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矮人と巨人
PHASE-1378【お見事】
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魔法が付与されている漆黒の鎧であっても、マラ・ケニタルの効果とブーステッドによって強化された風の刃を防ぐ事は出来なかったようで、体全体から血を拭きだし、お見事と称賛の言葉を発しながら倒れる中――、
「が、まだ……勝利には早い……な……」
「!?」
倒れる中でひり出すような声。
次の瞬間に背後から強い輝き。
何も考えずに振り向くと同時にイグニースを展開。
本来なら解除するブーステッドだけども、それをせずにイグニースの底上げに繋げる。
普段はお目にすることの出来ない巨大な炎の障壁が俺の前で顕現し、角を輝かせるエビルレイダーの電撃を受け止める。
――……。
「ぶっ…………はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
大きく息を吐きだす。
危なかった……。直撃すれば間違いなく致命傷に繋がっていた。
倒れながらもこういった策を繰り出してくるんだからな。
でも流石に二度目ともなれば、こちらも迅速に対応できるってもんだ。
敵味方識別ができるのに放ってきたことには驚かされたけども、油断を怠ることはしていないから防げた。
そんな驚きを見せてきたエビルレイダーの次に備えて警戒をするも、動きが止まる。
止まるというか、大人しくなるといった例えの方が正しいか。
とにかく動きがないことを確認しつつ、俺の背後で倒れるヤヤラッタへと体を向けてから、
「……お見事」
と、一言伝えた。
――……伝えた方からはリアクションは返ってこない……。
囲んでいたプロテクションの消滅。術者の死が原因だろう……。
事切れる前の策だったわけだ。
囲んでいたプロテクションは電撃を放つ時、俺の背後だけ消えていた。
――プラトゥーンリーパーを受けると同時に、後方だけを消し、事切れるまでコの字に展開。
俺に見舞う必殺の一撃は、ハルバートの柄によるものではなく、自分たちの中で最も火力が高いであろうエビルレイダーによる攻撃を自らも巻き込んで俺に叩き込むというものだった。
敵味方識別が出来るのにエビルレイダーが電撃を放ったのは、ヤヤラッタの最後の策をくみ取ったと考えるべきなんだろうな。
――……最初に出会った森での戦闘時もそうだったけど、最後も自らを囮にする。
自己犠牲にて全体の勝利を考えるのはヤヤラッタらしい。
「尊敬するよ」
ヤヤラッタのような存在の下でなら喜んで戦えるくらいに。
そう思わせるほどに、尊敬の念を抱かされた。
抱きながらも残心を行うのはまだ早い。
――周囲を見る。
エビルレイダーはこちらに鎌首を上げたまま凝視して動かない。
ヤヤラッタの部下達は――、こちらの面子によって倒された後。
手心は無し。
十四人の部下たち全員が事切れていた。
拘束するという事は出来なかったんだろうな。
「決死の気構えでした」
代表して、自慢のヒゲやバックラーを返り血で染めたパロンズ氏が俺へと応えてくれる。
死を恐れずに挑んでくる。
死兵となった以上、命を奪って動きを止めない限り、自分たちの力量では対応できなかったということだろう。
いつもなら、勝利を手にすれば大音声で自らを誇らしく称えるコクリコが大人しい。
遺体に目を向けるだけで、勝利の余韻を堪能するという事はなかった。
対峙したからこそ伝わってくる相手の戦いに対する――それこそパロンズ氏の述べた決死の気構えに対しての敬意から、勝利発言を口には出さないでいるんだろう。
勝ち鬨の代わりに、
「終わったのかな?」
と、シャルナが俺へと静かに問うてくるだけ。
もう一度エビルレイダーへと目を向ける。
やはり行動を取ろうとはしない。
主を失った事で、今後、何をすればいいのかというのを自身で考えているのか、それとも指示がない限りは動かないようになっているのか。
これ以上の戦闘がないことを祈りつつも警戒は厳に保っておかないといけない。
警戒を怠らない最中――、
「あ、あの~」
何とも弱々しい声が俺達の方へと向けられる。
