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矮人と巨人

PHASE-1381【見送る】

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 ――地下施設である空間での宣言。
 コクリコの大音声が壁や天井に反響する。
 翼幻王ジズの首級を獲る宣言を耳にする三兄弟は、見る見ると顔を青ざめさせる。

「ジ、翼幻王ジズを倒す……ですか……」

「そうですよ」
 髷一つの長男アルゲース氏のポツリと零す質問に、コクリコは短くも自信に満ちた返し。

「なんとも剛胆な……」

「大きな体に相応しくない恐れを抱く声で言わないでください。我々の最終目標は魔王討伐ですよ。その為に瘴気の浄化を行い、南伐を実行しないといけないわけですからね。その為には、まずフロトレムリに突入して翼幻王ジズを倒す。そして囚われている四大聖龍リゾーマタドラゴンの一柱を救う。翼幻王ジズ程度で恐れていては、魔王まで辿り着けませんよ」

「なんとも剛胆な……」

「次男、長男と同じことを言わない」
 実際、目標だけども、堂々と言いきれるところがコクリコの良いところ。
 俺も見習って言い切るくらいの剛胆さがほしいところだ。

 だが簡単に倒すと口には出せても現実は厳しい。
 以前に調べた三つ揃いを着こなしていたタンガタ・マヌのレベルは90を超えていたからな。
 一緒にいたガーゴイル二人も80を超えていた。
 そいつ等を支配している翼幻王ジズのレベルは100と表記されるかもね。
 それとも100を超える表記になるのか。
 とにもかくにも、戦いとなれば苦戦は必至。そう考えるとコクリコのように強気な発言が出来ないのが小心者の俺なんだよね。

 ――レベル――か。

 プレイギアを取り出し、ヤヤラッタの遺体の前に移動。
 俺と一緒にキュクロプスの三兄弟もついてくる。
 拝む前に少しでも情報を得ておきたい。
 強者であり、尊敬できる存在の遺体を調べるような行為は申し訳ないけどな。
 これなら生前に調べておけばと後悔もする。
 
 ――調べれば、ディスプレイに表記されたレベルは64という数字だった。
 これはリンのダンジョンで強敵として出てきたディザスターナイトと同レベル。
 あの時と比べれば、64レベルを一人で相手にしても十分に戦えるくらいには成長したってことだな。
 感慨深くなっている俺とは違い、俺よりも先に両手を合わせるミルモン。
 俺が敵に対して拝む行動をしていたことを不思議がってもいたけど、ヤヤラッタを前にしてミルモンは初めて拝む。

 左肩の動作を眺めていれば、

「まあ同じ悪魔だし、敵でも好感は持てたしね」
 と、ミルモンは返してきた。

「こういった相手もいるんだよな」
 俺達に理由もなく単純に襲いかかってくれるような巨悪の方が有り難いかもな。
 命を奪う事で罪悪感に苛まれることもあるけど、倫理観のある相手と殺意むき出しの相手では、罪悪感の度合いが違う。

「本当……話が通じる分、もっと違った出会い方をしたかったよ……」
 ミルモンに続いて俺も拝む。
 ハルダーム達の時と違って、長いこと拝んでしまう。

「それで? 戦利品として手に入れるの?」
 ミルモンの質問はハルバートを指さしてからのもの。
 立派な作りからなるハルバート。
 側に立つキュクロプス三兄弟が装備するのに丁度良い利器。
 接近戦闘での使用となれば、一振りするだけで敵を蹴散らせることが出来るだけの破壊力があるのは、相対したからこそ理解できる魅力的な利器だ。

 でもまあ、

「ヤヤラッタからは奪えないよな」

「だよね。ハルダームとは違うもんね」

「一緒に埋葬するさ」

「お墓をつくってあげるんだ」

「今は敵の脅威も無いから、ここに留まる余裕があるからね」

「素晴らしいかと」
 ここでパロンズ氏が横から会話に参加してくれば、直ぐさまマッドゴーレムを召喚。
 岩肌の床部分を穿つように指示をすれば、

「我々も手伝いましょう」
 と、パロンズ氏のマッドゴーレムよりもゴーレムサイズな三兄弟も協力。
 準備してきた巨大なハンマーで岩肌に穿ち、五メートルサイズのヤヤラッタが入るだけの穴を作ってくれた。
 ――これに続いて十四人の遺体の為にも同様に穴を作ってくれる。

「大したもんだ」
 墓穴をつくるだけでもキュクロプス三兄弟の技巧が素人の俺でも分かる。
 図ったかのように等間隔に穴を穿つし、その穴のサイズもぴったりと揃えてみせる。
 巨人からは想像も出来ない細やかな作業に感嘆の声を漏らしている間に、十四人分の墓穴も完成。

「後は埋葬するだけだね。でもそのままだとアンデッドになる可能性もあるよ」
 シャルナ曰く、力の強い存在がアンデッドになると、この森に悪影響を及ぼすからその対策もしておかないといけないという。
 
 なら方法は一つしかない。

「荼毘に付そう」
 残火を抜いてブレイズを発動。
 炎を纏った一振りによる火葬にて見送る。

「ギュィィィィィィィィイ!」

「なんです!?」
 突然の背後からの鳴き声にコクリコが身構え、俺達もそれに続く。
 鳴き声の主がエビルレイダーだったから余計に警戒を強めていた。
 急に暴れ出して電撃を放たれたらたまったものじゃない。

「大丈夫かと」
 直ぐさま長男のアルゲース氏が、身構える俺達とエビルレイダーの間に割って入ってくる。

「生みの親でもある者達の旅立ちを見送るための咆哮です……」
 末弟であるブロンテース氏が続く。
 その声には寂しさがあった。
 こんな森まで連れてこられてしまったけど、自分たちにとっては命を守ってくれていた存在。
 大恩ある存在でもあったんだよな。
 
 本当に……。もっと違った出会い方をしたかったよ……。
 
 さよなら強者。
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