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矮人と巨人
PHASE-1380【繭の次は羽化が普通】
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――程なくして髪型が整う。
なんだろうか……。長男のアルゲース氏以外は罰ゲームに見えてしまう……。
次男のステロペース氏は残念ツインテールだし、三男のブロンテース氏はツインテールと直上に伸びる一本の髷。
年が若くなるにつれ、滑稽さが増していく。
「ハハハハッ! 次男と末弟は中々におもしろいですよ!」
――……自分でやらせおいてのこの笑い……。
結果発表という発言に定評のあるお笑い芸人が憑依したかのようだな……。コクリコの姐御。
まあ、そのお陰で――、
「見分けやすくなったのは事実だけどな」
と、誰にも聞こえない声で呟いたつもりだったけど、左肩に乗るミルモンからは「だね」と、返ってきた。
俺たち人間だけでなく、見通す力を有する小悪魔でも、見分けはつかなかったようだ。
――髪型が決まったところで改めてお三方から自己紹介をしてもらった。
たたら製鉄を有するこの拠点と、この地下施設。兵達への装備の製作の中心的な立場として活動していた事も聞かされる。
この一年でこれだけの事をなし得ていることに、俺達はただただ驚かされるだけだった。
パロンズ氏は自分たちも負けていられない! と、物作り種族ドワーフとして奮い立つ姿を見せてくれる。
「それにしても生物まで生み出すなんて凄いよね」
感心――ではなく、新たな命を生み出すという行為に対し、冷ややかな声音のシャルナ。
その声に縮こまる巨人のお三方。
「まあいいじゃないか。コイツの力が俺達にとっては必要になるんだろうからな」
「そうだけどさ」
俺に諭されれば唇と尖らせながらも納得してくれる。
「生み出したとなれば、これは合成獣の類いですか?」
ここは気になるところでもあるので聞いてみる。
もしかしたら俺達の追っている組織――カイメラと関係している可能性もゼロじゃないだろうからな。
「この子は合成獣――キメラではありません」
と、髷一つの長男アルゲース氏が答えてくれた。
元々この世界に存在するティタノモスという巨大な蛾に、自分たちの力を注ぐことで生み出した新たな生命体ということだった。
他種の配合で生み出す合成獣とは、そもそも生み出す時のプロセスが違うという。
――話を一通り聞いたところで、
「蛾じゃないでしょう」
と、コクリコ。
「確かに」
と、俺も続く。
「急遽だったので、不完全体のまま生まれました」
不完全か――、
「言われればそうですもんね。繭の状態なのに、蛾じゃなくて芋虫で出てきてるんですから。繭の次は羽化が普通ですもんね」
俺達がこの森で大暴れした結果、急場で生み出したことで、羽化しきれずに芋虫のまま繭から出てきてしまったということか。
――…………ふむん……。
――……つまりは……、
「ミルモン。これ完全体じゃないけど大丈夫なのか?」
「ごめん。そこまでは分かんないよ……」
「だよね……」
完全体か不完全体で生まれてくるのを見通すのは流石に難しいよな。そもそも見通したのは球体と巨人だったしな。
――……芋虫でこのサイズだし、ティタノモスっていう名前からして巨大な蛾なんだろうな。
で、蛾は飛行能力を有しているからな。
その飛行能力によって俺達パーティーを乗せ、天空要塞フロトレムリまで行くという流れだというのは俺でも分かるというもの。
「どうするんですか!? 飛べない蛾は蛾じゃないでしょう!」
「蛾どころか芋虫だからな」
コクリコの焦りに冷静に返してやる。
「随分と冷静ですね」
「だって、俺に言われても解決は出来ないからな」
なので――、
「お三方、どうにかならないんですかね?」
生み出した者たちに聞くのが手っ取り早い。
「難しくはないです」
と、三つの髷からなる末弟のブロンテース氏からの発言に、こっちサイドは皆そろって安堵の息を漏らし、
「その方法は?」
と、問えば、
「再び繭を作り、成長するまで眠ってもらうだけです」
「なるほど」
芋虫だからな。
口から糸をはいて、繭を作って羽化まで待てばいいのは当たり前か。
「まさかですが、成虫になるのに――もの凄い年月がかかるとか言いませんよね?」
安堵から一転して強張った声のコクリコ。
この発言にこっちサイドは些か不安げな表情になる。
タチアナとコルレオンがまさか数年単位と語り合えば、それに対して、そんなの直ぐだよね。と、シャルナとパロンズ氏の長命組が返す。
この辺の時の流れに対する価値観には齟齬が生じるもんだな。
「我々が焦っているのに、トールは随分と冷静ですね」
「だから冷静ではないよ。パーティーのやり取りを見ていて楽しいと思っていただけだ」
「それを冷静と言うのですよ」
「まあ考えてもみろよコクリコ。ここでエビルレイダーを生み出し、ヤヤラッタはこの森から大陸に移動して大暴れってのを画策していた。だとすれば、繭から成虫になるのだってそんなに時間はかからないってことだろ。俺達がこの森へと入ってきたから急遽、幼虫の状態で生み出したってだけなんだし」
喋々と語り、
「ですよね?」
答え合わせとばかりに三兄弟へと目を向ければ、髷が二つからなる残念ツインテールスタイルの次男ステロペース氏が応じてくれる。
再び繭を作って眠れば、二週間ほどで成虫まで育つというのが答えだった。
二週間程度で次へと進めるとなるなら問題ないとコクリコは嬉々として喜ぶ。
――ここでの首級は結局トールに譲ってしまいました。
