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矮人と巨人

PHASE-1302【隊伍確認】

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 有能なスカウトが全周囲を警戒してくれているので、安心して――、

「皆、一度足を止めて。ミルモン――」

「目的地だね!」
 今の状況が楽しくてたまらないのか、即答してくるので頷けば、

「ムムム――」
 俺が首肯を終える前に瞳を閉じ、眉間に皺を寄せて見通す力を使用してくれる。

「――――分かった!」
 ほどなくして刮目すれば、右手はサーベルの柄に添えているので、自由が利く小さい左手から食指を伸ばし、進む方向を指し示す。
 そっち方向を見やるも、鬱蒼とした木々と、それが生み出す暗闇という光景だけ。

「遠いのかな?」

「どうかな。ただ丸っこい綿の塊みたいなのが見えたよ」

「綿のような塊?」

「そうだよ」
 綿のような――ね~。
 綿のような塊の力が、天空要塞の周囲を守るという乱れに乱れた雲の壁を突破して進むってイメージが湧かないんだけど……。
 巨人となにかしらの関係でもあるのかな?

「とりあえず、ミルモンの食指に従って進もう」
 ――とはいえ、高木に低木が入り交じり、木々の根により隆起した地面を真っ直ぐに進むってのは難しい。
 歩いているうちに、ミルモンが指さした方角からズレていくこと間違いなし。
 ――とまあ、ここで焦るくらいなら、こんな森にそもそも足を踏み入れないけどね。

「シャルナ」

「こういった場所でこそ輝かせてもらうよ」
 先ほどから樹上移動してくれるシャルナが俺達の前にある木の枝に着地し、任せてもらおうと胸を張ってくる。
 金属の胸当てを装備していても分かる形の良い胸に目が行きそうになるけど、それ以上に着地による衝撃が発生しないことに目が向いてしまう。
 枝が揺れることもなければ、葉が落ちることもないからね。
 本人はいたって普通にやってのけているから、そういったことを誇ることもない。
 俺達からすればとんでもない技巧なんだけどな。

「潜入とかだとゲッコーには太刀打ち出来ないけど、今回は私の独擅場だね」
 木々も枝も揺らさない樹上移動の勝負なら、間違いなくゲッコーさんを超えているからな。

「シャルナ殿の案内なら迷うことなく進むことが出来ますね」
 安心感のある声音でパロンズ氏が発せば、ここでもシャルナは胸を反らしてくる。
 コクリコもあれくらいあれば、胸を反らすだけで人を魅了させることも出来るんだろうけどな。

「なんでしょうか? トールから不愉快さを感知しましたが」

「ソンナコトハナイヨ」

「片言はやめてもらいましょう!」
 横に立っていたコクリコからドスリと膝蹴りをもらう。
 太股にもらった一撃はベルほどの威力はないけども、ズンッと内側まで衝撃が届くもの……。
 火龍装備のこの俺にこの威力。コクリコの成長が分かるというものだ。
 頼りになるキック力をもったコクリコさん。本来は後衛なのだが、当たり前のように前衛である俺の横。
 この辺りはもう何も言うまいよ……。
 言ったところで言うこと聞かないし……。
 
 ――現在の隊伍はスカウトであるシャルナが俺達の前方にて樹上移動。
 周辺を常に警戒してくれるスカウトに続いて俺とコクリコの前衛。
 自称ロードウィザードを辞めさせて、魔闘家の称号を与えてあげたい。
 
 そして俺達の後ろにコルレオン。
 コルレオンの立ち回りは、スリングショットを使用しての前衛のカバーと後衛の護衛。
 ミッドフィルダー的な役割を担ってもらう。
 
 パロンズ氏とタチアナが最後尾。
 前者は膂力に自信がなく接近戦は自衛程度。
 だがコルレオンの話だと、手斧を使用した戦い方は十分に前衛でも輝くということだった。
 また他にも頼りになる力を有してくれているそうだ。
 現在の装備は、左前腕に円形のバックラーを括り付け、手斧は腰帯に収め、右手には紐からなるスリングを装備。
 投石の威力は王都で土を耕している時、バリタン伯爵に見せてもらったから強力な威力だというのは理解している。
 
 パロンズ氏には投石にて前衛のフォローを担当してもらいながら、戦いにおいて重要な立ち位置となる、回復や障壁魔法の使用者であるタチアナの護衛も担当してもらう。
 これに加えて、こちらが戦闘で負傷した時には、タチアナの魔法と共に後方からポーションを使用してくれるアイテム士みたいな立ち回りも担ってもらう。
 このパーティー内で一番いそがしいポジションを任せたかもしれないな。
 コクリコがギルドハウスに併設したショップで購入したポーションなんかも、パロンズ氏が背負う帆布製の背嚢に預けているので余計に重くなっているし。
 預けた当人は、これで好きなように動き回れると口にしていた。
 コクリコの発言は前衛そのもの。

 うむ――、

「コルレオンは前衛よりも後衛補佐を主体にしてくれ。割合としては三対七くらいで頼むよ」

「分かりました」

「頼むぞボランチ」

「わ、分かりました」
 ボランチの意味は分からなかったようだけど、自分の立ち回りは理解してくれている。
 守備的なミッドフィルダーだし、全体の要のような立ち位置でもあるけど、そこまで説明すると荷が重いとか言いそうだからそこは省かせてもらおう。
 後衛のカバーに重きを置くとだけ思ってくれていればいいからな。

「では私は皆さん以上に背後からの攻撃に注意を払いつつ、全体を補佐します」

「頼むよ」
 この中だと俺の正規パーティーに次いで経験が豊富なタチアナ。
 なのでコルレオンとパロンズ氏と比べると心配は少ない。
 後方にて経験の浅い二人に対しての指示役もお願いすれば快諾だった。
 ライとクオンと行動する時も、前衛であるライと、そのサポートをするクオンを最後衛から指示していたそうなので、指示役としての実力は信用できる。

「でも兄ちゃん。ここは女を狙う種族がいるんだから、それも考慮しておかないとね」

「ミルモン。いい着眼点だな」

「だろ♪」
 褒めてあげればご満悦。
 でもって言っている事も最も。
 カクエンの存在はここに来る前から分かってはいたが、森へと踏み入れば出会うのは現実となる。

「油断おこたりなく行動しよう」
 言えば、皆して肯定の返事で応じてくれる。

 ――。

 軽やかに木から木へと移動していくシャルナ。
 色彩の薄い金糸を思わせる髪を靡かせながら俺達を先導してくれる。
 緑の木々に囲まれていることも相まって、その姿は神秘的。
 ――シャルナに対する感想って、いつも神秘的という言葉しか思い浮かばない俺のボキャブラリーのなさよ……。
 でもそうとしか例えようがないくらいに美しいからな。
 
 油断するなと言いつつも、美しいエルフの枝移りという光景に、ただ見入ってしまう俺。
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