聞き覚えのある声。
といっても、ここに来てからの記憶でしかないけども。
「なんでしょうか?」
返せば、
「お、終わったのでしょうか?」
「この大きな芋虫が動き出して暴れなければ――ですかね。そちらの動き方次第ってことです。戦いますか?」
「め、滅相もない……」
図体からは想像も出来ないくらいに弱々しい声の主が、ズンズンと声とは真逆に圧のある足音を立てながらこちらへとやってくる。
――でけえな。
ここより一段高い位置で見上げるだけだったけども、同じ地面に立って見上げれば、同じ高さにいるからこそ余計に身の丈の大きさが伝わってくる。
ヤヤラッタやハルダームより更に大きい。
八メートルはあるであろう巨人。
「なんとも巨大ですね」
俺の思っていたことをコクリコが発せば、
「あ、いや~」
発言に対して申し訳なさそうに背を丸め、出来るだけ小さくなろうとする眼前の巨人。
こういった動作からして、俺達と戦闘をするということは発言どおりまずないだろう。
「初めましてとは違うでしょうけど、遠坂 亨と言います」
こちらから名乗れば、
「自分はキュクロプス族の鍛冶職人、ブロンテースといいます」
「ではブロンテース氏に再度確認します。こちらとの戦闘意思は?」
「もちろんありません」
「では、このエビルレイダーの戦闘停止をさせることも? 現状、行動はとらないようですけど」
「もちろんです。戦闘は終わりだよ」
伝えれば、行動は止まっていたものの、登場から姿勢の変わらない鎌首を上げていた状態から全体を地面へとつけて大人しくなる。
「指示に従うんですね」
「はい。我々の指示に従うようにしているので」
「ならば戦闘時に指示を出してもらえると助かったのですがね」
「そ、それは……」
コクリコの指摘に大きな体が弱々しく縮み込む。
身長差で圧倒的に勝っているのに、コクリコの方が大きく見えてしまうね。
「それを実行したら、後でどうなるか分からないでしょうからね。裏切れば死の制裁という事もありえますからな」
と、コクリコとブロンテース氏の間に割って入るパロンズ氏。
「そんなことはありません。ヤヤラッタ殿はそのような事はしませんよ」
パロンズ氏のフォロー内容に真っ向から否定するブロンテース氏。
弱々しかった語気から一転して強いもへと変わった。
「が、まだ……勝利には早い……な……」
「!?」
倒れる中でひり出すような声。
次の瞬間に背後から強い輝き。
何も考えずに振り向くと同時にイグニースを展開。
本来なら解除するブーステッドだけども、それをせずにイグニースの底上げに繋げる。
普段はお目にすることの出来ない巨大な炎の障壁が俺の前で顕現し、角を輝かせるエビルレイダーの電撃を受け止める。
――……。
「ぶっ…………はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
大きく息を吐きだす。
危なかった……。直撃すれば間違いなく致命傷に繋がっていた。
倒れながらもこういった策を繰り出してくるんだからな。
でも流石に二度目ともなれば、こちらも迅速に対応できるってもんだ。
敵味方識別ができるのに放ってきたことには驚かされたけども、油断を怠ることはしていないから防げた。
そんな驚きを見せてきたエビルレイダーの次に備えて警戒をするも、動きが止まる。
止まるというか、大人しくなるといった例えの方が正しいか。
とにかく動きがないことを確認しつつ、俺の背後で倒れるヤヤラッタへと体を向けてから、
「……お見事」
と、一言伝えた。
――……伝えた方からはリアクションは返ってこない……。
囲んでいたプロテクションの消滅。術者の死が原因だろう……。
事切れる前の策だったわけだ。
囲んでいたプロテクションは電撃を放つ時、俺の背後だけ消えていた。
――プラトゥーンリーパーを受けると同時に、後方だけを消し、事切れるまでコの字に展開。
俺に見舞う必殺の一撃は、ハルバートの柄によるものではなく、自分たちの中で最も火力が高いであろうエビルレイダーによる攻撃を自らも巻き込んで俺に叩き込むというものだった。
敵味方識別が出来るのにエビルレイダーが電撃を放ったのは、ヤヤラッタの最後の策をくみ取ったと考えるべきなんだろうな。
