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矮人と巨人

PHASE-1383【持っていける物は持っていこう】

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 とりあえずは――、

「ここから持っていくものとかあります?」
 三兄弟に問う。
 武具製作に建築。素手で行う訳がないからな。
 自分たちにとって大事な鍛冶道具やら工具なんかがあるだろう。

 ――これだけの巨人が使用するんだからな――――、

「いや~分かってはいたけどデカい! 金槌に至っては破城槌みたいですね」
 地下施設から出てハルダームの屋敷から離れた蹈鞴場に移動。
 この間に敵性勢力と出会うことはなかった。
 ヤヤラッタ達と合流し、地下施設で待ち受けていると考慮して最初は警戒していたけども、取り越し苦労だった。
 最後まで残って戦いを挑んできたヤヤラッタとその部下たち。
 これも護衛軍と蹂躙王ベヘモト軍の質の差だな。

「手入れが行き届いている」
 感心するパロンズ氏は、蹈鞴場内の一角にある工房を見て回る。
 キュクロプスサイズだけでなく、俺達にも扱えるサイズの道具もある。

「こういった道具なんかも現地で生産を?」
 質問すれば肯定で返ってくる。
 本当に大したもんだよ。この森の中で蹈鞴場を建設して一年足らずでここまでやるんだからな。
 石をハンマー代わりとかじゃなく、ガッツリと金槌なんかを生産してんだからね。
 まあ、武具を生産しているんだから当然といえば当然なんだけども。

「うん。素晴らしい」
 実力の高さに素直に本音が出る。
 このお三方の力を――強制ではなく自由に、そして一緒に励んでくれる面々と活動させれば、王都での生産率の向上は想像に難くない。
 
 チコ達マンティコア。それ以外の大型生物の武具や馬甲製作も、この方々なら身の丈の差でドワーフさん達よりも手早く作ってくれそうだな。

「可能な限り、ここにある道具などは持って帰りたいですね」
 俺達が使用するサイズも王都やトールハンマーの職人さん達が欲しがるだろうからな。

「こんなん、なんぼあっても良いですからね」
 と、独白し、

「さあ出てこい」
 次には、こういった時に大活躍してくれる存在となった軍用トラックを数台召喚。
 荷台へ次々と運んでいく。

「よしよし。道具、工具だけでなく、武具なんかも運んでいくぞ。溶かして兵やギルドメンバー。冒険者のための武具に新たに仕立てる」

「ちゃっかりしてますね」

「お前もな」
 返す相手であるコクリコは、工房にあった作りの良い利器を手にすれば、直ぐさま雑嚢へと入れていた。
 意匠のよい鞘に収まるナイフだった。
 それをギルドの売店で売ってやろうという魂胆を零していた。
 まあ今回は大活躍だったし、戦利品の一つも欲しいだろうからな。それを売って今回消費したポーションや食糧の補填の一部にすればいいと思う。
 キュクロプスのお三方に俺がもらっていいかの許可を述べれば、二つ返事で了承してくれる。
 王都に行く事になれば、ここにある以上の物を作ります。といった頼りになる発言もいただく。
 ならばと俺も戦利品になりそうなモノを物色させてもらおうかな。
 なんたって勇者だからね。
 勇者は民家のタンスを勝手に漁ったり、壺を割っても許される存在だからね。
 などという言い訳を心の中で呟きながら物色する中で――、

「おっ! コレは――」

 ――――。

「おう! 戻ったか!」

「親方様自らが出迎えてくれるとは感謝です」

「成果は――言わずもがな……か」
 エルウルドの森からアラムロス窟の出入り口へと続くところまで戻ってくれば、オレンジ色の球体からなるヒゲ止めを揺らしながら、俺達の方へと駆け寄ってくる親方様。
 思考の半分は帰還への労い。半分は警戒といったところだろうな。
 ドワーフ兵の面々の手には弓矢。
 バトルアックスではなく弓矢なのは、接近戦を仕掛けてはいけないという巨大な存在が理由だろうけども、その頭に俺が乗っているのを確認すれば、鏃部分は地面に向けてくれる。

「目的は果たしたようですね。おめでとうございます」
 親方様に随伴するダダイル氏からも労いの言葉をいただく。

「それにしても――デカいな!」
 興奮する親方様が無造作に接近し、俺達が乗るエビルレイダーの体を無遠慮にバシバシと叩いてくる。
 ダダイル氏を始めドワーフ兵の面々が驚きながら親方様の行動を止める。
 いくら俺が乗っているとはいえ、得体の知れない巨大生物にそんな事をすれば何をされるか分かったのもではない! と、親方様を説教。
 この辺の遠慮の無さは、俺との初対面時のタックルによる挨拶と変わらない。
 
 部下の面々にお叱りを受け、笑いながら軽く頭を下げていた親方様だったけども、

「いやはや、まさか――な」
 瞬時に鋭い眼光と声音へと変わる。
 こんな親方様を見るのは初めてだな。この大陸のドワーフ達を束ねる立ち位置というだけあって、圧を感じる。

「ど、どうも……」
 視線に対して強気に返せないのはキュクロプス三兄弟。
 エビルレイダーを盾にして隠れようとするけども、その巨体を隠すことは土台無理があるよね……。

「よもや、よもや。この様な場で我らが好敵手と出会うとわ!」
 胴間声による大音声に、三兄弟は小さく悲鳴を上げる。
 親方様の圧は凄いけども、八メートルを超える巨人が脅える姿は見ていて情けなくなってくる……。

「どうだ! 戦うか!」

「そ、そんな意思はありません……」
 親方様の発言に弱々しく返せば、

「そうか、残念だ。お前達と技術試しをしたかったのだがな!」
 殴り合いを始めるような勢いで言う内容じゃないよね……。

「それは王都でギムロン達がやってくれますよ」
 エビルレイダーから飛び降りて俺が三人の代わりに返せば、

「そうだな! ギムロン殿に任せよう。さあさあ、まずは入って体を休めてくれ。新たな同行者を見るに、森の中では苦労もあっただろうからな」
 ――親方様の誘導で館へと向かう。
 館へと向かう前に魔王軍が森の中にまだいることを伝える。
 首魁がいなくなり、森の中を逃げ回っている事を伝えれば、元々、森を拠点としている者達から淘汰されるだろう。と、俺と同じ考えを親方様も述べる。
 
 そう言いつつも森へと続く出入り口の見張りを増やす手抜かりのなさは流石。
 剛胆さと細心さを上手く同居させている御方だ。
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