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矮人と巨人
PHASE-1398【酒好きってのはよ……】
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「じゃあ、先生のご厚意に」
「知者の厚意というのが気に入らんが、食事と酒に罪はないからな」
先生に対して素直になれないままなのは、やはり反曹操ってところがあるからだろうね。
でも認め合っているのは分かっているので、
「ハハハ――」
ついつい笑ってしまう。
「なんだ?」
「高順氏はツンデレだな~と思いまして。デレ時もツン寄りのデレですね」
「――――何を訳の分からない事を?」
「トールは時折、変な事を言うので気にしないでください」
言えば俺達の側にいるコクリコがベーコンの塊に食らいつく。
「頬袋があるかのように頬ばりやがる」
呆れる俺とは違い、コクリコがばかすかと豪快に食べる姿は兵達からは好評のようで、楽しげな声が上がっている。
初手と騎獣隊を一蹴した姿を見ているからな。少女であっても強者であるコクリコに皆して敬慕の念を抱くようになっているご様子。
それを肌で感じているからか、コクリコも気分良さそうに食事を更に豪快に頬ばっていく。
頬ばれば頬ばるだけ、皆さんが嬉々とするので余計に調子に乗っている。
「貴重な食事だからな。吐くなよ。食糧の無駄だけはダメだからな」
まあ、言ったところで言うことを聞くことなく食べ続けるけども。
「強者ともなれば食事も豪快だ」
「と言う割に、強者である高順氏の食事は丁寧ですよね」
コクリコのような豪快さはなく、箸で少しずつ口に運んで咀嚼。
で、酒は飲まないから茶を嗜む。
筵に座って食事をする所作はとても綺麗なもの。
食事からも生真面目さが伝わってくる。
自分がそうするからといって、周囲にそれを強要しないところも共感が持てる人物でもある。
呵々大笑が支配する場の盛り上がりは夜通し続く勢いにも思えるが、そこは最前線。
――メリハリは秀逸だ。
食事と酒を楽しめば、直ぐさま南方に目を光らせ、調練と要塞の建築へと励み始める。
――そういった皆さんの励みを目にしながら、
「王都に戻ります」
と、一言発する。
「勇者。助力、感謝する」
「俺は何もしてないですけどね」
戦闘での大活躍はコクリコとシャルナだからな。
俺はダイフクに跨がって、大軍勢に対しての戦闘――騎兵戦の経験を近くで学ばせてもらった程度。
活躍したと言えるのは、戦闘後に遺体回収を手伝ったところだろう。
大規模戦闘による騎兵戦に、戦いが終わった後の作業。
後者の方が俺には大きな経験となった。
犠牲者が出れば、それに対応してくれる方々がいる。
分かってはいるけど、実際に体験することでそういった事を実行してくれる方々に感謝の念を抱くことが出来る。
戦死した遺体を回収するって事が無いような世界にするのが一番なんだけどね。
「なにかしら強い思いが芽生えたようだな」
「ここでの戦いを自分の糧にさせてもらいます」
「全体を生かすための糧にするのだな」
「はい」
「期待しよう」
と、強者に期待を抱かれるのは嬉しいね。
「あの、公爵様」
「今回の戦闘でロンゲル――ええっと――」
「アンダリア領オルコロ村、カトレ村の統治を任されているロンゲル・ポッケオと麾下の兵たち――」
「――の活躍をアンダリア領主であるバリタン伯爵に伝えておきます。些か尾鰭をつけさせてもらいますよ」
「おお! 是非にお願い致します!」
うむ。ここまで報酬に名声、出世なんかに貪欲さを見せられると清々しいね。
「王都へと凱旋しましょうか!」
「だな」
爺様から貰った馬車から上半身を出すコクリコの発言を別れの挨拶を切り上げる機会としようとしたのだけれども――、
「勇者、帰る前に一つ。こちらの御仁が用件があるそうだ」
と、俺達の別れのやり取りの最中に現れるドワーフさん。
蕨手刀のような形状の刀を履いているので、アラムロス窟のドワーフさんだというのが分かる。
「なんでしょうか?」
問えば、体を捩らせてモジモジとしている。
なに……この動き……。
「勇者殿」
「はい」
意を決したように俺を見上げてくるドワーフさん。
「このような戦いの後に言うのもなんですが……。あ、まずは祝勝のお言葉を」
「有り難うございます。それで言いにくいことのようですけども、どうぞ忌憚なく仰ってください。我々とアラムロス窟の関係は確固たるものですから」
「では――親方様からのお言葉を」
「はい」
なんだろうか? 各窟のドワーフさん達を束ねて王都に馳せ参じるって内容かな? でもまだ時間がかかるだろうからな。
となると別の内容かな?
