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矮人と巨人

PHASE-1361【一発で戦意喪失】

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「ティーガーよりも背は低いけど、全体的にティーガーより大きいね」

「え、そう?」
 ミルモンからの指摘に疑問符をつけて返す。
 戦車を並べて見比べるなんて事をした事がないから分からんが、言われて見比べれば背は低くなっているような気がする。

 と、今見ればティーガー1は平地の上に立っていた。
 魔法により盛り上がった大地で傾いていたけど、術者が死んだことでその効果も切れたと判断していいのかもね。

「さて諸君。今回、俺が召喚したのは、さっきまでの戦車とは訳が違う。分かりやすい力量差で例えるなら、さっきまでのが君ら程度の実力だとするなら、今回のは軍監ヤヤラッタや指揮官ハルダームくらいの強さと言ったところだ」
 ざわつきが生まれる。

「ティーガーの砲撃はハルダームに防がれたけど、今回のは間違いなく防ぐ事が出来ないだろう。とりあえずその実験に付き合ってもらいたいので、君たちには一方的な蹂躙を受けてもらう。蹂躙王ベヘモトの配下なのに蹂躙される気分はどうですか? って聞きながら命を奪っていくから、そこんとこよろしく」
 ニッコリ笑顔で脅し文句。
 傍から見た俺は、完全なるサイコパスだな。

「では、一方的な狩りを始めさせてもらいますかね」
 言ってエイブラムスに飛び乗る。
 CFに登場する戦車なので、プレイギアで操縦できるのがありがたい。
 といっても、俺このゲームのビークル系殆ど使ってないからな。
 下手くそな俺が使うより、上手い人が乗って無双してほしいって思考で遠慮していたけど、この作品には攻撃ヘリなんかも登場するからな。
 それらを操縦できればかなりの戦力アップになる。
 これは時間が出来た時、オタサーの姫のような立ち位置と化した死神と一緒に練習しとかないといけないな。
 最近は連絡もしてこないから、周囲の野郎連中にチヤホヤされてプレイしてんだろうな。

「まあ――間違いなく崩壊するんだろうけどな」
 というか――、

「そうなれ!」
 何を俺以外の男と楽しくゲームしてんだよ!
 ――……と、嫉妬を抱いてしまう俺も大概ダメなヤツだよな……。
 
 ――……。

「恰好の悪いことだけど、実験だけでなく、八つ当たりにも付き合ってもらう! それが嫌ならさっさと戦う意思を放棄しろ!」

「う、五月蠅い! 指揮官の弔いだ!」
 一応は挑もうとする気概は見せるか。
 身を固めるように防御の陣形になっているけども、それでもまだ続けるつもりか。

「報仇雪恨、大いに結構。でもその選択は間違いだ」
 声を発した存在に照準を合わせる。

88㎜アハト・アハトとは違うぞ。今回のはラインメタル120㎜だ! 威力はダンチだからな――多分!」
 威力に関しての知識は俺にはないから多分をつけておく。
 そして狙った場所にR2トリガーを引いて――発射。

 ――大気を震わせる轟音。

「……おお……」
 自分で撃っておいてなんだけども、88㎜とは違うというのがよく分かる。
 着弾部分に留まっていた発言者――だけでなく、防御陣形で密接していた周囲の連中も一緒に消し飛んでしまう。
 体の一部が残るとかじゃない。存在そのものがそこに無かったかのように消え去ってしまった。
 そこにある光景は、着弾により抉れた地面だけ。
 トロールを容易く倒したアハト・アハトにも驚きだったけども、120㎜は威力が別次元だった。
 
 ――いまゴロ丸を囲っているトロールに撃ち込めばどういった事になるのだろう。
 威力を比べるなら同サイズの相手を狙うのがベストだな。
 ――……そういった実験的な思考を少しでも思い描いた俺は、自分の中に闇が潜んでいるのでは? と、自己嫌悪して落ち込んでしまった……。
 
 そんな事を思っていた中でディスプレイで周囲を見れば――、

「こ、こんなのに勝てるかぁぁぁぁぁぁあぁぁああ!」
 大絶叫を発した一人が逃げ出す。
 防御陣形でかろうじて戦線に留まっていた連中であったが、エイブラムスの火力を目の当たりにしたことで、戦闘継続の意思がぽっきりと折れたようで、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
 
 数人の十体長もその例に漏れず、それに加えてゴロ丸を囲んでいたトロール八人も重い体を揺らしながら脇目も振らずに逃げ出していった。

「うむ! 勝利!」
 誰よりも早くそう発するのはコクリコ。
 得意げにフライパンを天へと掲げてのポージングには余裕があるように見えるけども――、直ぐさま地べたへと座り込んだ。
 
 連戦に次ぐ連戦だったからな。
 流石のコクリコも疲労に襲われているようだ。
 
 直ぐさまタチアナがパロンズ氏の背嚢からポーションを取り出し、コクリコへと届けると、自身もその場に座り込む。
 残りの面子も同様に地面にへたり込んでいた。
 ただシャルナだけはスカウトとして周辺の警戒を怠ることをせず、今戦闘にて習得したレビテーションで宙に留まり、睨みを利かせてくれる。

「終わったね。兄ちゃん」
 キューポラから上半身を出したところでミルモンが定位置である俺の左肩に座る。

「ここでの戦闘が――だけどな」

「まだまだ続くんだね~」

「冒険って大変だろう」

「本当だよ。少しでもその苦労を軽減させるためにも、オイラはもっと強くならないといけないね」

「いやいや、助かったぞ」
 魔法判定を受けないくろいバリバリは威力こそないものの、相手を混乱させるには十分だったからな。
 わずかであっても、そういった時間を戦闘中に生み出してくれたのは貴重だった。
 当の本人は大魔法と勘違いされるだけでなく、威力も大魔法と同等まで昇華させると意気込んでいた。

 ――。
 
「――ふぃ~」
 ポーションを一飲み。
 皆の状態を考えて小休止をいれる。

「有り難うな」
 ポーションを嚥下して一呼吸置いてから、トロール八人を引き受けてくれたゴロ丸にお礼を言う。

「キュウ!」
 いつでもお任せ! とばかりに、頭と一体化した胴体で胸を張るような姿を見せてくれれば、そのまま地面へと沈んでいく。

 いつもの如く、沈んでいく体で最後に拳だけを残してサムズアップという別れの挨拶を見届ける。
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