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矮人と巨人

PHASE-1336【ガイドさんからの受け売り】

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 技名に魅了されているとしても――だ。

「まだ戦闘は継続しているからな。詰め寄るなら俺じゃなくて――あっちだろ」
 食指を伸ばして増援に来た残存兵力に向ければ、

「仕方ないですね~」
 技名の交渉は後でさせてもらいます。と言い残せば、消化試合とばかりにゆっくりと敵軍へと歩んで行くコクリコ。
 その後ろ姿には間違いなく強者のオーラを纏わせていた。

「大丈夫なのでしょうか? 会頭、掩護をするべきでは?」
 流石に連戦で疲弊しているであろうと心配するパロンズ氏だが、

「一人でも問題ないでしょう」
 と、簡単に――しかし自信を持って返してあげた。
 それくらいに今のコクリコの実力は信頼に値するからな。
 それに戦闘は継続しているって発言は、コクリコだけに述べたわけじゃない。
 相対する連中がこの発言でどういった行動に出るかを確認したかったからね。
 
 ――こちらは戦闘を中断し、技名を聞きたがるコクリコが背中を見せている中、数の利がある連中がそこを狙って行動を取らなかったのは、完全にこちらに対して呑まれている証拠だろう。
 動こうという気迫も伝わってこないからな。

 こんな状況に陥っている連中が相手となれば――、

「負ける要素がないんだよな」

「私がいるから当然でしょう」

「その通りだよ」

「素直に返されると、なんとも照れくさくなりますね……」
 あら可愛いリアクション。

「むず痒い、むず痒い……」
 左肩では、ミルモンがお尻部分がモゾモゾすると言ってその部分を掻いていた。
 負の感情と違って、陽の感情が一帯に漂っているということらしい。

「一人でも問題はないでしょうけど、もちろん俺達も動きますよ。パロンズ氏」

「了解しました!」
 自信に漲る返事。パロンズ氏をこの冒険に参加させてよかったよ。

「ではお二人。さっさと終わらせますよ。私に続いてください」
 肩越しに力強い発言をすれば、ゆっくりとした歩みから駆け出すコクリコ。

「本当、頼りになるよ。パロンズ氏、行きましょう」

「サポートはお任せを!」
 背嚢のポーションを雑嚢へと補充しつつ、手斧からスリングに装備を変更するパロンズ氏は、発言どおりに俺達の援護担当。
 ミルモンもサーベルを抜いて俺から離れれば、戦う気概を見せてくる。
 四人でWAVE2の残存兵力へと驀地――――。
 
 ――。

「あらかた倒しましたね。会頭とコクリコ殿のお二人の活躍が大きいですが」

「パロンズの補佐も見事でした」

「ハッ!」
 ――……なんかコクリコとパロンズ氏の間で、主従――師弟関係みたいな絆が出来ているような気がする……。
 年齢は弟子の方が凄く年上になるんだけど、違和感は感じない。
 俺も同様のポジションにいるからな。

「く、くそ……」

「お、何とも弱々しい声ですね。随分と少なくなってくれて良かったですよ。視界が開けてきました」
 WAVE2の連中も殆どが地面に倒れた状況。両手で数える事が可能な人数にまでなったことと、魔法による――主にコクリコが原因の爆煙も晴れてきたことで、この拠点に突入してから一番クリアな視界となり、内側にある建造物なんかがよく見えるようになった。

「建造物の作りは遠目からでも良いモノだというのが窺えますな」
 お褒めのパロンズ氏。

「構造的に竪穴住居ですね。夏は涼しく、冬は暖かい。でも湿気を室内に留めやすいのがデメリットでもある」

「随分と詳しいですね。住んでいたのですか?」
 コクリコの素朴な質問に、

「佐賀の人間なんでね」
 社会科見学と言えば――吉野ヶ里遺跡が定番の佐賀県民だから。

「……はあ? サガですか。たまに聞きますけど、何処にあるんですかね? 聞いたことがないんですが」

「み、魅力度が低いところだから……」

「なんか的を射ない言いようですね」

「まあ気にすんなよ。俺だってコクリコの出自を今日、知ったからな」

「我が故郷を知りたいなら、帰郷する機会があれば連れて行ってあげましょう」

「機会があればな」
 談笑していれば、

「話し込みやがって! さっきもそうだったが気にくわん余裕だ!」
 怒号がこちらへと飛んでくる。

「実際に余裕だからな。武装解除して今後は俺達に協力をすると言うなら――」

「ぬかせ!」

「人の話は最後まで聞いてほしいよ」
 挑もうとする姿には感心もするけども――、ここにきて気概を見せてきてももう遅い。
 そういった意識の切り替えは、数が圧倒的に有利な時にするべきだった。

 ――――成るべくしてなった結果だな。

「これで完全に終了」
 挑んできたけども、数の有利性も薄れたオーク達では俺達には太刀打ちなど出来るわけがなかった。
 俺達の眼界に入ってくるオークとカクエン達は全てが地面へと転がる。

 強くなったよな――俺。

 この世界へと来たばかりの時、初めて会ったオーク一人に対して慌てふためいていたのが嘘のようだ。

 ――。

「何もないですね」
 WAVE3の気配もないし、伏兵のような気配もない。
 気配がないならばと、早速とばかりにコクリコが竪穴住居の中を確認する。
 ダイナミックに突入するようなことはせずに、アドンとサムソンを最初に突入させるのは素晴らしかった。
 
 隠れ潜んでいる敵性もいないし、武具以外は筵が敷かれているだけという事だった。
 最低限の寝床として利用されているようだな。
 テントと比べれば快適なのは間違いないけども。
 
 それに――、

「丁寧な造りだ」
 と、近くで目にしてパロンズ氏は再度、褒める。
 粗暴な蹂躙王ベヘモトの配下や、カクエン達が築いたモノとは考えにくいとの事だった。
 
 ――コクリコに続いて俺達も周囲の建物を調べる。
 室内には誰も潜んでいなかったし、調べている間にも増援もなく静かなものだった。

 この静けさ、

「薄気味悪さを感じざるを得ないな」
 独り言ちたところで、

『トール』
 良いタイミングで俺達の耳朶に声が入ってくる。

「シャルナ、無事か?」

『問題ないよ。それにしても派手にやってたみたいだね。静かになったけど、そっちも無事だよね?』

「当然。コクリコが無双してたぞ」
 伝えれば『それは見たかった』と返ってくる。コクリコは「合流後に見せてあげます」と返していた。

「で、首尾は――」

『問題なく設置できたよ。そっちが派手に動いてくれたから簡単だった』
 こちらが派手に動いたとしても、見つからずに任務をこなしてくれるところは偏にシャルナ達の実力。
 
 ――シャルナの話では、最低限の立哨を残して俺達の方と、もう一方向に向かって移動したという。

「もう一方向――ね」

『うん。建物は同じ造りのモノだけど、一際大きなのがあるよ。この拠点の中心辺りだね』

「十中八九、本丸だな。その本丸に部隊を戻したということだろうな」

『だね。そこに戦力を集中しているのかも』
 WAVE3が訪れないのは、俺達を中央で待ち受けるって事なんだろうな。

『どうする?』

「その中央で合流しよう。合流と言っても俺達が会敵して、俺達に視線が集まっているところを背後から攻めてくれ」
 大軍を相手にするなら、少しでも相手を混乱させる事が出来るような戦いにもっていきたい。
 その為には背後からの急襲だけでなく、混乱させるために下準備だって必要になるというもの。
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