でも次は魔王軍の幹部中の幹部。大幹部、三爪痕の一角である翼幻王。
その一角の首を取ることで、歴史に名を刻んでやりましょう! と、まだ見ぬ強大な力に対し、大いに張り切ってみせる。
なんだろうか……。長男のアルゲース氏以外は罰ゲームに見えてしまう……。
次男のステロペース氏は残念ツインテールだし、三男のブロンテース氏はツインテールと直上に伸びる一本の髷。
年が若くなるにつれ、滑稽さが増していく。
「ハハハハッ! 次男と末弟は中々におもしろいですよ!」
――……自分でやらせおいてのこの笑い……。
結果発表という発言に定評のあるお笑い芸人が憑依したかのようだな……。コクリコの姐御。
まあ、そのお陰で――、
「見分けやすくなったのは事実だけどな」
と、誰にも聞こえない声で呟いたつもりだったけど、左肩に乗るミルモンからは「だね」と、返ってきた。
俺たち人間だけでなく、見通す力を有する小悪魔でも、見分けはつかなかったようだ。
――髪型が決まったところで改めてお三方から自己紹介をしてもらった。
たたら製鉄を有するこの拠点と、この地下施設。兵達への装備の製作の中心的な立場として活動していた事も聞かされる。
この一年でこれだけの事をなし得ていることに、俺達はただただ驚かされるだけだった。
パロンズ氏は自分たちも負けていられない! と、物作り種族ドワーフとして奮い立つ姿を見せてくれる。
「それにしても生物まで生み出すなんて凄いよね」
感心――ではなく、新たな命を生み出すという行為に対し、冷ややかな声音のシャルナ。
その声に縮こまる巨人のお三方。
「まあいいじゃないか。コイツの力が俺達にとっては必要になるんだろうからな」
「そうだけどさ」
俺に諭されれば唇と尖らせながらも納得してくれる。
「生み出したとなれば、これは合成獣の類いですか?」
ここは気になるところでもあるので聞いてみる。
もしかしたら俺達の追っている組織――カイメラと関係している可能性もゼロじゃないだろうからな。
「この子は合成獣――キメラではありません」
と、髷一つの長男アルゲース氏が答えてくれた。
元々この世界に存在するティタノモスという巨大な蛾に、自分たちの力を注ぐことで生み出した新たな生命体ということだった。
他種の配合で生み出す合成獣とは、そもそも生み出す時のプロセスが違うという。
――話を一通り聞いたところで、
「蛾じゃないでしょう」
と、コクリコ。
「確かに」
と、俺も続く。
「急遽だったので、不完全体のまま生まれました」
不完全か――、
「言われればそうですもんね。繭の状態なのに、蛾じゃなくて芋虫で出てきてるんですから。繭の次は羽化が普通ですもんね」
俺達がこの森で大暴れした結果、急場で生み出したことで、羽化しきれずに芋虫のまま繭から出てきてしまったということか。
――…………ふむん……。
――……つまりは……、
「ミルモン。これ完全体じゃないけど大丈夫なのか?」
「ごめん。そこまでは分かんないよ……」
「だよね……」
完全体か不完全体で生まれてくるのを見通すのは流石に難しいよな。そもそも見通したのは球体と巨人だったしな。
――……芋虫でこのサイズだし、ティタノモスっていう名前からして巨大な蛾なんだろうな。
で、蛾は飛行能力を有しているからな。
その飛行能力によって俺達パーティーを乗せ、天空要塞フロトレムリまで行くという流れだというのは俺でも分かるというもの。
「どうするんですか!? 飛べない蛾は蛾じゃないでしょう!」
「蛾どころか芋虫だからな」
コクリコの焦りに冷静に返してやる。
「随分と冷静ですね」
「だって、俺に言われても解決は出来ないからな」
なので――、
「お三方、どうにかならないんですかね?」
生み出した者たちに聞くのが手っ取り早い。
「難しくはないです」
と、三つの髷からなる末弟のブロンテース氏からの発言に、こっちサイドは皆そろって安堵の息を漏らし、
「その方法は?」
と、問えば、
「再び繭を作り、成長するまで眠ってもらうだけです」
「なるほど」
芋虫だからな。
口から糸をはいて、繭を作って羽化まで待てばいいのは当たり前か。
「まさかですが、成虫になるのに――もの凄い年月がかかるとか言いませんよね?」
安堵から一転して強張った声のコクリコ。
この発言にこっちサイドは些か不安げな表情になる。
タチアナとコルレオンがまさか数年単位と語り合えば、それに対して、そんなの直ぐだよね。と、シャルナとパロンズ氏の長命組が返す。
この辺の時の流れに対する価値観には齟齬が生じるもんだな。
「我々が焦っているのに、トールは随分と冷静ですね」
「だから冷静ではないよ。パーティーのやり取りを見ていて楽しいと思っていただけだ」
「それを冷静と言うのですよ」
「まあ考えてもみろよコクリコ。ここでエビルレイダーを生み出し、ヤヤラッタはこの森から大陸に移動して大暴れってのを画策していた。だとすれば、繭から成虫になるのだってそんなに時間はかからないってことだろ。俺達がこの森へと入ってきたから急遽、幼虫の状態で生み出したってだけなんだし」
喋々と語り、
「ですよね?」
答え合わせとばかりに三兄弟へと目を向ければ、髷が二つからなる残念ツインテールスタイルの次男ステロペース氏が応じてくれる。
再び繭を作って眠れば、二週間ほどで成虫まで育つというのが答えだった。
二週間程度で次へと進めるとなるなら問題ないとコクリコは嬉々として喜ぶ。
――ここでの首級は結局トールに譲ってしまいました。
でも次は魔王軍の幹部中の幹部。大幹部、三爪痕の一角である翼幻王。
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