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矮人と巨人

PHASE-1371【ライド・オン】

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「きっちりと決めてほしいですね。勇者なんですから。次は頼みますよ」

「悪いな」
 掩護によるヘイト集めをしているコクリコからの叱咤激励。
 タイマンだったなら常に電撃攻撃に襲われる事になるんだろうけども、掩護をする方に遠距離の電撃攻撃が向くことで、俺は一息つける時間を得られる。
 故に励んでくれている面々に対して、本当に申し訳ないと思ったから、素直な謝罪の言葉が口から出た。
 長引けばヘイト集めの面々にも疲労が蓄積されていくから、尚更、申し訳なくなる。
 
 それに、今はへたり込んでいるとはいえ、ヤヤラッタと部下たちが回復して動くということも念頭に置かないといけない。
 ともすれば動けるのかもしれないけど、巨大な芋虫と一緒になって俺達に仕掛けるのを避けているとも考えられる。

 いくら敵味方識別が出来るであろう電撃攻撃とはいえ、乱戦となればエビルレイダーの全体攻撃が使用できなくなる。
 使用されたらされたで、ヤヤラッタたちも無事では済まないからな。
 動くとなると、こちらが疲弊するのを待ってからってところか。
 
 兎にも角にも――、

「総動員だけは避けたいところ!」
 素直な気持ちを口に出す。
 それを避けるためには短期決戦をこちらから仕掛けないといけない。
 相手のフィールドであっても、こちらが主導権を握らないとな!

「アクセル!」
 再度の高速移動による接近――なのだが、オレンジ色のエッジの効いた複眼は見逃すことを許さず、パーティーメンバーに電撃を放ちつつ、こちらを捕捉して正面を向けてくる。

「よっしゃ来いや!」
 金色の一本角に同色の電撃を纏わせ、こちらへと放ってくる。

「ド根性!」
 跳躍からの着地と同時にイグニースを球体にて顕現させて体全体を守る。
 電撃の衝撃に吹き飛ばされそうになりながらも、

「うぉぉぉぉぉぉお!」
 気迫を吐き出しながら、電撃を裂くようにして突き進む。

「凄いよ兄ちゃん!」

「耐えながらの接近という泥臭い立ち回りだけどな!」
 如何にも俺らしい耐えるという戦法。
 必死に耐えるけども、やはり全方向を守るバージョンのイグニースだと、どうしても障壁全体が薄くなるのが問題。
 実力不足を嘆きたくなるけども、嘆く以上に限界が近い。

「プロテクション!」
 と、力強い声はタチアナ。
 俺の進む先に障壁が顕現。
 エビルレイダーの攻撃がこちらに注力しているお陰で、向こうには余裕がある分、俺の方に障壁を展開してくれる。
 ここでシャルナが展開しないのは、今後を考えての事だろうと判断。
 耐える中で徐々に電撃の威力が弱まってくる。
 判断を信じ、間隙を縫っての疾駆。
 電撃が消滅すれば、次なる電撃のチャージが始まる。
 リキャストタイムの短さが脅威だけども――、

「アッパーテンペスト!」

「ファイヤーボール!」
 と、これまた力強い声が上がる。
 俺に向けられる角を有した頭部が下方から発生した竜巻によりかち上げられ、そこに合わせたように側面から火球が当たれば、エビルレイダーの上半身が傾く。
 アッパーからのフックのようだな。

「俺にばかり注力したのが失敗だったな」
 タチアナだけがプロテクションを使用した時点で、シャルナが俺の攻撃タイミングに合わせて魔法を使用してくれると信じたし、ここぞというところを見逃さないコクリコも続いてくれるというのも信じた。
 巨体が傾くことでこちらへの攻撃にわずかな遅れが生じているのが分かる。
 更にここで相手の視界を奪って混乱させてやろう!

 ファイアフライと幻焔は効果が無かったが――、

「ミルモン。くろいバリバリを顔にぶつけてやれ!」

「え、わ、分かったよ!」
 なんの意図があるかは理解できていないようだけども、ミルモンは右手に黒い電撃を纏わせてから、

「くろいバリバリ!」
 纏った電撃を正拳突きを打ち込むようにして放てば、俺の注文通りエビルレイダーの頭部へと見舞ってくれる。

「キシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!?」

「おっしゃ!」
 光に対して耐性がある複眼のようだけども、黒い電撃が纏わり付けば視界は暗闇に襲われるようだな。
 威力はなくても体に纏わり付くミルモンの初期技であるくろいバリバリ。
 大魔法のフェイクとして混乱を与える事も出来るし、相手の視界を奪うことも出来る。
 直接的なダメージを与える事は出来ないけども、サポートとしては本当に便利だ。
 ミルモンはこの冒険で見通す力以外でも十分に活躍をしてくれている。

「値千金だぞ。ミルモン」

「えへへ」
 本心からの称賛だったと分かったのか、可愛い顔が照れくさそうに喜んでいた。
 ベルがこの場にいたら、完全に心奪われる笑みだ。

「さて――大暴れされるのも嫌なので、折檻で黙らせよう」
 視界を奪われて暴れ回るエビルレイダー。
 掩護をする為に、ここでヤヤラッタ達が動こうとするけども、視界を奪われた巨体が動き回れば、自分たちの方へも累がおよぶということもあり、動きたくても動けないといったところだった。
 動く時宜を逸したな。
 
 全てがこちらにとって好都合。
 このチャンスを逃すのはバカの所行。

「俺はバカだけども、バカで有り続けたくはないので!」
 今度こそ! という気合いと共に、暴れるエビルレイダーの体へと跳躍――頭部へと飛び移ることに成功。

「おう、やっぱ見た目どおりにカチカチだな」
 芋虫のようなプニプニの感じはまったくしない。

「ライド・オン♪」
 楽しげなミルモン。
 暴れる存在の上に直接立っていないとはいえ、俺の肩に乗っている時点で凄い揺れに襲われているだろうに、まったくもって気にしていない。
 むしろテンションが高い。
 俺の値千金って発言がよほど嬉しかったようだ。

「じゃあ、躾をしてやるかね」
 視界を奪われながらも角の部分からは電撃を全方位に放つ。
 だけど俺達には迫ってこない。
 自分の体に対してダメージが入るのを恐れているからってことなのかもしれない。
 電撃を体から出せるのに耐性がないのはどうなの? と、つっこみたいけど、現状、俺達にとってはウェルカムな状況なので素直に喜んでおこう。
 接近して密着すれば、電撃の脅威はないというのが分かったことは大きいからな。
 
 ネックとしては暴れ回るこの体に乗り続けないといけないことだけど、ここでもエルフの国での樹上移動の経験が活かされる。
 足場の悪い中を移動することで培ったバランス感覚が、こういったところでも活用できるんだからな。
 何事も経験して、それをしっかりと活かす事で更なる成長に繋がるってもんだ。
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