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矮人と巨人

PHASE-1393【圧倒的破壊力】

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 赫々たるワンドの貴石。
 ファイヤーボールとはまた違う赤い輝き。

「アドン! サムソン!」
 主の声に従い、周囲に侍らせていたサーバントストーンが騎獣隊へと向かっていく。
 コクリコを中心として左右に向かって展開。
 翼包囲を作ったところで、二つの装身具も更に強い輝きを放てば、

「天地を揺るがせ! ポップフレア!」
 口上の後の魔法名が中位魔法なので迫力負けってイメージがあるだろうけど、

「「「「おおっ!?」」」」
 一緒に行動する騎兵達がここでも喊声から驚嘆の声に変わる。
 この驚嘆の声の中に、俺のも混ざる。
 赤々と輝く火球のサイズは練りに練ったことで、初手でぶっぱしたファイヤーボールのバランスボールサイズより更に一回り大きくなっていた。
 コクリコが今まで唱えてきた魔法の中で、最大サイズを更新したかもしれない。
 そんな巨大な火球が、翼包囲にて三方向から騎獣の先頭へと放たれる。
 下位魔法のファイヤーボールを装身具で強化しただけでも木壁を木っ端にするほどの威力。
 
 ――中位の炸裂魔法となれば――、

「お、おお……」
 着弾と共に生まれる強い衝撃。
 騎馬の突撃にて生み出される地鳴りを上回る衝撃と震えは、天地を揺るがせ! という口上どおりの破壊力。
 連鎖爆発による衝撃で湿地には無数の波紋が生まれ、絶え間ない爆発の中で上がる断末魔。

 ――こちらへと迫っていた騎獣隊の先頭部隊は、コクリコの大魔法を彷彿とさせる中位魔法により壊滅状態になったのは想像に難くない。
 爆炎と爆煙で相手の現状は窺えないけども、まず間違いない。

「一度の攻撃でこれだけの事が出来る。この世界の魔法という存在は非常に恐ろしいものだ……」
 珍しく声が裏返る高順氏。
 コクリコの放った魔法火力が予想以上だったというのがその声音から伝わってくる。
 コクリコの宣言通りとなったわけだ。

 ――爆煙が晴れる頃には、こちらに勢いよく向かってきた騎獣隊の動きが一気に鈍化。
 前列が壊滅状態となり、連鎖による爆発音が生み出す熱と衝撃。
 これにより後列の者達は恐怖に支配され、隊列を崩しての大混乱。
 鈍化から大混乱。そして、逃走へと転じる。

「更なる一撃は――無用ですね」
 手柄を欲しくとも、今は目の前の連中に突撃を敢行する方がいいと判断するコクリコは、アドンとサムソンを自分の位置まで戻す。

「可能ならばワーグは鹵獲したいところだな」
 乗り心地と戦闘力が高いワーグの存在を高順氏は貴重な戦力として欲しているようだ。
 その為にも、さっさと眼界の敵を蹴散らすと簡単に言ってのける。
 三万の軍勢であろうが、一切の脅威を感じないという胆力はコクリコと愛称がよさそうだよ。

「ほうほう」
 騎獣隊が一度の魔法攻撃で瓦解したのが原因なのか、横隊の中を突き進む俺達の進行がスムーズになる。
 相手からの抵抗が今まで以上に弱まり、散漫な動きに拍車がかかる。
 密集隊形だから動きづらいというのもあるだろうが、槍衾を少しでも展開しようという気概もなく及び腰となっていた。

「数がいようとこの程度か。あと少しですな!」
 と、ロンゲルさん。
 追加で恐怖を与えれば相手は及び腰から逃げ腰となり、騎獣隊の如く一気に逃げに転ずるだろうと予測する。
 時間がかかれば相手が立て直し、包囲戦を仕掛けてもくる可能性があるというのはさっきも語り合った。
 迅速に動いて相手の心をへし折っていくというスタンスは変わらない。
 錐行陣による突撃に、コクリコの魔法。
 畳み掛けるなら、
 
「シャルナ」

『お任せ!』
 俺達の直上で状況を窺ってくれながら、下方に向けて攻撃を加えてくれているシャルナが再び降下。

 ジェロニモとか言ってたけども、今度は――、

「デス! フロム! アバブ!」
 と、まるで必殺技でも繰り出すかのような大声。
 イヤホンマイクからじゃなく直に上空から聞こえてくるシャルナの発言は、コクリコの琴線に触れる台詞だったようで、自分もその言葉を使用したいとか言い始める。
 上空より訪れる死デスフロムアバブ――か。
 ジェロニモもそうだけど、これのゲッコーさんの入れ知恵だよな……。
 
 ――急降下しつつのブラストスマッシュ。
 濃密な風の圧が敵陣を襲う。
 盾を上空に向けるトロールだったが、風圧により地面へと押しつけられていた。
 トロールでそうなんだから、周囲にいるオークやゴブリン達の体は泥濘に埋没――もしくは吹き飛ばされる。
 弓矢による対空を試みても、シャルナの高速飛行と風魔法の前に、矢の威力はかき消され、ハラハラと木の葉のように落ちてくる。
 お返しとばかりに鏃を自分へと向けてくる連中に、弾丸の雨とグレネード投擲を行ってから上空へと飛び去っていく。

「実に強力だ」
 飛行能力で相手の陣形を掻き乱すシャルナに高順氏は大いに感心する。
 
 そして――、

「より一層、脆くなった」
 と、継げば、崩れかかる横隊が上へと警戒の目を向けることでこちらの騎兵に注力することが出来なくなったところを見計らい、更なる加速を指示。
 一塊となる騎兵を止める事はもはや不可能であり、眼前の横隊は体を成していない。

 ――止める事の出来ない圧倒的な破壊力からなる進撃。

「ララパルーザと例えるよりジャガーノートと例える方が、この騎兵隊にはしっくりとくるね」
 千五百という騎兵に対し、三万の軍勢は為す術もなく崩れていく。
 総崩れは間近。
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