などと推測していれば――、
「酒を!」
――……。
「はい?」
「いや、あの……約束をしておりましたよね?」
約束?
酒の約束ってなんだ?
「兄ちゃん。多分だけど、森から凱旋してからの石庭でのやり取りじゃないかな」
「は?」
左肩のミルモンの説明を受けても何のことか分からず、しばらく考えている中で――、
「あっ! ああぁ……」
思い出した。
と、同時に凄い脱力に見舞われる。
アレか。ブランデーが美味くて飲み干してしまったからまた欲しいって言ってたな。
窟の地底湖でって考えてたけども、要塞に敵襲ってことでその事がお流れになったんだったな……。
――……なんともまあ……、
「なんと下らない」
俺の心をこうやって代弁してくれるように口を開いてくれるコクリコには感謝だよ。
「本当に申し訳ありません……」
戦いの後にこういったイベント。
緩急が激しすぎるんだよ……。
まあ、いいけど。
気を張り続けたままよりはいいからな。
そもそも約束もしていたし。
完全に忘れてたけども。
「じゃあ、用意しましょうかね」
リオスとこの要塞の近くに湖があったもんな。
以前もそこでミズーリを召喚したからそこで召喚しよう。
「ついでだ――」
ミズーリに積んである保存食も要塞に運ばせよう。
「知者の厚意というのが気に入らんが、食事と酒に罪はないからな」
先生に対して素直になれないままなのは、やはり反曹操ってところがあるからだろうね。
でも認め合っているのは分かっているので、
「ハハハ――」
ついつい笑ってしまう。
「なんだ?」
「高順氏はツンデレだな~と思いまして。デレ時もツン寄りのデレですね」
「――――何を訳の分からない事を?」
「トールは時折、変な事を言うので気にしないでください」
言えば俺達の側にいるコクリコがベーコンの塊に食らいつく。
「頬袋があるかのように頬ばりやがる」
呆れる俺とは違い、コクリコがばかすかと豪快に食べる姿は兵達からは好評のようで、楽しげな声が上がっている。
初手と騎獣隊を一蹴した姿を見ているからな。少女であっても強者であるコクリコに皆して敬慕の念を抱くようになっているご様子。
それを肌で感じているからか、コクリコも気分良さそうに食事を更に豪快に頬ばっていく。
頬ばれば頬ばるだけ、皆さんが嬉々とするので余計に調子に乗っている。
「貴重な食事だからな。吐くなよ。食糧の無駄だけはダメだからな」
まあ、言ったところで言うことを聞くことなく食べ続けるけども。
「強者ともなれば食事も豪快だ」
「と言う割に、強者である高順氏の食事は丁寧ですよね」
コクリコのような豪快さはなく、箸で少しずつ口に運んで咀嚼。
で、酒は飲まないから茶を嗜む。
筵に座って食事をする所作はとても綺麗なもの。
食事からも生真面目さが伝わってくる。
自分がそうするからといって、周囲にそれを強要しないところも共感が持てる人物でもある。
呵々大笑が支配する場の盛り上がりは夜通し続く勢いにも思えるが、そこは最前線。
――メリハリは秀逸だ。
食事と酒を楽しめば、直ぐさま南方に目を光らせ、調練と要塞の建築へと励み始める。
――そういった皆さんの励みを目にしながら、
「王都に戻ります」
と、一言発する。
「勇者。助力、感謝する」
「俺は何もしてないですけどね」
戦闘での大活躍はコクリコとシャルナだからな。
俺はダイフクに跨がって、大軍勢に対しての戦闘――騎兵戦の経験を近くで学ばせてもらった程度。
活躍したと言えるのは、戦闘後に遺体回収を手伝ったところだろう。
大規模戦闘による騎兵戦に、戦いが終わった後の作業。
後者の方が俺には大きな経験となった。
犠牲者が出れば、それに対応してくれる方々がいる。
分かってはいるけど、実際に体験することでそういった事を実行してくれる方々に感謝の念を抱くことが出来る。
戦死した遺体を回収するって事が無いような世界にするのが一番なんだけどね。
「なにかしら強い思いが芽生えたようだな」
「ここでの戦いを自分の糧にさせてもらいます」
「全体を生かすための糧にするのだな」
「はい」
「期待しよう」
と、強者に期待を抱かれるのは嬉しいね。
「あの、公爵様」
「今回の戦闘でロンゲル――ええっと――」
「アンダリア領オルコロ村、カトレ村の統治を任されているロンゲル・ポッケオと麾下の兵たち――」
「――の活躍をアンダリア領主であるバリタン伯爵に伝えておきます。些か尾鰭をつけさせてもらいますよ」
「おお! 是非にお願い致します!」
うむ。ここまで報酬に名声、出世なんかに貪欲さを見せられると清々しいね。
「王都へと凱旋しましょうか!」
「だな」
爺様から貰った馬車から上半身を出すコクリコの発言を別れの挨拶を切り上げる機会としようとしたのだけれども――、
「勇者、帰る前に一つ。こちらの御仁が用件があるそうだ」
と、俺達の別れのやり取りの最中に現れるドワーフさん。
蕨手刀のような形状の刀を履いているので、アラムロス窟のドワーフさんだというのが分かる。
「なんでしょうか?」
問えば、体を捩らせてモジモジとしている。
なに……この動き……。
「勇者殿」
「はい」
意を決したように俺を見上げてくるドワーフさん。
「このような戦いの後に言うのもなんですが……。あ、まずは祝勝のお言葉を」
「有り難うございます。それで言いにくいことのようですけども、どうぞ忌憚なく仰ってください。我々とアラムロス窟の関係は確固たるものですから」
「では――親方様からのお言葉を」
「はい」
なんだろうか? 各窟のドワーフさん達を束ねて王都に馳せ参じるって内容かな? でもまだ時間がかかるだろうからな。
となると別の内容かな?
などと推測していれば――、
「酒を!」
――……。
「はい?」
「いや、あの……約束をしておりましたよね?」
約束?
酒の約束ってなんだ?
「兄ちゃん。多分だけど、森から凱旋してからの石庭でのやり取りじゃないかな」
「は?」
左肩のミルモンの説明を受けても何のことか分からず、しばらく考えている中で――、
「あっ! ああぁ……」
思い出した。
と、同時に凄い脱力に見舞われる。
アレか。ブランデーが美味くて飲み干してしまったからまた欲しいって言ってたな。
窟の地底湖でって考えてたけども、要塞に敵襲ってことでその事がお流れになったんだったな……。
――……なんともまあ……、
「なんと下らない」
俺の心をこうやって代弁してくれるように口を開いてくれるコクリコには感謝だよ。
「本当に申し訳ありません……」
戦いの後にこういったイベント。
緩急が激しすぎるんだよ……。
まあ、いいけど。
気を張り続けたままよりはいいからな。
そもそも約束もしていたし。
完全に忘れてたけども。
「じゃあ、用意しましょうかね」
リオスとこの要塞の近くに湖があったもんな。
以前もそこでミズーリを召喚したからそこで召喚しよう。
「ついでだ――」
ミズーリに積んである保存食も要塞に運ばせよう。
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