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矮人と巨人
PHASE-1364【建具の答え】
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中々に難しい――か。
脅威ではあるけど、ヤヤラッタの発言内容は、こちらにとって朗報として聞くことも出来る。
「中々って発言だから、こっちにも希望があるようだな。不可能って言う方が、こっちには絶望を与えられたんじゃないの?」
「確かに――その言は正しい」
俺の発言を肯定してくるヤヤラッタの余裕は崩れない。
「自信があるなら姿を見せたらどうだい。声だけの出演だと発言にまったく説得力がないぞ」
「では――そうしよう」
タチアナのファイアフライによって広間に輝きがある中、わずかに残った隅っこの影の部分からヌッと姿を現すヤヤラッタ。
すでにビジョンを発動している俺。ファイアフライが無くても影の部分もしっかりと見えていたけど、出てくるまで捕捉することが出来なかった。
影の中に潜んでいたんだろう。ヴァンパイアであるゼノの前例もあるからな。
ヤヤラッタが影から現れるのを合図として、量産された武具を装備した連中も同様に出現。
この森に入ってから見慣れた鎧だけども、それを装備する連中は今までの手合いとは別格といったところか。
「上の連中とは明らかに違うようですが、その分、数は少ないですね。十と――四ですか。強そうではあっても、私一人でも一切問題なし!」
強気なコクリコの発言に対して、ヤヤラッタの取り巻きと思われる連中は声を漏らすことなく佇むだけ。
挑発には乗らないタイプのようである。
「気骨を感じさせますね。そういえば上の方での戦闘では有能なレッサーデーモンがいたようですか、アレは貴男の部下で」
「そうだ。ここにお前達が来たということは――そうなんだろうな」
「私が倒したよ」
コクリコとヤヤラッタの会話にシャルナが割り込む。
倒したという発言に、コクリコの挑発に乗らなかった十四人の体が一斉にピクリと動くのを確認。
挑発には乗らなくても、仲間を倒された事で怒気を発しているのは見て取れる。
「怒りを覚えるのはいいけど、こっちサイドも同じような感情は常にあるからね!」
怒気に対して気圧されることなくシャルナが発する。
「戦いだからな、互いがぶつかればどちらかは倒れるものだ」
と、淡々とヤヤラッタは返してくる。
「それにただ死んだだけではない。ハルダーム殿もそうだろう。散っていったその他の者たちもそうだ。ここでの作業を終えるまでの時間を作ってくれたのだからな」
「作業?」
問う俺の声には耳を貸さず、
「準備はどうか?」
と、ヤヤラッタは見上げる。
「は、はい。もうすぐ誕生します……」
天井方向より聞こえてくるのはおびえを混じらせた声。
「――デカい図体の割には自信の無い弱々しい声だな」
ヤヤラッタの視線を追って、見上げた先にいる存在を目にして感想を口に出す。
この広間でヤヤラッタ達と同じ位置に立つ俺達とは別に、もう一段高くなっている場所には欄干があり、そこから上半身だけを乗り出して下を見てくる一人の巨人。
ヤヤラッタへと返事をしたのがその巨人だった。
栗毛の蓬髪。額の中央からは太い角が一本生えていた。
角だけを見ればオーガ族とも思えるが、ハルダームや今まで戦ってきたオーガと違うのは、目が一つだということ。
大きな単眼からなる巨人だった。
「一つ目の巨人か――」
ファンタジー作品には欠かせない存在だな。
「得心がいきました」
俺が一つ目の種族がなんなのかという答えを導き出したと同時に、俺の後ろにいるパロンズ氏も答えを導いたようだった。
「ここで様々なモノを作り、建造の中心に立っていたのは間違いなく上にいるキュクロプスでしょう」
「キュクロプスですか。サイクロプスかと思いましたよ」
「言い方が違うだけで同じですよ」
「あの一つ目、一本角の巨人であるキュクロプスって種族が、蹈鞴場による製鉄や、竪穴住居にこの地下施設などの建造における中心的存在ですか?」
「間違いなく」
「へ~」
俺の想像とは逆だな。
一つ目巨人ってゲームなんかだと、ドデカい棍棒を持って大暴れするゴリゴリのパワーファイターで、強敵ポジションだけど知能が低い敵として登場するイメージなんだけどな。
「我らドワーフ族が良き好敵手として認める種族です」
「へ~」
人間の子供くらいの身長である小柄なドワーフと、五、六メートルはありそうな巨人がライバル同士とはね。
――――あ!?
