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矮人と巨人
PHASE-1349【大いに削られたアイデンティティ】
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「なんだ? なんで消えた!?」
纏っていた風の消失という急事に困惑しつつも、
「ウインドスラッシュ!」
発してみるも、
「……あっれぇ!?」
青色にわずかに輝く灰色の刀身に、密度のある風が発生することはなかった。
反面、右手に持つ残火には轟々と炎が猛っている。
ブレイズはちゃんと発動している。
周囲へと目を向ければ、
「ファイヤーボール!」
いつも通りの声が届く方へと注視すると、
「……あっれぇ!?」
俺とまったく同じリアクションをとるコクリコ。
素っ頓狂な声だけが虚しく上がり、いつものように派手な爆発音が木霊することはない。
俺とコクリコの行動によって分かったことは、
「ラプス――クラスミドルって続けて述べた大魔法ってのは……まさか……」
「そのまさかだろうな勇者。貴様が想像しているとおりだよ」
ハルダームの不敵さを目にしつつ、シャルナへ答え合わせとばかりに聞く。
――ラプスなる大魔法――。魔法陣の範囲内にいる対象となった者達の魔法を封じてくるというものだった。
そしてクラスミドルというのは、中位魔法までを封じてくるというもの。
それは俺の二振りの愛刀からも理解できた。
残火が纏う上位魔法のブレイズは消滅せず存在し、マラ・ケニタルが纏った中位魔法のウインドスラッシュは消え去ったのだから。
「なんてこったい……」
せっかくこの地で習得したウインドスラッシュを技へと昇華させたスクワッドリーパーだったのに、それを封じられてしまった……。
だがしかし――。封じられたのは痛いけども、だからといって俺個人の継戦力が低下したかと言えばそれほどでもない。
そう俺はまだいい。
――……問題は……、
「なんという事でしょうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!」
大音声が響き渡る。
――……コクリコの場合、アイデンティティがかなりの部分で崩壊したようなもんだからな……。
接近戦も十分にこなせるとはいえ、今回の大活躍にはアドンとサムソン。そして火力を向上させる装身具であるオスカーとミッターの恩恵が大きい。
サーバントストーンと装身具のシナジーにより、下位魔法でも上位魔法を彷彿とさせる威力へとなっていた。
だが、威力は高くても下位は下位。
ラプス――クラスミドルという大魔法が発動したことにより、中位魔法までしか使用できないコクリコは、魔法の全てを封じられてしまったことになる。
――……で、中位を封じられるということは、こっちのパーティーの魔法担当の力がごっそりと削られた事になるわけだ……。
コクリコだけでなく、パロンズ氏とタチアナも封じられたってことだからな……。
支障なく使用できるのってシャルナと俺くらいか。
つっても俺の場合、残火に纏うブレイズと、籠手から発動するイグニースを除けば、リズベッドからの恩恵で習得したスプリームフォールに限定される……。
この中心部での大魔法の使用となると、味方にも被害が出るから実質使用できない……。
結局はシャルナだけが頼りになるって感じだな……。
「こりゃ、やべえな……」
誰にも聞こえないように独白。
いつもみたいに左肩にミルモンが乗っていなくてよかった。
弱気な発言なんて聞かせたくないからな。
でも情けないことに、表情がわずかにでも曇ってしまっていたのか、それを見逃さなかったとばかりに、
「震えるがいい勇者よ。お前たちはこれから惨たらしい運命を歩む事になるのだからな」
ハルダームがここぞとばかりに、こちらを追い込むような発言。
「お宅が思っているような運命を歩むつもりはないよ」
「いや、歩んでもらう!」
言い切ってくるね……。
そんなにも俺の表情は曇っていたのかな。
それとも現在の状況を生み出せたことで、勝ちが確定したと思っているのか。
