を低くしつつ疾駆。
アクセルを使用していないのは見て取れるが――、
「だとしても速いっての!」
でもって、
「捕捉しづらい!」
ガルム氏の移動は、一足飛びにて距離を一気に詰めてくるという線を書くような移動ではなく、細かな足取りでの移動。
直線ではなくジグザグ。
稲妻を彷彿とさせてくるフェイントによる移動。
「サッカードが過ぎるよ俺の目!」
俺の眼球は忙しなく小刻みに動いていることだろう。
全くもって捉えにくい!
で、こちらが翻弄されていると分かったところで……、
「アクセル」
俺との距離が縮まったところでアクセルを発動。
背後からの気配に即反応。
初撃の時のような受け方はせず、上段からの振り下ろしを右の木刀で受けつつ、力で受け止めるということはせず、横に寝かせた木刀の切っ先を下方へと向けて長棒をいなし、ガルム氏の体勢を崩したところで反転し、こちらもダメージ覚悟の零距離マスリリースを左で放つ。
衝撃でファースンが薄まったところに、右の木刀にて袈裟斬りを仕掛けようとしたところで、
「あだっ!?」
ビシンッという音が俺の左太股から響く。
鞭で打たれたかのような痛みが走り、遅れてジンジンと熱くなる。
体勢を崩しながらのローキックを見舞われたかと思ったが――、
「……だったな。人間とは違うんだよな」
次なる追撃が来る前にバックステップで距離を取ったところで、鼻っ面をかすめてくるのは赤銅色の尻尾。
コボルトであるコルレオンも尻尾を上手く使っていたけど、ヴィルコラクであるガルム氏の使い方はヤヤラッタ同様、鞭のような攻撃。
火龍装備だってのにジンジンと痛みが伝わってくるのは、纏っているピリアが原因なんだろうな。
「ハッ!」
「て、またかよ……」
体勢を整えると同時にアクセル。
攻めてくるのはやはり背後から。
これもいなして距離を取る。
「背後からばっかり! 卑劣の極だよ!」
「背後を取るのは戦いの基本だろう。卑劣とは言い訳でしかないぞ使い魔」
「なにおう!」
「戦いとは生きるか死ぬかだ。生き残る為には生物の弱点でもある背後を取るのは当然。そもそも背後を取られるような立ち回りしか出来ないのが悪いのだ」
「ぬぅぅぅぅぅ……」
論破されたようで、ミルモンは言い返せない。
「だというのに勇者はそれをしない。攻めるにしても側面からばかり。別段、悪くはないが、背後から攻めてこないと分かれば、それ以外を警戒すればいいだけだから対応もしやすい」
こちらの攻めのバリエーションが一つ消えているのは確かだからな。
「心境の変化かな? 以前はそんな事はなかったようだが。――よもや勇者たるものという矜持が芽生え、背後から襲うは卑劣。などという下らない思考になってしまったか?」
「下らないですか」
「下らないな」
そんな事で攻撃のパターンを削るとは下らない。
戦いに負ければ世界がショゴスの手に落ちるという状況だというのに、その下らない矜持で自身を死の縁に立たせるのは下らない。
下らないのオンパレードに対し、言葉の応戦が出来ないのも事実。
実際、矜持だからな。
デミタス戦での戦いがなんとも情けない背後からの一撃による辛勝――という名の見逃してもらうという幕引き。
そういった経緯があるからこそ、背後を取らなくても相手を倒せるだけの実力を得たいと決意を固めている。
だが眼前の相手はそんなことはお構いなしで、
「さあ背後から狙ってこい。背後を取れるということは、それだけで実力が上回るということだ」
強者だからこそ背後に回り込め――か。
「じゃあ、お宅は兄ちゃんより実力があるって言いたいんだね」
「――そうだな。この状況が続くようなら負けないだろう」
「兄ちゃん! あいつに圧倒的な実力差ってのを見せてあげなよ!」
それが出来たら苦労しないよミルモン……。
使用マナがピリアに限定されていることもあるけども、単純に膂力でも負けている。
「どうした? どうしても自分からは仕掛けづらいか? こちらの方が実力が上と判断していいかな? ならば参ったと言えばいい。ここで止めてやろう」
両腕を広げて悠々とした姿で発してくれば、俺の代わりに挑発として受け取ったミルモンの顔面は朱の盆の如し。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる