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前準備
PHASE-1408【有意義に過ごそう】
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「ふぅぅぅぅ……」
先生が長嘆息を漏らしながら、ドカリと音を立ててソファに座り込む。
背もたれに体を預けるだらけた姿は珍しい。
「長時間の交渉ご苦労様でした」
「おっと、そうでした」
座ったと思えば矢庭に立ち上がり、
「お帰りなさい。主」
「無事、戻る事が出来ました。結果も得てきましたよ」
返しつつ、ソファへと座るように促す。
キュクロプス三兄弟。エビルレイダー。要塞防衛のこともちゃんと耳にしており、成し遂げた俺達に称賛を送ってくれる。
加えて、
「先ほどは見事でした。相手を肯定しつつも断る。主も処世術が身についてきているようですね」
「先生から人誑しと言われるだけあるでしょう」
「全くもって素晴らしい」
才人に褒めてもらえるのは自信に繋がるから嬉しい。
この世界に来てからというもの、口先だけで相手を手玉にとるようなことも経験してきたからな。
エルフの国では、ポルパロングに希望的観測による口先だけで立ち回ったことを思い出すよ。
「困った御仁ですが、才なしとは言えないのですよ」
「自信家のようでしたけども、こちら――特に公爵である俺を敵に回さないように退く時には退きましたね」
「ええ、伯爵の位にいるには十分な才覚を持っております」
「頼りになる人物という存在だけなら嬉しいんですけどね」
「自信。そしてそれを裏打ちするだけの才能。故に傲慢にもなってしまいます。まだまだ交渉に手を焼きそうです」
疲れを感じさせる発言ではあるんだけども、その中には何とも楽しげな声音も混ざっている。
面倒くさい人物ではあっても、討論を行えるのが先生は以外と嬉しかったりするのかもしれない。
「しかし、先生も痛いところを突かれなくて良かったですよね」
「痛いところ――ですか?」
「はい。このギルドも紙の製造と販売は独占していると突っ込まれたら、返答は難しかったのでは?」
「それはない」
と、ここでゲッコーさんが俺の考えをすっぱりと切ってくる。
「ポーションもだが紙もこのギルド独自だからな。紙は蔡倫式製造法。この地ではこのギルドが生み出した物として考えていい。それを独占するのは別段、悪い事じゃない。それを商人に分け隔てなく売っているのだからな。生み出した技術の独占と独占契約は違うということだ」
ポーション製造の責任者である蔵元からもっともな答えをいただく。
「しつこい交渉を仕掛けてはくるでしょうが、そういった部分から切り込んでくるということはしないでしょうね」
と、先生。
ハダン伯は自信が過剰に満ちあふれてはいるけども、偏屈を並べての破綻した論破はしてこない人物だと評価。
俺と先生は評価しているけども、マイヤたち側で護衛をしていたギルドメンバーは渋面になっているから、伯に対する印象はよくないようだ。
「どうぞ」
――ここで俺達のやり取りを見計らい、わずかに生まれた間にスマートに入ってくるベルがお茶を出してくれる。
先生だけでなく俺にも出してくれるというのが嬉しかった。
先生と共に礼を言い、一口含む。
砂糖入りの紅茶。
交渉で使った頭への糖分補給は最高だったようで、先生の男前な顔がほころぶ。
先生の顔に免疫がない女性がこの場にいたなら、間違いなくこの綻んだ表情で恋してしまうことだろう。
「しかし解せぬ所もあります」
「なんです?」
「護衛の数です」
「多かったですね」
「ええ、最初は友好的に交渉をしない恫喝に近いものかとも思いましたが、交渉自体はいたって普通でしたからね」
「人間以外も普通に活動している王都だから、護衛する者達が過剰に反応したということでしたけども、そうだとしてもこちらには悪い印象しか与えないですよね。それでも主を守りたいという護衛たちの忠誠心には感心しますけども」
「そうとも考えられますし、そうじゃない別の思惑もあるのかもしれませんね」
「別の思惑ですか?」
「折れた剣では、賢い人物はどこへ小石を隠すか? 浜辺に。木の葉をどこへ隠すか? 森の中に。と、ありますからね」
「ブラウン神父か」
「その通りです」
先生とゲッコーさんだけしか分からない会話に疎外感……。
折れた剣ってなに? ブラウン神父って誰?