「あれか」
親方様の館にて、親方様と出会う前に目にした建具は異彩を放っていたから記憶に残っている。
木製の引き戸の一面に細かな彫刻が施されていたな。
身の丈ほどの戦槌を諸手で握る一人のドワーフと、同じく戦槌を片手で持つ頭部に角の生えた巨大が対峙しているといった構図だった。
その事を口にすれば、あれは戦槌ではなく、鍛冶のために使用する金槌であり、相対するキュクロプスも同じモノを手にし、鍛冶の実力は我らの種族こそが上であるということを表現したものだという。
「キュクロプスって種族は、ドワーフという技巧派種族が脅威と思うほどの技巧を持っている種族なんですね。好敵手と言うくらいだし」
「はい。ですが、まさか魔王軍に組みしているとは思っていませんでした……」
些かながら落胆した声になるパロンズ氏。
「さっきの力ない語り方からして、強制的に働かされていると考えるべきでしょうね」
「――なるほど」
と、そうと判断したのか、パロンズ氏は好敵手がその様に扱われているという怒りからなのだろう、強い眼力でヤヤラッタを睨み付けていた。
脅威ではあるけど、ヤヤラッタの発言内容は、こちらにとって朗報として聞くことも出来る。
「中々って発言だから、こっちにも希望があるようだな。不可能って言う方が、こっちには絶望を与えられたんじゃないの?」
「確かに――その言は正しい」
俺の発言を肯定してくるヤヤラッタの余裕は崩れない。
「自信があるなら姿を見せたらどうだい。声だけの出演だと発言にまったく説得力がないぞ」
「では――そうしよう」
タチアナのファイアフライによって広間に輝きがある中、わずかに残った隅っこの影の部分からヌッと姿を現すヤヤラッタ。
すでにビジョンを発動している俺。ファイアフライが無くても影の部分もしっかりと見えていたけど、出てくるまで捕捉することが出来なかった。
影の中に潜んでいたんだろう。ヴァンパイアであるゼノの前例もあるからな。
ヤヤラッタが影から現れるのを合図として、量産された武具を装備した連中も同様に出現。
この森に入ってから見慣れた鎧だけども、それを装備する連中は今までの手合いとは別格といったところか。
「上の連中とは明らかに違うようですが、その分、数は少ないですね。十と――四ですか。強そうではあっても、私一人でも一切問題なし!」
強気なコクリコの発言に対して、ヤヤラッタの取り巻きと思われる連中は声を漏らすことなく佇むだけ。
挑発には乗らないタイプのようである。
「気骨を感じさせますね。そういえば上の方での戦闘では有能なレッサーデーモンがいたようですか、アレは貴男の部下で」
「そうだ。ここにお前達が来たということは――そうなんだろうな」
「私が倒したよ」
コクリコとヤヤラッタの会話にシャルナが割り込む。
倒したという発言に、コクリコの挑発に乗らなかった十四人の体が一斉にピクリと動くのを確認。
挑発には乗らなくても、仲間を倒された事で怒気を発しているのは見て取れる。
「怒りを覚えるのはいいけど、こっちサイドも同じような感情は常にあるからね!」
怒気に対して気圧されることなくシャルナが発する。
「戦いだからな、互いがぶつかればどちらかは倒れるものだ」
と、淡々とヤヤラッタは返してくる。
「それにただ死んだだけではない。ハルダーム殿もそうだろう。散っていったその他の者たちもそうだ。ここでの作業を終えるまでの時間を作ってくれたのだからな」
「作業?」
問う俺の声には耳を貸さず、
「準備はどうか?」
と、ヤヤラッタは見上げる。
「は、はい。もうすぐ誕生します……」
天井方向より聞こえてくるのはおびえを混じらせた声。
「――デカい図体の割には自信の無い弱々しい声だな」
ヤヤラッタの視線を追って、見上げた先にいる存在を目にして感想を口に出す。
この広間でヤヤラッタ達と同じ位置に立つ俺達とは別に、もう一段高くなっている場所には欄干があり、そこから上半身だけを乗り出して下を見てくる一人の巨人。
ヤヤラッタへと返事をしたのがその巨人だった。
栗毛の蓬髪。額の中央からは太い角が一本生えていた。
角だけを見ればオーガ族とも思えるが、ハルダームや今まで戦ってきたオーガと違うのは、目が一つだということ。
大きな単眼からなる巨人だった。
「一つ目の巨人か――」
ファンタジー作品には欠かせない存在だな。
「得心がいきました」
俺が一つ目の種族がなんなのかという答えを導き出したと同時に、俺の後ろにいるパロンズ氏も答えを導いたようだった。
「ここで様々なモノを作り、建造の中心に立っていたのは間違いなく上にいるキュクロプスでしょう」
「キュクロプスですか。サイクロプスかと思いましたよ」
「言い方が違うだけで同じですよ」
「あの一つ目、一本角の巨人であるキュクロプスって種族が、蹈鞴場による製鉄や、竪穴住居にこの地下施設などの建造における中心的存在ですか?」
「間違いなく」
「へ~」
俺の想像とは逆だな。
一つ目巨人ってゲームなんかだと、ドデカい棍棒を持って大暴れするゴリゴリのパワーファイターで、強敵ポジションだけど知能が低い敵として登場するイメージなんだけどな。
「我らドワーフ族が良き好敵手として認める種族です」
「へ~」
人間の子供くらいの身長である小柄なドワーフと、五、六メートルはありそうな巨人がライバル同士とはね。
――――あ!?
「あれか」
親方様の館にて、親方様と出会う前に目にした建具は異彩を放っていたから記憶に残っている。
木製の引き戸の一面に細かな彫刻が施されていたな。
身の丈ほどの戦槌を諸手で握る一人のドワーフと、同じく戦槌を片手で持つ頭部に角の生えた巨大が対峙しているといった構図だった。
その事を口にすれば、あれは戦槌ではなく、鍛冶のために使用する金槌であり、相対するキュクロプスも同じモノを手にし、鍛冶の実力は我らの種族こそが上であるということを表現したものだという。
「キュクロプスって種族は、ドワーフという技巧派種族が脅威と思うほどの技巧を持っている種族なんですね。好敵手と言うくらいだし」
「はい。ですが、まさか魔王軍に組みしているとは思っていませんでした……」
些かながら落胆した声になるパロンズ氏。
「さっきの力ない語り方からして、強制的に働かされていると考えるべきでしょうね」
「――なるほど」
と、そうと判断したのか、パロンズ氏は好敵手がその様に扱われているという怒りからなのだろう、強い眼力でヤヤラッタを睨み付けていた。
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