――……実際この状況は勝ちを得たと考えるよな……。
「まったく。そりゃここに誘い込んで邀撃をしたがるわな」
拠点中心部にこんな罠が仕掛けられているとはな。
反面、こちらは浅はかだった。
C-4 による声東撃西で兵を割くことが出来たというので一喜なんてしてる場合じゃなかったな。
「弄んでから仕舞いにしてやれ」
「おうおう強い足取りになったな。その余裕をこっちは利用して足を掬ってやんよ!」
と、言い返してみても相手の歩みは強い。
ザッザッと揃った足音。
整った隊列と歩み。
整然と動く軍は強いというのを体現しているような歩み。
ハルダーム――やはり求心力は一流か。
ここへと辿り着くまでに出会ってきた連中は、有利になれば腰を振って喜びを体で表していたけど、ここの連中はそうはならない。
その代表的な存在であるカクエンですら、下卑た行動を見せない。
「コクリコ!」
「これは参りましたね……。――と、言うとでも? 逆境こそがこの私を輝かせるのですよ! そもそもこっちは歯ごたえのない戦いばかりで、まだ戦いという戦いなどしていませんからね! 皆さん! 我々の戦いはここからですよ!」
うわ~強気だな。
でもってこっちの士気を上げてくるような発言だよ。
現にこっちのメンバーの目力は衰えてないからね。
「コクリコは異世界のジョン・ポール・ジョーンズと名乗ってもいいぞ」
「偉大な存在なら別称としてもらってやりましょう」
「大英雄だな」
「ほうほう。ならばその偉人の名を別称として使用させてもらいましょうかね」
「我が部下たちの臥榻で名乗っていろ小娘。さあ、愚かなる勇者一向に絶望を!」
ハルダームは手にする得物の穂先をこちらへと向ければ、歩んでくる連中の一部から多彩な魔法が放たれる。
「インチキ!」
「馬鹿め! なにがインチキだ。自分たちが有利になるように事を運んでいくのが戦いというものだ」
「その通りだな」
素直に返しておこう。
魔法陣範囲内にて対象となった者という説明の時点で分かってはいたけども、ラプスにより魔法が使用できないのはこっちだけで、向こうはやりたい放題ってのは流石にきっついなぁ……。
纏っていた風の消失という急事に困惑しつつも、
「ウインドスラッシュ!」
発してみるも、
「……あっれぇ!?」
青色にわずかに輝く灰色の刀身に、密度のある風が発生することはなかった。
反面、右手に持つ残火には轟々と炎が猛っている。
ブレイズはちゃんと発動している。
周囲へと目を向ければ、
「ファイヤーボール!」
いつも通りの声が届く方へと注視すると、
「……あっれぇ!?」
俺とまったく同じリアクションをとるコクリコ。
素っ頓狂な声だけが虚しく上がり、いつものように派手な爆発音が木霊することはない。
俺とコクリコの行動によって分かったことは、
「ラプス――クラスミドルって続けて述べた大魔法ってのは……まさか……」
「そのまさかだろうな勇者。貴様が想像しているとおりだよ」
ハルダームの不敵さを目にしつつ、シャルナへ答え合わせとばかりに聞く。
――ラプスなる大魔法――。魔法陣の範囲内にいる対象となった者達の魔法を封じてくるというものだった。
そしてクラスミドルというのは、中位魔法までを封じてくるというもの。
それは俺の二振りの愛刀からも理解できた。
残火が纏う上位魔法のブレイズは消滅せず存在し、マラ・ケニタルが纏った中位魔法のウインドスラッシュは消え去ったのだから。
「なんてこったい……」
せっかくこの地で習得したウインドスラッシュを技へと昇華させたスクワッドリーパーだったのに、それを封じられてしまった……。
だがしかし――。封じられたのは痛いけども、だからといって俺個人の継戦力が低下したかと言えばそれほどでもない。
そう俺はまだいい。
――……問題は……、
「なんという事でしょうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!」
大音声が響き渡る。
――……コクリコの場合、アイデンティティがかなりの部分で崩壊したようなもんだからな……。