――……最初に出会った森での戦闘時もそうだったけど、最後も自らを囮にする。
自己犠牲にて全体の勝利を考えるのはヤヤラッタらしい。
「尊敬するよ」
ヤヤラッタのような存在の下でなら喜んで戦えるくらいに。
そう思わせるほどに、尊敬の念を抱かされた。
抱きながらも残心を行うのはまだ早い。
――周囲を見る。
エビルレイダーはこちらに鎌首を上げたまま凝視して動かない。
ヤヤラッタの部下達は――、こちらの面子によって倒された後。
手心は無し。
十四人の部下たち全員が事切れていた。
拘束するという事は出来なかったんだろうな。
「決死の気構えでした」
代表して、自慢のヒゲやバックラーを返り血で染めたパロンズ氏が俺へと応えてくれる。
死を恐れずに挑んでくる。
死兵となった以上、命を奪って動きを止めない限り、自分たちの力量では対応できなかったということだろう。
いつもなら、勝利を手にすれば大音声で自らを誇らしく称えるコクリコが大人しい。
遺体に目を向けるだけで、勝利の余韻を堪能するという事はなかった。
対峙したからこそ伝わってくる相手の戦いに対する――それこそパロンズ氏の述べた決死の気構えに対しての敬意から、勝利発言を口には出さないでいるんだろう。
勝ち鬨の代わりに、
「終わったのかな?」
と、シャルナが俺へと静かに問うてくるだけ。
もう一度エビルレイダーへと目を向ける。
やはり行動を取ろうとはしない。
主を失った事で、今後、何をすればいいのかというのを自身で考えているのか、それとも指示がない限りは動かないようになっているのか。
これ以上の戦闘がないことを祈りつつも警戒は厳に保っておかないといけない。
警戒を怠らない最中――、
「あ、あの~」
何とも弱々しい声が俺達の方へと向けられる。
聞き覚えのある声。
といっても、ここに来てからの記憶でしかないけども。
「なんでしょうか?」
返せば、
「お、終わったのでしょうか?」
「この大きな芋虫が動き出して暴れなければ――ですかね。そちらの動き方次第ってことです。戦いますか?」
「め、滅相もない……」
図体からは想像も出来ないくらいに弱々しい声の主が、ズンズンと声とは真逆に圧のある足音を立てながらこちらへとやってくる。
――でけえな。
ここより一段高い位置で見上げるだけだったけども、同じ地面に立って見上げれば、同じ高さにいるからこそ余計に身の丈の大きさが伝わってくる。
ヤヤラッタやハルダームより更に大きい。
八メートルはあるであろう巨人。
「なんとも巨大ですね」
俺の思っていたことをコクリコが発せば、
「あ、いや~」
発言に対して申し訳なさそうに背を丸め、出来るだけ小さくなろうとする眼前の巨人。
こういった動作からして、俺達と戦闘をするということは発言どおりまずないだろう。
「初めましてとは違うでしょうけど、遠坂 亨と言います」
こちらから名乗れば、
「自分はキュクロプス族の鍛冶職人、ブロンテースといいます」
「ではブロンテース氏に再度確認します。こちらとの戦闘意思は?」
「もちろんありません」
「では、このエビルレイダーの戦闘停止をさせることも? 現状、行動はとらないようですけど」
「もちろんです。戦闘は終わりだよ」
伝えれば、行動は止まっていたものの、登場から姿勢の変わらない鎌首を上げていた状態から全体を地面へとつけて大人しくなる。
「指示に従うんですね」
「はい。我々の指示に従うようにしているので」
「ならば戦闘時に指示を出してもらえると助かったのですがね」
「そ、それは……」
コクリコの指摘に大きな体が弱々しく縮み込む。
身長差で圧倒的に勝っているのに、コクリコの方が大きく見えてしまうね。
「それを実行したら、後でどうなるか分からないでしょうからね。裏切れば死の制裁という事もありえますからな」
と、コクリコとブロンテース氏の間に割って入るパロンズ氏。
「そんなことはありません。ヤヤラッタ殿はそのような事はしませんよ」
パロンズ氏のフォロー内容に真っ向から否定するブロンテース氏。
弱々しかった語気から一転して強いもへと変わった。
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