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矮人と巨人

PHASE-1359【一本奪う】

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「……うっおぉわぁぁぁぁぁぁあ!」
 シャルナの空戦勝利宣言に対し、相手前線から声が上がる。
 といっても、挑もうとする気骨ある咆哮ではない。恐怖からの叫びだった。
 一人が叫びつつ陣形の中から脇目も振らずに抜け出せば、それを見た数人がそれに続き、数人が集団となって陣形が崩れ始める。

「やったなシャルナ!」
 大音声で伝えれば、勝ち気な笑みで返してくれた。
 なにが凄いって、空戦による勝利でハルダームの求心力よりも、こちらに対する恐怖の方が完全に上回ったからな。
 
 こういった状況へとなれば。七人とゴロ丸というわずかな手勢でしかない俺達だが――、

「そいや!」
 と、コクリコがフライパンを振り下ろしながら発せば、

「右から挟撃します」
 と、コルレオンが双剣を振るう。

「えい!」「はっ!」と、後方でタチアナとパロンズ氏がスリングを勢いよく回転させて放つ投石は、当たればそれだけで鎧兜をヘコませて相手をダウンさせる。
 ダウンが取れなかったとしても、投石の衝撃による怯みで動きを止めれば、前衛の二人がきっちりとトドメを刺すという流れが出来上がる。

「馬鹿な……」
 たった七人に三百は超えていたであろう兵が遁走を始める。
 それを目にするハルダームは、信じられないという表情だった。
 数は力という蹂躙王ベヘモト軍の理念。
 親衛隊という立場だからこそ、数こそ力の理念は一般兵よりも強いらしく、眼前の光景に衝撃を受けているようだった。
 
 強い衝撃を受けつつも、はたとなれば、

「逃げるな!」
 パルチザンを振り、逃走する味方を突き刺す。
 恐怖に駆られる者を更なる恐怖で支配し、混乱を収拾しようとしているようだ。
 取り巻き達にも逃げる者達を処刑せよと下知。
 ハルダームに従う十数の取り巻き達が逃走する兵達を弓矢で射殺すも、

「なぜ止まらん!」
 逃げる事をやめる者達は後を絶たない。

「お宅よりこっちの方が怖いって判断したんだよ」
 と、俺が答えを伝えてやる。

「督戦隊を気取った取り巻き達も本当は逃げたいんだろう?」
 AR-57の銃口を向けながら継げば、こちらの圧に耐えられなかったのようで、取り巻き達が体を反らしていた。
 反らすだけで後方に足を動かすまでには至らなかったから、逃げ出している連中よりは胆力はあるようだった。

「ま、留まったのは悪手だ。後悔しかないぞ」

「後悔するのは貴様だ勇者!」
 パルチザン・プロトスの穂先に電撃を纏わせ、威嚇するように俺へと向けてくる。

「それにしてもいいね。そっちの動きが今までよりもよく見える。それだけ視界が開けたってことだな」
 悠々とハルダームの方へと歩み出す。
 取り巻き達が残った胆力で主の前に立ち塞がるけども、

「見る方向が違うんだよ」
 ポツリと呟く中でダダダ――ッ! と、渇いた音が響き、取り巻き達が力なく地面に倒れる。
 こっちにばかり気を取られるから、直上のシャルナから狙撃されるんだ。

「くぅ! エルフがぁ!!」
 悔しそうなハルダーム。
 主とは違い、残りの取り巻き達はお互いに顔を見合う。
 留まれば上空からの攻撃。目の前からは勇者が近づいてくる。下がれば主に突き殺される。
 進退窮まったといったところだな。

「トロール部隊!」
 怒号に近い大声で八人のトロールを俺との戦闘に参加させようとするハルダームだったけども。

「キュキュキュ」
 チッチッチッってな感じなんだろう。
 食指を立てて左右に振るという動作を見せてくるゴロ丸。
 守勢に重きを置いた八人のトロールを倒すことが出来ていなくても、その八人がゴロ丸から離れられないでいる。
 無理矢理にでも離れようものなら、ミスリルの拳で背後から狙われる。
 超速再生であっても頭部に大きな質量を見舞われれば絶命は必至。
 ゴロ丸を前にして掩護にいけるというのは難しい。

 タチアナ、コルレオン、パロンズ氏の掩護のために投入したゴロ丸だったけども、相手が対策として投入してきた八人のトロール。
 最初は鬱陶しさを覚えたけども、今となってはそのトロールの動きをゴロ丸が封じて均衡を作り出したことは本当にいい流れだった。

「完全にこちらの流れになったな」

「ふざけた事を口に出すな!」
 お怒りよりも焦燥が占める声音。

「声音から手詰まりだってのが伝わってくるぞ。ラプス発動時の余裕がなくなってる。ヤヤラッタがこの状況になっても未だに出てこないのは油断できないけど」

「ここで死ぬのだから油断などする必要はない!」
 の一言で取り巻きの一人の尻を蹴って押す。
 勇者に仕掛けろってことなんだろうな。

「取り巻きに対して蹴りを入れて動かそうとする。指揮官としてのメッキが剥がれたな」

「黙れ!」
 蹴り押した取り巻きを払うようにして前へと出て来るハルダーム。

「ようやく動くか。数の有利性がなくなれば動かないと生き残れないもんな」

「生き残れないのは貴様だ! いいだろう! 手ずから殺してやる!」

「初手で奪えなかったのによく言うよ。じゃあ第二ラウンドを最終ラウンドにしよう。こっちの勝利でね」

「本当に――黙れっ!」

「おっ!」
 俺の眼界から消え去る動き。
 アクセルによる動き。下を見れば俺の影が大きな影によって消される。

「死ねいぃ!」
 だからそれでは届かないんだよね。
 初手の時と違い、頭に血が上った時のハルダームの動きは単調そのもの。
 大振りになる時点で対処は簡単。
 脇も締まっていない刺突は籠手で受け流しながら躱すことで事足りる。

「お返し」
 嫌がらせとばかりにAR-57を顔面へと目がけて撃ち込んでやる。

「くぅおぉぉぉお!」
 向こうもご自慢のガントレットで顔面を守って防いでくる。
 全弾をなんとか防ぎきったところで、

「マッドメンヒル!」
 絞り出すように声を出し、鋭角な土の柱が俺の下方から飛び出してくるところで、弾切れとなったAR-57 を投げ捨てて跳躍。
 それを見てガントレットの向こう側で口角が上がるのを確認。

「アークフォー!?」
 捕捉しにくい遠距離からの攻撃がなくなったところで、雷を直上から叩き込んでやろうと思ったのも束の間、ゴロ太のナイフ同様にお久しぶりのチアッパ・ライノをレッグホルスターから引き抜き、.357マグナム弾を晒した顔に向かって一発。

 ギャンといった甲高い音、

「がぁ!?」
 甲高い音に続いて大声を上げて顔を覆い隠すハルダーム。
 そして大声に続いてガランと音を立てて落ちるモノ。

「へ~。角って金属みたいな音がするんだな」

「ああ……ああっ!?」
 オーガロードご自慢の角は、近距離からの.357マグナムの威力に耐えることが出来なかったご様子。
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