接近戦も十分にこなせるとはいえ、今回の大活躍にはアドンとサムソン。そして火力を向上させる装身具であるオスカーとミッターの恩恵が大きい。
サーバントストーンと装身具のシナジーにより、下位魔法でも上位魔法を彷彿とさせる威力へとなっていた。
だが、威力は高くても下位は下位。
ラプス――クラスミドルという大魔法が発動したことにより、中位魔法までしか使用できないコクリコは、魔法の全てを封じられてしまったことになる。
――……で、中位を封じられるということは、こっちのパーティーの魔法担当の力がごっそりと削られた事になるわけだ……。
コクリコだけでなく、パロンズ氏とタチアナも封じられたってことだからな……。
支障なく使用できるのってシャルナと俺くらいか。
つっても俺の場合、残火に纏うブレイズと、籠手から発動するイグニースを除けば、リズベッドからの恩恵で習得したスプリームフォールに限定される……。
この中心部での大魔法の使用となると、味方にも被害が出るから実質使用できない……。
結局はシャルナだけが頼りになるって感じだな……。
「こりゃ、やべえな……」
誰にも聞こえないように独白。
いつもみたいに左肩にミルモンが乗っていなくてよかった。
弱気な発言なんて聞かせたくないからな。
でも情けないことに、表情がわずかにでも曇ってしまっていたのか、それを見逃さなかったとばかりに、
「震えるがいい勇者よ。お前たちはこれから惨たらしい運命を歩む事になるのだからな」
ハルダームがここぞとばかりに、こちらを追い込むような発言。
「お宅が思っているような運命を歩むつもりはないよ」
「いや、歩んでもらう!」
言い切ってくるね……。
そんなにも俺の表情は曇っていたのかな。
それとも現在の状況を生み出せたことで、勝ちが確定したと思っているのか。
――……実際この状況は勝ちを得たと考えるよな……。
「まったく。そりゃここに誘い込んで邀撃をしたがるわな」
拠点中心部にこんな罠が仕掛けられているとはな。
反面、こちらは浅はかだった。
C-4 による声東撃西で兵を割くことが出来たというので一喜なんてしてる場合じゃなかったな。
「弄んでから仕舞いにしてやれ」
「おうおう強い足取りになったな。その余裕をこっちは利用して足を掬ってやんよ!」
と、言い返してみても相手の歩みは強い。
ザッザッと揃った足音。
整った隊列と歩み。
整然と動く軍は強いというのを体現しているような歩み。
ハルダーム――やはり求心力は一流か。
ここへと辿り着くまでに出会ってきた連中は、有利になれば腰を振って喜びを体で表していたけど、ここの連中はそうはならない。
その代表的な存在であるカクエンですら、下卑た行動を見せない。
「コクリコ!」
「これは参りましたね……。――と、言うとでも? 逆境こそがこの私を輝かせるのですよ! そもそもこっちは歯ごたえのない戦いばかりで、まだ戦いという戦いなどしていませんからね! 皆さん! 我々の戦いはここからですよ!」
うわ~強気だな。
でもってこっちの士気を上げてくるような発言だよ。
現にこっちのメンバーの目力は衰えてないからね。
「コクリコは異世界のジョン・ポール・ジョーンズと名乗ってもいいぞ」
「偉大な存在なら別称としてもらってやりましょう」
「大英雄だな」
「ほうほう。ならばその偉人の名を別称として使用させてもらいましょうかね」
「我が部下たちの臥榻で名乗っていろ小娘。さあ、愚かなる勇者一向に絶望を!」
ハルダームは手にする得物の穂先をこちらへと向ければ、歩んでくる連中の一部から多彩な魔法が放たれる。
「インチキ!」
「馬鹿め! なにがインチキだ。自分たちが有利になるように事を運んでいくのが戦いというものだ」
「その通りだな」
素直に返しておこう。
魔法陣範囲内にて対象となった者という説明の時点で分かってはいたけども、ラプスにより魔法が使用できないのはこっちだけで、向こうはやりたい放題ってのは流石にきっついなぁ……。
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