上 下
1,378 / 1,668
矮人と巨人

PHASE-1378【お見事】

しおりを挟む
 魔法が付与されている漆黒の鎧であっても、マラ・ケニタルの効果とブーステッドによって強化された風の刃を防ぐ事は出来なかったようで、体全体から血を拭きだし、お見事と称賛の言葉を発しながら倒れる中――、

「が、まだ……勝利には早い……な……」

「!?」
 倒れる中でひり出すような声。
 次の瞬間に背後から強い輝き。
 何も考えずに振り向くと同時にイグニースを展開。
 本来なら解除するブーステッドだけども、それをせずにイグニースの底上げに繋げる。
 普段はお目にすることの出来ない巨大な炎の障壁が俺の前で顕現し、角を輝かせるエビルレイダーの電撃を受け止める。

 ――……。

「ぶっ…………はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 大きく息を吐きだす。
 危なかった……。直撃すれば間違いなく致命傷に繋がっていた。
 倒れながらもこういった策を繰り出してくるんだからな。
 でも流石に二度目ともなれば、こちらも迅速に対応できるってもんだ。
 敵味方識別ができるのに放ってきたことには驚かされたけども、油断を怠ることはしていないから防げた。

 そんな驚きを見せてきたエビルレイダーの次に備えて警戒をするも、動きが止まる。
 止まるというか、大人しくなるといった例えの方が正しいか。
 とにかく動きがないことを確認しつつ、俺の背後で倒れるヤヤラッタへと体を向けてから、

「……お見事」
 と、一言伝えた。
 ――……伝えた方からはリアクションは返ってこない……。
 囲んでいたプロテクションの消滅。術者の死が原因だろう……。
 事切れる前の策だったわけだ。
 囲んでいたプロテクションは電撃を放つ時、俺の背後だけ消えていた。
 ――プラトゥーンリーパーを受けると同時に、後方だけを消し、事切れるまでコの字に展開。
 俺に見舞う必殺の一撃は、ハルバートの柄によるものではなく、自分たちの中で最も火力が高いであろうエビルレイダーによる攻撃を自らも巻き込んで俺に叩き込むというものだった。
 
 敵味方識別が出来るのにエビルレイダーが電撃を放ったのは、ヤヤラッタの最後の策をくみ取ったと考えるべきなんだろうな。

 ――……最初に出会った森での戦闘時もそうだったけど、最後も自らを囮にする。
 自己犠牲にて全体の勝利を考えるのはヤヤラッタらしい。

「尊敬するよ」
 ヤヤラッタのような存在の下でなら喜んで戦えるくらいに。
 そう思わせるほどに、尊敬の念を抱かされた。
 抱きながらも残心を行うのはまだ早い。
 
 ――周囲を見る。
 
 エビルレイダーはこちらに鎌首を上げたまま凝視して動かない。
 ヤヤラッタの部下達は――、こちらの面子によって倒された後。
 手心は無し。
 十四人の部下たち全員が事切れていた。
 拘束するという事は出来なかったんだろうな。

「決死の気構えでした」
 代表して、自慢のヒゲやバックラーを返り血で染めたパロンズ氏が俺へと応えてくれる。
 死を恐れずに挑んでくる。
 死兵となった以上、命を奪って動きを止めない限り、自分たちの力量では対応できなかったということだろう。
 
 いつもなら、勝利を手にすれば大音声で自らを誇らしく称えるコクリコが大人しい。
 遺体に目を向けるだけで、勝利の余韻を堪能するという事はなかった。
 対峙したからこそ伝わってくる相手の戦いに対する――それこそパロンズ氏の述べた決死の気構えに対しての敬意から、勝利発言を口には出さないでいるんだろう。

 勝ち鬨の代わりに、

「終わったのかな?」
 と、シャルナが俺へと静かに問うてくるだけ。
 もう一度エビルレイダーへと目を向ける。
 やはり行動を取ろうとはしない。
 主を失った事で、今後、何をすればいいのかというのを自身で考えているのか、それとも指示がない限りは動かないようになっているのか。
 これ以上の戦闘がないことを祈りつつも警戒は厳に保っておかないといけない。

 警戒を怠らない最中――、

「あ、あの~」
 何とも弱々しい声が俺達の方へと向けられる。
 聞き覚えのある声。
 といっても、ここに来てからの記憶でしかないけども。

「なんでしょうか?」
 返せば、

「お、終わったのでしょうか?」

「この大きな芋虫が動き出して暴れなければ――ですかね。そちらの動き方次第ってことです。戦いますか?」

「め、滅相もない……」
 図体からは想像も出来ないくらいに弱々しい声の主が、ズンズンと声とは真逆に圧のある足音を立てながらこちらへとやってくる。

 ――でけえな。

 ここより一段高い位置で見上げるだけだったけども、同じ地面に立って見上げれば、同じ高さにいるからこそ余計に身の丈の大きさが伝わってくる。
 ヤヤラッタやハルダームより更に大きい。
 八メートルはあるであろう巨人。

「なんとも巨大ですね」
 俺の思っていたことをコクリコが発せば、

「あ、いや~」
 発言に対して申し訳なさそうに背を丸め、出来るだけ小さくなろうとする眼前の巨人。
 こういった動作からして、俺達と戦闘をするということは発言どおりまずないだろう。

「初めましてとは違うでしょうけど、遠坂 亨と言います」
 こちらから名乗れば、

「自分はキュクロプス族の鍛冶職人、ブロンテースといいます」

「ではブロンテース氏に再度確認します。こちらとの戦闘意思は?」

「もちろんありません」

「では、このエビルレイダーの戦闘停止をさせることも? 現状、行動はとらないようですけど」

「もちろんです。戦闘は終わりだよ」
 伝えれば、行動は止まっていたものの、登場から姿勢の変わらない鎌首を上げていた状態から全体を地面へとつけて大人しくなる。

「指示に従うんですね」

「はい。我々の指示に従うようにしているので」

「ならば戦闘時に指示を出してもらえると助かったのですがね」

「そ、それは……」
 コクリコの指摘に大きな体が弱々しく縮み込む。
 身長差で圧倒的に勝っているのに、コクリコの方が大きく見えてしまうね。

「それを実行したら、後でどうなるか分からないでしょうからね。裏切れば死の制裁という事もありえますからな」
 と、コクリコとブロンテース氏の間に割って入るパロンズ氏。

「そんなことはありません。ヤヤラッタ殿はそのような事はしませんよ」
 パロンズ氏のフォロー内容に真っ向から否定するブロンテース氏。
 弱々しかった語気から一転して強いもへと変わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...