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矮人と巨人

PHASE-1345【これが千もいるわけだ】

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 いつの間にかの接近に、いつの間にか手にしていた自身の身の丈よりやや長い得物。
 といっても人間の俺からしたら驚異的な長さ。
 大体、六メートル弱ってところか。
 このオーガロードにとっては短めの槍だな。
 穂先は平たくて幅のある菱形からなる形状。
 刺突と斬撃を両立させたものか。

「攻撃を受けつつもこちらの得物をじっくりと調べる余裕があるようだな」

「パルチザンってやつだな」

「その通りだ。この槍には今回の進行時、多くの人間とそれに組みする種族の血を吸わせてきた」

「なら祓ってやらないとな。お前を倒してその無念を!」

「ふん!」

「あだっ!」
 捌いたところで次には強力な前蹴り。
 ボフンッ! といった大気に強い衝撃を生み出す前蹴りにより俺の体は軽々と吹き飛び、見舞った相手から一気に離れていく。
 空中で体を捻りつつ姿勢を整えながら着地。
 コクリコからも褒めてもらえるであろう軽業師のような動き。

「ガントレットで防いだのは分かったが、その着地する動きからしてダメージもないようだ。大したものだな」
 背後からの声。

「アクセルかな?」
 凶悪な風切り音は頭上から。
 迫る穂先をそのままにすれば俺の体は間違いなく竹のように真っ二つにされて絶命ルート。

「当然ながら当たってやれない」
 残火の鎬で受け止める。
 今度のは捌くことが出来なかったので、自身の膂力で懸命に受け止める。
 股を開いてどっしりとした姿勢と残火を諸手で握る力も全力。
 重い一撃を受け止めた衝撃が全身を駆け巡る。
 筋繊維がプチプチといってるし、骨からも軋み音がする。
 背骨にいたってはボキボキと鳴る始末。
 体全体から悲鳴が上がる凶悪な一振りだった。
 背後をとったハルダームは力任せに押し込んでやろうとしたのだろう、無駄な力みが受け止める残火の鎬から伝わってくる。
 手首を捻って捌いていなせば、肩越しに見るハルダームの体勢がわずかに崩れたのが見て取れた。

「お返し!」
 直ぐさま残火の両手持ちから左手を解放してマラ・ケニタルを抜いて反転。
 一足飛びでこちらの間合いまで入り込んで二刀で×の字を書く。

「これは!? 中々――」
 ガントレット部分で防がれてしまう。
 俺の攻撃に驚く顔を見せる鬼フェイスだけども、俺の方が驚きてえよ。

「作りの良い鎧のようで」

「当然だ。巧鬼に与えられる鎧は魔法が付与されたもの。並の攻撃など通さん。そう――並ならな」
 俺の得物が並じゃないというのをガントレットに刻まれたバッテンマークを見る事で理解。
 俺としては、丸太のように太い前腕を斬り落とすつもりだったんだけどな。
 魔法付与の強度って相当だな。
 リンが使役するエルダースケルトンやスケルトンルインの鎧も魔法付与って話だったけども、このくらいの強度があるのかね?
 それとも巧鬼の鎧がかなりいいモノなのかな?
 もしそうなら障壁魔法だけでなく、防具に対抗できる攻撃手段も必要になってくる。
 圧倒的な火力なら対応可能だろうけども、個の武による戦いとなれば、圧倒的な攻撃力が必要になる。
 残火とマラ・ケニタルなら魔法を纏わせての攻撃だったらいけるな。通常時の斬撃でも傷はつけられるんだからな。
 
 ――障壁魔法に強固な装備。
 これに加えてトロール同様にオーガは超速回復持ち。ロードと名が付くのだから、そういったスキルも並のオーガとは違うんだろうな。

「またこちらの観察か? 余裕のあることだ」

「まったくやっかいなのがやっかいな装備やら魔法を使用できるもんだよ」

「何を言っている。こちらのガントレットに傷をつけるその二刀こそやっかいなものだぞ」
 自慢の防具に傷がつけられたことで警戒するハルダームから追撃はない。
 馬鹿凸一辺倒のような戦い方にはならないパワーファイターだな。

「脳筋ってだけじゃないな」

「そんな単純な者が巧鬼になれるか!」
 よほど巧鬼という名前にプライドを持っているご様子。選ばれること自体がコイツにとっては誉れなんだろうな。
 だが誇りたくなるのも分かるというもの。
 実力に見合っただけの立場って事なんだろうからな。

 ――……ふぃ~……。

「こんなのが後、九百九十九人もいんのかよ……」
 百人からなるS級さんをぶつければ問題なく対応も出来るだろうが、大軍勢となるとコイツ等だけにS級さん達を割くわけにもいかないからな。
 ギルドメンバーや兵士たちも巧鬼と対峙する事になるだろう。
 こっちサイドがまだまだ不利な状況だというのは変わらないね。

「恐れろ。ひれ伏せ。お前たちがどうあがいても勝利を得る事の出来ない存在が我らである。カルナック様と共に我らが数にて蹂躙する。それが蹂躙王ベヘモト軍の戦い方よ」
 飽和攻撃、優勢火力ドクトリンってのは、物量を有する者にのみ許された圧倒的な攻撃手段。
 この異世界でそれを可能とするのが、蹂躙王ベヘモトってことなんだよな。

「今一度、提案する。勇者。我らが軍門に降れ。これが最後の機会だ。先ほどまでの無礼な発言も許してやろう。その二振りをこのハルダームに譲り渡せばな。それにそのガントレットもだ」

「全部駄目。譲渡はしない。そもそも人間とオーガとではサイズが違うだろう」

「ならば殺して手に入れるだけだ。出来るだけ血肉をつけたくないのでな、気持ちよく首を斬り落とされるがいい」

「そいつもお断り。というかそれは俺が実行させてもらう」

「勝てると思うなよこの数に!」
 ――……そこそこの実力があるのに、ここで数と言うところが、蹂躙王ベヘモト軍の思考なんだろうな……。
 強そうなのか弱そうなのか分からなくなってくるような言い様だ。
 
 だがしかし、

「お宅もこっちをなめすぎだ。数が多かろうと、こちらは一騎当千の猛者たちだ。まず負けない。なのでお宅に掩護が入る事はないと思え。当分は俺とタイマンだよ」

「それでもこちらは一向に構わん!」

「強者感を出してくる言い様だね~。鎮座したがってたくせに」

「勇者のそのなめきった言い様も同じようなものだ! その二振りを奪って我が得物としてくれる」

「だからサイズが合わないっての」

「我が得物であるパルチザン――プロトスのように、我に合うだけの柄をつけて使用してやる」
 長巻みたいにするってことね。

「絶対にやらねえ! 逆にそのプロトスなるパルチザンを俺がゲットする。お宅を倒して戦利品としてもらい受ける!」

「ぬかせ!」

「離れるんだミルモン!」
 怒号と共に仕掛けてくる動き。その前にミルモンには離れてもらう。
 ミルモンが左肩から離れたところで高速の刺突が迫る。
 俺の側では触れれば絶命必至な風切り音が続く。
 ――耳に届くって事は、全部を見切ることは出来ている。
 今のところは――。
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