なんにしろハダン伯には警戒をしたほうがいいという事には変わりないってことだろうな。
――。
開放された先生は、夜はゆっくりと過ごします。と、言いながらも、結局はロイドル達と会合を開いて夜更けまで仕事を行ってくれた。
何も出来ないけども、申し訳ないので俺も会合に参加するだけ参加。
ひたすらに睡眠効果を与えてくる言葉のやり取りが原因の睡魔に耐えるという、精神面を削られるだけの結果になってしまった……。
適材適所。
人には向き不向きがある。俺は現場に出て体を使って頑張ろうと誓った。
――。
「んん~」
久しぶりのギルドハウス自室でのベッドでの眠りは快眠。
ベッドで寝たまま背伸びをすれば、背骨からコキコキと小気味の良い音。
横で丸くなって寝ているミルモンに気を遣いつつ起床。
窓から外を見る。
徐々にだけども日の出が早くなってきている。
冬から春へと季節が変わってきている証拠だ。
そして、いま起床した俺とは違い、畑仕事に赴く住人の方々に、クエストへと挑む冒険者の面々。
「早朝からの活躍、頭が下がります」
窓から入ってくる光景にポツリと独白。
皆さんが頑張っているのだらか、
「俺も頑張らないとな~」
今日一日が意味のある一日となるように過ごしていこう。
先生が長嘆息を漏らしながら、ドカリと音を立ててソファに座り込む。
背もたれに体を預けるだらけた姿は珍しい。
「長時間の交渉ご苦労様でした」
「おっと、そうでした」
座ったと思えば矢庭に立ち上がり、
「お帰りなさい。主」
「無事、戻る事が出来ました。結果も得てきましたよ」
返しつつ、ソファへと座るように促す。
キュクロプス三兄弟。エビルレイダー。要塞防衛のこともちゃんと耳にしており、成し遂げた俺達に称賛を送ってくれる。
加えて、
「先ほどは見事でした。相手を肯定しつつも断る。主も処世術が身についてきているようですね」
「先生から人誑しと言われるだけあるでしょう」
「全くもって素晴らしい」
才人に褒めてもらえるのは自信に繋がるから嬉しい。
この世界に来てからというもの、口先だけで相手を手玉にとるようなことも経験してきたからな。
エルフの国では、ポルパロングに希望的観測による口先だけで立ち回ったことを思い出すよ。
「困った御仁ですが、才なしとは言えないのですよ」
「自信家のようでしたけども、こちら――特に公爵である俺を敵に回さないように退く時には退きましたね」
「ええ、伯爵の位にいるには十分な才覚を持っております」
「頼りになる人物という存在だけなら嬉しいんですけどね」
「自信。そしてそれを裏打ちするだけの才能。故に傲慢にもなってしまいます。まだまだ交渉に手を焼きそうです」
疲れを感じさせる発言ではあるんだけども、その中には何とも楽しげな声音も混ざっている。
面倒くさい人物ではあっても、討論を行えるのが先生は以外と嬉しかったりするのかもしれない。
「しかし、先生も痛いところを突かれなくて良かったですよね」
「痛いところ――ですか?」
「はい。このギルドも紙の製造と販売は独占していると突っ込まれたら、返答は難しかったのでは?」
「それはない」
と、ここでゲッコーさんが俺の考えをすっぱりと切ってくる。
「ポーションもだが紙もこのギルド独自だからな。紙は蔡倫式製造法。この地ではこのギルドが生み出した物として考えていい。それを独占するのは別段、悪い事じゃない。それを商人に分け隔てなく売っているのだからな。生み出した技術の独占と独占契約は違うということだ」
ポーション製造の責任者である蔵元からもっともな答えをいただく。
「しつこい交渉を仕掛けてはくるでしょうが、そういった部分から切り込んでくるということはしないでしょうね」
と、先生。
ハダン伯は自信が過剰に満ちあふれてはいるけども、偏屈を並べての破綻した論破はしてこない人物だと評価。
俺と先生は評価しているけども、マイヤたち側で護衛をしていたギルドメンバーは渋面になっているから、伯に対する印象はよくないようだ。
「どうぞ」
――ここで俺達のやり取りを見計らい、わずかに生まれた間にスマートに入ってくるベルがお茶を出してくれる。
先生だけでなく俺にも出してくれるというのが嬉しかった。
先生と共に礼を言い、一口含む。
砂糖入りの紅茶。
交渉で使った頭への糖分補給は最高だったようで、先生の男前な顔がほころぶ。
先生の顔に免疫がない女性がこの場にいたなら、間違いなくこの綻んだ表情で恋してしまうことだろう。
「しかし解せぬ所もあります」
「なんです?」
「護衛の数です」
「多かったですね」
「ええ、最初は友好的に交渉をしない恫喝に近いものかとも思いましたが、交渉自体はいたって普通でしたからね」
「人間以外も普通に活動している王都だから、護衛する者達が過剰に反応したということでしたけども、そうだとしてもこちらには悪い印象しか与えないですよね。それでも主を守りたいという護衛たちの忠誠心には感心しますけども」
「そうとも考えられますし、そうじゃない別の思惑もあるのかもしれませんね」
「別の思惑ですか?」
「折れた剣では、賢い人物はどこへ小石を隠すか? 浜辺に。木の葉をどこへ隠すか? 森の中に。と、ありますからね」
「ブラウン神父か」
「その通りです」
先生とゲッコーさんだけしか分からない会話に疎外感……。
折れた剣ってなに? ブラウン神父って誰?
なんにしろハダン伯には警戒をしたほうがいいという事には変わりないってことだろうな。
――。
開放された先生は、夜はゆっくりと過ごします。と、言いながらも、結局はロイドル達と会合を開いて夜更けまで仕事を行ってくれた。
何も出来ないけども、申し訳ないので俺も会合に参加するだけ参加。
ひたすらに睡眠効果を与えてくる言葉のやり取りが原因の睡魔に耐えるという、精神面を削られるだけの結果になってしまった……。
適材適所。
人には向き不向きがある。俺は現場に出て体を使って頑張ろうと誓った。
――。
「んん~」
久しぶりのギルドハウス自室でのベッドでの眠りは快眠。
ベッドで寝たまま背伸びをすれば、背骨からコキコキと小気味の良い音。
横で丸くなって寝ているミルモンに気を遣いつつ起床。
窓から外を見る。
徐々にだけども日の出が早くなってきている。
冬から春へと季節が変わってきている証拠だ。
そして、いま起床した俺とは違い、畑仕事に赴く住人の方々に、クエストへと挑む冒険者の面々。
「早朝からの活躍、頭が下がります」
窓から入ってくる光景にポツリと独白。
皆さんが頑張っているのだらか、
「俺も頑張らないとな~」
今日一日が意味のある一日となるように過ごしていこう。
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